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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-17 家中の仕事を見直さないとな。

ブラック労働は嫌じゃ。

 ヘスティアの差し出してきた証書をまじまじと確認する。その証書はハロルドが発行したものだ。

 金額はちょうど、ラベール家に手付として渡した金額と一致する。

 つまりこれはあれか。もし何かあれば、こちらに協力しろという要求だろうな。

 眉をしかめてしまうのを抑えられない。

「なにか?」

 ヘスティアは嬉しそうに笑う。絶対こいつ性格悪いぞ。

「いえ、心当たりのある名前だったもので。なるほど、盗品ですか。

 ちなみに盗んだ者は?」

「逃げられてしまいましたが、そちらによく似た方がいらっしゃいますねぇ。」

 ヘスティアは並べられた死体を見て、目を細める。つまり、ラベールの手のものという事だね。

 はいはい。

 もう、こういう腹の探り合いとか大嫌い。

「なるほど、つまり盗賊の類だったようですね。危ない危ない。警備を増やしておきましょう。」

 とりあえず、もう詮索するのはよそう。下手につつくと何が出てくるか分からん。

「そうされるとよいと思います。

 何せ、ヒロシ卿のお噂はかねがね聞いておりますから。きっと、この世のものとは思えぬ逸品をお持ちのことでしょう。」

 俺は曖昧に笑う事しかできない。

「大した人間ではないですよ。幸運に恵まれ大切なものは多く手に入れましたが。」

 俺の言葉にヘスティアは嬉しそうに目を細める。

「それは結構なことです。」

 この人、怖い。早く帰ってくんないかなぁ。

「夜分遅くに尋ねてしまい、申し訳ありません。

 ご迷惑をおかけしました。

 そろそろお暇させていただいても?」

 ヘスティアの言葉に俺は思わずほっとしてしまう。

「いえ、大したお構いもせず、こちらこそ心苦しい。できましたら、またお尋ねください。

 日の高いうちならば、いろいろと用意できると思います。」

 そういうと、ヘスティアは満面の笑みを浮かべる。

「では、近いうちに是非。」

 そういうと、彼女は立ち上がって部屋を後にした。ロイドは警戒しているのか、彼女を見送る形でついていく。

 

 ……疲れた。

 

 俺はぐったりと背もたれに身を預ける。

「なあ、ヒロシ。あれ、やばいよな?」

 死体を目の前にして、あんな笑い方をする女がやばくないわけがない。ハルトの言葉に俺は同意せざるを得なかった。”鑑定”で見る能力値やレベルは、俺やベネットと違いはない。

 だけど、そういうものでは推し量れない不気味さがある。思想面でのやばさとでもいえばいいんだろうか?

 本当、何をされるのか分からない感じが嫌だ。

「殺しとく?」

 テリーがぽつりと漏らす。

「殺した方がやばい気がするから、やめてくれるか?」

 あれを殺しても、意味がない気がする。直感でしかないけれど、多分大きく的外れでもないよな。

 それに今は敵対しているわけじゃない。わざわざこっちから火種をつけるのもおかしな話だ。

 出来れば二度と会いたくないなぁ。

「関係ないかもしれないけれど少し聞いてもいいかな?」

 何か気になる事でもあるのかトーラスが口を開く。

「もしかしたら、単に手段を選ばなくなっていけば同じことを考えるだけなのかもしれないけれど。

 救国兄弟団と何も関係ないのかな? 彼女も含めて。」

 トーラスの言葉に俺は思考停止する。

 というか、うん。

 

 逆だな。

 

 変な妄想が入り混じって、どれが正解か分からなくなる。いったん棚上げにしないと、俺の頭が持たない。

「それについては、後日確認します。夜も遅いです。今日はこれで解散という事でよろしく。」

 全員がため息をつく。こういう一体感はいらないんだよなぁ。

 

 寝室に戻ろうとすると扉の前でフランシス付のメイドが立っていた。

「だ、旦那様。その、フランシス様が奥様に会いたいとおっしゃられまして。」

 自発的な行動を阻害しないようにしてほしいとは言ってあったから、ベネットが招き入れたのだとすれば咎めるようなことじゃないな。

「中に入ったらまずいかな?」

 もし、風呂に入っているとかなら遠慮しておかないと。

「いえ、今は大丈夫だと思います。」

 そうか。なら、遠慮なく入らせてもらおう。本当今日はいろいろありすぎて疲れた。

 部屋に入ると、ベネットとフランシスが同じベットで横になっている。お互いに手を握り、向かい合わせで寝ている姿はまるで姉妹のように見えた。

 なんだか、心の底からほっとした気分だ。

 とりあえず、俺も風呂に入ってさっさと寝てしまおう。

 二人を起こさないようにそっと、浴室へ向かった。

 

