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次元間トレーダー転職記:クズは異世界に行ってもクズなのか?  作者: marseye
上手く領主をやれてるだろうか?
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13-3 蒸気船が戻ってくるのか。

式典とか運河の計画だとか、税制改革だとか。

 城に戻り、甲冑と下に身に着けていたボディーアーマーを脱ぐ。一応安全を図っていますよというアピールだ。

 甲冑自体はミスリル製の魔法の鎧で動きやすさを重視した作りにしてある。なので本当に大切な部分以外は覆わない構造になっていた。

 もちろん、魔法を使うためだ。

 逆に動作に気を使わなくていいベネットのための甲冑は割とがっつり体を覆う作りになっている。同じくミスリル製なので見た目ほどの重さはないし身軽な戦い方をするベネットのために工夫はしてあった。

 それに比べれば俺の甲冑は簡素なものだな。

 でも、鎧を着る着ないで見た目の印象は変わる。しっかりと防御に気を使っていますよというのが一目でわかるというのは重要だろう。

 ただ、本来の意味で防御力を担保するのは下のボディーアーマーだ。特に銃器を扱ったので、誤射の可能性が付きまとう。

 今回は全員にボディーアーマーを着用してもらい、軍用ヘルメットを着用してもらっていた。

 俺の場合は甲冑に合わせた兜をかぶった。ちょっと心もとないけれど見た目を重視したわけだ。

 使用人たちに甲冑を外してもらったわけだけど、本当ここら辺は儀式みたいなものでしかない。俺の能力があれば、一瞬でインベントリにしまうことは可能だしな。

 ただ、そこら辺のアピールは大切だから、大人しく脱がされておこう。

「どうだった、ヒロシ君? ジョシュは役に立った?」

 レイナがエントランスに顔を出して、俺に声をかけてくる。

「はい、とても助かりましたよ。少々慌てていた様子もありましたけど、慣れてきて後半は的確に支援してもらえました。」

 兜を脱ぎ、返答をする。

「そっか。それでトロールたちは無事倒せた?」

 俺は首を横に振る。当然レイナは怪訝な顔をするよな。

「彼らとは契約を結びました。食料と引き換えに、森の中の安全を守ってもらう手はずです。」

 使用人たちが一様にぎょっとした顔になる。

「あははは!! まじで? トロールと契約って、おとぎ話でしか聞いたことないよ。相変わらず面白いね、ヒロシ君。」

 少々常識外れだったかなぁ。

 いや、でも正直何でもかんでも殺して回っていたらこちらに被害が及ぶ可能性もある。妥協できる相手なら、妥協すべきだと思うんだよな。

「まあ、乗り回していた水晶鰐は砕いてきましたけどね。なので、現実的な脅威はちゃんと削ってますよ。」

 雪の中では、その短い手足では碌に動き回れていなかったが、トロールたちを乗せても力強く動ける水晶鰐は驚異的な存在だ。

 言ってみれば、それで行動範囲が増えたのが今回の問題点でもあった。その足を潰せたので今後の脅威ともなりにくいだろう。

「もちろん、水晶鰐の体は持ってきたんだよね?」

 レイナは水晶鰐の体に興味があるようだ。何かの触媒やマジックアイテムの材料になるんだろうか?

 マジックアイテムに流用可能な魔獣素材については、リストにまとめてあるけれど割と膨大な情報量になっている。すぐにあれに使えるこれに使えると分かるほど、俺の記憶力はよろしくない。

「一応持ってきてますよ。ただ、無償で提供はできないですけどね。」

 そういうとレイナは目を細める。

「ジョシュがお手伝いしてるんだから、当然私に権利あると思うんだけどなぁ。」

 自由意志は無視か?

