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12-26 魔王やべぇ。

自分では雑兵と言ってますが、ハンスは間違いなく手練れです。

じゃなければ、生き残れてません。

「どう説明したものかなぁ。

 あぁ、その前にジョンが来たら、こっちに寄ってもらうようにしておいた方がいいよな?

 それと何か飲むものを頼もう。ちょっと説明長くなりそうだしな。」

 ハンスは席を立ち、会議室の外に声をかけてくれた。

「いつものお茶で平気か?

 コーヒーとか紅茶もあるらしいが?」

「いや、いつもので。」

 本当は、缶コーヒーが恋しい。

 だけど、今は我慢しておこう。

「そうか。じゃあ、それで……」

 お茶が来るまでしばらくかかる様子なので、ハンスは椅子に腰かける。

「で、どこから話そうか。

 まず、そもそも範囲や数なんて言うのは把握してないな。

 で、強さが拮抗してないと追い出される。という事はその魔王から聞いた。

 それと、そもそも魔獣は魔王に従うとは言っても、人間を襲わなくなるわけじゃない。

 近づけば襲い掛かってくるから安全とまでは言えないな。」

 そこら辺は勘頼みなのかな。

 ある程度、範囲や必要な個体数が分かると楽なんだけども。

 それと強さによって追い出されるとかあるとすると、ランドワームを退けるにはそれなりの数と強さが必要なんだろうな。

 しかし、そんな魔王を馬で引きずるとか。どういう事なんだろうか?

 それにハンスが助けたというのも謎だ。

「馬で引かれてたって言うけど、ハンスはなんで助けたの?」

 そう聞くと、特に考えてなかったのか、ハンスは戸惑った顔をする。

「いや、助けてって言われたからな。顔見知りにもなっていたし。」

 それ以上の理由はなさそうだな。ハンスだもん。

「でも、魔王は魔獣を従えられるんだろう? なんで、馬で引きずられてるの?

 しかも、今も協力しているみたいな話だったし。」

 ハンスも悩むそぶりを見せる。

「多分、人を傷つけたくないんだろうな。本人は虚勢を張っていたし、本人に聞いても否定されるだろうけどな。

 一人で取引に来てたのか、もしくは少数の手勢だったのか。

 そこら辺は正直分からん。

 大して力は強くはないが、頑丈だとは言っていたから油断してたのかもなぁ。」

 油断ねぇ。

 しかし、魔王が取引って言うのもよく分からない。

「普通の魔王って言うのも取引したりするもの?」

 ハンスは首をかしげる。

「どうなんだろうな? 俺の会った魔王というのは二人しかいない。

 だから、これが普通だという事は全く言えないんだ。

 少なくとも俺が面倒を見た方の魔王は着る服すらまともに手に入れられなかったらしいし、水や食料みたいな生活に必要なものも手に入れられない様子だったな。だとするともう一人はどうしてたのかが気になるが。奪ったか、攫って作らせたのか。

 あっちの魔王とは話す余裕なんかなかったからなぁ。」

 そう言っていたら、飲み物が届けられた。

 二人でため息をつきながら、お茶を啜る。

「結局、よくわからないことだらけだな。

 まあ今も協力しているのが同じ魔王とも限らないし、あるいは魔王じゃなくて別の方法なのかもしれない。あんな仕打ちをされていて協力しているとも限らないしな。

 いや、でも案外気にしてなかった様子もあるんだよなぁ。」

 馬に引きずられてても、気にしないくらい頑丈ってことだろうか?

 いや、でもそれなら助けは呼ばないよなぁ。

 強い方の魔王というのも気になるけど、弱い方の魔王もどんな性格なのかよくわからなくて不気味だ。

 もっとも不気味というのは勝手な思い込みかもしれない。一度会って話してみれば印象も変わるんだろうなぁ。

「ちなみに強い方の魔王って言うのはどこであったの?」

「昔、俺はスカベンジャーの真似事していた時期があってな。ヨハンナもグループの一員だった。その時に、遺跡で遭遇したんだよ。」

 そうなのか。

 ハンスの強さからすれば、それなりに戦闘に携わる職業についていたのは想像できるけれど。スカベンジャーをやってたなら納得だな。

「もともとオークとゴブリンだろ?

 なかなか信用されないし、いろんなところを渡り歩いてたから自然とな。その魔王と出会ったのは帝国辺境の遺跡だった。

 割と人もにぎわっていたんだが……」

 ハンスは言葉を濁す。

「魔王が遺跡から出てきて薙ぎ払われた。比喩でも何でもなく文字通りな。」

 比喩じゃないって、どういう事だろう?

