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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-4 ワガママを通してしまった。

嫁が可愛いと幸せだよね。

 モーダルにベネットを連れていくかどうか、診察室で医者を交えて話し合いをしてみた。ちなみに、出席者は俺と医者、カイネ、そしてベネットとレイナだ。

「奥方のご意見としてはどうなのかな?」

 そう問われるとためらいがちにベネットは目を伏せる。

「ついていきたいなって思いますけど。」

 邪魔にならないか心配ってところかな?

「それならついていけばいいんじゃないかね。

 初めての妊娠だから心配なのはわかるが、たまの外出くらいは問題ないよ。それに村の娘なんか出産直前まで働くものも多い。

 気にせず出かけるとよいと思うがね。」

 そういうとベネットは顔を上げ、ぱっと明るい表情になる。

「ただし、足場の悪いところは注意したまえ? 滑って転ぶと、流産の可能性が高くなる。カイネ君、君が付き添うのだよね?」

 そういうと、カイネは頷いた。

「まあ、森の魔女が側についているなら心配はいるまいよ。」

 医者の言葉に俺は、ほっと胸をなでおろす。

「じゃあ、私はついていかなくていいよね? 第一婦人が出席するなら、第二婦人の私は出番無いでしょ?」

 いや、それはどうなんだろう? 式典には夫人同伴が習わしだ。妊娠中のベネットを式典に参加させるのはまずい気がする。

「何よ、面倒ごとは何でも私に押し付ける気? さっきも言ってたけど、村娘なんかは出産当日まで働いてるんだよ?

 式典くらい平気平気。」

「私も頑張る!!」

 レイナの言葉にベネットがフンっと胸を張る。

 いや、頑張るとか頑張らないとかじゃなくて。

「式典を行う方も配慮はされると思います。事前にお伝えしておけば問題ないのでは?」

 カイネの冷静な意見に俺もどうにか納得ができた。確かに式典で流産したなんて、汚点もいいところだろう。

「それに、私も扱える呪文が増えました。足場を安定させることができますから、出歩くときは安心してください。」

 おぉ、そんな呪文あるんだ。これはカイネが居てくれれば安心だな。

「よし、これでゆっくりできるわね。」

 普段から、レイナはゆっくりしかしてない気もするんだよなぁ。相変わらず来客がないときはローブ姿で頭ぼさぼさだし。

 部屋にこもって、ずーっとジョシュとイチャイチャしかしてない気がする。

「申し訳ないですけど、俺のいない間の決済はよろしくお願いしますよ。第二婦人。」

 残ってもらうなら、そういう仕事はやってもらわないとな。

「うげぇ、まじで?

 まあ、いいか。どうせ来るのは、執事さんか秘書さんだけだもんね。気が抜ける分、楽だし。」

 その格好で、執務室に来るつもりか。使用人たちの印象はよろしくないんだけどなぁ。特にビシャバール縁故ではない使用人は俺に忠告という形で文句を言ってくるものが多い。

 元々レイナを知っている縁故の人間は慣れたものだけど、到底貴婦人には見えない第二婦人って言うのに拒絶感を示すのは自然な事なんだよなぁ。

 俺がトレーナーで執務してたらそれこそ大問題だ。示しがつかないとか、そういうことを言われるのが目に見えている。

 ただ、正直俺はともかくレイナに服装を改めろという気にもならないんだよな。TPOは弁えていて、あくまでも内向きの時にだらしないというだけだからだ。

 王子様がいた時は常に豪奢なドレスで身を包み、それこそ貴婦人然とした態度をとり続けていたわけだから心配がいらないと言えばいらない。

 むしろ、普段だらしない恰好でいてくれるからこそ、ベネットやカイネに矛先が向かわないという恩恵もある。それに、ゆるい空気になってくれる方が俺としてもやりやすいので陰口みたいな忠告は無視するに限るな。

「まあ、仕事をしっかりこなしてくれるなら特に文句はございませんよ。」

 そういうとレイナは笑った。

「話の分かる旦那様で助かるわ。精々、外でいちゃついてきなさいよ。私は、愛人とイチャイチャしてるから。」

 軽い冗談なんだけど、当事者以外だととんでもない発言に聞こえるよな。これでどんな噂話が流れるのか、怖くもあり、楽しみでもある。

 

 とりあえず、手紙をくれたライナさんに返信として、ベネットを連れていくことや当日にインベントリ経由でそちらに行くことを伝える。1週間くらいの猶予があるので、多分問題ないだろう。

 それに合わせてモーダル市議会あてに手紙を書いておく。こっちは男爵として正式な文面になるので、堅苦しい書き方になってしまう。

 とはいえ、言っている内容はほぼ一緒だ。

 もちろんインベントリで移動するなんて企業秘密なので言えないから、呪文を使ってそちらに向かうという形で伝えておく。これを事務所にあるインベントリに送れば、多分問題ないよな。

 カールにはあいつのインベントリに直接手紙を書いておく。生活ぶりはどうなっているだろうか?

 もし、不都合があれば事務所に移動先を変えておくけれども。とりあえず、返事待ちだな。

「ねえ、ヒロシ。無理言ってごめんね。」

 ベネットがベットで横になりながら、クッションで顔を隠している。何か謝るようなことがあっただろうか?

「怒ってる?」

 ん? どういうことだ?

「え?なんで?」

 俺が怒るようなことがあっただろうか?