 久しぶりに一人で寝たので、ちょっと戸惑いを覚えてしまう。

 ベネットを探して顔を起こすと、ドレッサーの前でベネットがフランシスの髪を解いている所だった。

「あ、おはようヒロシ。

 いろいろあったみたいなのに、ごめんね。」

 ベネットが謝ってくるけれど、妊娠している女性に何かさせるわけにはいかない。だからそんな必要はないんだけどな。

「何をおっしゃるのやら。今は、子供のことを考えてくれればいいんだよ。」

 俺が笑うと、ベネットは苦笑いを浮かべる。

「そうだね。身重なのに、変な気をまわしちゃった。

 でも、ありがとうヒロシ。」

 礼の言葉もいらないとかっこつけたいところだけど、素直に嬉しい。

「こちらこそ。ベネットがいるから、俺は頑張れるんだよ。

 ありがとう。」

 なんか言ってて恥ずかしくなってくる。

 さっさと着替えてしまおう。

「そういえば、お嬢様は何か言ってた?」

 そう尋ねると、ベネットは言うべきか戸惑っている様子だ。当の本人であるフランシスは、まるでお人形のように反応していない。

「……フランシス様は、私をお母さんだと勘違いしているみたい。それで、ハロルドさんのことをしきりに話してくれるんだけど。なんだか、その小さい頃の事みたいで。」

 ベネットは少し恥ずかしそうに頬を染めている。

「こういう、人の過去のことを聞くとなんだか恥ずかしくなっちゃう。ハロルドさん、意外と情熱的なんだなってびっくりしたけど、聞いてよかったのかって気まずくなっちゃった。」

 子供にプライベートの話をするなというのは難しい。なんでもおしゃべりしてしまうものだ。きっと恥ずかしい過去の話を暴露されてると知ったら、ハロルドは頭抱えるだろうな。

「とりあえず、口外するのは無しね?」

 俺は、指でばってんを作る。

「分かってるよ。というか、出来れば忘れたい。」

 それをする方法が無いわけではないけれど。

「忘れちゃ駄目だよ。それだって、大切な思い出なんだから。」

 俺の言葉にそうだね、とベネットは頷く。そして、ゆっくりとフランシスの髪を梳き続けていた。

 

 俺は執務室に戻ろうとすると、扉の前でメイドがうつらうつらと椅子に腰かけていた。

 俺はぎょっとする。

「あ、旦那様、おはようございます。」

 慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「何してるの?」

 俺は思わずそんなことを言ってしまった。

「あー、違う違う。えっと、まず椅子に座るなって話じゃなくて。まさか一晩中部屋の前にいたの?」

 椅子に座って居眠りするなと言っていると勘違いされたら困る。別に待機しているなら椅子に座っていようがベットで寝てようが自由にしてくれて構わない。

 ただ、むしろずっとここで待機してたとするなら問題だ。

「は、はい。何かあれば、すぐにでも駆け付けられるようにと思いまして。」

 気持ちはうれしい。だけど、メイドの安月給に見合う仕事じゃない。あ、月給じゃないな。週給だ。

 いや、そういう話じゃなく。

「寝ずの番なんかしなくていいよ。それは衛兵の仕事だ。それだって交代でやってるのに、一人で椅子に座ってたら疲れるだろう?」

俺の言葉にきょとんとした後、メイドは元気よく胸を張る。

「大丈夫です。これでも体は強い方ですから。」

 全然大丈夫ではない。

 ”鑑定”してみれば、不眠によるバットステータスに意志力や耐久力への能力値ダメージも受けている。確かに、耐久力は人並み以上にあるのは分かるが、そんな貴重な人材をこんなところで消耗するわけにはいかない。

「体が強いのなら、なおのことちゃんと寝なさい。いざという時に頼りにするのだから、無駄に体力を消耗しちゃいけない。

 分かったら、今日は仕事をせずに休むこと。いいね?」

 何か言いたそうだけれど、ここで折れたらきっと仕事をしだすだろう。

「いいね?」

 念を押すと、渋々といった様子でメイドは頷いた。

「じゃあ、行きなさい。フィリップには私から伝えます。」

 叱責されたと思ってるのかな。ちょっと不安そうなのが気にかかる。

「し、失礼します。」

 メイドが立ち去ったのを確認して、俺は執務室へと向かう。

 そして、早速ながら執事のフィリップを呼び出した。

「お待たせいたしました、旦那様。」

 少し慌てている様子が見える。俺がメイドを叱りつけていたようにも見えただろうな。それが伝わったというところかもしれない。

「確認したいのだけれど、使用人の数は足らないのかな?」

 そう聞いてみると、フィリップはかぶり振った。

「とんでもございません。今でも過剰なほどかと存じます。」

 まあ、そうだよな。十分な人数を雇用していると俺も思ってる。

「それじゃあ、何故メイドが部屋の前で寝ずの番なんかしてるのかな? 俺も、ちゃんと帰って休めとは言わなかったけれど。」

 まあ、理由は分かる。それが常識だからだろう。

 他の家では、それくらいは当たり前に行われているとか、そういう仕来りであるとか。

「わたくしの落ち度でございます。申し訳ございません。」

 いや、言い訳を聞きたかったんだけども。

「いや、謝れと言っているわけじゃないんだ。昨日の夜は大分おかしな状況に陥っていた。

 だから、連絡体制や待機状況に乱れがあるのは当然だ。なので、言い訳を聞かせて欲しい。

 それに合わせて、どうするか決めなくちゃいけない。

 それが俺の仕事だよ。」

 円滑に仕事をしてもらわないと、まわりまわって俺が困る。だから、フィリップには忌憚ない意見を聞かせてもらわないと話にならない。

「差し出がましいことを口にさせていただきますが、よろしいでしょうか?」

 フィリップの言葉に俺は身構える。結構、こういう時はショックを受けるものだ。

 気持ちを整えて頷く。

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