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14-3 いろんなことが進み始めている。

 結局、ベネットの親族に対する処罰は派手に羽目を外した2名の追放処分で終わった。

 素直に出頭してきたので2週間ほどで司法官の判決が下り、むち打ちと追放までスムーズに事が進んだ。

 相当恨みを買っていたらしく、むち打ちの時には結構な見物人が集まっていた。口々に罵倒する言葉が投げかけられ、きつく鞭で打たれる姿に若干同情してしまったのは内緒だ。

 他にももっとたくさんの人間がやらかしていたらしいけど、お義父さんの選択肢としては2名の生贄で勘弁してくれというものだったらしい。半分くらいは、一旦ベルラントの街から逃げている。

 残り半分は、反省文を俺に送ってきて、お義父さんが頭を下げて許してほしいと頼み込んできた。

 これについては、直々に謝られたので受け入れておこう。

 妥協できる範囲だったしな。

「それで、農場の方はどうですか? 天候は悪くないと思うんですが。」

 とりあえず、その話は終わりという事で仕事の話をしようと水を向ける。

「試しに植えたものばかりだから、順調とは言い難いな。ただ、トウモロコシはかなり元気に育っているよ。

 水をやればやっただけ育つ感じだな。」

 ほうほう。それは、結構。

 スイートコーンだったから上手く育ってくれるか心配だったけど、問題なさそうだな。

「他にも有望な品種があれば教えてください。土地によって、育ちやすい、育ちにくいというものもあると思うので。」

 意外と農業技師としてお父さんは優秀で、いくつかの報告書を上げてくれている。土壌の酸性度やら土壌湿度、気温なんかを事細かに書き留めていて、育成状況についてもしっかりと確認している。

 どういった病気を引き起こすのか、それについても研究していた。なので、お義父さん本人の働きぶりに不満はないんだけれどねぇ。

 ただ酒癖が悪いのと、質の悪い人間に囲まれているのがなんとも。

「ところで、お義父さん。あれって、本当に親族なんですか?」

 聞かれたくなかったことなのか、お義父さんは目をそらす。

「噂だと、単なる飲み仲間だって話も聞いてるんですよね。」

 お義母さんやテオ、妹のマリーまで俺に告げ口をしてきている。あんな親類見たことがないとか。

 いや、戸籍がないこの世界じゃ、どこまで追求できるかと言われると微妙なところではあるんだけども。

「疑るのか? 全員うちの親戚だ。」

 冷や汗をかいてるってことは、たぶん違うのがちらほら混じっているんだろうなぁ。

「いや、別に親族に限るって言う話じゃないですよ。赤の他人でもしっかり、仕事をしてくれるなら何も問題はないんです。

 うちの財源も無限にあるわけじゃないんで、よろしくお願いしますね?」

 これくらい脅しておいてもいいよな。

「分かってる。それより、収穫した試験作物はどうするんだ?」

 それについては自由に処分してもらっていいんだけどな。

「取れた作物については、うちで引き取っても構いませんし市場に卸していただいても結構ですよ。

 契約書の文言にもしっかり書いていたと思うんですが?」

 そもそも、荘園での収穫にはあまり期待をしていない。こちらの指示で結構滅茶苦茶な作付け計画になってしまっている。試験的な要素が強いので、取れた作物以外にも給金を支払わないとやっていけないはずだ。

 なので、臨時ボーナスくらいの儲けにしかならないと思うんだよな。半分はうちの取り分になってるし。

「あぁ、もちろん、ちゃんと帳簿は付けておいてくださいね? 秋に徴税されますんで、曖昧だと困ります。」

 そういうとお義父さんは嫌そうに顔を歪める。

「貴族なんだから、税なんか納めなくてもいいんじゃないのか?」

 そういうわけにもいかない。何せ国税だ。

 国に納めなければ立場が危うくなる。

「そういうわけにもいかないんですよ。農業生産に関わる税はすべて国が持っていくものですから。

 徴税官としてそこから給与は貰ってますけどね。」

 3割徴収するうちの1/3は給与として受け取れる仕組みではある。だけど、その給与分で減税分を賄わないといけない。

 だから、ほぼ無給で税を集めて納めているようなものだ。楽しいお仕事じゃない。

 しかも、集めた紙幣は給与分を除いて王都まで納めに行かないといけない。道中、それらの納税の馬車を狙って盗賊働きする連中もいる。

 当然護衛は付けなくちゃいけない。

 そう言った費用を出してくれるわけでもないから、出来れば銀行振り込みにしておきたいところではあるんだけどなぁ。

 紙幣なら、帳簿上の移動だけで都合をつけられると思うんだけど。

 まあ、伝統だから仕方ない。大量の金貨を運ぶよりかは、断然楽になっているわけだし。

「なんだかいろいろと面倒だな。」

「そうですね。」

 お義父さんの愚痴に俺も同意せざるを得ない。

 

