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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-7 政治的駆け引きなんて柄じゃないんだけども。

もちろん、蒸気船についてのやり取りは上からの許可を受けています。

 晩餐会や舞踏会が終われば、いろいろな人との面談の時間になる。様々な商人や貴族、小国の王族とも面談の機会があった。

 まさか、男爵の段階で別の国の王族と話す機会があるとは思いもよらない。ただ内容は、いわゆるお金の無心だ。無期限無利子の資金提供を要求される。

 断りづらいのがなんとも。

 気前よく満額回答というというわけにもいかないので、お財布と相談しつつ融資した。きっと返ってこないよな。

 とりあえず、保険みたいなもんだと思っておこう。

 それで、これらの面談での目玉は連合から視察で訪れた侯爵様との面談だ。

「ヒロシ卿、この度はお時間をいただき幸いです。」

 綺麗な帝国語で語りかけられる。ただ気になったのは、相手はスーツ姿なんだよなぁ。

 こっちがタイツ履いてるのが馬鹿らしくなる。

「いえ、こちらこそお尋ねいただき感謝しています。横にいますのは我が妻、ベネットです。」

 そういうと、軽くベネットは会釈する。妊娠中の女性が相手なのだから、多少の非礼は許してくれるだろう。

「これはお美しい。さぞ、名のある名家のご息女なのでしょうな。」

 嫌味か?

 ベネットの素性なんて、みんな知ってるはずだけどな。

「いえ、わたくしはフランドルの平民でございました。」

 にっこり笑って、ベネットは答える。

「おっと、これは失礼。フランドルは美人が多いという事なのでしょうか? わが国では、平民といえば不細工ばかり。それとも、大魔女の秘術でもお使いに?」

 こいつ、失礼な奴だなぁ。

 まあ、相手の方が位が上なのでぶん殴るわけにもいかない。公式な会談なわけだから、多少のことは我慢するか。

「ご謙遜を。連合も様々な国の美女を集めているのでしょう? 平民にも目を見張る美女はいるはずだ。

 それとも、本土にくると皆不細工になる呪いでもかけられてるんですか?」

 嫌味には嫌味で返してやろう。

「ははは、なかなか面白いご冗談だ。もしそんな呪いがあったのなら、即座に解かねばなりません。

 いずれの国を尋ねれば、呪いを解くことが可能になるでしょうなぁ。」

 なかなか話のつなげ方が面白い。

「そうですね。きっと世界中を旅しなくてはならないかもしれません。」

 俺は話に乗っかってみる。

「世界中ですか。なかなかに難しい。それならば足がいる。

 空を飛ぶ船、あるいは風に逆らい力強く海を渡る船が必要でしょうなぁ。」

 つまり、こういうことだ。いいからさっさと、蒸気船の設計図を寄こせ。

「確かに、世界を旅するならきっとそんな船が必要でしょうな。幸い、わが国には空を飛ぶ船が一隻あります。何でしたら、お貸しいたしましょうか?」

 連合の侯爵は目を細める。

「いやいや、竜の体を用いて作った国宝とも呼べる船。我々がお借りすれば、他国から奪ったのだろうと謗られます。

 そうですな。

 できましたなら、蒸気船を売ってはいただけませんか?」

 完成品を寄こせ、そうすれば似たものが作れるという事か。

「いやいや、わが国でもなかなかに手を焼いています。むしろ、設計図を見ていただいてより良いものを作っていただければと思いますが、いかがでしょう?」

 どうせ盗まれるなら、渡した方が話が早い。陛下からは提供する許可をいただいているのだから、こちらとしても困ることはない。

「ほう、設計図を提供していただけるとは有り難い。それで、いかほどで?」

 流石に”無償で提供してもらえるとは有り難い”とは言ってこないんだなぁ。

「年間で30万ロムドでいかがでしょう?」

 ロムドとは連合での通貨単位だ。

 大体ダールとは3倍の開きがある。

 為替で変わってくるけど、おおよそ9000万円。

 所得状況は連合も変わりないだろうから、その4倍の3億6000万円くらいの感覚だろうか?

