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12-22 お茶会で仲直り。

社交と言えばお茶会ですよね。

 お茶会の風習は連合のご婦人たちの間で流行っている。

 フランドルでは一部の流行に敏感な人たちの間で徐々に流行りだしたわけだけど、それだけにルールというものがあやふやだ。

 今回の趣旨としてはバーナード子爵と王子様の仲を取り持つというのが主眼であるけれど、王族がお茶会にいると公にはできない。

 だから、あくまでもカジュアルな催しとして開くことになっている。

 でも、それだとどの程度くだけた服装でいいのかがあやふやなんだよなぁ。

 とりあえず、男性はノータイでジャケットもなしという形にさせてもらった。女性の方もコルセットなどは付けず、帽子や装飾品などもなくていいという形にさせてもらった。

 じゃないと、ベネットを出席させられない。

 彼女には、マタニティドレスの中でも、それなりに見栄えのするものを選んでもらっている。本当は俺もトレーナーにジーンズにしたかったけれど、さすがにくだけすぎかと考え直して、ジーンズに絹のシャツ、それにセーターという出で立ちだ。

 かなりラフな分類に入る服装だろう。

 ご招待したのは、バーナード子爵と婦人、それにバーナード子爵に近い貴族の奥様方を数名。

 ビシャバール家に連なる好奇心旺盛な奥様方。そして、バーナード子爵や俺みたいに最近になって貴族になった家から数名のご婦人を呼ぶ形となっている。

 当然、下準備にはレイナに骨を折ってもらったし俺も俺で会場の準備やら催し物の準備もした。

 目玉は、先生を呼んで講義をしてもらう特別授業だ。授業内容は、エルフの文化についてというそれなりに女性が興味を持ちそうな内容でお願いしてある。

 他にもトーラスに歌を歌ってもらい、テリーやミリーが演奏をするという余興も用意した。

「なあ、ヒロシ。

 俺は、表に出ない方がいいと思うんだが?」

 着慣れないスラックスとジャケットを着させられ、ハンスが戸惑い気味に聞いてくる。ロイドやハルトも同じ服装をさせていた。

 いわゆる執事ルックという奴だ。

 もちろん、トーラスとテリーも同じ服装にしてある。

 ジョンやノインなんかも呼んで、給仕させてやろうかなと画策したが、ダンジョン探索で忙しいと言われて断られてしまった。

 口惜しい。

「いや、今回はオーサワ家主催の初めての催事だからね。

 屋台骨たるハンスにはぜひ給仕を頑張ってもらわないと。

 それに3時間くらいで終わるカジュアルなものだから、そんなに大変じゃないと思うよ?」

 これが晩餐会やら舞踏会なら夜通しという事になる。

 とてもじゃないけれど、現状ではそこまでの余裕はないだろう。金銭はともかく、経験も人員も足らない。

 なので、お茶会というのはフォーマルではないし、初めて行う催事としては妥当なものだとレイナからは言われていた。

 ビシャバール家から派遣されている使用人には経験者も含まれているから、ハンスたちには一通りの流れや動作なんかは叩き込まれている。一番筋の悪いハルトでも、それなりの動きが出来ていたし、ハンスはむしろ優等生扱いだ。

 何も恥じることはない。

「俺だけ呼ばれなかったら、恨むぞヒロシ。」

 まあ、オークだからなぁ。

 でも少なくともビシャバール家ゆかりの好奇心旺盛なご婦人なら、邪険に扱うこともないだろう。

 多分。

 

 ザッハトルテやショートケーキ、パウンドケーキやマドレーヌ、フィナンシェというのはどれもこれも近代に近い時代に生まれたお菓子だ。

 なので、本来ならまだ早いという気もするが、クッキーとかばかりでは彩が乏しい。ここはあえてそこに目を瞑り、ハロルドやチョコレートの製法を教えた菓子職人に依頼し、それらの先取りしたお菓子を用意させてもらった。

 お茶も、それなりに種類を用意し、コーヒーやジュースのも用意しておく。

 当然、中には緑茶なんてものもあった。

 どうせなら、玄米茶とかもないだろうか?

