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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-26 案外頼りになるかもなぁ。

甥っ子が頼もしい。

 午後は、図書室に向かい魔術の研究を始めた。槍の鍛錬も続けてはいるけれど、最近はもっぱら魔術に傾倒している。マジックアイテムもいくつか分解して解析なんかもしていた。

 成果のほどは微妙だ。

 結局、何かしらの知識が不足しているせいで、再構築までには至っていない。これからも、ちょっとずつ勉強しないとな。

 出来れば、ホールディングバッグ内の時間経過を止められるようにしたいんだよなぁ。”収納”が便利すぎて不便に思えてしまっているけれど、実際にはとても有効なマジックアイテムだ。同じ水準とまではいかなくても、性能をあげられるに越したことは無いと思うんだよな。

 でも、魔術の中でも時間関係は特に複雑だ。俺の頭で理解できる日が来るんだろうか?

 いや、なんかそれができないと駄目な気もするんだよなぁ。

 

 コーヒー飲みたい。

 

 若干、頭がぼーっとしている気がする。しばらく寝室には戻らないし、ここでなら平気かな。

 俺は缶コーヒーを取り出して、ちびちびと飲み始める。

「ヒロシさん。」

 不意に声をかけられ俺は、びくっと身を竦ませてしまう。

「テオ君か。どうかした?」

 何もやましいことをしているわけでもないのに、びくびくしてて情けないなぁ。

「いや、その……

 ありがとうございます。色々と気を使っていただいたようで。」

 気を使うと言っても、秘書のエメリッヒに面倒を見てもらうようにぶん投げただけなんだけども。

 しかし、図書室にいるのはなんでだろう?

「もしかして、勉強しろって言われた?」

 そう尋ねると、テオは恥ずかしそうに頷く。

「勉強不足だって怒られました。本気で働くつもりがあるなら、簿記の資格くらいはとれと。他にもいくつか課題を出されました。」

 なるほど。

 これはむしろ、エメリッヒに気を使われたかもな。

 俺としてはテオには下働きではなく、ちゃんと学校に通ってもらいたい。そういう意味で、予習を兼ねて図書室に通わせてくれているんだろうな。

 俺がわざわざ言わなくても、望み通りにしてくれる。

 本当に秘書として優秀だよなぁ。

「まあ、根を詰めないようにほどほどにね。」

 そう言って、俺はテオに缶コーヒーを手渡す。

「俺には、ヒロシさんの方が根を詰めているように見えますけど。魔術の勉強ですか?」

 コーヒーを受け取りつつ、テオは俺の広げてる書物を見てため息をつく。

「全然だよ。身が入らなくてねぇ。すぐに飽きて別のことを考えちゃうし。」

 実際、本を眺めていて、分からなくなってくると思考が明後日の方向に飛びがちだ。

「領主なんですから、悩みは尽きませんよね。」

 おや?

 以前からこんなことを言う子だっただろうか?

 テオの変化に俺は戸惑う。

「俺、父さんのいう事に毒されすぎてたのかなって思ったんです。そう考えたら、世の中のことをもっと知るべきかなって。

 何が正解なのかは、さっぱりですけど。」

 なるほどねぇ。

 思春期という奴だろうか?

 こうやって、子供は親から離れ、大人になっていくのかもしれない。

「正解がそんなに簡単に見つかったら苦労しないよ。多分、一生正解なんか見つからないかもね。」

 そういうと、テオは不思議そうな顔をする。だけど、少し自分の中でそれを咀嚼するように考えこむ。

「そうですね。ここにある本を全部読んでも、答えなんか見つからないかもしれないです。読めるわけないですけど。」

 俺はテオの言葉に頷く。

「でも、出来ればこれを開ける方法を教えてもらってもいいですか?」

 そういうと、テオは缶コーヒーを指さす。

「あぁ、ごめんごめん。」

 そうだよな。プルタブの開け方を見せもしないで、飲めるわけがない。こういうところが俺の駄目なところだ。

 とりあえず、開け方をレクチャーする。

「面白いですね。こんなの初めて見た。」

 そういいながら、テオはコーヒーを口にする。そういえば缶詰、まだ開発してなかったな。これ、あとでサボり魔にぶん投げておこうか。

「珍しいものには事欠かないだろうから、楽しんでよ。ちなみに、お義母さんとかマリーちゃんは戸惑ってたりしない?」

 そういうとテオは苦笑いを浮かべる。

「マリーは物おじしない性格だから気にしなくてもいいと思いますよ。ただ、母さんはおどおどしちゃってます。」

 何となく想像はつく。

「人に傅くことはあっても、傅かれるのは初めてだから。俺もどうしたらいいんだろうって思うこともありますよ。

 だから、エメリッヒさんに変な気の使われ方しなくてほっとしました。」

 まあ、そうだよな。本来上司にあたる人が、へりくだって接してきたら理由があるとしても微妙な気分になる。

「まあ、俺も慣れてないけどね。それっぽく振舞ってるだけで、偉そうにしすぎてないかとても不安。」

 そういうとテオは噴き出す。

「姉ちゃんもそう言ってましたよ。奥様って言われると背中がむずむずするって。」

 まあ、そうだろうなぁ。生まれながらの貴族でもない限り、それは仕方が無いことだと思う。

 むしろ、それに慣れてしまう方が怖い気もするんだよな。

「運だけで貴族になってるからね。いつまた、平民に戻るかもわからないから、びくびくしてるよ。」

 そういうとテオは笑う。

「勘弁して欲しいな。もう今更、小作人に戻れって言われても困りますよ。」

 そうだよな。得たものが大きすぎて、失うとなったら恐ろしいものだ。

「まあ、そんなことにはならないように頑張るよ。」

 そういうと、テオは笑いながら頷く。

「よろしくお願いします。義兄さん。」

 なんかおかしくなって、二人そろって吹き出してしまった。

 

