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2-4 初めて現代の物を売ってみた。

物価についてはちょっとあやふやです。

参考になる資料などがあれば教えていただけると助かります。

 つくづく思い知った。

なにがって、ハンス達がどれだけ凄いかって事だ。

グラスコーに同行するようになってから、俺は襲撃を受けることに慣れてしまった。

 狼の時以来、不意を打たれることはなかったけど……

 さすがに1日おきくらいにキャンプ近くで襲撃されると、身の危険を感じる。

銃声で追い散らせる野生動物は良いんだけど明らかにでかかったり、他と違う個体ほど動じない。

 で、つくづく思ったけど、この世界の銃は使えない。

いや、戦争には向いてるんだと思うんだ。

だけど、前装式のフリントロックじゃ装填時間が遅すぎる。

トーラスの腕は悪くないんだろうけど、12秒に一発じゃさすがに遅い。

射程も50mを超えると途端に怪しくなってくる。

人間同士の戦闘でも、騎兵突撃だと怪しい距離だよな。

再装填中に射程外から突っ込まれたら対処しようがない。

 でも、まさかでかいトカゲが50mの距離を駆け抜けて、装填中のトーラスを押し倒すとは思わなかったわ。

引き撃ちとかできれば良いんだろうけど、前装式のフリントロックじゃそれも難しい。

前衛がいないと駄目だ。

 と言うわけで、何故か俺も槍を持って前衛をやらされている。

すでに5本くらい槍をへし折られた。

 まあ、費用はグラスコー持ちだがな!!

 でも、護衛の二人にしてみれば、これくらいの襲撃は蛮地では当たり前のことなんだそうな。

むしろ、あそこにいて、一度もまともな襲撃を受けたことがないことに驚かれた。

ロイドやテリーの偵察能力の高さ、ミリーの動物への統率力、ヨハンナの知恵、ハンスの判断力。

それらがあったからこそ、俺は危険を全く感じずに暮らせていたんだろう。

たかが荷物持ちと、水の供給ができただけで恩を返せてると思ってたのは、今考えると凄く恥ずかしい。

 ローフォンとアジームにも感謝だな。

槍の扱い方を教えて貰ってなかったら、俺は今頃は狼の腹の中だろう。

とはいえ元来、怠惰な俺だから槍の腕が上がってるかと言われるとそんなこともない。

反復練習は、辛いし、苦しいのでさぼり気味だし、槍を上手いこと使えたのは狼の口にねじ込んだ時くらいで後は酷いものだ。

石突きを使えば、近寄らせないで済むと思ってたけど、実戦でやってみると全くできない。

大抵、間合いに入られると有効打が出せずにじゃれ合うような感じになってしまう。

 そのたびにベネットに助けて貰ってるのが申し訳ないが、本職ではないしなぁ……

 勘弁して欲しい。

 銃の扱いについても、トーラスの足元にも及ばなかった。

弾の装填は30秒に1発撃てればいい方だし、30m先の動かない的ですら外すときがある。

練習をすれば、それなりになるとは言ってくれてるが、正直、闘うことは専門家に任せたい。

身を守れるくらいで充分だろ。

 と言うか、護衛のまねごとさせられるとは思わなかったわ。

グラスコーは戦力が増えたとか喜んで槍とチェインメイルを寄越したが、素人に何を期待してるんだろう。

真面目な話、勘弁して欲しい。

着させられたチェインメイルは、肩に妙な負担がかかるし、戦力扱いだから周囲にも気を配らないといけない。

これは危険手当でも貰わないと割に合わないだろう。

 と言うか、トーラスとベネットはプロの癖に警戒心が薄い気がするのは俺の気のせいだろうか?