 特許料としては安くもなく、高くもない位じゃないかな?

「なるほどなるほど……

 さすが元商人、なかなか面白い値段の付け方ですな。」

 まだ現役だよ。

「失礼ながら、元とつけていただくにはいささか早いかと。未だ、男爵と呼ばれるのには慣れておりません。」

 連合の侯爵は笑う。

「いや、失礼したのはこちらでしたな。商人という事であらば、是非ともわが国にもお越しいただきたい。

 機会があればぜひ。」

 つまり、うちの国の方が儲かるぞ商人。

 という意味だろうなぁ。

「領地をいただいたばかりで、何かと手こずっている所です。ですが、いずれは貴国に訪れることができればと考えています。

 お誘いいただけただけでも大変光栄に存じ上げます閣下。」

 お互い笑いあってるけど、正直疲れる。

 腹の探り合いはあるだろうなとは思ったけど、しょっぱなからきついなぁ。

 勘弁してくれ。

 

 侯爵殿をお見送りして、戻ってくるとベネットが笑っていた。あのやり取りがおかしくてしょうがなかったんだろうな。

「そんなにおかしい?」

 ちょっと冗談めかして言う。

「ごめんね。正直、面白い。笑うのこえらえるので精いっぱいだったよ。」

 まあ、滑稽だよなぁ。素直に設計図寄こせ、特許料払えで済む話だ。

 何をまどろっこしいことやってたんだか。

「こういうコントを繰り返すから、笑わないように注意してね。まあ、三文芝居だからそのうち慣れると思うけど。」

 俺は椅子に座って、冷めたお茶を啜る。

「でも、嬉しかったよ。」

 なにがだろう?

 俺は、ベネットを喜ばせるようなことを言ったかな。

「ヒロシも、フランドルの人なんだって感じた。」

 それはまあ、ベネットの生まれた国だし本拠地もこっちだしな。

 もっと身軽なら、そもそもお誘いいただくこともなかったんだろうし。なんとも複雑な気分だ。

 でも、この国の一員だと認められたようでうれしい。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

 妙に芝居がかったいい方になってしまい、二人して笑ってしまう。

 

