12-25 色々とややこしい。
未来ガジェットが飼えるようになったぞ!!
なんでもありやな。
絹布を注文したら、”売買”のレベルが上がった。
いや、なかなか上がらないなとは思っていたけど、注文時にレベルアップされるとビビる。確か取引額でレベルアップしたはずだから、絹布の注文ではレベルアップしてないと思うんだが?
ベネットが何かを買ったのかな? それとも、タオルが届いたから、それが理由だろうか?
いや、今更タオルくらいの取引でレベルアップするとは思えないんだけども。とはいえ累積だとするなら、小さな取引でもそれが引き金になることもあるか。
とりあえず、内容を確認しよう。驚かされるのは一度や二度じゃない。
今回は、どんな内容だろうか?
”取引次元の追加”
ウィンドウに表示された文字列を見て、いまいちピンとこない。なんだ、取引次元の追加って?
”Y20XX-f”というのが追加された取引次元ってことらしいんだが。
何だろう?
とりあえず、取引タブに”Y20XX”という通常のタブの横に、その次元の名前が書かれたタブがある。西暦だろうか?
XXというのが下二桁だとするなら、そんな気はする。
怖いな。
タブを押す手が震える。
「あ、はい。」
開いたタブを見て、俺の予測があっていたことが分かる。どうやらSFな世界とつながったらしい。
とはいえ、見た感じは今までの取引画面とほぼ変わらない。並んでる物品はほぼ同じなんだけれど、ピックアップが特殊だった。
なんだサイバーアームって?
ドローンの類も、現代のものよりごつくなっている。聞いた事の無いような企業の製品も並んでいた。
ただ、どれも値段が高い。
普通の食品が元の世界の2倍から3倍くらいの値段がする。特に天然と書かれたものが高いのが興味深い。
いや、それはいいのか悪いのか。
正直、食料品とか売りたくないんだよなぁ。というか、見てると世界が壊れていくような気がしてきて怖い。
説明見ててもよくわかんないものあったしなぁ。
どうしよう。
そもそも、常温核融合炉とか説明しても意味が分からんぞ。妊娠中のベネットに聞かせたら、胎児に影響でそうで怖い。
しばらくは黙っておこうか。
とりあえず、タブも一時的に非表示にしておく。
しばらくぼーっと天井を眺めてしまった。
サイバーアームがあれば、ロイドの腕は戻せるかなぁ。そんなことを考えたりもするけれど、それだけのためにまたタブを開く気にはならなかった。
4万ダールほどで買えるから、値段的には十分手に入れられる範囲ではあったけれど。
むしろ、マジックアイテムでそういうものはないんだろうか? 《再生》なんて呪文もあるくらいだしなぁ。
……ただ、《再生》も万能じゃない。
失われた部位が必ず元通り使えるかと言われたらそうではなくて、確率で機能を取り戻せなくなることがある。
それに例え機能を失っていなくても《再生》した後、リハビリをしないと元通りというわけにもいかない。
ラウレーネも翼を失い、しばらく飛べなくなってしまっていた。リーダーなんかは、機能が取り戻せなかった例だ。
なので、万能かと言われるとそうでもない。
逆に未来世界の物品はどうなんだろうな? そういう融通の利かない部分というのはないんだろうか?
好奇心が頭をもたげる。
いやいや、せめて子供が生まれるまでは封印。そのあとみんなと相談してから、考えよう。
お茶でも飲んで頭を冷やすべきだ。
備え付けのティーポットにお湯を注いで、野草茶を入れる。
こういう時に、気分が落ち着くお茶って言うのは助かった。気分を切り替えよう。
落ち着いてきたので溜まっている書類に目を落とす。
住民からの陳情で、魔獣の退治を依頼してくるものが多い。大半は傭兵に任せるのだけれど、返り討ちにあっている事例も何件か報告されていた。
トロールの一団なんかは、数が多いうえに水晶鰐という魔獣に乗っているらしい。
一応、トロールについては知識はある。
再生能力を持ち、巨体を生かした戦闘を好む種族だ。
とりあえず、再生持ちの厄介な相手だなぁ。酸か炎がないととどめをさせない。水晶鰐の方は逆に酸や炎に強い耐性を持っている。割と厄介な組み合わせだ。
ハンスやトーラスに討伐を依頼するのが一番無難かなぁ。
いや、でも数が数だ。それなりに人を揃えたほうがいいか。
となると、俺も頭数に入るかなぁ。
ハルトは最近、戦いに飢えてるみたいだから言わなくても参加してきそう。となると、カイネも参加か。
俺いらなくない?
まあ、実際計画してからだな。
それで、ジョンに依頼したダンジョンについての中間報告だ。おおよそ15階層あり、ゲートも10個以上存在している。
大型のダンジョンだな。
定期的に駆除をしないとオーバーフローが発生するという注意事項が記載されていた。オーバーフローってなんだ?
いや、言葉自体は知っている。
だけど、ダンジョンの報告書に記載されているってことは、それに関わる現象ってことだよな?
語感からすると、ダンジョン内のクリーチャーに定数があり、それを超えると別階層に移動するという意味なんだろうか?