 まあ、ジョシュなら間違いなくレイナのいう事に従うだろうから構わないんだけども。

「ジョシュ君がそれでいいって言うなら構いませんよ? ただ、確認はとってくださいね。」

 着ていた甲冑はすでに倉庫にしまわれてしまった。

 とりあえず、別の仕事に戻るか。

「あ、そうそう。蒸気船戻ってくるって連絡来てたけど、そっちには手紙来てる?」

 ん? そんな手紙来てたかな?

 インベントリを開き確認をする。どうやら戦闘中だったから気付かなかったようだ。

「来てますね。一応まだ読んでないから、確認しておきます。」

 手紙については送ってもらった際のアラーム設定もしてあるが、1日見ていなかった際には再度アラームが鳴るように設定してある。

 それでも見逃すことがあるから困り者だよなぁ。そういうヘマはどうすればなくせるのだろう。

 でも、それとなくみんなにフォローしてもらえるから助かると言えば助かる。

 

 通常の船舶では別大陸に渡って帰ってくるためには1年くらいの航海が必要だ。それが通常の1/4の3か月で行き来が出来た。これは驚くべき快挙だろう。

 手紙ではそれに伴い式典が行われることになっている。

 新式の船という事で連合側からも視察が訪れるのだとか。正直、大袈裟だなと感じてしまっている自分がいる。飛行機があればもっと簡単に行き来ができるはずだ。飛行船でも海峡や海流の影響を受けることなく航行が可能なので、蒸気船よりも速力が遅いのにもかかわらず似たような時間で行き来ができる。

 なので驚きというものがどうしても薄くなる。飛行船に初めて乗った時の方が感動したかなぁ。

 とはいえ、社会に与える影響は大きい。砂糖や麦、食料品関係は輸入しやすくなる。

 そのうえ、あちらの大陸では綿花が大量に栽培されている。おそらく布の類は値崩れを起こすよなぁ。

 何せ、紡績機械が俺の領地で稼働している。その上で、自動織機もテスト段階だ。

 原材料も大量に手に入り、製造コストも格段に下がる。タオルは多分ありふれた商品になるんだろうなぁ。

 しかし、ここまでくると国策競争が始まる。おそらく連合も輸出入で利潤を求めてくるだろう。グラスコー商会も、外に目を向けないといけなくなっていく。

 

 まずは、自前の船を用意するところからだろうか?

 

 間違いなく、トラクターや収穫機は売れるはずだ。それらを運ぶ輸送力というのがどうしたって必要になってくるだろう。

 むしろ、輸送部門は切り離してしまう方がいいかもしれない。モデルはラウゴール男爵の所の水運ギルドだ。

 うちの領内も運河を整備する必要があるかなぁ。

 川は、それなりに通っているし水利の関係上、村はちょうどいい位置に存在している。農作物の輸送だって、水運の方が楽だろう。

 まあ、それには年単位の時間がかかる。まずは計画からだなぁ。

 

 いや、思考が横に反れた。

 

 ともかく、蒸気船が処女航行を無事に終えたのは素晴らしい。ただ、それにグラスコーが乗ってるのがなんとも。

 別大陸を見て見たかったと言っていたけど、何か見つけただろうか?