大抵俺が休んでいるときに限って敵が間近に迫っている時が多いし、俺が動くものを見つけても準備しなかったりする。

直接的な戦闘力は、最初に思っていたよりもあるんだなと実感してきたけど、それ以外はさっぱりだ。

 基本的に、近づいてきた危険は力でねじ伏せられるから平気と思ってるのかもしれない。

後は怪我をしても、ベネットの能力で治せるというのも、油断に繋がってるんじゃないだろうか。

 実際、今のところ対処しきれずに死人が出たり、直せないような損傷は受けてないけど……

 ちょっとチェインメイルだけじゃ不安を感じる。

なので、俺は売買で防刃パーカーと防刃ジーンズを購入することに決めた。

それも護衛の二人の分も含めて3人分だ。

パーカーが金貨3枚、ジーンズが金貨2枚、合計で金貨5枚。

貯めていた資金が、一気に減った。

後で物は回収するとして、レンタル料も貰うとしよう。

問題は、それをどう説明してみんなに着せるかだな。

 まあ、グラスコーにはいずれ話すことにはなるだろうし、話しておいても良いか。

護衛の二人は、いつまでも一緒じゃないから、そこから話が広まるかもしれないが、それも時間の問題だ。

いずれ商売に利用するんだから、便利な道具を買える程度の能力と思ってくれる程度なら損はない。

丁度、昼飯を食うための休憩に入ったところで、商品が届いた。

幸い、テストパッチもついてるし、効果も説明できるだろう。

「ちょっと良いですか?二人に試して貰いたい物があるんですよ。」

 そういって、俺は防刃パーカーと防刃ジーンズを取り出して、トーラスとベネットに手渡す。

二人は、突然服を渡されて意味が分からない様子だ。

「おい、ヒロシ。そいつはなんだ?」

 グラスコーは、意味があることなんだろうとは理解しているが、その意味までは掴みかねてるって所だろうか?

「こいつは、防具です。まあ、一種のパデットアーマーなんですけどね。」

 パデットアーマーって言うのは綿や絹で作られた防具のことで、見た目の頼りなさから想像がつきにくいほど、防刃効果が高かったりする代物だ。

俺が取り出したのも、言ってみればそれの進化した姿とも言える。

「同じ素材でできたテスト用の端切れがあるんで試してみましょう。

 ナイフ持ってます?」

 半信半疑と言った様子で、ベネットがナイフを取り出し、柄の方を俺に向けて渡してくれた。

 そういえばあの夜以来、まともに会話してないなぁ……

 冷たい視線は幾分和らいだ気はするけど、今度は意図的に避けられているような気がする。

声をかけたら返事もしてくれるし対応もしてくれているが、距離を置かれているのは確かだよな。

まあ、ちょっと命を助けたんだからデレても良いだろうとか思わなくもないが、そんな都合の良いことなんか無いわな。

嫌悪されてないだけ御の字だ。

 いや、本当は好きになって欲しいよ?

 そりゃね。

余計なことを考えるのはよそう。

分かりやすいように木の板にテストパッチを置き、ナイフを滑らせる。

普通の布なら、すっぱりと切れて、木の板にも傷がつくだろう。

だが、防刃繊維を編み込んだテストパッチは、傷一つ無く、木の板には後すら残っていない。

護衛二人の反応は、驚きで目を見開いている。

グラスコーの方は、探るような視線でパッチと木の板を見ていた。

「ヒロシ、突き立ててみろ。」

 言われたとおり、ガンガンっと、ナイフをテストパッチの上に振り下ろす。

残念ながら、刺突には劇的な効果はない。

多少木の板に傷がつく。

グラスコーは眉をひそめているが、それでも貫通させないって言うのはそれだけで凄いんだよな。

「ヒロシ、今度はこいつで試してみてくれ。」

 グラスコーは普通の端切れを寄越してきた。

普通の麻だよな?

この世界の麻は全部防刃効果があるとか言われたら、俺は涙目になるぞ……

ちょっと緊張しながら、麻布の上にナイフを滑らせた。

結構丁寧に研がれていたのか、すっぱりと麻布が裂けて、下の木に綺麗な一本線が引かれる。

と言うか、結構深く切り裂けたな。

不安になったので、俺は、太ももの上にのせた板に直接振り下ろさず、まずは足の間を渡すように木の板を置き直す。

それから、麻布を二枚重ねにしてナイフを振り下ろした。

一撃で布どころか板を貫通したので、もしそのまま振り下ろしていたらざっくり太ももに刺さってたな。

 どんだけ切れるんだこのナイフ。

 びっくりして、冷や汗が出たわ。

「とりあえず、効果は見て貰ったとおりです。

 トーラスさんとベネットさんに、これと同じ素材でできた服を、お貸ししたいと思ってるんですが、どうでしょう?」

 貸すって言葉でようやくベネットもトーラスも意図を理解したらしい。

まじまじと服を見ている。

「なあ、俺にはないのか?」

 結構高いんだから、非戦闘要員に渡すわけ無いだろ。

「買い取って貰えるなら、金貨10枚でどうですか?」

 俺の提示した金額に、護衛二人は目を見開く。

「安い!!」

 トーラスが声を張り上げて、同時にベネットがごそごそと何かを取り出している。

「お前馬鹿だろ……」

 グラスコーが呆れたように肩をすくめている。

 あれ?俺、値段設定間違えたかな?

