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12-19 疲れたー。

爵位が欲しかったのはそのためですしね。

「ヒロシの覚悟というのはそういう事なのか?」

 王子様を殴ったことを指しているのだろうか?

 もちろん、国を敵に回すことは覚悟した。

「勿論です。

 領民は全て死に絶えても、俺は戦うつもりでしたよ?」

 もちろん、その前にはいろいろと画策して戦わなくていいように手は尽くすとは思う。それでも、避けえないとなったならあらゆるものを犠牲にするつもりだ。

 それくらい許せない発言だった。

「一人の女にそこまで覚悟するって、お前狂ってるよ。」

 なんだか、狂っていると言われても腹は立ってこない。

 とはいえ胸を張って、どうだ狂っているだろうって言うのも、それはそれで頭がおかしい。なんといえばいいんだか。

「軽挙妄動だったとは思いますよ。そういう意味で、俺は駄目な人間なんでしょう。

 ただ、あの言葉を許した未来を考えると俺はそれがどうしても受け入れられなかった。何のために地位を手に入れたのか分からなくなる。

 そう思ったんですよ。」

 俺一人なら、気ままに行商人を続けていただろう。自分だけ満足させるなら領地なんかいらないし、飛行船なんかも作らない。

 その方が気軽だし身軽だ。

 だけど、そういう自由な立場と今の四苦八苦している状況、どっちが幸せかと言えば今の方が幸せだと胸を張って言える。

「もっとスマートな人間がそれを言えばかっこいいけど、お前みたいなやつが言うと気持ち悪いよ。

 ただ、そこまで言える女がいるって言うのは羨ましいけど。」

 王子様はため息をつく。ただ、思うにその対象は近くにいると思うんだけどな。

 俺は、ユリアを見る。

「いるじゃん。ユリアちゃんが。」

 レイナが不服そうに言う。

「なんで俺を騙した女を大事にしなきゃいけないんだ。そもそも、こいつは教会の犬だぞ!!」

 なんかそういうことを言われると、すごく冷めるんだよなぁ。

「うかつに手を出したのは王子様じゃない? それがピーピー泣きわめいて、情けない。

 それに、大切にしなくちゃいけないのは変わらないと思うけどね。言ってみれば、彼女は王子様の命綱だよ?」

 レイナはからかうように、ユリアを抱き寄せ彼女の頬を撫でる。

「教会がユリアちゃんを殺すって言うことは、王子様を危険視したって意味だしね。

 言ってみれば、坑道のカナリアだよ。

 ユリアちゃんの行動一つで、王子様の運命は変わってしまう。」

 なかなか芝居がかってるな。

 大魔女という二つ名も、今ならとても似合っている気がする。

「でもまあ王子様がいらないって言うなら、私がもらってあげようか? 大切にしてあげるよ?」

 そういいながら、レイナはユリアを抱き寄せる。

「冗談もほどほどにしておけよ。

 言っていい事と悪いことがあるように、やっていい事と悪いことがあるからな。」

 不愉快そうに王子様は声を荒げた。まったく都合がいい。

「一度抱いたくらいで自分のもの扱い? だったら、せめてもうちょっとマシな扱いをしてあげるべきじゃないかな?」

 レイナが挑発的に笑う。

 そろそろ介入すべきかな。

「実は、ビシャバール家で保護しようかという話が出ています。彼女がレイオット様にとって弱点になりますからね。

 侯爵家の養女となれば、おいそれと手出しはできないだろうという思惑ですが。」

 俺は王子様の反応を待つ。

「ふざけるな!!

 お前らの自由にさせたら、弱点をお前らが握るってことになるだろ!!」

 ごもっともだ。

 というか、そう考えてくれるのを待っていた。

「では、正式に許嫁にしてしまえばどうでしょう。

 養子の話はそのまま通したうえで婚約者として手元に置けば、レイオット様にとっても都合がよろしいかと思いますが?」

 俺はにこやかに笑う。

「なんだ、その笑顔は。胡散臭い。」

 俺は笑顔を引っ込める。

「僕が許嫁にしたいと言ったら協力するのか?」

 少し迷いながらも、王子様にその意向はあるようだな。

「勿論です。全力で協力させていただきます。」

 笑みを漏らさないようにできるだけ真面目な顔をする。

「その真顔も怖いんだが? 絶対お前何か企んでいるだろう。」

 俺は、顔をしかめるしかない。

「企んでるに決まっているじゃないですか。できれば、俺の後ろ盾になってもらいたいんですよ。

 王家との結びつきがあれば色々と安泰じゃないですか。」

 レイナがかみ殺した笑いを漏らす。

「普通そう言うのは隠すものじゃないのか? お前は強かなのか、馬鹿なのかよくわからん。」

 どっちかというと馬鹿に分類される人間だと思うんだよなぁ。

「とりあえず、疲れました。頼みますから、これ以上暴れまわらないでください。

 言いたいことは以上です。」

 俺は盛大にため息をついた。

 

 俺は着替えもせずベットに突っ伏す。

 もう何もしたくない。

 何もかも面倒臭い。

「ヒロシ君、しばらく休んだ方がいいよ。

 男爵としてのお仕事は、私がしばらく代行してあげよう。」

 レイナに任せて大丈夫だろうか。少し不安だ。

「大枠はほぼ定まったし、あとは決められたとおりに動かせばいいはずだよね? 秘書の人とも話したけれど、頑張りすぎじゃない?」

 何かをめくっている音がする。

「レイナ様、私にも見せていただけますか?」

 ベネットの声が聞こえたけど、何してるんだろう。めくってる紙を見に行ってるのかなぁ。

 でも、起き上がる気力がわかない。

「どう思う? 私じゃやっぱり不安かな?」

「そんなことはないと思います。レイナ様なら大丈夫じゃないでしょうか?」

 んー、っとレイナが唸る声が聞こえる。

「第一婦人はベネちゃんでしょ? また、ヒロシがブチ切れて、今度は私が殴られちゃうよ。」

 女性を殴るなんてしませんが?