 日が暮れたころに訪問者との会合が数度行われた。大抵が商人との話し合いだったりするわけなんだけど、今回はオークたちの代表者と遺跡に宿を構えている経営者の代表からの陳情だ。

 オークの代表者は街に居留地を作らせてほしいという内容だ。

 それについては許可すべきかどうか悩む。

 そもそも、孤立している状態で囲いこんでしまえば交流が減って、結局は排斥が強くなってしまう気もするんだよなぁ。なので、返答は後日という事で帰らせた。

 宿屋の要件というのは、スカベンジャーたちについてだった。

「つまり、スカベンジャーたちへの仕事を斡旋したいという事ですか?」

 そう尋ねると、代表者は頷いた。

「上手くやってる連中はいいんですが、うだつの上がらない奴らがいましてね。宿代は踏み倒すわ、暴力沙汰を起こすわ。

 いい迷惑です。

 元から遺跡の近くで商売をしているので、多少は覚悟していたんですがね。」

 まあ、別にそれ自体は構わないけれども。でも、紹介する仕事の当てなんかあるんだろうか?

 あー、これはあれかな?

 衛兵や傭兵に頼んでいる仕事をスカベンジャーにも回してほしいという事だろうか?

「勝手に森に入られて狩りや採取とかやられるとこちらとしても困りますね。斡旋していただけるなら、構いませんよ。

 ただ、それらの斡旋で得た収入についてはしっかりと申告してくださいね?」

 遺跡で運営されている宿屋は結構実入りがいい。その上で仕事の斡旋までするのなら、税収も見込める。

「それはもちろんなんですが……」

 こちらを探る様な視線を送ってくる。

「そうですね。村や街で何か頼むような仕事が出てくるかもしれません。荒事に慣れている人の方が向いている仕事もあるでしょう。そういう仕事をお願いしても構いませんか?」

 行商人の護衛なんかも、別に傭兵である必要もない。スカベンジャーもやれる仕事だろう。場合によれば別の遺跡に移動するついでに、護衛任務なんかは助かるかもしれない。

 ただ傭兵団という組織がない以上、信用という面ではやや劣る。そこをどう補うかだろうな。

 うちの商会も商店をぼちぼち開いていたりはするけれど、ネットワークとしてはやや貧弱だ。そこからすると、ギルドの力を借りないとまずいかもなぁ。

 まあ、そこら辺はおいおい進めよう。

「当面は領内の雑用程度になると思いますけどね。」

 そういうと、宿屋の代表は嬉しそうに笑う。

「いえ、こちらとしましても探り探りです。ご紹介いただけるなら、どんな仕事でも構いませんのでよろしくお願いします。」

 正式な許諾については、後日という事でおかえりいただいた。

 結局、俺が許しているわけだから許諾内容について事細かな取り決めをまとめてもらうだけだけど、それをしないで許可をしたら面倒ごとが起きるのは世の常だ。

 即答は避けるべきだ。

 ロイドに門まで宿屋の代表を送ってもらう。

 不意にロイドの腕が気になった。

 失った腕を取り戻す方法は見つかっているのに、放置したままなんだよなぁ。話してみるべきか。

 とりあえず、執務室にロイドを呼ぼう。

 執事のフィリップに言伝を頼んで俺は執務室に向かう。

 

 しばらくして、ロイドが執務室にやってきた。蛮地にいた時の服装と打って変わって、それなりに街に馴染む服を着てもらっている。

 元々貴公子然とした容貌だから下手をすると俺ではなく、ロイドが男爵と間違われることもしばしばあった。

 まあ、仕方ないよな。

 誰だって、見た目で人を判断するものだ。うだつの上がらなそうな顔の俺より、ロイドの方が男爵だと言われたら信じてしまうだろう。

 ただ、利き腕がない。その点だけでも、奇異の目で見る人も少なくはない。

「ヒロシ、何か問題でもあったか?」

 俺はかぶりを振る。

「問題というよりも、確認かな。ロイドは腕を取り戻せるなら、取り戻したい?」

 その質問にロイドは躊躇を見せた。

「不便がないと言ったら嘘になるな。ただ、これは罰でもあるんだ。俺の一存では決められない。」

 それは、誰かからの許しがないと駄目という事だろうか?

「許可を取らないといけない相手がいるなら、交渉しても構わないけれど。」

 そういうとロイドは首を横に振る。

「決めるのはヒロシだ。俺に腕が必要だと思うなら腕を授けてくれ。

 そういうことだ。」

 俺はどういう顔をしていいのか分からなくなる。

 じゃあ、すぐにサイバーアームをつけようとか、そういう気軽な発想をしてしまいそうになるけれど。それは逆に言えば、今のロイドに不満があるという事にもなってしまう。

 俺は、今のロイドに不満があるわけではない。

 じゃあ、そのままでいいというのも何か違う気もする。

「分かった。少し考えさせてほしい。

 せめて、子供が生まれるまでは、この話は忘れてくれないかな?」

 そういうと、ロイドは頷いた。

 さて、どうしたものかなぁ。

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