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12-18 立場って言うのが面倒くさいのは分かるんだけども。

転生先が王子さまってぶっちゃけ罰ゲームでは?

 執務室にユリアと王子様、そしてレイナを残して全員退出させた。ちゃんと防音設備も整えているからよそから聞かれる心配はない。

 まあ、最も魔法を使われているなら話は別だが。

 それはいい。

 あくまでも建前を取り払って本音を話すだけだからだ。

 これが漏れたとしても、影響の範囲はたかが知れている。


 しかし、なんでこんなことをするのか、王子様だけは分かっていない様子だ。


 でも話さないわけにもいかない。分からないからほったらかしだとどうにもならない。


 なぜなら、相手が王子様だからだ。


 言葉一つで万単位の人が死にかねない立場にあると理解してもらわないと困る。

 なので、今回のことが何が問題であるのかを事細かに話す。

 分からなさそうなら、さかのぼり前提を話し分かるような話に変換して伝え、図表が分かり易ければ図表を書く。

 それでも手ごたえは薄い。

 というか、話を聞くことに飽きてきた様子だ。

「そんなに見逃したかったのなら見逃せばよかっただろ?」

 半ば投げやりに王子様は吐き捨てた。違うそうじゃない。

「レイオット様、それはなりません。

 法の趣旨は先ほどヒロシ様もご説明していたはずです。」

 有難いことにユリアは俺の話の意味を理解してくれていたようだ。

「下に示しがつかないからか?

 なら、僕のやったことは何も間違っていないじゃないか。」

 王子様はため息をつく。

 いや、ため息をつきたいのはこっちだよ。

「だから、それも説明されたでしょ?

 規則だからって、四角四面に適用していったら、それはそれで倫理面に問題が出てくる。

 言っちゃえばルールさえ守れば、相手がどんなに苦しもうとどうでもいいって言う対応になってくる。

 それにルールを悪用する人間すらはびこらせかねない。」

 レイナは、ぶっきらぼうに口を挟む。

「じゃあ、どっちが正しいんだ!! ルールを守らせるのかルールを破らせるのか、はっきりしろ!!」

 ユリアはびくっと身を竦ませる。レイナはやれやれと肩をすくめた。

 まあ、これが答えなんだよな。

「レイオット様、万人が納得する答えなどございません。

 ある人からすれば、どんな些細な罪も許してはならないというでしょうし、逆に相手の為ならば法を冒してでも手を差し伸べるべきだという人もいるでしょう。

 ただ、少なくとも俺の立場では法に従わざるを得ません。

 何より、レイオット様という立場の方から告発を受けて、それを取り合わないなどという事はできないんですよ。」

 立場という言葉に王子様は眉を顰める。

「僕が王子だからか?

 そんな、訴える人間が変わるだけで物事の軽重が変わっていいものか!!」

 言いたいことはもっともだ。

 だけど、この国ではそれは通用しない。

「少なくとも、現状では身分というものは無視できません。これが同僚同士の足の引っ張り合いであれば、俺は無視していたと思いますよ。

 たまたま見つかった相手がレイオット様だった、それだけで彼の運命は変わってしまった。それが現実なんです。」

 受け入れがたいのか王子様は顔を手で覆う。

「そんな現実くそくらえだ!!

 それを変えるための権力だろう!! どうにもならないとか諦める前にやることがあるだろう!!」

 言っていることは何も間違っていない。

 ただ一つ見逃していることがある。

「では、その現実を曲げた時に何が起こるのかを、お考えになったことはございますか?」

 急激な変化は社会を不安定にさせる。王の一言でそれを行うことはできるだろう。

 だが、それに必ずしも全員が従うとは限らない。直近で言えば、租税の撤廃だ。

「何が起こるって言うんだ。」

 出来れば、自分で答えを探してほしい。だけど、そう悠長に構えてはいられない。

「租税の撤廃の際に何が起こりましたか?」

 出来れば、この言葉だけで察して欲しい。

 ユリアは少し顔を青ざめさせていることを見れば、察しがついた様子ではある。

「反乱を企てた馬鹿どもを粛正しただけだろ? 大したことじゃない。」

 レイナが盛大なため息をついた。俺だってできればここでさじを投げたい。

「1万人の死が大したことではないとおっしゃりたいんですか?」

 反乱を起こした貴族たちが動員した兵士と国軍側の兵士、それに巻き込まれた無関係の平民を合わせた死者の総数だ。

 怪我人は、その数倍いる。

 むしろ、死者数は領土奪還の戦いのときよりも多い。だけど具体的な数字を出されてもあまりピンと来てない様子だ。

「1万人の中には、子供や女性も混じっていますし争いに巻き込まれて死んだ無関係な人もいます。あるいは、国軍が破れていればユリアさんも殺されていた可能性もありますね。」

 身近な人間の死を口にすることで、ようやく数字ではなく意味をつかんできた様子だ。王子様は自分の言ったことを後悔した様子で、口元を抑える。

「緩やかに社会が変わっていくなら、それに越したことはないんですよ。少なくとも、天寿を全うできた人は多いんじゃないですかね?

