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12-21 職場復帰。

見届けるのも、領主のお仕事。

 お茶会が催されるまでお休みと言っていたけれど、1週間ほどで復帰してしまった。

 リフレッシュもできたし、ベネットと触れ合えたし久しぶりにカールとも話ができた。

 遺跡の方にも顔を出して、ハンスやジョンとも話をしてみて、徐々にやる気を取り戻したというのもある。

 何より、王子様が大人しくなったらしくレイナが暇だと言い出したので、それなら俺が執務に戻ろうという話になったわけだけども。

 そうすると、何故か王子様が執務室にいる俺を見にくるんだよな。

 そんなに俺が気になるんだろうか?

「なんだ、その顔は。

 せっかく元気になったって言うから見舞いに来たのに。」

 見舞いって、別に病気になったわけではないんだけどな。

 とりあえず、一週間後にお茶会がある。それについても話し合わなくちゃいけないから、都合がいいと言えばいいのか。

「単に疲れたから休んでいただけですよ。気を使っていただいてありがとうございます。

 そういえば、例の汚職をした彼ですが、思っていた通りむち打ちと追放で決まったようですね。

 まあ、追放と言っても3年間、この街に入れないだけですから何とかなると思いますけど。」

 そういうと、王子様は微妙な顔をする。

「あれが有能だという話がどうにも分からない。賄賂をせびる様な役人がどう有能だって言うんだ。」

 説明したと思うんだけどなぁ。

「改めて言いますけど、職務には忠実でしたよ。それに優先順位の部分で、心づけを受け取っていただけです。

 他領では、罪に問われない程度の微罪ですよ。」

 それを改めて、罪としたのは俺なわけだけども。

「賄賂は賄賂だろ?」

 確かに、それはその通りだ。

「なぜ賄賂が横行するのか、お考えになったことは?」

 俺の問いかけに王子様は改めて考える。

「役人が金に汚いんじゃないのか?」

 まあ、そういう部分が無いわけじゃない。

「そういう側面があるのは否めません。何せ給料が安いですからね。」

 うちの領内では、他領とさほど変わらない給料を支払っている。

 なので、驚くほど安い。

 高い給料を支払ったからと言って有能な人物が集まるとは限らないし、むしろ変な評判が建てられる可能性もあるからだ。

「ただ、もう一つ理由はあります。行政能力の欠如ですよ。」

 こういうと難しく聞こえるな。もっとかみ砕いた方がいい。

「ぶっちゃけ役人の数が足らなくて、事務仕事が追い付いていません。だから処理を優先して欲しいという要望が生まれ、それに応える人間が出てくる。

 言ってみれば、需要と供給がかみ合った結果というわけです。」

 じゃあ、数を増やせばいいのにという顔をされる。

 それができるなら苦労はしないんだよなぁ。

「まずもって、行政のやり方というのは領地ごとで変わってきます。

 というか日本でもそうです。地方によってやり方は違うし、市区町村レベルの業務と省庁レベルの仕事では全く違う。

 だから、数を確保するといっても即座に揃えるのは難しいんですよ。

 じっくり育てないといけない。」

 本来は前の領主が残した役人をそのまま使うのが望ましいわけだけど、残念ながらそういうわけにもいかなかった。

 敵対心を持たれていたというのもあるけれど、俺のやろうとしていることとそぐわない。なので最低限の人数だけ雇い、あとは全員刷新してしまった。

 もちろん刷新したと言っても、乱暴なことはしていない。それなりの補償を行ったうえで、再就職先も斡旋し退職願ったわけだ。

 結構出費している。

「だから罪として定めましたけど、しばらくは様子を見るつもりでした。

 いつまでもなくならないのだとしたら、それは俺のやり方に問題があったという事です。

 見直しをしないといけない。

 ただ、眼前に証拠を突き付けられれば裁かざるを得ません。」

 まあ、これを何度も言っていると恨みがましいと思われるから切り上げよう。

「で、彼を優秀だと判断したのは、他に波及させなかったからですよ。

 よく先生に叱られた子が、”僕だけじゃないもん、他の子もやってるもん。”

 って、あれをやらなかった。」

 王子様は俺の言いざまに噴き出す。緊張を緩めるためにやったから笑ってもらえて幸いだ。

「大人でも、それをやる人間は多いですが、現実的には全員を裁くわけにはいきません。

 それこそ全員を罰せざるを得なくなる。

 もちろん、それが現実的じゃないのはお分かりになりますよね?

