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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-10 何があったんだろうな。

踏み込むべきか否か悩ましい所ではあります。

 そもそも、俺の妄想は的外れだ。仮に積極的にハロルドがお嬢様を譫妄状態に置きたいのであれば、彼女を手元から話すわけがない。

 何らかの食材を食べさせてくれなんて言う申し入れもない。

 だから、俺のバカげた妄想に過ぎない。

 もちろん、積極的にお嬢様の状態を改善させようとしてたかと言われれば疑問符はつくが、それは方法が見つからないか諦めている可能性もある。

 ハロルドの心境として、このままの状態が望ましいと考えていたとしても、それはあくまでも消極的なものだろう。正式な手続きで返還を求められれば諦めるというハロルドの言葉からも、それは現れている。

 日を改めてベネットの検診の後に、お嬢様の検診をしてもらうついでに”鑑定”を行うことに決めた。

 もちろん、一人で決めたわけじゃない。

 ベネットにも相談の上でだ。

 事情を話してみたら、ベネットには笑われたが。

 そこまで思いつめなくてもいいのにって言われたけど、やっぱり考えすぎかなぁ。

「精神科は専門外なんだがね?」

 医者にはそうぼやかれてしまった。

「すいません。わかる範囲で構いませんので、よろしくお願いします。」

 改めて、俺はお嬢様の方を見る。

 ”鑑定”をするのは、恐ろしく簡単なことだ。それだけに知りたくない情報をほじくり返す可能性がある。

 なので、慎重に情報を探っていく。

 とりあえず、今の状態の確認だ。能力値やら能力なんって言うのは、あとからでも確認できる。

 なので、状態異常を調べさせてもらった。

 失語症、幼児退行、譫妄、鬱というコミュニケーション障害てんこ盛りだ。ただ少なくとも外傷によるものでも、毒によるものでもないことは分かる。

 逆に言うと、呪文で何とかなる状態ではない。

 むしろ俺はほっとしてしまった。ハロルドにお嬢様を治せるよと言わなくて済む。

 いや、情けないなぁ。

「身体は至って健康だね。よく世話をされていた様子だ。

 この状態に陥ると栄養失調や脱水状態になっているものだが、そういう心配は必要なさそうだね。

 歯並びもよいし、病気も患っていない。

 ただ、少し……

 ヒロシ卿、席を外してもらえるかな?」

 医者に言われて、ようやく気付いた。

 相変わらず、俺は察しが悪いな。診療してもらうなら、そりゃ当然ながら服の下も見る。

「すいません、よろしくお願いします。」

 俺は慌てて診察室の外に出た。

「ヒロシ、どうだった?」

 ベネットが診察室の前で待っていてくれたようだ。付き添いのカイネがいるとはいえ、彼女を立ったまま待たせてたなんて。

 俺は何をやってるんだろうな。

「部屋で話そう。

 診断が終わるまでには時間がかかるだろうし。」

 そう言って、俺はベネットの手を握る。

「気にしすぎ。

 まだ普通に動けるよ。」

 そう言って、笑いながらも俺のエスコートを受け入れてくれている。

 

 部屋に戻り、ベネットを椅子に腰かけさせる。座ってくれたことで、ようやくほっとした。

「ありがとう。パパは、優しいね。」

 そういいながら、ベネットはおなかをさする。

 なんだか顔がにやけてしまう。

「恥ずかしがらないでいいのに。それよりも、フランシス様はどういう状況なの?」

 どう説明したらいいだろうか。

 心理学を学んだわけではないから、今の状況がどういうものであると説明したものか。

「少なくとも、毒を盛られたとか、脳に障害があるとかいう状態ではないね。自分で、心を閉ざしてしまっていると言えばわかるかな?

