12-27 依頼の完遂ご苦労様です。
実際にダンジョンがあったらマップ埋めって地味だけれど大切なお仕事ですよね。
ノインにどう答えたものかな。
余計なことをいうわけにもいかない。
「いや、ダンジョンって言葉の由来が気になっただけだよ。
ダンジョンについては、いろいろと調べようと思っていたから資料を買いあさってたんだけど、どこかに載ってたかなぁと思って。」
あるいは、それらしい記述があるかもな。いずれにせよ一度、時間を取ってじっくり調べておくべきか。
「ちなみに、遺跡の様子はどうだった?」
そういうと、ジョンは紙の束を俺の前に置いた。どうやらダンジョンの地図らしい。
「未探査の場所はいくつかあるけど、外枠は大体埋まったと思うぜ? 隠し通路が無きゃって但し書きはつくが。」
細かな注意書きがされて、罠なども記載されていた。
これらの罠がダンジョン内のクリーチャーを排除してくれる側面もあるので、むやみの解除はしにくい。なので、解除せずに放置して欲しいとは要望しておいた。
逆にこれらの情報があればスカベンジャーの安全は図りつつ、上手くすれば罠を絡めてクリーチャーを排除することも可能になる。
「あー、それと2つくらいゲートは壊しておいた。中間報告でもあげた、オーバーフローが起こってたからな。」
あぁ、そうそう。中間報告でも気になっていたオーバーフローだ。
「オーバーフローって言うのは、階層を越えて魔獣が行き来する現象の事って考えればいいか?」
そう尋ねると、ジョンは頷く。
「確か、それについてはユウの方が詳しいよな?」
ジョンが促すとユウが書物を開いた。
「これは、アルトリウス様やレイナ様にもお聞きしてまとめたものです。
階層の大きさによって異なりますが、そこに留めて置ける魔獣の数は決まっているらしいんですけど。
10アール、縦横30mくらいですけど、その大きさでおおよそ50体が限界みたいで……
そこでゲートから限界を超える魔獣が出てくると、一番弱い個体が上の階層に押し出されると考えられます。
実際にオーバーフローが起こっている現場というのは何度か遭遇していて、それが格上に不意打ちされる原因にもなってるんです。
場合によれば、遺跡の外に出てくるかも。」
具体的な数字が出てきたな。50体ねぇ。
「まあ、でも実際、それより少ない数でオーバーフローを起こしている場合もあるんじゃないかと俺は思ってるぜ?
実際測ったわけじゃねえけど、強い奴が多いとオーバーフロー起こしやすい気がする。逆に弱い奴しかいなければ、もっと多い数が1階層に詰め込まれているなんてこともあったしな。」
ジョンがそういうと横やりを入れられたユウは不機嫌そうな顔になる。
「強さについて絶対的な数値があるわけでもないし、測りようがないよ。
確かに、その階層に似つかわしくないような化け物がいるとオーバーフローが起こりやすい気はするけど。」
そうか、”鑑定”がないとそこら辺の強さを推し量るのもなかなか難しいか。体感じゃレベルなんて概念は分からないもんな。
なんとはなくだけど、オーバーフローの仕組みにレベルがかかわっている気はする。一度、ハルトを連れてきっちり数を計測してみるべきかなぁ。
一旦そこは置いておこう。
仕組みがどうなっているのかなんて、実際には重要なことじゃない。
「それで、オーバーフローが引き起こされるほど、数が多かったってことでいいんだよな?」
そう尋ねるとジョンたちは頷く。
「結構間引いたぜ? まさか、吸血鬼の群れがいるとは思ってなかったから骨が折れた。」
吸血鬼って、また厄介な相手だな。
「骨が折れたって、苦労したのは主に私だろう? もうちょっと労ってくれてもいいと思うんだけどね。」
そういえば、ベーゼックは司祭だ。アンデット相手に対抗手段を持つ数少ない人材だ。
「労うのはやぶさかじゃないけどよ。女吸血鬼に魅了されなければもっとよかったんだけどな。」
そう言われると、ベーゼックは言葉を詰まらせる。
「あいつらとよろしくやられてたら、まじで困ったぜ。ノインに殴られて正気に戻ってからは、きっちり仕事をしてくれたから文句はねえけど。」
ベーゼックの意志力はそれなりに高い。それでも魅了されたってことは事故みたいなもんだよな。
「とりあえず、オーバーフローについては当面心配ないと思います。あとは他のスカベンジャーが始末してくれるはずです。」
ノインが俺の聞きたかったかったことを先回りして応えてくれた。
「ちなみに魔王が居たりだとか、注意するような魔獣が居たりとかは?」
少し気になっていたので確認した。
「やばかったのは吸血鬼くらいだったなぁ。あとはスケイルドレイクの類が脅威かも。
でもあの巨体だと移動できる範囲が絞られるから危険度は低いってことで放置しておいた。」
そういいながら、ジョンはダンジョンの地図で、吸血鬼のいた場所やスケイルドレイクがいる場所を指し示す。