 甘いものに飽きた際には、サンドイッチなんかの軽食もある。完璧とまではいわないまでも、飽きた気分を紛らわせるくらいはできるくらいにはできたと思う。

 ミリーなんかは、持ち前の人当たりの良さでご婦人方の話し相手としては最適らしい。即興でバイオリンを弾いたり、狼たちに曲芸をやらせていたりもした。

 先生の授業も中々に盛り上がっている。

 かなり踏み込んでいて、エルフの恋愛観やらロマンスについての内容は皆興味津々な様子だ。

 そんな中、部屋の隅で俺は、バーナード子爵と席を向かいに顔を突き合わせていた。なんか、ここだけ別空間みたいだ。

 隣にはベネットが座って、同じようにバーナード子爵のご婦人が腰を掛けている。

 初めて会ったが、バーナード子爵は線の細い感じの美形だ。眼鏡をかけて、時折それをいじる姿は様になっている。

 うん、変な嫉妬を覚えるな。

「私への糾弾会かと思っていたが、そうではないようだね。」

 バーナード子爵は薄く笑う。

「まさかそんな。

 こちらとしては、子爵とレイオット様とは何ら確執はありませんという事を内外に示したかっただけですよ。」

 そういうと子爵はため息をつく。

「事実、この催しがあるというだけでも助かっている。海軍構想というもの自体が、これほど反感を買うとは思わなかった。」

 あぁ、やはり色々と圧力くわえられたんだろうなぁ。

「ファビウス翁の話だと、バウモント伯は賛成のお立場だとは聞いているんですが?」

 王子様の後見役として来ているファビウス翁は今も王子様の後ろについて、ご婦人と無用な接触がないようににらみを利かせていた。

「首魁が賛成しているからと言って、その子飼いが全員賛成かというと、そうではない。

 それはヒロシ卿もよくわかっているでは?」

 そういいながら、子爵は少し冷めたお茶を啜る。

 組織というのはそういうものだ。個々人、それぞれに考え方の違いがあり常に言い争いながらも集団として行動している。上がこうだと決めても、下がそれに全面的に賛同しているとは限らないだろう。

 それについては俺も承知している。

「ちなみに私は賛成の立場を取らせていただいていますよ。

 貿易こそが今後の発展には重要だと考えています。商人出身ですしね。」

 じっとバーナード卿は俺を見つめる。何かおかしなことでも言っただろうか?

「いや、失礼。大変な愛妻家と聞いていたからね。私は恨まれているとばかり思っていたよ。」

 あぁ、なるほど。

「さすがに過去のことをいつまでも引きずって、恨みだけで判断してたらやっていけません。それに、純軍事的に考えればバーナード卿のご判断に間違いはなかったと思っていますよ。」

 俺は、少し嫌味でも言ってやろうかなと思った。

「バーナード卿のように線の細い方では、忠誠を捧げ剣に生きた屈強な騎士には敵わないでしょう。

 強者を見抜くご慧眼には感服します。そういったうえで、うちのベネットは卿のお眼鏡にかなったというのは誇らしい。

 事実、私の妻は敗れませんでしたしね。」

 そういうと、ベネットに脇をつねられた。

「確かに、私では彼に勝てなかった。

 彼に勝つには、それなりの強者でなければならなかったというのもある。

 私が断っても敗れても、さらに兵の損害は増しただろう。そう考えると、一騎打ちを拒むわけにもいかなかった。

 それに、あの男はまさしく騎士だ。たとえ傭兵だとて、女性を切るのはためらわれたのではないかな?」

 つまり、ベネットを選んだのは女性であるというのも理由の一つか。感情を横に置いておけば冷静な判断だ。

「結果は、私の思った以上のものだったがね。まさかこの世にあそこまで強い女性がいるとは思ってなかった。

 そういう意味では、私の目は節穴だな。」

 ベネットはどう反応していいのか分からずに硬直してしまっている。

「夫の前で妻を口説くのはやめていただけませんか? バーナード卿の目が節穴でしたら、私はそもそも穴が開いておりません。

 謙遜も過ぎると嫌味ですよ。」

 そういうと、バーナード卿は少し戸惑う。

「いや、そんなつもりは……」

「申し訳ありません。私の夫は冗談を介さないもので。

 こういう場合、笑っておくべきところだと心得てないのです。」

 バーナード卿のご婦人が軽く笑いながら、口を挟み夫の言葉を遮る。

「これは、こちらも配慮が足りませんでした。

 卿には単にわだかまりなどないとお伝えしたかったんですがね。」

 俺も軽く笑った後、お茶を啜る。

「悪かったな。冗談も通じぬつまらない男で。」

 むすっとして、バーナード卿は背もたれに体を預ける。

「そういうところです。

 あなたは戦場では常に冷静でいるようですが、普段はまるで子供。

 そんなだから、レイオット様からも見限られるのですよ。」

 なるほど、このご夫妻はこういう関係なんだな。ベネットもほほえましい気持ちになったのか、薄く笑っていた。

「見限られていたわけではないと、今回の件で分かっただろう?

 まあ、これから海軍を養うとなるとまた話は変わってくるかもしれないがな。」

 何か懸案事項があるんだろうか?

 少なくとも、今回の件で海軍設立に支障はなくなったとは思うが。

「何か気がかりなことでもございますか?」

 そう尋ねると、少しバーナード卿は悩むそぶりを見せた。

「いや、私に話が下りてきているという事を考えれば、話しても問題ないか。

 いずれ近いうちに我が国は連合と同盟を結ぶ。

 そうなれば、海軍を養う必要があるのかという疑問が生じるのは必然だろう。」

 なるほど、初耳だけれど、順当な外交方針だ。

 それと海軍の養成が相反しているように見えるのも頷ける部分だな。

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