 だから、呪文でどうこうできる状態ではないかなぁ。」

 当て推量だけども。

「そうなんだ。それは、ずっと治らないの?」

 そこは、俺には分からない。

 3年間、甲斐甲斐しくハロルドが接していたのに変化がなかったようだし、こちらに来て急に治るという事はない気はする。

「専門医に診てもらえれば、あるいは何か分かるかもしれないね。」

 確か、暁の盾の医師はそういう事に長けているような印象がある。とはいえ、彼女も国軍へと引き抜かれているから、おいそれと接触はできないだろう。

「ファニング先生に診てもらえればなぁ。」

 ベネットがぽつりと漏らす。

「それって?」

 俺が尋ねると、ベネットは慌ててしまう。せかしてしまったようで申し訳ないなぁ。

「あぁ、ごめんなさい。暁の盾にいたお医者様。人の心が専門だって言ってたから。」

 あぁ、同じ人物を思い浮かべていたのか。

「丁度、俺も同じお医者さんを思い浮かべていたんだ。名前までは知らなかったけど。」

 上手いこと渡りをつけられたら、何か糸口は見つかるかもしれない。バーナード卿に連絡を取ればあるいは、接触できるかもなぁ。

「ただ、思うのだけど……

 余計なことをするべきなのかな?」

 ベネットの言葉に俺はためらいを覚える。

「そうだね。そのままそっとしておくのがハロルドさんにとってもフランシスさんにとっても幸せな可能性もあるしね。」

 俺は余計なお世話を焼いているってこともありうる。

「でも、何も知らずに放置するわけにもいかない。何があったのか、それは知らなくちゃいけないかなって……」

 そういうとベネットは頷く。

「知らずに何もせず、手をこまねいて最悪の事態になるのは避けないとね。でも、まずは調べてもらっている探偵さんの報告待ちかな。」

 まあ、そうだな。ともかく、調べてもらうのにも時間はかかる。

 今は待つしかないかな。

「とりあえず、お茶でも飲む? ミリーが森でイチジクを見つけたらしいからドライフルーツにしてたんだけど、それをお茶うけにするのはありかな?」

 そういいながら、俺は野草茶と一緒にイチジクのドライフルーツをテーブルに並べる。

「ありがとう。本当は、アイスとかチョコレートとか食べたいけど。」

 そういうとベネットはため息をついた。

 でも妊娠中にあまり糖分を摂取しすぎるのはよくない。それとチョコレートにはカフェインが含まれている。

 過剰摂取でなければ問題ないにしても、避けるべきものだろう。

 ただなぁ。

 アイスくらいはいいんじゃないかなぁ。

「ちょっとだけだよ?」

 とりあえず、ハロルドの作ってくれたアイスクリームを小皿に乗せてテーブルに置いた。

「ヒロシは食べないの?」

 そう聞かれると、食べないといけない気持ちになってしまう。本来は、太りすぎだから甘いものは避けろと医者からは言われてるんだけどなぁ。

「食べる。」

 駄目だ。我慢が効かない。

 冬なのに暖かい部屋の中で食べるアイスクリームはどうしてこんなに魅力的なんだろう。

 

 執務室に戻り、処理すべき案件を片付けていたら、医者が俺の執務室にやってくる。

 フランシスの診断結果だろうか?

「ヒロシ卿、お時間よろしいか?」

 少し表情が硬い。”鑑定”する限りでは、フランシスに疾患はなかったんだけどな。

 なんだろうか?

「どうぞ、今はちょうど空いてます。」

 優先して処理しないといけない事案は少ない。多少遅らせても問題ないだろう。

「すまないね。例のお嬢さんに関してなんだが……」

 そういうと、医者は口ごもる。

「彼女の私事に関わることで医者がこういう事を伝えるのは望ましくはないのだが。それでも言っておくべきかと思ってね。」

 まあ、プライバシーに関することをぺらぺらとしゃべられたら困る。それでも、伝えるべきと考えたってことは、結構深刻な内容なんだろうな。

「それについて、どうするべきかは私が判断します。話してください。」

 半ば強引に聞き出す形になるけれど、話してもらわないとな。医者は少しほっとした表情を浮かべた。

「古い傷跡がね。

 体の至る所にある。それが合意の下でのことだとしても、大分ひどい傷跡だ。普通に考えれば、虐待を受けていたとみるのが自然ではある。

 それも継続的なね。」

 つまり、追放の際に罰として与えられた傷って言うわけではないってことかなぁ。

「それが彼女の心を閉ざすきっかけだったのかどうか。それは、正直分からない。

 ただ、どれも古い傷だ。」

 どれくらい経過した傷なんだろうか?

「3年以上前でしょうか?」

 そう聞くと、医者は頷く。

「少なくとも、年単位は経過している。にもかかわらず未だに傷跡が消えないことを考えると、なんというか。

 ある種の怨念のようなものを感じてしまうよ。」

 怨念ねぇ。

 これは、大分根が深い問題がありそうだなぁ。

 とりあえず、その傷をつけたのはハロルドじゃないだろう。恨みや憎しみを抱いて、あそこまで甲斐甲斐しくは接することはできないだろうし、3年間何もしないというのも不自然だ。

 あるいは3年前とは関係が異なるとしてもだ。

 一介の料理人と仕えた先の奥方様では、継続的に暴力を振るうというのはかなり難しい。とするなら、おのずと虐待を行っていたのは夫と考えるのが当然だと思うんだよなぁ。

 それが今になって、追放したフランシスを家に戻してもいいか。

 

 そりゃ警戒するよなぁ。

 

 多分、ハロルドも傷の件は知っているはずだ。じゃなかったら、ここまで身ぎれいにはできないだろうしな。

 どういう心づもりでハロルドは俺に預けたのか。とりあえず、あちらから申し出がない限りは黙ってるしかないんだけども。

「知らせていただき、ありがとうございます。体調面や衛生面について、ご指導があればメイドに申し付けてください。」

 思わず、俺はため息をついてしまった。

「礼を言われることじゃない。むしろ、私はヒロシ卿に厄介事を押し付けたようなものだ。

 そこについては、申し訳なく思うよ。」

 そんなに気に病むようなことじゃないと思うんだけどな。いずれにせよ、相談してもらえて助かった。

「厄介事を抱え込むのが当主というものでしょう? まあ、いつ投げ出すか分かりませんけどね。」

 そういうと医者は笑う。

「まあ、奥方の件は任せておきたまえ。きちんと、母子ともに健康でいられるよう全力を尽くす。

 ヒロシ卿が投げ出しても、私が何とかするとも。」

 そこを投げ出すつもりは微塵もないけれども。ともかく、心強い言葉を貰って俺としてはとても安心する。

「よろしくお願いします、先生。」

「勿論だとも。」

 どちらからともなく、思わず笑いあってしまった。

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