13-16 襲撃は予測してたけど。
久しぶりの戦闘回です。
そろそろ寝ようかと執務室を出ると、インカム越しにテリーの声が聞こえてきた。
「ヒロシ、侵入を試みてるのが3グループいるんだけど、どうしようか?」
3グループ。
面倒だな。
「ハルトさん、場所は把握できてますか?」
オープンチャンネルにしているから、ハルトも聞こえているはずだ。
「えーっと、裏口に3人、正門脇の壁に一人。地下に二人。」
正門の一人って言うのがよくわからん。
それは敵なんだろうか?
「敵意や害意はあるんですか?」
ハルトは少し言葉を濁す。
「正面のは微妙。地下のと裏口のはある。」
微妙ってなんだよ。
「とりあえず、正面はハルトさんとカイネちゃんが対応してください。
基本衛兵もいるから、何とかなりますよね? 穏便によろしく。」
とりあえず、俺は地下に回るか。
「テリーは、ロイドとトーラスさんと一緒に裏口にいるのをよろしく。」
「分かった。多分、お姉ちゃんがそっち行くから。」
俺は、苦笑いを浮かべてしまう。本当は女の子に加勢してもらうなんて情けないことをしたくないけれど、戦力は欲しいしミリーは強い。
「分かった。接触する前に合流するよ。」
城の地下には排水を流す水路がある。その中で一つ、人が脇を歩ける通路があった。
出口には太い鉄柵があるわけだけど、物理的なものだしな。切断しようと思えば切断は可能だ。
ミリーと合流し、その通路に降り立つと透明化した二人組がこちらに向かってくるのが見える。《秘術眼》があるので、輪郭が光っているように視界にとらえているわけだ。
だけど、そのままだとミリーには見えないよな。
俺は呪文を唱え文様を描いて《燐光》を発動させる。2レベル呪文だけど、透明なものに付着し、目つぶしとしても効果があるという便利な呪文だ。
今までは透明化するような敵に出会ってきてなかったし目つぶしも閃光手榴弾がある。なので、あまり使ってきたことがない呪文だったけど、こういう敵には非常に便利だ。
「出来れば、玄関から入ってきていただきたいんですがね?」
顔を覆い、怯んだ相手に俺は言葉をかける。
とりあえず、それで話し合うつもりになってくれれば助かるんだけどなぁ。
残念ながら、そのつもりはないらしい。腰にさした短剣を抜き放つと、俺に躍りかかってきた。
結構鋭い剣撃だ。
油断していると切り裂かれかねない。俺は急いで槍を取り出して斬撃をいなす。
狭い空間では長柄の武器は不利だ。
すぐに壁にぶつかり、取り回しが難しい。
が、それだけに通路を塞ぐには便利な武器でもある。奥に押し入ろうとする相手に向けて、槍を突き出せば動きが牽制出来る。
その俺の打撃に乗じて、ミリーが短剣をもって突っ込む。
「ねえ、とりあえず名前くらい名乗ったら?
こそこそ、身を隠して押し入られたら、そりゃこういう対応されちゃうよね?」
ミリーの斬撃が鋭く、相手は来た道へと追い返されていく。”鑑定”で見る限りはミリーの方が強い。
だけど、俺と同程度の相手でもある。気を抜くと、俺はやられかねないな。
不意に視界から相手の姿が消える。
いや、正確には低い姿勢で突っ込んできた。おそらく、槍がつっかえて満足に振るえないと判断したんだろう。
いい判断だ。
俺が魔術師でなければ。
俺は、息を吐き呪文を発動させる。そして俺は思いっきり槍を振り上げる。普通なら、槍は地面を叩き、俺が斬り裂かれることになっていただろう。
だが槍は握っている部分を残し半透明になって地面をすり抜け、再び実体化して相手を打ち上げる。
《妖精撃》という武器を《次元またぎ》させる呪文だ。鎧なんかもすり抜けて斬撃や打撃を与えられるので非常に強力な呪文だ。
追撃で、俺は相手の肩を槍で縫い留めた。
「うわ!馬鹿やめろ!!」
奥の方で、ミリーの叫び声が聞こえる。俺がそちらに目を向けると爆風とミリーが転がってくるのが見えた。
咄嗟に、槍で突きさしていない相手の腕を踏みつける。
「ミリー、大丈夫か?」
水路に落ちたミリーに声をかける。
「大丈夫なわけないじゃん。もう、びっちょびちょ。
お話したくないからって、自殺する?