ちなみに、スケイルドレイクというのは恐竜のことだ。竜の亜種だとされているけど、ティラノサウルスやステゴサウルスみたいなのを指してスケイルドレイクと呼ぶのが一般化されていた。
でも、あんなでかいのが地下にいるのか。
びっくりだ。
しかし、今回の調査では魔王という存在は確認されなかったようだ。ひとまず安心していいのかなぁ。
「そうか。思った以上に苦労を掛けたみたいだな。とりあえず、城で労わせてくれよ。
改めて、依頼を受けてくれてありがとう。」
そういうとジョンは、にっと歯を見せて笑う。
「まあ、報酬は弾んでもらったし、ゲートぶっ壊して手に入れたものもたんまりあるし俺としては大満足だけどな。
とりあえず、風呂入ってくるわ。
あの深さのダンジョンだと汚れてしょうがねえよ。」
ジョンの言葉の通りみんな血みどろだし、汚れが目立つ。
「病気の元にもなるし、途中でお風呂に入れれば楽なんだけど……」
ユウは愚痴のようにこぼす。
まあ、女の子が何日もお風呂にも入れないのはつらいんだろうな。
「《水操作》で幾分汚れを落とせるから、うちはまだマシな方ですけどね。
あの深さの遺跡だと中継地点でもない限り、悲惨ですよ。」
ノインも若干うんざり気味だ。
「途中で、《水操作》で汚れ落としする商売でも始めたら儲かるかもね。」
ベーゼックは冗談のつもりなのか、軽い口調で面白いことを言う。前も、そんな話出てたよなぁ。
「ヒロシ、遺跡の中に中継地点を作るつもりか?」
ハンスが俺の考えを見透かしたようなことを言ってきた。
「無理かな?」
そういうとハンスは苦笑いを浮かべる。
「出来なくはないと思うがな。」
もちろん、俺の能力を鑑みての話だろう。
「面白いアイディアだとは思うけどな。でも、ヒロシの力があればこそだよな。普通の奴じゃ無理だと思うぜ?」
確かにな。
ジョンの言うとおり、俺の能力を抜きでそういう商売をするのは難しいか。
「どうせ、売店も設置するんだろう?
なら、そこそこ大きな場所じゃないとね。私としては、6階層目のここなんかがおすすめだよ。
ゲートからそれなりに離れているから、魔獣と遭遇する確率は低くなるし。
何であれば、呪文でそこに飛ぶサービスなんかもやってみたらどうだい?」
ベーゼックは面白くなってきたのか具体的な話を始めた。
「あの、そう言うのはお城で話せばいいと思う。お風呂入ろ?」
ユウはうんざりした調子ではしゃぐベーゼックをたしなめた。
「あぁ、そうだね。ごめんごめん、調子に乗ってたよ。」
そういいながら、ベーゼックはおしゃべりを中断した。
4人とも汚れを落としたい気持ちは一緒だったらしく、いそいそと砦にある風呂へと足を運ぶ。
全員が部屋を後にした後ハンスが口を開く。
「人選は大切じゃないか?」
ハンスの言葉に俺は、肩をすくめる。
「やるとは限らないけどね。あくまでも、アイディアの段階だし。」
そういうと、今度はハンスが肩をすくめた。
ハンスを伴い、ジョンたちを城に案内する。もう雪が積もってきたので自動車での移動もきつくなってきたなぁ。
とはいえベルラントは蛮地も近いので、比較的雪は少ない方だけど。
「なあ、ヒロシ。改めて思ったんだけど、お前の城、変じゃね?」
ジョンに言われて俺は困惑する。
「そうかな? まあ、確かに不格好かもしれないけど。」
大体半分くらいがコンテナを積み上げただけだ。壁は一応石積みに見えるように呪文で補強はしてあるものの、全体的に真四角な印象を受ける。
「あー、うん。不格好というのもあるんだけどさ。全然飾り気がないよな?」
飾り気か。
確かにレリーフみたいなものもなく、ただ石を積み上げましたって壁はそっけない感じもする。
「まだいじっているところだしな。とりあえずの急場しのぎなんだろう?」
ハンスが苦笑いを浮かべつつフォローしてくれた。
「一応、大工さんや石工さんに入って貰ってはいるけどね。今日の宴会に使うホールは、それの第1号だよ。」
お茶会には改装が間に合わなくて使えなかった。なので、今回が初めての使用になる。
「おぉ、いいねぇ。どうせなら、女性もたくさん呼んで欲しいなぁ。」
ベーゼックは鼻の下を伸ばす。
「一応、ベーゼックさんの要望には応えられると思いますよ。レイシャさん経由で依頼したので。」
ノインはユウと付き合ってるし、ジョンもセレンという恋人がいる。
本来であれば僧職のベーゼックのために女性を呼ぶ必要なんかはないんだろうけど、ベーゼックだもんな。司祭になったところで、性格は変わらないだろう。
それにハンスやロイドなんかも参加する。
妻帯者や恋人持ちとは限らないのだから、そこら辺の手配は事前に済ませてあった。移動が大変という事でインベントリ経由で来てもらったわけだけど。
帰りもそれでいいのかな?
とりあえず改めて要望を聞けばいいよな。
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