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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-23 いろいろ動き出したら、また問題が出てきたな。

お金って感情も絡むので難しいんですよね。

 雪の降る日がめっきり減って、ようやく街道を馬車が行き来できるようになった。街も今まで雪で遅々として進んでいなかった建築が活発化し始める。

 もちろん、こういう時期の作業は一番危険だ。

 ギリギリ可能なところを無理して始めてしまうところも多いので、事故が頻発している。

こういうことはよくある事ではあるらしいけれど、放置はしていられない。大規模な建築については役人を派遣して抜き打ち検査を実施させる。事前に計画はしていたけど、本当笑えるくらい違反が多い。

 ここで緩めると元の木阿弥なので厳しく是正させていく。

 ただ、厳しくするとなるとどうしても身体刑になりがちなのが困りものだ。設備や人員に金がかかるので刑務所って言うのがどうしても小規模になる。

 だから手っ取り早く拷問にかけて、それを刑罰にして放逐するのが楽でいい。

 やばい犯罪者であれば、腕を切り落とすだとか、足を切り落とすだとか、そういう実効性のある刑罰を加えればいい。更生なんて言うのは、二の次三の次というのが常識ではある。

 

 当然だ。

 

 それだけの余裕が社会になければ、どうしたってそう言うことになる。

 じゃあ、そうすることで犯罪が減るかと言われると、なんとも微妙なんだよなぁ。

「罰金刑だけでよろしいのでしょうか? やはり、ここは鞭打ちも追加で……」

「いや、いっそのこと目をえぐっては?」

「やりすぎだ。そこまでしたら、恨みを持たれるぞ?」

 役人の中でも意見がまとまらず会議を開いたわけだけど、正直聞いてて答えが見つからない。皆それぞれに考えがあるのは分かるけれど、それはやはり感情面での議論になりがちだ。

 違反者の立場に立てば、あまりきつい刑罰を科すべきではないという事になるし、被害者の立場に立てばちゃんと罰を受けるべきだという意見になる。

 ともかく、全員の意見が出そろうまで俺は黙っていよう。余計なことを言えば、議論がおかしな方向に行くからな。

「閣下、ご裁可を。」

 ようやく結論が出たようだ。罰金にむち打ちを行うか、それとも罰金を増やすかという選択肢だ。

「じゃあ、罰金を重くしましょう。その上で、その罰金で被害を受けた者に対する補償を行うものとします。」

 役人たちが眉を顰める。これが一番仕事が増える選択肢だからだ。

 ただ、決定者は俺だ。

 正面から異議を申し立ててくる人間はいない。それどころか数名は眉を顰めつつも何か企んでいる顔をしているなぁ。

 考えていることは、何となく想像がつく。

 罰金というのは実のところ汚職の温床になりがちだ。一部を着服するのでもいいし、見逃して賄賂を受け取るという方法もある。保証を与えるべき金額をごまかすって言う方法もあるな。

 さて、どこまでやるのか。

 そこら辺は、しばらく運用してみて見極めよう。

 

 春も間近という事で、ようやくベネットの家族を城に招くことができた。今回は、お母さんや兄妹と一緒に、お義父さんもやってきている。

 ベネットとしてはお父さんは一人だから、お母さんの旦那さんという呼び方なのがなんとも。

 それについては、お義父さんは不満そうだ。

「娘は父親と認めてはくれないが、それでも私は父親だ。

 それなのに何の了承もなく結婚して子供を作るとは、いったいどういうつもりだ。」

 お義父さんの物言いに、使用人たちは眉を顰めている。それはそうだろう。

 こっちは貴族で、相手は平民だ。

 いくら不敬罪が無くなったとはいえ、こういう態度に出られたら放置するのも問題になってくる。場合によれば、変な理屈をつけて処罰したとしても文句は言われないだろうな。

 ただなぁ。

 そこら辺のさじ加減が分からない。

「すいません。常識知らずなのは、謝りましょう。ただ、私にも立場というものがあります。

 できれば、これ以上は勘弁してもらえませんか?」

 暗に、これ以上突っかかって来るようだったら容赦しないぞという事を態度で示す。流石にこの世界の人間である以上は、それで引き下がらないってことは無い。

 お義父さんはため息をついて口をつぐんだ。

「お詫びと言ってはなんですが、お義父さんには農地の管理をお願いしたいと考えています。ベルラントは領主が変わったことで街の農地に空白ができてしまっている。

 そこをお義父さんのお力をお借りしたいと考えています。」

 つまり、荘園管理者として雇いたいという打診だ。小作人であるお義父さんにとってみれば割のいい話ではあるはずだ。

「取り分は?」

「五分でどうですか?」

 収穫から税と経費を引いて半々なら十分な取り分だろう。もちろん、プライドや世間での風評という感情面でも問題もある。そう簡単には首を縦には振りにくいよな。

「実はだな。その、言いにくいのだが。」

 借金している話かな?

 それについては聞き及んでいる。

 ただ、こちらから借金もこちらで持ちますよと言いづらい。なので、お義父さんの言葉を待つ。

「借金がかさんでいる。だから、出来れば5000ダールほど都合をつけてもらえないだろうか?」

 5000ダールで足るのかな?