本当最悪。」
一応水は浄化しているとはいえ、排水だ。気分のいいものじゃないよな。
しかし、それだけ口が回るという事は、無事ってことだよな。
よかった。
「水に沈めておいた方がいいかな?」
攻撃をしたことで《透明化》は切れている。
黒づくめの女だ。
いわゆる暗殺者然とした装備をしていて、明らかにお話に来ましたって様子じゃない。
「ミリー、できればこっちの方も爆弾持ちかもしれないから、探って……」
そう言いかけたところで、がくがくと震えだした。
あーもう、ワンパターンだなぁ。《解毒》のポーションだって無料じゃないんだぞ。
とはいえ、話は聞かなくちゃいけない。俺は仕方なく《解毒》のポーションを投げつける。
だが、その姿勢がよくなかった。
片腕は槍、片足は腕、もう片方の手でポーションを投げつける。じゃあ、残るのは片足だけだ。
毒を飲んだとは思えない動きで、女は俺の足を払う。そのまま、上に圧し掛かられるとスティリットを取り出し、俺に振り降ろそうとする。
だが、それを振り下ろす前にミリーが膝蹴りを顔面にぶち込み女の体を引き起こすと、後ろに回り込み流れるように首を短剣で掻き切った。
「……ごめん、やっちゃった。」
仕方ない。これは俺の責任だ。
「いや、ミリーの判断が正しかった。ごめん、油断してたよ。」
強くなったつもりになって、結局こんな無様なことをしているようじゃ駄目だな。
トランシーバーに裏門の制圧が終わったという報告が来て、正面のお客さんは俺に面談を求めてきていた。
「ミリーは早めに着替えて。寒いだろ?」
「お風呂入りたい。とりあえず、今日はもういいかな?」
ミリーが少し震えているので、俺は頷く。
「着替えとかも用意にしてもらうように頼んでおくよ。」
地上に出たらミリーは足早に城の中へと駆けこんでいった。
寒いもんな。
とりあえず、トランシーバーでカイネに風呂の用意とミリーの着替えの準備をお願いしておいた。
あ、そうだ。死体を回収しておこう。こういう時に”収納”があるのは便利だよな。あんまり気持ちのいい使い方じゃないけど。
応接室に入ると、黒づくめの男一人が跪かされていて、その横に死体が二つ並んでいる。
そして、こっちも黒づくめの女が椅子に腰かけていた。みんなそろいもそろって黒づくめかよ。夜闇に紛れるなら、そりゃそういう格好に落ち着くのは分かるけど。
「お待たせして申し訳ない。こちらも、色々とごたついてましてね。」
そう言って、俺は追加の死体を床に並べた。
顔を覆っていた頭巾を取り払うとなかなかの美人さんの現れる。俺はため息をついてしまう。もう一人の方は、男だけどなかなか整った顔をしている。
なんだ、刺客て言うのは美男美女じゃないといけない決まりでもあるのか?
「大分お疲れのようですね。」
椅子に座っている女が声をかけてくる。こっちも結構な美人だ。頭巾を外している所からして、お話を聞かせてもらえるようで助かる。
「いきなり下水道通ってこられたり裏口でこそこそされていれば、こちらも困ります。しかも爆発したり、毒飲んだり。」
俺は、椅子に腰かけて肘をつく。
「ラベールの犬は礼儀を知りませんからね。心中お察しします。」
美しい顔に作り物めいた笑みって言うのは胡散臭いよなぁ。
「お前も同じ穴の狢だろうが、ヘスティア!!」
それが彼女の名前だろうか?
「お知り合いで?」
そう尋ねると彼女は楽しそうに笑う。
「ご冗談を。私はアリティウス家に仕えるもの。犬に知り合いなどおりません。」
「ぬけぬけと貴様!!」
立ち上がろうとする男を、トーラスが抑えつける。
いや、面倒だな。
俺は立ち上がり、男を”収納”に納める。これで少しは落ち着いて話せるだろう。
「これは、また……」
少し怯えられたみたいだな。
「大した手品じゃないですよ。」
俺は再度椅子に腰かけた。
「避けられたり、暴れられたらしまうこともできないですしね。ホールディングバッグに人を納めるようなもんです。」
そういうと、ヘスティアと呼ばれた女性は薄く笑う。
そして、立ち上がると彼女は頭を下げた。
「名乗りもせず失礼しました。
ベルラント男爵ヒロシ卿、わたくしはヘスティア。
インフィニス帝国公爵アリティウスに仕えるものでございます。」
この場合、どこのアリティウスさんに仕えているのか聞くのはまずいのかなぁ。
「フェデーレ様にお仕えしているとお伝えした方が分かり易いでしょうか?」
あぁ、東アリティウス家の首魁の名前だ。という事は、勝ち組の人ってことだよな。
「まだ、正式なお話は聞いておりませんが、ご当主になられる方でしたね。
おめでとうございます。」
そういうとヘスティアは薄く笑う。なんか段々不気味に感じてきたぞ。
「ありがとうございます。
つきましては、我が主の望みをお伝えしたく参上した次第でございます。」
望みねぇ。
「こちらでご期待に添えられるといいんですが。どのようなお望みでしょう?」
出来れば、無茶な要求でなければいいけれど。
「とても簡単なお話です。
ラベールに嫁いだ娘は死んだものとしていただきたい。」
それはどう解釈すればいいんだろうか?
いや、まあ試しに聞いてみるか。
「ラベール家に嫁いだ娘? はて、そんな方がいらしたでしょうか?
私どもでお預かりしているのは、料理人ハロルドが愛するフランシスという娘のみですよ?」
そういうとヘスティアは満面の笑みを見せる。
「左様でございますか。これは、私共の手違いであったようです。大変失礼いたしました。」
つまり、東アリティウスからすればフランシスの存在が邪魔だから、ずっと平民のままでいろという事だな。
「お詫びと言っては失礼かもしれませんが、こちらをお納めください。手違いとはいえ、これも何かの縁。
何かございましたら、私共をにお申し付けください。」
そういうと、ヘスティアは美しい髪飾りを差し出す。
「あぁ、それと。
こちらは盗品だったようで、持ち主の方にお返し願えると助かります。」
そう言って、証書を一枚差し出してきた。
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