12-24 加護というか呪いだよな。
チートに頼り切りだと不安ですよね。
「近縁種を使って、魔獣の無害化ねぇ。
なかなか面白いアイディアだとは思うけれど、無害化された魔獣が生き残れるかがそもそも問題かもしれない。
人が飼いならすのであれば、上手く利用できるかもしれないけれどねぇ。」
先生は興味深いという様子を見せつつも、若干否定気味の意見のようだ。
お茶会が終わり、一晩経った後だから、残ったお客様は少ない。雪もあるので、チェーンを巻いたタイヤでもやや不安が出始めている。
なので、基本的にはお泊りして行ったお客様自体が少なかった。
先生は、その少ないうちの一人だ。
「やはり難しいでしょうか? できれば共存できるといいんですが……」
俺がそういうと先生は唸る。
「そもそも共存はできているんだよ。魔獣自体、そもそも人里を好まない。人がテリトリーに入るか、生息密度が上がりすぎたか。
まあ、後者の場合はどうしても衝突してしまうね。」
言われてみれば、確かに人がずかずかとテリトリーを犯しているケースの方が大半か。
かといって、どうしたところで開拓は進んでいく。テリトリーが重なったから人が出ていくという事はできないよなぁ。
「人が森を切り開くのは性だからね。致し方ないよ。
まあ、ある程度知能のある魔獣であれば、交渉の余地はあるんだろうけれどね。」
なるほどなぁ。
いずれにせよ、こちら側が一方的に無害化を図るのは無益と思った方がいいのかもな。
「そういえば、ヒロシ君は雪狼と普通の狼との交配を進めているんだったね。あれも、結局狼に近づいていけばいくほど、魔獣の特性を失う。
ある程度大人しくなったら、その個体を増やすようにしていくといいよ。
まあ、雑食性を持つくらいが目安かもね。」
先生には話していなかったけれど、どうやら噂は流れてたみたいだな。
「ありがとうございます。何かあれば、ご相談させてください。」
もちろん、と先生は了承してくれた。
「しかし君も立派になったね。最近は、顔を出してくれなくなって寂しいよ。」
そんなに顔を出してなかったかな?
ほんの数か月だと思うのだけれど。
「一応、領地が落ち着くまではどうしても手が離せません。ただ、そうはいっても、まだ数か月しかたっていませんよね?」
そうだったかなと先生は小首をかしげる。
「ヒロシ君にはいろいろと刺激を受けていてね。実際の月日の流れよりも、体験の方が記憶に残りやすい。
最近は、グラスコー君も訪ねてきてくれないし。
新しく弟子でも取るかなぁ。
そういえば、呪文の研究はどうだい? 自分で呪文を編み出せるようになると、それはそれで楽しいよ?」
それについては、一応勉強を進めている。
なかなか呪文を習得するまでには至らないものの、仕組みや構成についてアレンジするところまではこぎつけた。
いずれオリジナルの呪文も使えるようになるといいのだけれど。
特に俺の特殊能力について干渉できるようになると助かるんだけども。
「カナエちゃんも研究熱心だったよ。
そういえば古い本を漁っていたんだけれど、ヒロシ君の持っている能力に関係する内容かもしれない。
よければ読んでみるかい?」
そう言って、古い本を先生は差し出してくる。
「どうやら、能力について定義づけしているようでね。
神から与えられる来訪者特有の能力を加護、それ以外を才能と呼び分けているようだ。
でも、実際の根源は同じなのではないかという感想が書かれているね。いずれは、加護すらも自由自在に習得できたりするのかなぁ?
興味は尽きないよ。」
加護、かぁ。
呪いに近い気もする。
「ありがとうございます。暇をつくって読ませていただきます。」
先生から本を受け取ると、用事は済んだから帰るねと軽い調子で挨拶をされた。
「あ、お送りします。」
そういえば、先生の足は何だったんだろうか?
「いいよ。呪文を使ってきたからね。
帰りもそれを使うよ。」
1回100万円が飛ぶ呪文を気軽に使うなぁ。
まあ、それだけの稼ぎがあるという事だろうから、こちらが口を挟むことじゃないか。
「お気をつけて、お帰りください。
また、お会いするのを楽しみにしています。」
俺がそういうと先生はまたね、と言って呪文を発動した。
《瞬間移動》も触媒がなければ便利な呪文なんだけどなぁ。研究を進めれば、多少軽減できるんだろうか?