 確か、トータルで5万ダールほどの借金があるはずだ。5000ダールでは利子にしかならないと思うんだけどな。

 やはり、そこはプライドの問題かな。

「分かりました。5000ダールをお貸しします。

 それと、いろいろと物入りでしょう。

 5万ダールほど支度金として用意させていただきます。」

 貸すといったところで落ち込んだ様子を見せたと思ったら、支度金の話でぱっと顔をほころばせる。なんか、分かり易い人だな。

「そ、そうだな。私にも準備がある。できれば時間が欲しい。妻はこちらに残しておくんで、しばらく面倒は見てもらえるか?」

 咳ばらいをしつつ、お義父さんは喜びを押し殺すように話し始めた。

「勿論ですよ。」

 こちらとしては、城に滞在してもらうつもりでいた。

 いずれは農地に家を建ててもらうつもりではあるけれど、それまではベネットのそばにいて欲しい。

「ちなみに、支度金は証書で問題ないでしょうか?」

 現金で用意できないこともないけれど、それだと使いこみそうで怖い。出来れば、まとまった金額の証書を発行したいところだ。

「あー、いやその……

 そうだな。それと出来れば旅に同行してくれるものを用意してもらえると助かるんだが。」

 なるほどな。

 確かに大金を持ち歩いての旅路になるわけだから護衛が欲しいと思うのは自然か。それに借金をしている相手に対するはったりも効かせたいんじゃないだろうか?

「構いませんよ。こちらで人員をつけましょう。」

 オーサワ家の印章が入った証書に金額を書き込み、蝋封をする。

 護衛はロイドとテリーにお願いしよう。服装もそれなりに凝ったものを着て行ってもらおうか。

 そうすることできっと話もスムーズになる。その上で、変なことに金を使わないように監視してもらうこともできるだろう。

 いや、あんまり疑るのはよくないんだろうけど。

 ちょっと不安なんだよな。

 

 応接室で俺はベネットとお義母さんのエルマさんに詰め寄られることになった。理由は、当然ながらお父さんに貸したお金と支度金として渡した証書のことだ。

「ヒロシ、なんで相談もなしに承諾したの?」

 きっと反対されると思ったから。

「あの人が使いこまないように監視をつけてくれたことは感謝します。ただ、あの人を当てにになさらないでください、男爵様。」

 いや、当てにはしてないんだけどな。荘園と言っても、収穫を目的とした農場ではなく、あくまでも試験品種や交配を目的としている。

 なので、専門家は別に用意してあるから、お義父さんにはこれと言って期待している部分はない。口にすると、あまりにもひどいので言いづらいけど。

「ヒロシ、なんで黙ってるの?」

 俺は思わず目をそらしてしまう。

「いや、その。相談しなかったのは、謝るよ。でも、借金は清算してもらわないと、さすがにね。」

 あとで、借金取りに来られても困る。

 下手に利子で膨らむ前に清算してもらう方がいい。

「それは、そうだけど。それなら、私の貯金から出すべきであって、あの人にヒロシのお金を渡す必要はないでしょ?」

 そう言われると思っていたから、言わなかったんだよなぁ。

 多分、ベネットからお金を渡されたらお父さんのプライドが邪魔をして受け取れなかったんじゃないだろうか?

 気を回しすぎかもしれないけれど、そこら辺こじれると厄介だ。

「ベネット、あなたもいい加減、デニスのことをお父さんと呼びなさい? クリストフだけがお父さんだって気持ちは分かるけれど、それと呼び方は別の話よ。」

 デニスって言うのはお義父さんの名前だったかな?

 ベネットにとっては血のつながらない父親だ。クリストフって言うのは、初めて聞いたけど、それが血のつながったお義父さんの名前かな?

 忘れそう。

「分かってるけど、あの人は苦手なの。傭兵になるって言うのが、親不孝だって言うのは分かるのよ。

 でも娘に家を出る権利なんかないとか、嫁ぎ先は決まってるんだぞとか。それが当たり前だって言われたらそうなのかもしれないけど、受け入れられないのよ。

 しかも、なんだか団長と揉めるし。」

 なんだか穏やかじゃないな。

「それについては、謝るわ。あの人、きっと私とジェイス様が恋仲だったと邪推しているのよ。クリストフと結ばれたのも、身分差で結婚できないから妥協したんだろうって思ってるみたい。」

 エルマさんはため息をつく。

 なるほど、それもあって娘をジェイス団長に託すのは反対していたし、ベネットを家に縛り付けたかったわけか。気持ちは分からないでもないかなぁ。

「相談しなかったのは、それが理由なんだよ。」

 そういうとベネットはむっとした顔をした後、理由に納得したのか目を閉じる。

「つまり、私からのお金だってなったら受け取らないって言う事ね。確かにそうかもしれない。」

 もし、俺が事前に相談していたら、もっと揉めていただろう。ベネットも理解してくれたようだ。

 だけど、不満は不満だよな。

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