「返事がなかったから。」

 あぁ。

「いや、何を謝られたのか分からなかったから。何かあったっけ?」

 そう聞くと、ベネットは口ごもる。

「何か式典があると、いつもレイナさんが同伴しているから今回はどうしても一緒に行きたくて……」

 あぁ、そういう事か。ちょっとした嫉妬心もあったのかなぁ。

「ついてきて欲しいなって思ってたのは俺も一緒だったし、ベネットの気持ちも分かるよ。第一婦人はベネットだしね。

 とりあえず、服を新調しようか?」

 式典に出るには、今のマタニティドレスは不釣り合いだ。かといって、今から仕立てるのは難しいよなぁ。

 だとすると、あちらの世界の既製品の中から適切なドレスを買う方がいいだろう。

「ほらこんなのとかどう?」

 そういいながら、俺はベネットのベットに腰かけ、ウィンドウをベネットに見せる。

「こんなのもあるんだね。でも、サイズ平気かなぁ。」

 そういいながら、ベネットは心配そうにお腹を撫でる。

「余裕を持たせたデザインみたいだし、平気じゃないかなぁ。もし、きつかったら仕立て直しさせるし。」

 そのためにお針子さんを雇ってるのだから、心配なんかいらないんだけどなぁ。

「でも、高いし。」

 これくらいなんてことがない値段なんだけど。

「式典に出るんだから、安いものを着る方がまずいでしょ?」

 そういうとベネットはじっと俺を見上げてきた。

「いいの?」

 そう聞かれるけど、何も問題なんかない。俺はベネットの髪を梳いたり、頬を撫でたりした。

「駄目だったら、こんなの見せたりしないでしょ? むしろ、他に欲しいものとかある?」

 考えてみると、無茶なおねだりをされたことってなかったなぁ。遠慮とかされてるんだろうか?

 いや、むしろ彼女自身に稼ぎがある。一応、グラスコー商会の販路に乗っかるという形だけども、商品を卸したり直接販売なんかもしていた。

 だから、いちいち俺に頼らなくても好きなものを買えるんだよなぁ。そこがなんというか、俺が不甲斐ないなぁと思ってしまう部分でもある。

 いや、考え方が古いのかもな。家計は全部夫が持つものなんて考え方自体が保守的なのかもしれない。

「おねだりしたら何でも買っちゃいそうだから怖いよ。お洋服だけね? もし、何か必要だったらお願いするから。」

 そんなことで怖がられてもなぁ。

 そりゃ、おねだりされるものによっては頑張らなきゃいけないものもあるだろうけど、今なら大半のものが叶えられるはずなんだよな。

 だから、素直に受け取ってもらえたらいいのに。

「そんな不満そうな顔しないで……

 じゃあ、一つおねだりしていい?」

 なんだろう。

 改めておねだりされるとなると緊張しちゃうな。

「腕枕してくれる?」

 そのくらいならいくらでもするけどもさ。おねだりって、そういう。

 ううむ。

 なんだか手玉に取られてる感じだな。

「駄目?」

 切なそうに見上げられて断れるわけないじゃないか。

「駄目じゃないよ。」

 それくらいはお安い御用なんだけどさ。

 俺が横になると、嬉しそうにベネットは俺の胸に顔をうずめてきた。

 腕枕って言うのかなこういうの。

「そういえば、フローラさんって知ってる?」

 名前を聞いてもベネットはピンと来てない様子だ。

「レイシャさんと一緒によくいた、色白のエルフさん。」

 そういうと思い当たった様子だ。

「彼女、この間の宴会の時に着てたんだけど、ベネットには世話になってるとか言ってたんだよね。」

 そういうと、ベネットはぎょっとした顔をした。

「あ、あのね。そういうお仕事って病気になることがあるじゃない?」

 それは知ってる。

「教会に治療をお願いするのもはばかられるだろうしね。その、えっと色々と防ぐための品物とか、そう言うのが必要なのも分かるよ。

 男の俺じゃ扱いにくいしね。」

 じっと探るような視線を送ってくる。

「あぁ、えっと、その品物についてどうこうって話じゃないんだ。えっと、彼女、例の小説の作者だったらしいんだよね。」

 例の小説じゃ伝わらないかな?

「え、そうなの?」

 あ、通じてるみたいだ。

「そっかぁ。じゃあ、その……

 それはいろいろ詳しく書かれちゃうよね。」

 ベネットから漏れた話なんかもあるんだろうなぁ。

「それで彼女こっちに住み始めたから、お話しするときには注意してねってことで。きっといろいろ探られるだろうしね。」

 ベネットとしても新しい住人を歓迎する気持ちと、色々と探られるのは困るというような感情がないまぜになり、ばつの悪そうな顔をしてしまう。

 心境としては俺も同じだ。

「しかし、彼女雪女らしいね。俺は、てっきりエルフだとばかり思ってたよ。」

 当然ベネットは知っていたのか、少し笑う。

「そうだね。雪女って珍しい種族だから。普通は人里に近づいてきたりしないんだよね。私も初めて診察した時には驚いちゃった。」

 もしかして、魔獣みたいに人界になじまない種族だったりするんだろうか?

 いや、でも普通に人間相手の商売をしてるしなぁ。

「そういえば、メイドさんから聞いたけれどトロールを手懐けたって本当?」

 手懐けたって、犬や猫じゃないんだから。

「単に契約しただけだよ。人を襲わなければ、食料を渡すって言う事でね。」

 他にも森の魔獣を間引いて欲しいとはお願いしていた。

「そうか。ヒロシはトロールの言葉も分かるんだね。それなら納得。

 普通は、言葉が通じないから倒すしかないし。」

 俺だから特別みたいな口ぶりだけど、呪文で言葉を理解することは可能なはずだけどなぁ。

「でも、そもそも話し合おうって言うのはヒロシらしくて好きだよ。」

 そうやって褒められると、とても嬉しい気分になる。

 いろいろと打算や事情があってのことだから胸を張って自慢はしにくいけど。

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