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2-7 オーガとの死闘?

 夜中のうちはみんなそれなりに気を張っていたが、結局何もなかった。

ベネットが確認した場所には、足跡が残っていたが手がかりはそれだけだ。

推察できるのは、大きさから巨大な二足歩行の生物だろうという程度でそれがオーガなのかトロールなのかは分からない。

 ただ少なくとも、四足歩行の生物はつれていないだろう。

 分かるのはその程度だった。

 明るくなってから改めて確認したが、やはり足跡以上の情報はなかった。

人数も、いつから見張っていたのかも、そしてどこに行ったのかも分からない。

まあ俺は、そもそも素人だから分かるわけもないんだが……

二足か四足かの区別だって、トーラストベネットが検討付けられたくらいで、グラスコーも見分けられなかった。

 ただ、手がかりは少ないが重要なことは分かった。

間違いなく、次の襲撃があるはずだ。

それも、おそらく今晩ではないだろうか?

まもなく、街道に入る距離になっているのが根拠なんだが、そう的外れでもないだろう。

街道には当然のごとく、料金を徴収する施設がある。

いわゆる関所ってやつなわけだが、当然そこには兵士が常駐している。

関所破りに対する対処が主な仕事だけれど、周辺に害をなすものがいればそれを排除する役割も担う。

当然、関所の内側と外側なら内側に注力するわけだけど、外側だって無視するわけではない。

襲われている旅人がいれば、助けようとするのが普通だ。

それに聞いた話では、オーガやトロールは暗視能力を有している。

その能力を生かさず襲撃するほど、愚かなら昨晩のうちに襲撃を仕掛けているはずだ。

観察をしていたようだし、頭が回らないって事はちょっと考えられない。

もちろん相手が諦めてくれることを期待しても良いかもしれないが、実際は執拗らしいのでチャンスがあれば狙ってくるだろう。

残念ながら、赤外線センサーと鉄パイプはお急ぎ便ではないので手に入ってない。

 ただ、手に入れていてもぶっつけ本番で実戦に投入するのは不安があるしな。

そもそも鉄パイプはねじ穴も開けてないから、鍛冶屋に頼まないと槍にはできない。

 あー、そこらへんどうするか考えてなかった……

 多分ネジはあるよな?

確か、鉄砲伝来の時にネジの概念が無くて苦労したとか言う話を覚えている。

そこからすれば、伝来元のヨーロッパにはネジの概念があったはずだ。

確かトーラスの持っている銃にもネジはあった気が……

「トーラスさん。ちょっと銃を見せて貰って良いですか?」

 わかんないなら、見せて貰えば良いんだよ。

「ん?あぁ、良いけど。欲しいのかい?」

 欲しいのか欲しくないのかで言えば欲しいけど、使いこなせる自信がない。

練習すれば、それなりに使えるかもしれないけれど、今は練習を気長にできる環境でもないだろう。

 それにどうせ買うなら、”売買”で購入できるであろう現代銃……あー、この言い方だとおかしいか……

 異世界銃?なんか自分の住んでた所を異世界って言うのもおかしいか……

 じゃあ、地球銃?いやいや、ここに住んでいる人たちからすれば、この星が地球だから………

 いいやもう、現代銃で!!

 とりあえず、アサルトライフルなりなんなりにしたい。

ドイツのG3A3とか、ベルギーのSCARとか格好いいよね。

 いや、まあそもそも使うと決まったわけでもない。

あこがれはあるが、そもそも俺は戦士を目指しているわけじゃない。

「いや、下手くそですしね。ただ、少し気になったことがあったので……」

 手渡された銃を受け取り、しげしげと眺めた。

よく分からん。

火縄があるわけじゃないから、マッチロックじゃなくてフリントロックなのは分かる。

けど、どういう構造なのかはさっぱりだ。

一応、切れ込みの入った頭を持つ金具が見えることからしてネジはあるんだろうな。

「これネジですよね?鍛冶屋の人に頼めば金属の棒に槍の穂先とか付けてもらえますかね?」

 トーラスに銃を返しながら、質問をしてみた。

「あぁ……どうだろうね……自分も職人ではないから、確実にできるとは言えないけど……

 大抵の場合は、金額次第じゃないかな?