「本当に剣か何かを振るったら、周囲が斬れたとか?」

 俺の言葉にハンスは頷く。

「それがどういう仕組みかは分からない。

 ただ、少なくとも20m先の相手を剣を振るうことで両断できるくらいの威力はあった。

 しかも壁や鎧、盾や剣なんかもすっぱりと切れてたな。

 最初は魔法かとも思ったがどうやらそうじゃなかったらしい。ヨハンナが言うには、魔力を操っている様子はなかったそうだ。」

 俺は、思わず顔を歪めてしまった。

 半径20mの範囲を丸ごと切断できるってどんな能力だよ。

「まさか、その魔王、まだ生きてる?」

 ハンスは首を横に振る。

「いや、ちゃんと死んでる。最後は帝国一の剣士とやり合って決着がついたよ。

 まあ、その剣士が呼ばれるまではしっちゃかめっちゃかだったけどな。

 さっきの技は魔法じゃないといったが、別にちゃんとした魔法も使ってくるし死体を蘇らせて使役するし、もう本当に大変だった。

 魔獣も遺跡からあふれ出てくるし、それをよそに行かせないように討伐もしなくちゃいけない。

 でも、魔王が出てきたら手が付けられないから、遠くからマスケットやらクロスボウで注意を引きつつ逃げまわるのがやっとだったよ。

 矢弾を切る時は、例の技は使えなかったみたいだしな。

 まあ、予備動作も長いし精密な狙いをつけられるわけでもない。その上で、魔法の防具や盾なら何とか防げる。

 といっても、防げるからって足を止めてると魔法の業火で焼かれちまうから反撃はままならない。だから、正面切って戦わずに逃げ回って時間を稼いでいたわけだ。」

 話を聞く限り、本当にとんでもない戦闘力だな。ハンスの複雑な表情を見ると、結構な犠牲者が出たんだろうなぁ。

「最後の戦いにはハンスも参加したの?」

 少し興味がわいたので聞いてみた。

「あぁ、一応な。

 でも、出来るのはマスケットで注意を引いたり、ヨハンナが《耐火》で炎を防いだり《消魔》で呪文を打ち消してサポートしたりがせいぜいだったなぁ。

 あぁ、そういえばレイナ様もその戦いに参加されてたぞ?」

 突然、レイナの名前が出てきて俺は驚く。なんてフランドルの貴族が帝国の遺跡に?

 とりあえず、俺はそのままハンスに聞いてみる。

「帝国って言っても辺境だしな。距離的にはフランドル王国の方が近かった。

 その上で魔王が世界征服の宣言をしてたから、国の垣根を越えて優秀な人間が集められたってことらしいぞ?

 まあ、あちらは俺みたいな雑兵は気にも留められてないだろうけどな。」

 ハンスが雑兵だって言うなら、俺は一般通行人みたいなもんだな。

 しかし、魔王って言うのはそんな危険な存在なんだなぁ。勘弁してくれ。

 そんな化け物が、見つけたダンジョンにもいるかと思うと恐ろしくて仕方ない。最初に聞いた、弱い魔王と落差が激しすぎるだろう。

 あるいは、そういう実力があるけど、隠しているという事なのか?

 だとするなら、そっちの方が恐ろしいな。

 しかし、レイナが魔王との戦闘経験があるなんて話初めて聞いたなぁ。

 いや、まあ17レベルの術者なんだから当然強いわけだし、そういう経験があってもおかしくはないか。後でちゃんと話を聞いておこう。

 そういえば、何か引っかかることがあるな。

「あ! 忘れてた。」

 せっかく本を買っていたんじゃないか。魔王について調べようとも思っていたが、ダンジョンについてもいろいろと資料を集めていた。

 定型的な数字が出てくる資料ではないけれど、あるいはそれが手掛かりになる場合もある。なのに、全部ほったらかしだ。

「忘れてたって何をだ?」

 ハンスは不思議そうな顔をしている。

 まあ、突然そんなこと言われたら困るよな。

「いや、魔王とかダンジョンについての本を探してもらって、それを買い取ってはいたんだけど、ちゃんと調べてなかったなと思って。

 随分と積んだままほったらかしだったなぁって……」

 一応、一通りは目を通してはいた。なのに記憶はおぼろげだ。

「なるほどなぁ。

 まあ、いい機会だしもう一度目を通せばいいじゃないか。

 領主になったんだから、その土地のことを把握するのも仕事だろう?」

 ハンスの言葉に俺は頷く。

 しかし、結構な量なんだよな、これが。

「隊長、ルクスの連中が戻ってきました。」

 副長と呼ばれていた衛兵が扉を開き声をかけてきた。

「そうか、通してくれ。」

 ハンスの言葉に頷くと一旦副長は扉を閉め、しばらくしてからジョンたちを案内してきた。

「お、ヒロシじゃん。わざわざ砦まで来たのかよ。暇なのか?」

 ジョンはちょっと驚いた顔をした後、からかうように笑う。

「暇じゃないけどな。王子様が返ってくれたおかげで、なんとか時間が作れたんだ。

 それで、遺跡の方はどうなってる?」

 ジョンは額を掻く。

「前から思ってたんだけどさ。迷宮とか遺跡とか、ダンジョンとかいろいろあるじゃん?

 なんでそんなに色々呼び名があるんだよ?」

 あぁ、確かになぁ。

 改めて問われるとどうやって呼び分けてるのか。

「立ち話もなんだ。とりあえず、茶でも飲んで一旦落ち着こう。」

 ハンスがそう促すと、ジョンに続いてグループ全員が椅子に腰かける。副長が気を利かせたのか、全員に俺と同じものを運んできてくれた。

「えーっと……名称の話は逆に俺が聞きたいんだよなぁ……

 確か、ブラックロータスではダンジョンと言われていたよな?」

 そういうと、ジョンたちは頷く。

「でも、あそこ以外でダンジョンって言う奴もいるぜ? おっさんとかそうだろ?」

 ジョンはベーゼックに話を振る。

「詳しい分類をするなら、3つとも意味が違うんだよ。

 遺跡って言うのは、魔物が居ようが居まいが古くからの建物の分類として遺跡というんだ。

 で、迷宮は構造を指している。

 通路が複雑に分かれていて、罠を仕掛けていたり門番が置かれていたりすれば、そこが使われている建物でも迷宮というんだ。

 一番謎なのがダンジョンだよ。

 端的に言えば、ゲートがあるか無いかだ。

 面白いのは、どの国に行っても”ダンジョン”って言うところかな。」

 俺は眉を寄せる。

 最後のダンジョンというのは、どこに行ってもダンジョンと発音するらしいという事だ。

「何か引っかかったんですか?」

 ノインが俺の様子が気になったようだ。

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