 あいつの好奇心には毎度驚かされる。蒸気船は別大陸の他にもサンクフルールや連合の港町に寄っているはずだ。

 それらの話も聞かないとなぁ。

 しかし、この雪深い状況で、どうやってモーダルまで戻るか。一番安上がりなのはインベントリ経由だよな。それなら、ベネットを一緒に連れて行ってもいいかもしれない。

 以前住んでいた家は、カールが住んでいる。

 領地を貰った時に、カールにはインベントリを渡していて、イラストや絵本の原稿の受け渡しを行っている。

 買い取った代金や食事、道具なんかもそれを経由して渡していた。

 家自体は名目上は俺のものだけど、留守居と部屋の維持を条件にカールに貸していることになっている。寝室なんかは、そのままなはずだからそっちに泊まるのもありかなぁ。

 どうせなら、首都の方にも家を借りてしまうのもありかもしれない。その場合は、インベントリ持ちをそっちに常駐させないといけないわけだけども。

 そこまで考えて、ベネットを連れてどうしたいのかを考える。

 俺の近くにいて欲しいだけになっちゃうんだよな。そもそも、式典に出すなんてとんでもないし、何日か滞在するとはいえ、自由になる時間もそんなにないだろう。

 結局、こっちに残ってもらった方がいい気がする。こっちなら、医者もカイネもいるしな。

「どうしよう。」

 そうつぶやいた時に、ちょうど秘書が部屋の中に入ってきた。

「何かお悩みですか?」

 彼に直接関係ある話ではない。とはいえ、愚痴くらい聞いてもらってもいいかな。

「モーダルで行われる式典があって、それに出席しなくちゃいけないんだ。」

 そう言って、彼に手紙を渡す。

「処女航海が終わったのは確かにめでたい事ですね。これに閣下が参加なさらないわけにはならないのは分かります。」

 決済が滞ることを危惧している様子だなぁ。

「どうしようって言うのは、ベネットを連れていくべきか否かってところなんだよ。」

 そういうと秘書は眉をしかめた。

「身ごもっている状態で式典に連れ出すのはいささか……」

 俺は慌てて手を振る。

「しないしない。単に式典以外の時間、一緒に過ごしたいなって悩んでただけだから。」

 そういうと秘書はため息をついた。

「なんですか、惚気でしたか。」

 惚気、かなぁ。そうかもしれない。

「くだらない話を聞かせてごめん。それでこちらに来たという事は、何か報告することでも?」

 そういうと、秘書は俺に書類を手渡してくる。

「統計がまとまったものが数件ございましたのと、土木を処理していたものから提案がございました。治水事業と合わせまして、運河の整備を行いたいとのことでした。

 詳細については記載がございますので、ご確認のほどを。」

 言わなくても、提案が上がってくるか。何のかんの言って、優秀な人材がいるなぁ。

 ざっと目を通した限りでは、妥当な計画に見える。

 どうせなら、あのスタッフを使ってしまえばもっと予算を削れるな、なんていう誘惑に襲われるくらいで他に問題はないと思う。

「そういえば、春の徴税については告知は済んでます?」

 大分複雑な税制に切り替えた。いわゆる累進課税制の導入だ。

 おおむね平均値の人間に若干の増税、平均以下の人間には軽減や免除が行われる仕組みになる。

 ただし、そこを覆い隠すように高額所得者には大増税になることを目立たせるように指示してあった。人間って言うものは、他人の不幸が好きなものだ。

 特に自分より恵まれたものが苦しむなら、良心も傷まない。

 大義名分が揃えば、多少自分が苦しもうが相手がより苦しむような状況を選んでも構わないと思う人間も少なくない。そういう意味で、ひそかな増税をごまかすために、お金持ちには多少犠牲になってもらう。

 

 見た目ほどの増税じゃない。

 

 上手く抜け道を見つけ出せば、多少の苦しみで済むはずだ。

 とはいえ、多分金持ちには恨まれるよなぁ。

 ……言っても、万人に受け入れられる増税方法なんか存在しない。恨まれるのは覚悟の上だ。そもそも、領地を貰った時点で誰からも恨まれたくないなんて、わがままが過ぎる。

 ただ、妥協点は常に探っておかないといけない。どういう反応になるかなぁ。

「告知はすでに終了しております。冬なのにてんやわんやですよ。無理やり街の外に逃げようとしている者もおりましたが、追いますか?」

 気合入ってるなぁ。税金なんか絶対払いたくないって気持ちが伝わってくる。

「いや、無理に捕縛とかしなくていいです。

 ただ、逃げた人間については告知しておいてくださいね。」

 別に俺が手を下す必要なんかない。

 どういう手段で儲けていたのかは知らないが、そういう態度で今後も稼いでいけるのかは見ものだな。

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