 加工にはそれなりの時間は必要かもしれないけどね。」

 まあ、そうだよね。

やっぱり、鉄パイプを手に入れたからって、即座に槍にはできない。

今回はどのみち無理だし槍を鉄製の柄にしたところで、そんなに変化はないだろう。

それより、ちょっと試してみたい手がある。

「やっぱりつけられてるわ……」

 ベネットが小声で俺たちに伝えてきた。

なら、いつ仕掛けるかだな。

何も、相手が襲ってきてくれるのを待つ必要はない。

こっちがこっちの都合で始める方が良いだろう。

やるならば確実に仕留めたい。

 いや、ちょっと考え方がぶっそうか……

 別に何事もなく関所を越えられればいいし、闘わなくて良いならそれに越したことはない。

もし、そうでなくても話し合いができる状態で妥協できる範囲なら、交渉するのも悪くないはずだ。

まあ、こっちにそんな余裕があるかどうかの方が問題だけどな。

「とりあえず、作戦立てましょうか?」

 俺が確認をとると、二人は頷いた。


 いや、”鑑定”便利だな。

まさか遮蔽物で遮られても、目標にできていれば捕捉できるとは思わなかった。

ベネットに声をかけて貰った段階で追跡者の姿がちらっと見えたので”鑑定”をしていたんだが、まさか隠れても場所が分かるとはね。

しかも意識しなくて別の所を見ても、どこ行ったって思うだけで再表示される。

これは凄い便利だ。

 もちろん、これは護衛二人にそれとなく伝えてある。

相手がオーガであることも、一緒に付け加えておいた。

 しかし、筋力28ってなんなんだろうか?

人間の限界を10も上回ってる。

俺とベネットの差がわずかなのにもかかわらず結構な力の差になってることを考えると、ちょっとびびるな。

しかも剣の才能Ⅱとかある。

 なんか、俺が知っているゲームのルールでは推測ができない。

あくまでも俺が知っているものを基準に、それらしくデータが記述されてるだけなんだな。

 まあ、それを言えばそもそも”鑑定”とか、”売買”とかって能力もなかった。気にしても仕方がない。

 ともかく、分かることは正面から戦いを挑んじゃいけない相手だと言うことだ。

 じゃあ、どうすればいいのか?

 簡単な話だ。相手の手の届かない距離で闘えばいい。

もちろん、これは相手に逃げられる可能性も高い。

とはいえ、もうすぐ街道に逃げ込める距離でもあるのだから、逃げられたなら夜を徹して関所に駆け込むという手段も使える。

だから、仕掛けるのにはタイミングが重要であり相手の得物を知らなければならない。

馬車での移動は意外と遅い。

”鑑定”で見る限りでは、オーガの全速力よりわずかに早い程度だ。

と言うか、オーガが早いんだな。

 そして、得物は剣と投げ槍のようだ。

まあ、隠し武器を持ってる可能性もあるが、俺の”鑑定”とベネットののぞき見で分かる範囲では確認できない。

ただ弓にしろクロスボウにしろ、射程が長い武器は大抵大型だ。

唯一不安があるとすれば投げ槍だろうか?

いずれにせよ日が沈む前、だが十分に馬車が関所に逃げ込む事が可能な距離まで引きつけなくちゃいけない。

それも、できればなるべく遮蔽がないところが望ましい。

なんだかどきどきする。

下手すると俺のせいで死人が出るかもしれない。

そう考えると嫌な汗が出てきた。

徐々に傾きを強めていく太陽と、刻一刻と変わる景色が俺を焦らせる。

ごくりとつばを飲む。

考えていた絶好のポジションだ。

俺は、合図として決めていた右手で鼻を触った後、頭上に手を置く仕草をした。

「おい!!何かいるぞ!!」

 トーラスがあわてた様子で銃を構える。

 俺は驚いた様子で振り返った。

オーガは岩陰に巧みに姿を隠している。相手も緊張しているのか、じっとしていた。

当然、相手側からはこっちの様子は確認しにくいだろう。

「トーラスさん、本当に何かいるんですか?」

 俺は、馬車を降りて槍を準備し不安そうに辺りを見回す仕草をした。

まあ、堂に入った構え方なんか元々できないからきっとオーガは俺の事は侮ってくれるだろう。

 問題は、銃を構えるトーラスだ。

オーガにとって、これ以上やっかいな武器はない。

よく火縄銃やフリントロックの銃は威力が低いと勘違いされやすい。

だが、実際は銃弾も重く火薬量も多い。

ライフリングがないため、射程を超えると途端に命中率が下がり、球状の弾丸のために威力の減衰も大きい。

だが、オーガとの距離は20m、十分に殺傷距離だろう。

もちろん、当たり所によれば一撃くらいは耐えられるかもしれない。

何せ3mもの体躯を誇る巨人だ。

急所でもない限りは、痛手ではあっても致命傷にはほど遠いと言うこともある。

それでも、わざわざ傷つきたがる奴はいない。

 これで距離をとってくれるなら、それはそれでいいんだけどなぁ……

 残念ながら、そういう様子はない。

まあ、ある程度は予測の範囲内だ。

「おい!!出てこないと撃つぞ!!おい!!おい!!」

 トーラスは緊張したように叫び声を上げ、銃身を揺らす。

そして、銃弾を放つ轟音が響く。

もちろん、そんな状況ではオーガの隠れている岩に擦ることすらない。

「な!何やってるんですか!!トーラスさん!!」

 俺は思いっきり振り返りトーラスを見る。

あわてたように、トーラスは銃身を上げペーパーカートリッジを取り出そうとしている。

こんな無様な姿をさらせば、誰だってチャンスだと思うだろう。

特にオーガは素早い。

 奴は巨体に見合わぬ速度で距離を詰めることを選択した。

俺は横目に、その走り出した姿を確認し唾を飲み込む。

かかってくれ、そしてタイミングが合ってくれ。

そう祈りながら、俺は水の壁をオーガの頭の高さに合わせて作り出す。


 水が弾ける音が景気よく響いた。


 タイミングはこれ以上ないくらいに上手くいった。

ただ、予想していなかったのは、オーガに触れた途端水の壁は重力に従い地面へと落ちていったことだ。

だとするなら、水で頭を包んでやるのは難しいか?