 ハロルドから、手紙が届いた。

 治療の方は順調に進んでいるようで、最近モーダルに戻ったそうだ。経営の方は若干客足が落ち始めていたところなので、要であるハロルドが戻ってきてくれて助かる。

 経理や営業というのは順調に言っていたけど、中核である味というのはどうしても維持が難しい。

 店長を任される人間であっても、新たなものに挑戦するとなると店の色とはずれが生じてしまう。

 そういう意味で、やっぱりハロルドの店というのはハロルドという個人に依存していると言っていい。飲食店の経営は難しいとつくづく痛感させられた。

 なので、しばらくはこちらには顔を出せないと手紙には書かれていた。

 もちろん、それは経営を優先してもらって構わない。

 共同経営者である以上は、儲けを出してもらうに越したことは無い。

 俺は、返事として顔を出すのはベルラントに店を開けるようになるころで構いませんと書いておく。土地は確保してあり、建築も順調にいけば秋ごろには終わるだろう。

 頃合いとしてはちょうどいいかもしれない。

 戸を叩く音がして失礼しますと、執事のフィリップが入ってくる。

「旦那様、レイナ様がお戻りになられました。」

 あぁ、まあハロルドがモーダルに戻ったとするなら、当然レイナも王都から戻ってくるよな。

「分かりました。旅の疲れもあるでしょうから、ゆっくりしておいてくださいと伝えてもらえますか?」

 フィリップは少々怪訝そうな顔をする。

 なんだろう? 俺はおかしなことを言っただろうか?

「いえ、王都でのことなどはお聞きにならないのですか?」

 そういう報告は直接受けるべきなのかな?

 正直、そこら辺の感覚がよくわからない。

「レイナさんは何か言ってますか?」

「いえ、特には。ただ、外でお待ちです。」

 あー、そうなんだ。

 外で待ってるなら、話をすべきか。

「じゃあ、応接室に移ります。お茶を準備しておいてください。」

 畏まりましたと、フィリップは頭を下げて部屋を出て行った。多分、レイナを応接室へと案内してくれているんだろうな。

 とりあえず、ちょっと間を開けて俺も応接室へ向かう。

 

 前まで柱だらけだった応接室は、内装の変更も終わり立派な部屋に生まれ変わっている。それなりの広さとシャンデリアも用意されたので、設えた椅子やテーブルをどかせば舞踏会を開けるくらいの空間は確保できる。

 照明については、LEDをシャンデリアに仕込んでいるので、明るさも十分だろう。

 窓際の席に着飾ったままのレイナとジョシュが腰を下ろしている。

「お待たせしました。長旅お疲れ様です。」

 そう言って、俺は向かいに座る。

「別に疲れてはいないよ。非常に快適に過ごせたしね。やっぱり暇つぶしの道具があると違う気はする。」

 そういいながら、レイナはタブレットをいじり始めた。

「何気にカメラとか便利だね。いろんな風景が取れてびっくり。」

 そういいながら、撮った写真を見せてくる。

 全部、ジョシュと仲良く並んだツーショットばかりだ。

 なんか、料理やお菓子なんかと一緒に移っている姿はどこか女子高生めいたアングルだなと思わなくもない。

 いや、そもそも女子高生が撮った写真を見たことは無いので、実物と見比べたわけではないけれど。

 時折ハロルドやフランシスの様子も写真に出てくる。最初は二人の表情が暗く沈んでいたが、最近になり悩みが解決したのか見違えるくらい表情が明るくなっている。

 あー、これはありがたいな。

「ありがとうございます。

 ハロルドさんとフランシスさんは大分持ち直したみたいですね。」

 レイナは何に礼を言われたのかと戸惑ったが、意味を理解すると頷く。

「そうだね。こうしてみると、表情の変化があって分かり易いかも。

 催眠療法だったかな。

 それで、徐々に幼児退行が薄れていったらしいんだけど、それのせいで仲たがいしてたみたい。

 でも、そこから……

 そうそう、この日から雰囲気が変わってね。」

 レイナが結構な数の写真の中から一枚を探し出して俺に見せてくる。少し恥ずかしそうに、目を反らしながらも手を握り合っているように見える。

「で、そこから、だんだん王都の料理とか飲み物とかにハロルドさんは興味持ったみたいだよ。

 私からすると、王都の料理なんか野暮ったくておいしくないイメージだったんだけど、興味深いとか結構連れまわされたかな。」

 羨ましい。出来れば俺もハロルドと一緒に料理を楽しみたかった。

 きっと、面白い話がいろいろと聞けただろうなぁ。

「でも、こっちに戻ってきたらびっくりしたよ。なんかにょきにょき建物立ってない?

 人も増えたみたいだし。」

 確かに春から比べれば建物の数は増えている。

 着工したばかりの建物が増えたというのもあるけれど、完成した建物も多い。道路もアスファルトで舗装を始めた。

 石油精製の過程で出てくるアスファルトを舗装に使うというのは自然な流れで、均一に均すのには手間があるとはいえ施工時間が短く済み費用も安く済む。

 その上で対候性も優れていて、補修も容易だ。

 でこぼこした道が均せるという事もあって、おおむね住民には受け入れられている。

「まだ復興の初期段階ですけどね。建物があらかた完成してからが本番だと思います。」

 1年目だしな。

 目に見える変化は大きいだろう。

 問題はこれからだ。

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よろしくお願いします。

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