2-8 戦利品に浮かれるのも良いけれど。
どうやらオーガは賞金首だったらしく、護衛の臨時収入になる対象だったらしい。
別にベネットが野蛮というわけでもないと言うことなんだとか……
いや、でも首切り落とすってなんかこうグロくて引くわ。
一応人相書きと照らし合わせないと報酬は出ないそうだし、わざわざ体まで持ち運ぶ理由もない。
もちろん、身ぐるみははいだけどね。
そういう行為に抵抗感は、あんまり感じない。
一応、法的には追いはぎは犯罪らしいけれど、賞金首や盗賊の持ち物は撃退した物になることが通例らしい。
もちろん、明らかに持ち主が分かるものに関しては話が変わる。
たとえば、紋章や印がある物品であったり、盗まれたと申告があった物は領主や教会なんかに届けるのが通例だ。
盗まれた物を偶々所有している可能性もあるので普通は関所に詰めている兵士や街の衛兵などに照会して貰う。
この場合、巡回している兵士でも構わない。
もっとも、大抵の場合巡回している兵士は面倒ごとを避けるために照会は行わないのが通例なんだとか……
何でも、一時期は巡回の兵士が盗品だと言いがかりを付けて金品を巻き上げることが横行していたらしい。
これに業を煮やした王様が一計を案じ、騎士達に身分を偽らせて禁制品を持たせて旅をさせていたそうだ。
この潜入調査のような手法は上手くいき、禁制品を手に入れた兵士は捌かれることになった。
しかも、そういった兵士を抱えていた領主にも問題があるとして、自治権を奪われる場合もあったらしい。
貴族としては、そんなへまは犯したくない。
結果、ちゃんと照会のできる関所や門での検分以外では行われなくなったそうだ。
まあ、つまり道中でいきなりばっさりやられるって事はないみたいだな。
でも………
「それなら、紋章を削ったり、街道上で盗品のやり取りとかすれば、ばれないんじゃ?」
俺の言葉に、護衛の二人は目を丸くしていた。
次いで、なんてあくどいことを思いつくんだこいつみたいな顔をされてしまった。
いや、それくらい思いつくだろ普通は……
「まあ、ばれないわな。街道に呼び出されて盗品を売りつけられ、仕方なしに領地越えして売ってきたって奴もいる。」
グラスコーの言葉が本当なら、盗難届は王国全体で共有されてる情報じゃないみたいだな。
だったらなおのことだろう。
「誰かの形見かもしれないのよ? 少なくとも、私はそんなこと認めない!!」
ベネットが顔を真っ赤にして怒ってる。
まあ、それはもっともだな。
ただ……
「別に俺がそういうことをやりたいって言ってるわけじゃないんですよ。
ただ、やっぱりどうしても良心に委ねられる部分が多いんだなって思っただけです。」
俺はベネットをなだめるように両手を挙げる。
「ご、ごめんなさい。取り乱してしまって……」
理解してくれたようで助かった。
俺としては、そういう問題点もあるよね程度のつもりなのだ。
それが、どういうわけか、そういう悪いことをしたいと言っているように捉えられることが多い。
思いこみが激しい人だと、こいつは悪人だってレッテル張りをされることもある。
どうやらベネットはそこの所は理解してくれたらしい。
「こっちも言葉が足りなかったと思うのですいませんでした。
ただ、俺が聞きたかったのは、そういう人を見つけたとき、みんなはどうするのかなって言うのを知りたいんです。」
現状では、街道上での盗品の売買は罪に問えない。
それを届けのないところで売るのも、事実上取り締まれない。
そういうときに、闘ってでも盗品を奪い、関所や街まで運ぶのだろうか?
俺は見て見ぬふりをすると思う。
もちろん、何らかの依頼をされて取り戻して欲しいとかって言われてるなら別だ。
それに強盗に遭っている人を見て見ぬふりをしようというわけでもない。
でも、すでに奪われてしまっていて誰に依頼されたわけでもない場合に介入するのは、お節介すぎる気がする。
ただ、それは俺の常識だ。
ベネットやトーラスがどう考えるのか、グラスコーはどうするのかは知っておきたい、この世界の常識だ。
「まあ、俺は見て見ぬふりだな。面倒ごとはごめんだ。」
グラスコーの答えは、まあ俺の予測範囲だ。
商人なら面倒ごとを避けるというのは、ごくごく普通だよな。
「よっぽど親しい人から盗まれた物じゃないなら、俺も見逃すかな……」
トーラスの考えは、俺の考えとほぼ同じだろう。
「知った上で見逃す事なんてできない。もちろん争いは避けるけど、返すべきだって言うと思う。」
ベネットの言葉に、俺は思わず頷いてしまった。
同意したわけじゃないんだけど、一番正しい行動だとは思う。
それと同時に、この世界の考え方がそれほどかけ離れたものじゃなくて安心したという気持ちもある。
「まあ、とりあえず届けが出ている品物が少ないことを願おうか……
こいつの賞金だけでも5000ダールだから十分な臨時収入ではあるけれどね。」
トーラスの軽口で、ようやくベネットが笑った。
しかし、5000ダール、50万円って多いのか少ないのか……
「そういえば、賞金の分配ってどうなるんですか?」
これも、護衛の二人からしてみれば常識なんだろうけど、俺の知らない知識だよな。
「基本的には、護衛で山分けだよ。まあ、作戦を考えたのはヒロシだし、幾分多めにもっていっても良いけどね。」
確かに作戦と言ったけど、ちゃんとした作戦と言うほどのものは考えてないんだけどね。
「雇い主は、この場合は関係ないんですか?」
「当たり前だろ?戦闘参加してるならともかく、俺は関係ない。」
グラスコーは当然といった感じで答えてくれた。
が、それでいいのか?