まあ、ともかく頑張ろう。
お茶会の後は特に変わったこともなく、王子様の滞在期間が終わった。
悩みの種だった王子様の行動も、こうしてみれば俺にとっても有意義なことだったのかもしれない。
予行演習としては、大変有用な教訓を得たと思う。
「名残惜しいが、僕も学ぶことが多かった。何かあったら、手紙を出そう。
それと、ユリアのことはくれぐれも頼む。」
何のかんの言って気にかけてるんだなぁ。
ユリアは、すでにビシャバール家の本宅に行っている。
正式な婚約については後日になるけれど、すでに陛下からの了承は受けている案件だ。年明けには、正式に発表されるだろう。
「おそらくは、なにも滞りはないと思われますが、承っておきます。くれぐれも間違いなどないように心を砕いておきます。」
そういうと王子様は頷いて車に乗った。
王家に卸している車だけになかなか豪華なつくりだ。
しかし、チェーンを巻いているとはいえ、雪道は平気だろうか?
「くれぐれもお気をつけて。」
変なものに襲われたりすると困るので、領内までは護衛をつけておいた。領外に出れば、そこの貴族に護衛をされる手はずになっているから心配はいらないとは思うけれど。
とりあえず、雪道に対応した乗り物は必要かなぁ。
自動車だとどうしても心配がある。
走り去っていく王子様の御座車を見送りながら、ぼんやりとアイディアを考える。
やはり無限軌道だよなぁ。実際、重機の類は雪の中でも問題なく稼働している。
とはいえ、重量が重くなると、馬力がどうしても不足してしまう。そこら辺の所をうまく何とかできないものか。
「ヒロシ様、そろそろ車も見えなくなりました。
どうぞ、中へ。」
使用人を取りまとめている執事に声をかけられ、考え事をしていた意識が現実に引き戻された。
「あー、ありがとう。
とりあえず、執務室に戻るので、何かあればそっちに。」
そういいながら、俺は城の中へと入る。
まあ、城って言っても大半がコンテナだ。いたるところに支柱がある。
見栄え悪いんだよなぁ。
とはいえ断熱材が仕込めるので、中は暖かい。むしろ、残された古い城の部分は外の寒さをダイレクトに伝えてくる。
快適さを取るか、見栄えを取るか。
いや、ちゃんとした建物にして、断熱材を入れるのが一番望ましいな。コンクリートを使って、しっかりした建物を作ろう。
見た目は、壁材を使えば、石造りに見せることは可能だ。
とりあえず、残された城を崩していく形で改装を進めるのがベストだろうな。居住空間はコンテナだから引っ越しとかしなくてもいいし。
ただ、冬の間は手を付けられないよなぁ。
早く春が来て欲しい。
執務室に戻り、いろいろ溜まっていた手紙に目を通していく。決算が終わったので俺に対する報酬も払い込むという内容の手紙があった。
インベントリを確認すれば、しっかり納められている。
とりあえず、紙幣で支払われているので取り出して半分を金庫に移しておく。他にも銀行に預けられている分もあるから、今年も無事黒字で終えられた。
使用人や役人、技師や衛兵にボーナスを支払って、それでも十分儲けが出ているのだから、本当に領民から税金を搾り取ろうとする必要はない。
いや、まだ領地を貰ったばかりだから継続的に支払う給与を考えれば安心はできないか。
ただ初期投資が結構多かったし、継続費用がそれよりも高くなるとは思えないけども。
問題は商会の共同経営者としての稼ぎが下振れした時が一番の問題だ。そういう意味で、未だに”売買”にはお世話になりっぱなしという体たらく。
何とか、貰った特殊能力に頼らなくて済む状況を作り出したい。
そうは言っても便利だからなぁ。
特に”収納”に対する依存度は高い。”売買”は、現状絹布や重機のレンタル、各種サービスで色々と便利使いさせてもらってはいるけれど、代替で賄える部分は大分増えてきたとは思う。
そもそも、絹布もなぁ。
大分値段も落ち着いてきた。ここらへんで大量購入しておくか。
まあ、それは置いておいて。
問題は”収納”だ。メールボックスとしても活用できるし、荷物の受け渡しも楽だし避難所としても活用できてしまう。
これが無くなるとなると、いろいろと不安だ。
電信を試していて、メールボックスの役割は代替のめどは立っている。荷物の受け渡しに関しては、物品限定の《瞬間移動》を構築しようと頑張っている。
避難所も《次元ポケット》という呪文で代替は可能かもしれない。
で、元からホールディングバッグがあるおかげで荷物を収納するというのはできていた。とはいえ時間を停止する機能は付加できなくもないけれど、結構な値段がする。
細々と、あれができないこれができないという不便があって、どうしても”収納”には頼ってしまうんだよなぁ。
他にも”鑑定”も取り上げられたら結構困る。人の能力を見抜けるなんて呪文を構築できないかと試行錯誤しているけど、正直作り出せる気がしない。
あと、レーダーみたいな使い方ができるというのも大きい。
こっちの方はそれらしい呪文はあるけれど、一長一短だし。何より、1日に準備できる呪文の数には限りがある。
いつでもどこでも、お気軽に使えるというのは、やはりチートだよな。
所詮チーター思考の俺がこれらをあきらめて満足できるとは思えないんだよなぁ。
やはり、この世界の神様は偉大だ。良きにつけ、悪しきにつけ。
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