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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-12 頼られたなら、それに応えたいのが人情。

お作法は難しいですね。

 夜になり、ハロルドからこちらに来たいという旨の手紙を貰う。そうしてもらうつもりで手紙を出していたので、こちらに拒否する理由はない。

「夜分にすいません。本来ならもっと早く来るべきだったんですが……」

 インベントリ経由なので、少し戸惑い気味ながらハロルドは俺に頭を下げる。

「いえ、こちらこそ無理を言ってすいません。ただ、おそらくはハロルドさんでなければ解決できない問題と思いますので……」

 申し訳ないけれど、早速案内しよう。そう思って、扉を開けようと思ったらフィリップに止められた。

「旦那様、ご案内はメイドにお任せください。」

 まあ、夜分遅くに女性の部屋に押しかけるのは失礼か。

「分かりました。お願いします。」

 そういうと、フランシスを世話しているメイドがハロルドを案内して、執務室を後にした。どうしよう、戻ってくるまで手持無沙汰だな。

「旦那様は、どうぞ寝室へお戻りください。何かありましたら、お呼びしますので……」

 使用人の役割とはいえ、夜遅くの対応は心苦しいんだよなぁ。こっそりとやるべきだったかなと思ったけれど、そうするといらぬ混乱を招きかねない。

「分かりました。とりあえず、夜に対応してくれる使用人には手当を出せるように手配してください。それと、フィリップも無理はしないように。」

 畏まりましたと頭を下げるけど、最後のお願いはちゃんと聞き届けてくれるかなぁ。執事に倒れられたら、多分家の中が知っちゃかめっちゃかになりかねない。

 メイドを増やして、メイド頭をフィリップの補佐に着けるべきかもなぁ。

 とはいえ、思うように人を増やせるとも限らないんだけども。それに、下手な人員配置を行えば、フィリップに余計な心配をさせかねない。

 落ち度があるんじゃないかと疑心暗鬼になられても困る。そこのところ、すんなり受け入れてもらえるように配慮も必要だよな。

 色々人を使うって言うのに慣れない。

 つくづく小市民だと感じてしまうな。

 

 寝室に戻るとベネットが少し不安そうにベットに腰かけていた。

「どうしたの?」

 俺が部屋に入って、そう声をかけるとベネットは俺のそばまでやってくる。

「なんでかな。暗くなってきたら、急に不安になってきちゃって。

 妊娠していると、よくあることだって言われたけれど……」

 そう言って、ベネットは俺に抱き着いてきた。強く抱きしめてしまうと、お腹の子に障ってしまうのでゆっくり気を使いながら抱き留める。

 でも、そんなこともあるんだな。どうするべきか悩んでいるとベネットは俺の胸に顔をうずめた。

「大丈夫?」

 そういいながら、少し長くなったベネットの髪を撫でる。

「うん、ありがとう。」

 そう言ってくれたので、体を離す。立ったままでは辛いだろう。ベットまでベネットをエスコートする。

「今日は遅かったね。忙しかったの?」

 あぁ、ベネットに伝えるのを忘れていた。

「ごめん、ハロルドさんがこっちに来てるんだ。」

 ベネットに、少しびっくりした顔をされる。

「謝る必要はないけど、何かあったの?」

 俺は頷いて、お嬢様がハロルドを呼んで徘徊していたことを伝える。その経験はベネットにもあったので、彼女も少しバツの悪い表情を浮かべた。

「そう、なんだ。それでお仕事終わりにこっちに来たってことなんだね。」

 まあ、そういうわけだけど。一回会っただけで落ち着くものかなぁ。

「じゃあ、きっと今晩はお泊りだね。」

 その可能性は高いか。じゃあ、着替えちゃうかなぁ。

 それとも、フィリップの報告を待つべきか。

「着替えるべきかな?」

 そんなことを聞いてどうするんだ。別にトレーナーで出歩いたってかまわないだろう。

「ごめん、変なこと聞いたね。着替えちゃうよ。」

 そういうと、ベネットが俺の手を握ってくる。

 なんだろう?

「ねえ、ヒロシ。脱がせてもいい?」

 なんだ、そりゃ。いや、別に構わないけども。

「いいけど、何かあるの?」

「別に何もないけど、タイを解くの好きなの。」

 そういいながら、ベネットは俺のタイをほどいていく。次にジャケットのボタンを外して脱がせてくれて、シャツのボタンも外していった。

 はだけた胸にベネットは手を押し当ててくる。ほんのりあったかい手が気持ちいい。

 部屋の中は、蒸気機関で作られる熱が伝わるように配管をしてあるから寒くはないけれど、それでもこうやって直接手を押し当てられるとホッとした気持ちになる。

「ヒロシも触る?」

 いたずらを仕掛ける子供のような笑顔を見せる。

「触って欲しいの?」

 そう聞くと、ベネットは素直に頷く。そうか、触って欲しいのか。

「着替えたらね。」

 そう言って、俺は寝間着に着替えるために立ち上がる。

「待ってるね。」

 触れあいたいって気持ちは分かるけど、気を引き締めよう。下手すると暴走しかねない。

 