 細かい面談を済ませると、3日ほどたってしまった。久方ぶりのモーダルなので挨拶回りもしておきたい。

 とはいえ、男爵の身分だ。多少変装しておかないと目立ってしまう。

 俺は眼鏡をかけ、ベネットはスカーフで頭を覆う。なんか、本当安っぽいけど、結構効果はあった。

 雪上車だと目立つので雪狼ぞりを使わせてもらう。

 街中を走るようになったので、雪道の移動もスムーズだ。

 ただ《常春の畦道》をカイネにかけてもらう関係上、彼女は連れまわさないといけないし呪文も結構派手なので、変装がばれないかちょっと心配になってしまう。

 カイネがいるという事はハルトもいるってことだしな。目立たないつもりでバレバレなんじゃなかろうか。

 まあ、心配しても仕方ない。不義理をするわけにもいかないのでちゃんと挨拶回りしよう。

 商業ギルドへ赴き支部長に挨拶したり、採掘ギルドみたいな職能ギルドの親方にも挨拶をする。何日も要するから、食事はいつもハロルドの店だ。

 彼の店も、順調に支店を増やしていた。

 モーダルに行くなら、彼の店によらない手はないというくらいには有名店になっている。さらに、首都に支店を出してそちらも順調なようだ。

 まあもっとも、そっちの方はのれん分けみたいなものだからハロルド自身は経営に携わってないそうだけど。

「多少空いているかと思ったけど、全然混んでるね。」

 支店が出来たんだから分散してるかと思ったんだけど、それを上回る集客らしい。ほとんどの席が埋まってる。

「仕方ねえんじゃね。やっぱり、どうしたってハロルドさん本人が一番腕がいいわけだし。」

 日本みたいに味を画一化したチェーンのようにはいかない。

 ハルトの言うように支店では満足できないという客は本店に集まってしまうだろうな。

「オーサワ様。お越しいただきありがとうございます。お席はすぐ準備いたしますので、お待ちください。」

 店員さんが俺を見かけると、個室へと案内してくれる。いやVIP待遇はうれしいけれど、当然注目されるよなぁ。

 幸いオーサワという名前は、ヒロシという呼称よりも広まっていない。

 だから、騒ぎにはならずに済む。連日お世話になっているし、何者かと噂されるくらいは仕方ないよな。

 

 料理をオーダーして、食事を楽しんだ後ハロルドがやってくる。忙しいのにわざわざ顔を出してくるって、何かあったんだろうか?

「ヒロシさん、少しお時間よろしいですか?」

 俺はみんなの顔を見る。当然、聞いてやれという雰囲気になるよな。

「構いませんよ。なんでしょう?」

 俺はハロルドに席をすすめる。

「以前お話したことがあったと思うのですが、お嬢様の件です。」

 確か、帝国の貴族で追放されたという話だったか。

「何かありましたか?」

 そういうと、ハロルドは頷く。

「少々目立ち過ぎました。お嬢様の家から、帰還を促す使者が来たんです。」

 そう言って、手紙を見せてきた。文言はとても丁寧で、戻ってくれば身分を保証するという内容だ。もちろん、条件は付いている。

 ハロルドの店の売り上げの半分を寄こせという内容だ。こりゃまた、暴利な。

「お嬢様の身の安全が確保できるのであれば、支払いをするのは構わないんですが。

 正直信用できません。

 出来れば、ヒロシさんの領地でかくまっていただくわけにはいきませんか?」

 どうしたものかな。

 いや、ハロルドには大変世話になっている。本来なら、二つ返事で引き受けなくちゃいけないことなんだけれど。

 正直、その家がどれくらいの力を持っているのか気になるところだ。

 まさかいきなり暗殺者を送り込んでくるようなことはしてきたりはしないだろうけど、正直うちで庇いきれるかどうか。外交的手段で引き渡しを要求されたら、抗いきれないと思うんだよなぁ。

「一つ条件があります。正式な手順で引き渡し要求が来た場合は、引き渡します。

 もちろん、身の安全についてはできうる限り補償を求めますが……」

 非情なようだけど、そういう真正面からの要求だとどうしようもない。

「はい、それは……

 むしろワガママを聞いていただけるだけでも、ありがたいと思っています。」

 ハロルドにそれを受け入れてもらえるなら、否は無いよな。ハルトやカイネ、ベネットの顔を見る限り問題なさそうだ。

「じゃあ3日後に戻りますんで、それまでに準備しておいてください。

 特別な方法で移動するんで追跡される心配はないと思いますけど、念のため注意してくださいね。」

 ありがとうございます、とハロルドは頭を下げる。

 でもそんなにありがたがられることじゃないよなぁ。本当はもっと積極的に助けないといけないのに。

 つくづく俺は薄情だ。

「それで、対価の方ですが……」

 待て待て、この状況で対価なんか求められるもんか。

「いつもお世話になってるんですから、結構ですよ。」

 人の一人や二人、匿うくらいどうってことない。そのために領地を求めたんだしな。

「いや、そういうわけにもいきません。」

 ハロルドがなおも食い下がってくる。どうしたもんか。

「じゃあ、今晩の飯はただってことでどう?」

 気軽に言いやがって。ハルトの能天気さがうらやましい。

「それでいいんじゃない?」

 俺はベネットの言葉に押されて頷かざるを得なくなった。ハロルドの方は、それでも納得がいかないようだけど俺だって納得できてない。

 でも、妥協は必要だよな。これで勘弁してください。

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