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12-20 久しぶりのお休み。

何もない所から大分整ってきたところです。

 久しぶりによく寝た。

 いつの間に潜り込んできたのかベネットが俺の隣で寝ているけれど、押しつぶしちゃいそうで怖い。

 今何時くらいなんだろう?

 パソコンを起動して、時間を確認する。

 寝っ転がったまま、デスクトップPCをいじれるってだけでもすごいよなぁ。

 ……お昼はとっくに過ぎている。

 そう意識すると、盛大にお腹が鳴った。

 その音に気付かれたのか、うっすらとベネットが目を開ける。

「ヒロシ、起きたの?」

 彼女の声に俺は頷く。

「ずーっと寝てるんだもん。寂しくなっちゃった。」

 ぎゅっと抱き着かれると、再びお腹が鳴る。楽しそうにベネットが笑う。

「お昼にサンドイッチを貰ってきたから食べるよね?」

 そういいながら彼女は俺の口元にサンドイッチを差し出す。

「ありがとう。」

 そういいながら、俺はサンドイッチを受け取る。

「えー、あーんってしたかったのに。」

 流石にそれは恥ずかしすぎる。逆の立場だったら、喜んでやるんだけどな。

「さすがにそこまでくたくたじゃないよ。でも、ごめんねこんな時間まで寝ちゃって。」

 そこまで疲れてたんだろうか?

 いや、まあ夢も見ないほどぐっすり寝た気もするし、相当疲れてたんだろうな。なんだか、まだ眠い気もするし。

「飲み物はコーヒーでいい?」

 眠そうな俺の様子を察したのか、ベネットは俺の愛飲しているコーヒーを持ってきてくれる。

 そういえば、最近避けてたんだよな。

 これを飲むとキスできない。

「ちょっとくらい平気だと思うけどなぁ。」

 コーヒーを飲んだ時はキスしないのは気づいてたんだなぁ。わざわざ話してたわけじゃないんだけど。

「大事な時期だからね。

 なるべく、出来る限りのことはしたいし。」

 そういうとベネットは笑う。

「そんなに頑張らなくても平気だよ。お医者様もいるし、カイネちゃんもいるんだから。

 ほら、見てよ。

 みんなが安産祈願のお守りを持ってくるものだから、祭壇みたいになっちゃってるよ?」

 そういえば、何かとおみやげというと安産のお守りが持ってこられる。

 これだけ集まると確かに祭壇だな。

「生まれてくる子は、きっといろんな祝福を受けて俺よりも凄い力を貰えちゃうかもね。」

 そういうとベネットはうーんと唸る。

「ヒロシより凄いことができるようになったら、どうなっちゃうんだろうね。

 私は何もなくても、平和に過ごせるならそれでいい気はするんだけど。」

 確かにな。

 無駄にすごい力を貰えても、それに伴う責任や災厄が降りかかってくるなら、それは幸せだろうか?

 普通に過ごして、楽しい思い出を作れる方がよほど幸せな気もする。

「それならどうか平穏無事に生まれてきますようにとだけ、祈ろうかな。」

 そうだね、とベネットも頷いた。

 

 洗濯や掃除なんかは、メイドさんがやってくれるのでほとんどお任せだ。

 ただ、そのためにはいったん部屋を出ておかないといけないし、洗い物はランドリーバスケットに納めておかないと迷惑がかかる。それくらいは別に大した手間ではないけれど。

 むしろ手持無沙汰だ。

「ねえ、ヒロシ、たまには外に出ない? ずっと部屋の中で過ごしてたんでしょ?」

 そういうと、ベネットは俺の手を引く。

「ベネットはどうしてたの?」

 忙しくて、昼間ベネットがどう過ごしているのか知らなかった。

 運動したり書類を整理したり、手紙を書いている姿は目にしているけど、部屋の外で過ごしている姿は見てなかった。

「ミリーちゃんの所に行って羊を撫でたりマーナとじゃれたり、グラネが甘えてくるのを撫でたりかなぁ。

 でもロイドさんに乗られるのが好きらしくて、グラネはすっかり私の従者じゃなくなっちゃった感じ。」

 少しむすっとした顔をする。

 出産が終わるまでは仕方ないとはいえ、愛馬を取られた気分になるものなのかもな。

 俺は、ベネットの腰のあたりに手を回して一緒に屋外に出る。

 雪がすっかり積もってしまっている。

 道は凍結しないようにしっかりと雪かきされているけれど、少し不安だな。

 でも、ベネットは気にすることなく踏み出していってしまう。

「大丈夫? 転んだりしたら危ないよ?」

 そういうと、ベネットは心配しすぎだと笑う。

「これくらいで転んだりしないよ。

 ちゃんと舗装もされているし、ぬかるんでるところもないし。

 一応これもあるでしょう?」

 そういえば、《軟着陸》の指輪があったか。俺もいつでも《軟着陸》が使えるように注意しておこう。

 注意しながら、おっかなびっくり俺はベネットについて歩く。

 城の敷地はそれなりに広い。

 牧場に小さい畑、飛行場用に設けた広場、ちょっとした修理ができるように設けた鍛冶場、印刷所や紡績工場、道具や備蓄品を納める倉庫。

 使用人用の宿舎や来客者についてきた従者のために設けられた宿舎。それらに場所を割いていても、なお広々とした空間がある。

 正直、持て余し気味だ。

 なんでも詰め込みたがるのはよろしくないだろうけど、もう少し施設を増やしたい。

 今も一応改装が続いていて、大工さんたちが行き来している。

「なんだかおもしろいね。

 毎日何か建物が出来ている感じがするし、街もちょっとずつ発展しているよ?