 よく我慢できたと思う。朝起きたら、着ているものをはだけて抱き合っていた。

 辛いなぁ。

 朝食を一緒にとって、それから執務室へ向う。

 午前中に決済が必要な書類を処理して、しばらくしてからハロルドから面談を求められた。執務室で話すとなると堅苦しくなるし、応接室で話そう。

 フィリップにそう伝えて、俺は執務室から応接室へと足を運んだ。

 ハロルドが応接室に入ってきたら、頭を下げられた。

「お手数をお掛けして申し訳ありません。」

 いや、こっちこそ手間をかけさせて申し訳ないんだけども。

「お気になさらず。むしろ、こちらで対処できなくてすいません。」

 そこだけは、どうしたところで無理だろうしな。少し気になるのは、ハロルドはどうしたいのかというところだ。

「少し、踏み込んだ話をしてもいいですか?」

 そういいながら、俺はハロルドに席を勧める。少しためらいつつも、執事に椅子を引かれて座らないというわけにもいかない。

 渋々といった様子でハロルドは椅子に腰を落ち着かせた。

「踏み込んだというのは、お嬢様についてでしょうか? それとも、ラベール家からの要求についてでしょうか?」

 ハロルドは若干緊張していた。実際には両方尋ねないわけにはいかないわけだけども。

「話せる内容だけで結構ですよ。あくまでも、ハロルドさんの望みを知りたいというのが目的ですから。」

 そう言われてもどこから話せばいいか分からないだろうな。こちらからまず話を振るべきだろう。

「とりあえず、フランシスさんが追放されたきっかけは何なんでしょう?」

 現在は、平民だ。俺が様と付けてしまうと問題がある。

 だけど、元は公爵令嬢だからなぁ。

「私との不倫が原因となっています。」

 ハロルドの言葉に俺は眉をしかめる。

「もちろん肉体関係はありませんし、思いを寄せられていたと聞いたのも私ともども追放されると決まった時でしたが。」

 どういう顔をしたらいいんだろうなぁ。ハロルドからすれば、いい迷惑だったのだろうか?

「ですが不倫というのも、あながち的外れでもないんです。

 ……もともとラベール家はアリティウス家の分家にあたる血筋でしたので、何かと縁がありました。

 父の代からラベールで料理の腕を振るわせていただいていたのですが、お嬢様は私の作るデザートを好んでおられて……」

 少し懐かしむようにハロルドは目を細める。

「おいしそうに食べていただくだけで私の胸は高鳴ったものです。

 そういう不埒な思いというのは見抜かれるものなのでしょうね。お嬢様は成人前に婚約者の下へ。私は、修行のために別の料理人の下へいったん預けられてしまったんです。

 それから父も亡くなり、またラベール家で腕を振るわせていただいていたのですが。

 そこで、まさかの婚約破棄でした。

 その当時は大騒ぎで、あちらで何をなさったのかという事で話題は持ちきりです。結局、いろいろとありましてラベール家で引き取るという話で落ち着いたわけですが……」

 そこでハロルドは渋い顔をする。あまり面白い話ではないんだろうな。

「無理に全て話される必要はないですよ。お茶でも飲んで、落ち着いてください。」

 俺は野草茶をハロルドに勧める。

「ありがとうございます。そうですね、このお茶。私もお嬢様によくお出ししていました。

 心を落ち着ける効果があるとか。何かあると、食堂に逃げておいでになられた。」

 ハロルドは深いため息をつく。

「あの時、無理にでも聞きだしておくべきだったのかもしれません。

 お嬢様は決して口数の多い方ではないし、思慮深く、慎みを持った方です。もしかしたら、それは私の贔屓目もあるのかもしれません。

 ですが、少なくとも不貞を疑われるような方ではないし、他人を安易に謗るような方ではない。

 もしそうなら、私にいろいろと話していたでしょう。

 でも、お嬢様は、ただ一言だけ裏切られたとしか、言ってくださらなかった。それが誰にとも、どのようにとも話してはくださらなかった。

 次にお会いした時には、もうあの状態だったのです。」

 深い後悔がハロルドにはあるんだろうな。

 でも、一介の料理人に何が出来たというのだろう。

「もしかしたら、裏切ったのは私なのかもしれません。お嬢様の救いを求める手を取ることができなかった私への恨みなのかも。」

 そんなことはあるだろうか?

 客観的に見て、どう考えてもハロルドに恨みを持っているようには見えない。

 ただ、ハロルドに救いを求めているのは事実なのかもしれないけれど。

「実は密偵を雇い、ラベール家について調べさせています。何も知らずに預かり続けるというわけにもいかなかったので。」

 どこまで調べてくれるのかは分からない。

 だけど、期待は結構していた。何せ、あのモーダルの物乞い爺さんの伝手だ。

 彼がもたらしてくれた情報に今まで誤りはなかった。今回も、成果を期待してしまうのは仕方がないだろう。

「その上で、ハロルドさんには聞かないといけないことがあります。

 お嬢様のために主家を裏切れますか?」

 ハロルドのフランシスへの想いは分かった。あとは、その上でどうしたいのかという話だろう。

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