それだと護衛は闘いたがるが、雇い主からすれば関係ない戦いは避けて欲しいだろう。
「まあ、無駄な戦闘を繰り返すようならギルドに報告して、次から雇わないとかになるけどな。
それに場合によれば損害賠償を要求できる。
雇い主が死んだケースだと、破産するくらいギルドに金を要求されるぞ。」
なるほど、一応評価で仕事ぶりを評価されて、今後の雇用に関わるわけか。
損害賠償のリスクも考えれば、おいそれとは無駄な戦闘なんかしないか……
道選びに口を出さないって言うのも評価を下げないための不文律だったんだろうな。
「色々と考えられてるもんですね。」
思わず感心してしまった。
「まあ、それだけ色々あったって事さ。」
色々………色々ねぇ……あまり知りたくないなぁ……
まあ、そんな話をしつつ、オーガの身ぐるみをはいだわけだ。
武器としては、グレートソードにジャベリンが2本、手首に毒を塗った仕込み針があった。
しかし、仕込み針を刺したところで何とかなると思ったんだろうか?
俺を道連れにはできたかもしれないが、その先はないと思うんだけどな。
他の持ち物に、人の頭が出てきて困った。
どうやら、この世界でもゲーム同様にオーガは人を食うらしい。
そこは違ってても良いんだけどなぁ……
他には、宝石や硬貨も持っていた。
こう考えると、全部が自分たちの物にならないにしろ、化け物狩りは実入りが良いのかもしれない。
最も、オーガみたいな知恵を持って人を襲う連中は大抵手強いし、そうじゃない奴はあまり売れる物は持っていない。
それなりに腕に自信を持っていても、知恵比べとなれば返り討ちのリスクは無視できないだろう。
それに常に賞金首をねらえるとも限らない。
戦士としての腕も重要だが、それ以上に知識や発想力、忍耐力、何よりも運は重要な要素だろうな。
まあ、どう考えても俺には荷が重すぎる。
そりゃ、ばったばったと敵をなぎ倒し、運命を切り開く勇者様に憧れがないとは言わない。
言わないが、自分がそれを目指すのは恥ずかしすぎて死んでしまう。
もし叶うなら、そんな勇者様のお抱え商人くらいにはなりたいもんだ。
さて身ぐるみをはいだのだし、後はオーガの首や被害者の首なんかを収納して出発だ。
いつものようにグラスコーが1台目の馬車を、2台目にトーラスと俺が乗る。
馬にはいつもベネットだが、これは彼女が一番乗馬が上手いからと言う理由もあるが、馬自体彼女の持ち物だという理由もある。
しばらくは、のんびりできるだろうか………
と思った矢先、ミシミシと軋む音が馬車の下から聞こえてきた。
そして徐々に馬車の揺れが激しくなり、ついには……
バキッ
と木が折れる音が響くと、馬車がザリザリと地面をこすり始めた。
どうやら車軸が折れてしまったようだ。
俺は馬車から振り落とされないようにしがみつくので精一杯だった。
あわてていたのは同じだがトーラスは何とかロバたちをなだめ、停車させることができたようだ。
「おい!大丈夫か?」
グラスコーの方も停車させ、心配して俺たちの方に走ってきた。
「だ、大丈夫です。」
動転してはいたが、幸い障害物にぶつかったりもせず誰も怪我はしていない。
しかし、良かった。
これで、関所まで夜通し駆け抜けようとしていたなら、事故を起こしていただろう。
下手したら、オーガに捕まって全員殺されていたかもしれない。
安堵のため息が漏れる。
こう言うところが抜けてるから、俺は駄目なんだろうな。
もし、一つでも間違っていたら逃げる羽目になる作戦を立てた癖に、逃げるための準備を怠っていた。
そもそも馬車が壊れるなんて想像すらしていない。
なんだか先が思いやられるな……