 ミリーちゃんが新しく開いたお店の話をしてくれるし、メイドさんたちも面白い話を聞かせてくれるし。

 とっても楽しい。」

 時折行きかうメイドさんや使用人からは気軽に声をかけられ、ベネットはそれに応えるように気さくに返していた。

 元々、平民の出身だ。

 男爵夫人となった今でも、元々貴族だった人間よりは近しい関係を築けるのだろう。

「ヒロシは、普段こっちの方がいいかもね。

 あのかっちりした服だと、なんだかみんな緊張しちゃうみたい。

 話を聞いていると、とても同じ人物だと思えない感じの話も聞くし。」

 そういえば、今はトレーナーにスウェットという寝間着姿にコートを羽織っている状態だ。ちょっと普段とは雰囲気が違いすぎか。

「まあ、馬子にも衣裳だよ。

 きっちりした服を着ていた方が、仕事をしやすい場合も多いしね。」

 そうだね、とベネットは笑う。

「私も、ちゃんと鎧を着てないと、なんだこの小娘みたいに言われちゃうことも多かったしね。

 だから、休みの時は休みの服を着るって言うのは大切かもね。」

 確かにその通りだろう。もうちょっと見栄えのする格好をすべきかもしれないけれど。

「お? ヒロシ、お休み?」

 牧場につくと、開口一番ミリーがそんな問いかけをしてきた。

「レイナさんに代役をやってもらってる。だからしばらくお休み。」

 そういいながら、駆け寄ってきたマーナを撫でてやる。

 感覚共有しているおかげで、別段近くにいなくても使い魔としてはいろいろと役に立ってもらっている。

 流石に普段は視覚共有まではしていないけれど聞いた事や感じたことは伝わってくるので、普段部屋に閉じこもっていても外の情報をもたらしてくれた。

 なので、普段の苦労をねぎらうように丹念にブラッシングしてやろう。

「マーナはヒロシとベネットには凄く懐くねぇ。

 私の時は、不満そうなのにめちゃくちゃ嬉しそうじゃん。」

 まあ、そりゃ使い魔だしな。

 いくら動物支配の能力があっても、こっちの方により懐くのは自然な話だ。

 でも、ベネットの時も嬉しそうなのか。

「グラネは、ロイドさんに懐いてるよね?

 どういう違いがあるのかは分からないけれど、やっぱり相性とかあるのかな?」

 ベネットはグラネの鼻先を撫でながら、じっと目を覗き込む。

「まあ、色男が好きなんじゃないかな? 逆に、マーナは女性が好きなのかもしれない。」

 そういうと、ミリーは不満げな顔をする。

「私だって女の子なんだけどな?」

 これは失言だった。

 しかし、そうなると何が原因でベネットに懐いてるんだろう?

「どっちかというと、ヒロシが好きなものにより懐くって感じなんじゃないかな?

 感覚共有してるんでしょ?」

 あぁ、そういう理由か。それならなんとなく分からないでもない。

「そういえばミリー、最近の街の様子はどんなもの?」

 テリーも時折街の情勢について情報をもたらしてくれるけれど、ミリーはミリーで何か聞いているかもしれない。

 それぞれ視点も違うだろうし、聞いておくに越したことはないだろう。

「お休みでしょ?

 何か変わったことがあれば、伝えるよ。おおむね、みんな安心してるってところかな。

 ハンスを見た時、街のみんなの雰囲気は最悪だったからねぇ。」

 やはり、オークの衛兵隊長というのは、ショッキングだったのかなぁ。

 話してみれば、とても気さくだし頼りになると感じてもらえると思うんだけど。

「でもヒロシがビシバシ厳しい対応してるでしょ? 逆にハンスには親近感を感じてるみたい。

 だから、もう少し締め付けてもいいかもね。」

 そこまで厳しくしたつもりはないんだけどなぁ。

 あくまでも常識的な範囲の規則を明示したに過ぎないし、それだって厳格に適用しているかと言われると割と緩い気もする。

 でもハンスの評判がよくなるなら、そういう多少の茶番はあってもいいかもな。

「ヒロシ、やりすぎはよくないからね? 普段通りにやれば平気だよ。」

 ベネットが俺に釘を刺してくる。

「そうそう、必要なことをやってれば変な小芝居は打たなくても平気だよ。

 まあ、やばくなりそうならテリーだって忠告してくれるだろうし。」

 何か、子供がいたずらを画策するのを止められている気分だ。

「分かりました。変なことはしません。」

 なんか思わず敬語になってしまった。

 それがおかしかったのか、二人とも笑う。

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