 ともかく、水の壁は効果的だった。

思いっきりぶち当たったオーガは、仰向けに崩れるように倒れ込んでいる。

丁度、正座をするように足を折りたたみ、上半身が後ろに倒れ込んだような状態だ。

 俺は急いで向きを変え、オーガに向かって突っ込んだ。

狙うのは足だ。

動けない相手とはいえ、意外と低い位置を突くのは難しい。

だが、それでも大木のように太い太ももならば外れない。思いっきり槍はオーガの表皮を貫き、突き刺さってくれた。

当然、柄はぼっきりと折れてしまう。

なんか、感触としては薄い鉄板の中に詰まった粘土に突き立てたといった感じの感触だ。

突き刺されて、オーガは痛みに絶叫を上げる。

 怖!!

 その声だけでも、戦意をくじくに十分だな。

俺は、折れた柄を投げ捨てて、オーガの右側、後方へと距離をとる。

オーガが体勢を立て直して、剣を振るう頃には、充分安全圏へと逃げ出せていた。

上体を起こして槍の突き刺さった太ももを庇うように押さえ、その後おもむろに剣を抜いたわけだから結構な時間を浪費している。

どんなにのろまでも、さすがに逃げられる。

 それでも、剣が振るわれたことで起こった風切り音に俺は肝を冷やす。

あんなもん、たとえ防刃パーカーの上に、チェインメイルを着ていても一刀両断だろう。

 プレートメイルでも同じじゃなかろうか?

片足を槍で貫かれてですら、こんな状態だ。

しゃれにならない。

 だが、主導権はまだこちらにある。

先ほどまであわてていた様子はどこへやら、いつの間にやら装填を済ませていたトーラスが俺とは反対側の足を狙い銃弾を放つ。

さすがに、この距離ならぶれが大きい滑空銃身でも大木のような太ももは外さない。

小さな穴がオーガの太ももに開き、後方に弾が抜けると同時に血と肉が混じった物が吹き出す。

 いや、えぐいわ。

トーラスの再装填姿は、堂に入ったものでさっきとの落差にはオーガも目を見開いている。

 まあ、ここまで来れば勝敗は決したと言っていいだろう。

トーラスが装填済みの銃身を向けている。とても急所を外すような距離じゃない。

投げ槍を使おうにも両足は使えない。

その上、別の槍を取り出している俺もいる。

俺か、トーラス、どっちを狙うにしても次の行動の前に攻撃されて、どっちも外れてくれるのを願うのはちょっと都合良すぎだ。

その上で、まだオーガの知らない手が俺たちには残されている。

「降伏しろ。今なら穏便にすませてやる。」

 こんな状況で穏便も何もないんだが、問答無用って言うのはなんだか気が引けた。

まあ、だからって隙を見せるわけもないんだが……

「へ、へへ……助けてくれよ……命ばっかりは……」

 オーガの言葉は、どうやら帝国語じゃないようだ。

分かるのは俺くらいか?

あー、うん。

 なんか、困るよなぁ……

 ただでさえ人型なのに、命乞いまでされるとは思わなかった。

思わず、突きつけていた槍を下げてしまう。

当然、そんなことをすればオーガは隙ができたと思うよな。

オーガは手首に何かを仕込んでいるのか、腕を振り上げた。

途端に、肩口からその腕が吹き飛ぶ。

退路を塞ぐために、身を隠していたベネットがオーガの腕を切り飛ばしてくれたわけだ。

 俺は、オーガの分厚い胸板に槍を突き立てた。

苦痛と疑問が浮かぶ目で俺を見てくる。

 あぁ、これは何度も突き立てたくなるわけだな……

 俺は、ゆっくり槍を引き抜き、体を離す。

前のめりに倒れたオーガは、しばらく痙攣していたが胸への刺突は致命傷になったようだ。

動きが無くなると、人工音が響く。

おそらくレベルアップ音なんだろうな。

 つまり、オーガは死んだってことを意味してると思う。

 多分。

ベネットが首を落とすときには、当然なんの抵抗も示さなかった。

しかし切り落とした首を見て笑うのはやめてくれませんかねぇ、ベネットさん。

物語なので格好良く描いてますが、実際にはこんな真似できませんよね。

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