 ただでさえ、人手不足なのに雇ったばかりの役人を大量解雇したら統治はままなりません。

 じゃあ、今回は放免となるわけですよ。」

 もしくは訴えを退け、独断で裁くしかなくなる。

 どっちにしろ俺は統治者としては失格になっただろう。

 いや、もちろん元から優れた統治者であるはずがないし、それはそれで仕方なかったわけだけども。

 確実に権威は傷つくよな。

「つまり、あいつが罪を認めたことで他を不問にできたという事か。

 ……納得はできないが、理解はした。」

 憤懣やるかたないといった様子だけど、理解してもらえただけましだろう。

「まあ、堅苦しい話は、ここらへんで終わりましょう。来週には、バーナード子爵がいらっしゃいます。

 レイオット様は、気に留めてないというスタンスで接していただければ幸いです。」

 王子様は首をかしげる。

「気に留めてないって、何の話だ。」

 分かってないのは、織り込み済みだ。

 というか、そのままでいい。この状態でお茶会に出席してもらったという事実が重要になる。

「お気になさらず。そのままで結構ですよ。」

 わだかまりなどないという事さえアピールできれば十分だ。

 

 刑罰が執行される場面に必ず立ち会わなければならないわけじゃない。

 それなりに重罪であったり特別な事情がある刑罰については執行を伸ばしてでも立ち合いが必要だけれど、むち打ち程度なら本来は刑吏に任せておしまいだ。

 だけど、今回のむち打ちには立ち会った。

 事情が事情だし、俺にも責任がある。

 引き出された彼は、おどおどとしていて、とても罪を犯したようには見えない。

 事前に刑吏には強く打たないで欲しいとは伝えてはいるけれど、刑場の雰囲気によっては緩めることが許されない場合もある。

 それもあって、俺も立ち会ったわけだ。

 とはいえ、誰も注目していない。単に汚職で捕まった役人の刑罰だ。口汚く罵ったり、囃し立てる雰囲気はなかった。

 

 刑吏が鞭を振るう。

 バチンっと派手な音が鳴る。聞いているこっちまで肝が冷える。

 とはいえ、ああいう派手な音がした方が実は軽いらしい。

 回数は10回、服を脱がされた背中に鞭が打ち付けられる。肌がみるみる真っ赤に晴れ上がり、ミミズ腫れが縦横についた。

 

 痛そうだ。

 

 打ち付けられるたびに悲鳴を上げる。

 なるべく顔をしかめないように、我慢していたがやっぱり耐えられそうにないなぁ。出来ればこういう刑罰は無くしていきたい。

 とりあえず、痛み止めと軟膏を処方してもらえるようにお願いしておくか。

 この後は馬車に乗せられ領外へと追いやられる。普通はそこでおしまいだ。

 だけど連行するハンスには、他領の町まで送り届けてもらえるようにお願いをしておいた。そこの商人に事務として雇ってもらえるように手配してある。

 資格もしっかり持っているし、そっちでも十分やっていけるだろう。

 3年は入ってこれないけれど、それが過ぎればこっちにも戻ってこられる。

 もちろん、これらの措置に俺は関わっていないことにしていた。じゃないと意味わからなくなるからな。

 あくまでも医者やハンスからの恩情という事になっている。

 これから、こういうことが繰り返されるのかと思う時が滅入るなぁ。出来れば、こういうのは他人に丸投げしたい。

 まあ、そういうわけにはいかないんだよなぁ。

 

 久しく街を視察してなかったので、少し見て回ることになった。広さはそれなりにあるけれど大半が畑で、今は雪に埋もれた平地にしか見えない。

 ハルトに改めて水脈を見てもらい、数か所で汲みあげを行う計画になっている。各所で掘り返しの工事が進められ、水道を敷くために配管が埋設されている。

 もちろん、埋めているのはうちの商会のウーズコートの鋼管だ。

 モーダルの方でも、うちの製品が大半を占めるようになっている。3年間、特に錆びることもなく水質に影響も与えていない。

 そこからすれば、製品としては大成功だろう。

 と言っても、水道を備えている領都や市というのが意外に少ない。管理が面倒だという事もあるし、ノウハウが蓄積されていないというのも二の足を踏む原因なんだろうな。

 ちなみに王都で水道事業の入札があり、それにはもちろん応札していた。

 付け届けなんかは一切してないから他の業者にとられるかもしれないけれど、それはそれで構わない。それなら、その業者にこの鋼管を売りこめばいいしな。


 しかし、衛兵に囲まれて歩くのはなんだか萎える。


 俺を狙ってくる輩が出てくることもあるかもしれないから、仕方がないけれど。むさいおっさんたちに囲まれて行動するのはちょっとなぁ。

 とはいえ、物見遊山で来ているわけじゃない。あくまでも、お仕事なのだから割り切ろう。

 そう思いながら街に視線を向ける。

 以前は、パン屋とか鍛冶屋とか生活に密着した店しかなかったけれど、最近は仕立て屋だとか雑貨屋のようなものも増えてきたらしい。

 食堂も一軒だけだったのが、居酒屋のような店が増えて賑わっていた。

 ただ、そのせいか食堂が寂しいことになっているのがなんとも。

「どうしてあんなにさびれてるんだろうか?」

 そう尋ねると、衛兵が苦笑いを浮かべる。

「単純にまずいからですよ。

 くったくたに煮込んだシチューしか出してこなかったんだから、モーダル風の料理をたくさん揃えている店にはかないませんよ。」

 ストレートだなぁ。

 しかし周りの店がいろいろな料理を出せるという事は、食材に事欠いているという事じゃないだろう。

 どうせなら、ちゃんと料理を出せばいいのになぁ。

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