後でちょっとジョンに聞かないとな。それで、クリーチャーが外に出てこられても困る。
そういえば、そもそも砦を作るって言うのは、それに対する対策だったんだな。
俺が落ちたダンジョンで見つけた本には階層を跨げないという記述があって、外に出てこないものだとばかり思ってしまっていた。思い込みと事実がごちゃごちゃになってしまうな。
そもそもなんで砦が立っているのか、何も疑問に思ってなかったのは間抜けというかなんというか。
しかし、定期的にスカベンジャーが入らないと危険だというのは悪い知らせだなぁ。お金になることばかり考えていて、見落としていた。
いい事ばかりじゃないな。
しかし、そうなるとハンスを砦から離すのは問題か?
そこら辺も含めて話し合わないとなぁ。とりあえず、衛兵の配置なんかも考えておかないと。
一度、俺も遺跡に直接出向いて話を聞くべきだよな。現場のスカベンジャーの様子も確かめたい。
日を改めて遺跡の視察に赴いた。
遺跡を囲む砦は、コンテナと木材の組み合わせでできていた。元々コンテナを配置する予定だという事で任せていたけど、意外と効率的な配置になっている。
2段に積んだコンテナを左右において、間を木製の門で遮る。
で、1段のコンテナでぐるりと囲み、内と外に木材の壁を立てて高さを合わせていた。木材の板でできた壁は厚さ20cm位だけど、弓矢なら十分な厚みだろう。
なかなか機能的なつくりになっているんじゃないだろうか?
「これって大工さんのアイディア?」
そうハンスに尋ねると、頷いた。
「あぁ、コンテナを使うなら、それを壁にしようというのは最初に出た案だよ。下手な石積みよりも頑丈だしな。
それより中に入ろう。雪がきつい。」
ハンスは砦の中にある事務所まで案内してくれた。
砦の内部は、猥雑だ。皆が好き勝手に私物を持ち込んで、ワイワイガヤガヤ騒いでいる。
なかなか活気のある職場で結構。
「副長、会議室借りるぞ?」
そういいながら、猥雑な部屋を抜いけて、落ち着いた空間まで通された。
「しかし、砦までくる必要はなかったんじゃないか? 特にこれといった問題はないと思うんだがな。」
俺は肩をすくめて、ジョンたちが出してきた中間報告をハンスにも見せる。
「ほう、15階層もあるのか。これは思った以上に巨大だな。魔王でも住んでいるのか?」
俺は、思わず顔をしかめてしまった。
「勘弁してよ。
語感からだけだけど、魔王なんて恐ろしいものがいたんじゃおちおち眠れない。」
知能の高い魔獣や巨人という存在だけでも恐ろしい。ただの獣ですら手を焼くのに、戦術まで駆使されたら対抗できるかどうか。
ましてや、地獄から何かしらの力を与えられている存在だとするならやばいなんてもんじゃないだろう。
「まあ、住んでいると確定したわけじゃないけどな。俺も魔王に出会ったことがあるのは二人くらいだ。
一人は本当にやばかった。もう一人は……」
ハンスはため息を漏らす。
話ぶりからすると、もう一人の魔王というのは弱かったのかな?
「もう一人は大したことがなかったってこと?」
俺がそう問うと、ハンスは話してもいいのか少し悩むそぶりを見せた。
「いや、弱いというわけじゃないんだろうが、何度か助けたことがあってな。
全部蛮地での話で一度目は行き倒れで、二度目はドレイクの腹の中、三度目は馬で引きずられてるところだった。
三度目の時はミリーとテリーを預けられてな。」
どういう経緯だ。ミリーとテリーの出生に関わるのか?
「3度目の馬に引きずられてって言うのはどういうこと? ミリーとテリーを預けられるって……」
ハンスはどう説明したものかという顔をしている。
「その魔王を名乗る娘の証言だから、真実かどうかは不明なんだけどな。
トウモロコシ畑を作っているキャラバンがあるだろ?
テリーとミリーの両親はそこの奴隷だったらしい。で、勝手に子供を作ったってことで両親は鞭打ちされて死んでいて二人も狼のえさにされる寸前だった。
そこを助けたと言っていたな。
魔王はそのキャラバンに世話になっていたけど、さすがにその仕打ちには我慢できなかったんだとか。
で、二人を隠したところでキャラバンに捕まって馬に引きずられてたわけだ。」
状況がよく呑み込めない。そもそも、魔王を世話する理由ってなんだろう?
それにハンスは何故助けたんだ?
「魔王と仲良くしているといい事でもあるの?」
俺の質問にハンスは頷く。
「魔獣を従えることができるからな。
多分、あのキャラバンはまた魔王を世話してるんだと思うよ。じゃなければ、とっくにランドワームに飲まれてる。」
魔獣を従えることと、ランドワームとの関連性が見いだせない。
「えーっと、魔獣って言うのはある程度の個体数がいると、それ以上流入してこなくなったりする?」
そういう事であれば、魔獣を従えることとランドワームに襲われないことに一定の理由づけができる。
「あぁ、そうだな。なんだ、ヒロシは知っていたのか?」
いや、知らなかった。
単なる妄想でしかなかったわけだから、ちゃんと聞こう。
「単なる憶測。
だとすると、どのくらいの範囲にどれくらいいれば他の魔獣が来ないか分かれば、すごく蛮地は安全ってことにならない?」
ハンスは難しい顔をする。
これは結構複雑な内容なのかもな。
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