「いきなり何の話です? 俺が、女性に手をあげるとでも?」

 俺は体を起こし、ベットに腰かける。

「やらないの?

 割と普通に手を出しそうなイメージあったけど。」

 レイナは笑いながらそんなことを言ってくる。

 心外だ。とても心外だ。

「ヒロシが女性に暴力を振るうとしたら、それは愛情表現ですよ。多分、自分では手を下さないんじゃないかなぁ。」

 ベネットの言葉に、俺は頬を引きつらせる。

 いや、うん。

 事実そうだから言い換えしようがない。

 でも、普段からそんなことをするわけじゃないんだ。

 俺は、顔を覆う。

「それはそれで業が深いけども。

 とりあえず、レイナ様はやめてね。レイナちゃん、もしくはレイナって呼び捨てにして。

 譲ったとしてもレイナさんかなぁ。

 一応年上だし、それなら変じゃないかも。」

 まあ、示しがつかなくなるので、俺もその案には賛成だ。

「分かりました。

 レイナさんの言葉に従います。」

 ちょっとしゃべりにくそうだなぁ。

 でも、ベネットも男爵夫人だ。

 奥様と呼ばれ慣れないといけないし、部下にへりくだってはいけない。

「まあ、ベネちゃんは妊娠中、ヒロシ君はちょっとグロッキー気味。

 なら一応立場としては第二婦人なんだし、私が代行すべきだよね?」

 俺もこれに慣れないとなぁ。どうにも第二婦人という存在に違和感を覚える。

 とはいえ、姻戚関係はとても大切だ。

 一応登録した俺の名字のオーサワというのがうちの家名になるけれど、新興の男爵家がまともにやっていくにはビシャバール家の後ろ盾は絶対に必要だ。

 じゃないと、周りの貴族から領地を荒らされ回ることになる。下手するとおばあちゃんの姫が送り込まれかねない。

 現状ですらすり寄ってくる貴族が婚姻の話を持ってくるくらいだ。

 妾としてでもいいみたいなことを言っているけど、どう考えても口減らしか不良債権の処理を押し付けたいのが目に見えている。

 うちの財力を考えればわからなくもないけれども。

 まあ、レイナの評判も似たり寄ったりだ。

 ビシャバールが大年増の姫を押し付けて面倒を見させているというのがもっぱらの噂であり、俺は貧相な庶民の娘と老女に囲まれているとされていた。

 その前提で手紙が来るので、腹が立って仕方がない。それでも相手は善意だ。丁重にお断りの手紙を返している。

 とはいえビシャバールの意向があればこそ、この程度で済む。何も後ろ盾が無かったら、いきなり豪華な馬車がやってきて勝手に姫を置いていかれる可能性すらある。

 まだ遠慮してもらっている方だろう。

 なんだけれど。

「なんだか申し訳ないなって気持ちと、任せて平気かなって不安がないまぜです。」

 率直な気持ちを伝える。

「んー、まあ、真面目にやる代わりにおねだりしてもいいかな?」

 俺は眉をひそめる。

「大したものじゃないよ。

 私の部屋にホームシアター施設を作りたいなぁって。」

 駄目かな、と可愛く小首をかしげてレイナは聞いてくるけどまた随分と豪勢な要求だ。

 いや、まあ払えなくはない。娯楽というものは必要だろう。

「真面目に代行してくれるなら、安いものです。

 いつまでも、俺が張り付きっぱなしってわけにもいきませんしね。」

 必要経費と割り切ろう。

 とりあえず、今は何も考えたくない。

 俺は、ベッドの上に身を投げ出し仰向けになる。

「契約成立だね。

 まあ、とりあえずお茶会まではゆっくりお休みという事で。

 じゃあね、お二人さん。」

 ドアが閉まる音がした。

 多分、レイナは自室へ帰って行ったんだろうなぁ。

「ヒロシ、ごめんね。」

 ベネットが俺のベットに腰かけて、俺のタイをほどいていく。

「何か、謝らないことしたの?」

 そう聞くと、ベネットは首を横に振る。

「ただ、タイミングが悪かったかなって。

 赤ちゃんができたことは悪い事じゃないとは思うけれど、忙しい時に私だけ楽させてもらっちゃってるかなって。」

 そういいながら、ベネットは俺のシャツのボタンを外していく。

 いや、その前にジャケット脱がないと。

「忙しいのは俺の責任だから。みんなに支えられているし、もっと要領よくできたらいいのにね。

 心配をかけてこっちこそ謝らないと。」

 何とかジャケットとシャツを脱ぐ。

 あー、もう、これはしわくちゃだなぁ。でも、しばらく休むし今日はもういいだろう。

 ……寝間着を出さないとなぁ。

「でベネット、なんでズボンを下ろすかな?」

 これじゃ、寝間着を取りに行けない。

「寝間着はあとでとってきてあげる。」

 駄目だ。流れに身を任せたら、とんでもないことになる。

「結構です。自分でやるから。」

 そう言って、下ろされたズボンを履きなおして、俺は寝間着を取りに向かう。

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