 それでも変革を望むとするならば、少なくとも現状よりも改善されていなくてはいけない。」

 誰にとって改善かという事も大切だろう。少なくとも王子様のもたらそうという変革は、王子様のためにはならない。

「それと身分制度をなくすという事は、自ら死んでも構わないという意思表明と変わりありません。

 少なくとも、今の立ち位置ではそう公言してるのも同然です。

 そして、あなたの立ち位置に別の人間が立つという結果がもたらされるでしょう。社会は何も変わらない。」

 そういうと、王子様は身震いした。

 別に脅したいわけじゃない。事実として、そういう立場にいるという事だ。

「僕にどうしろって言うんだ。何もするなって言う事か?」

 端的に言ってしまえばそういうことだ。

 どう考えたって王族というのは足枷にしかならない。

 何かをするという事は、その足枷につなげられた重しである国家が振り回される。悪いけれど、そこは俺にはどうすることもできないだろう。

「僕は第三王子だぞ? 何にもなれない。

 王になって権勢を振るうことも、気ままに冒険者として暮らすこともできない。こんなの呪いと一緒じゃないか!!」

 正直、転生先としては失敗もいいところだ。

 王太子として次代を担うのであれば、国家運営に携われるだろう。

 庶民の家系なら自身の思うままに暮らせる。

 どちらにせよ、能力があればそれを生かすことができるはずだ。だけれど、少なくとも次男以降の貴族や王族なんて罰ゲームもいいところだ。

 お前は生まれた時点でスペアパーツであると明言されたも同然。あるいは次男であれば、まだチャンスはあるだろう。

 だけど二人とも幸か不幸か後継者候補から外れる確率となると、かなり望み薄だ。

 しかも、二人ともしっかり成人してしまっている。

 あまつさえ、王太子殿下にはすでに後継者がいらっしゃる。もう盤石もいいところだ。こんな状態で、第三王子という立場は確かに呪い以外の何物でもないだろう。

「そんなこと言ったって、あと50年も生きれば自由になれると思うよ。この世界の寿命から言えば、そのくらいで死んだことにはできるだろうし。」

 レイナは事も無げに呟く。

 まあ、100年も生きた彼女からすれば大したことではないのかもしれない。

「どうせ公爵家に養子に行ったり、新しい公爵家を作ってもらったりするわけでしょ?

 で、子供が出来れば、それに継がせちゃえばあとは隠居して好きにできると思うけどね。どうせ長い人生なんだから、今の状況を楽しんだ方がいいよ。」

 もちろん、そうするには根回しや下準備が欠かせない。

 でも絶対に不可能なことではないだろう。

「50年も人生をふいにしろって言うのか? その頃にはよぼよぼの爺さんになってしまう!!」

 あぁ、知らないのか。

 いや、俺もレイナに聞くまでは知らなかったしな。

「あははは、まじで言ってんの? 来訪者は年老いたりしないし、殺されるまでは生きてられる。

 そっちの方がよっぽど呪いだと思うけどね。」

 何がそんなに楽しいのか、レイナは笑い転げる。

「レイナさん、あんまり不敬が過ぎると俺も見逃せなくなりますよ?」

 俺がそういうと、これは失礼とレイナは居住まいを正す。

「ちょっと待て、レイナって来訪者なのか? というか、来訪者と転生者は同じなのか?」

 どこまで教えるべきだろうか。

 ……いや、隠す必要性はあまりないか。

「レイナは今から100年以上前に訪れた来訪者の末裔です。来訪者の長子はどうやら来訪者と同様に寿命を持ちません。

 そして、転生者も来訪者同様に寿命を持たないそうです。」

 そういうと王子様はばばあ、と呟いた。

「え?これは、私殴ってもよくない?」

 レイナは、にっこり笑って拳を握る。

 まあ、その権利はあるよな。

「も、申し訳ありません。レイオット様に悪気があったわけではないのです。

 どうかお許しください。」

 ユリアがレイナと王子様の間に割って入る。

「悪気があるとかないとかじゃないよ。言っていい事と悪いことがある。

 許してほしいなら、ちゃんと本人が謝らないとね。」

 魔術師と相性が悪い消魔を持っている王子様だけれど、威圧感に屈したのか、頭を下げた。

「ごめんなさい。その、悪かったです。」

 少し、レイナは黙ったまま王子様を見下ろす。

 だけど、すぐに飽きたのかソファに乱暴に腰かけてしまう。

「いいよ、許す。

 本当はあれこれ問い詰めるべきだけど、私は寛大だからね。」

 単に面倒くさくなっただけだろう。

「とりあえず、話を戻しましょう。

 50年間何もするなとは言いません。何かをするという事は、何かを引き起こすという事です。

 お立場をお考えの上、熟慮して行動を起こすことをお勧めします。

 万人を殺してでも為すべきこととお考えめされたなら、その覚悟を持って行動してください。

 俺から言えるのは、それだけです。」

 王子様は俺の言葉に顔をしかめる。

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