「いや、一応雇用主だから特別価格ですよ?」

 俺は、冷や汗をかきつつ言い訳をする。失敗した。

せめて、チェインメイルの値段を聞いてから言えば良かった。

「20枚までなら買うわ。お願い。」

 どうやら効果の詰まった革袋らしき物を俺に握らせて、ベネットは懇願するような目で見てくる。

あー、即決するくらいには貯蓄あるのね。

「俺も買わせてくれ! 頼む!!」

 トーラスの方も買うつもりで、財布を捜し始めてる。

 いや、えっと……

「お二人にも金貨10枚で、売りましょう。えっと、分割でも良いですよ?

 でも、本当に良いんですか?

 確かに、切り傷は防ぎますし、刺し傷もある程度防いでくれますが打撃には全くの無力ですよ?」

 なんか、詐欺をはたらいている気分になる。

確かに防刃繊維は、そこそこ優秀だと思うけど、剣の一撃を完全に防いでくれるとは思えない。

そもそも、切れなくてもバットで殴られるようなもんだろう。

棍棒やメイスみたいな打撃武器にも無力だ。

 まあ、それ言ったらチェインメイルも似たようなもんだけども……

「充分価値があるわ。何よりこの薄手の布でこれだけ防げるなら、上にチェインシャツを着たって良いじゃない。」

 いや、言っている意味は分かるよ。

重ね着すれば、その分だけ防御力も上がるよね。

 確かに……

 でも、これだってそんなに着心地は良くないだろう。

「あー、くそ!! あと金貨2枚分足りない!!」

 トーラスは、あわてたように声を荒げている。

その間に、俺はベネットの財布から代金を取り出して受け取っていた。

財布の中にあった貨幣の大半が銀貨だった事を考えると、貨幣の流通は銀貨が基本みたいだな。

「一応、街に着くまでは返品は受け付けるんで、その時は言ってくださいね。」

 ベネットに財布を返して、そう付け加えだ。

やっぱり効果無かった、返せっていわれる可能性もあるしね。

トラブルを避けるためにも、あらかじめ言っておこう。

 小躍りして聞いてるかどうかわかんないけど……

「それと、トーラスさんも、半金で良いですよ。」

 俺は受け取った銀貨をしまい込み、打ちひしがれているトーラスに声をかけた。

「本当かい? 聞いておくけど、やっぱり返せとか言わない?……」

 いや、そこまで必死にならなくても……

 なんか罪悪感が湧いてくる。

何せ、俺の分の費用まで一気に回収できちゃったしな。

俺は俺で、帳簿付けておいた方が良いだろうか?

ともかく、トーラスをなだめて金を受け取った。

なんか、にやにやグラスコーが笑ってやがる。

「ちなみに、その魔法の服はどこで仕入れたんだ?」

 おそらく、ある程度の推測はできてるんだろうな。

「そりゃもちろん、俺の特殊能力で”買った”んですよ。」

 とりあえず、買ったことは強調しておこう。

別にただで手に入れたわけじゃない。

「へぇ……

 まあ、どうやって買ったのか、いつ手に入れたのかは聞かないでおいてやるよ。

 で、俺の分はすぐに手にはいるのか?」

 お優しいことで……

 まあ、根掘り葉掘り聞かれても全部は話さないし、話さないことも承知してるんだろう。

「とりあえず、3日くらいですかね。その頃には街道に入るんでしたっけ?」

 俺の確認に、グラスコーは頷いた。

「じゃあ、いらないかもしれないですね。」

 さすがに街道に入れば襲われる可能性も低くなるだろう。

「いや、そんなこともない。そりゃ滅多に出てこないが盗賊の類はいるしな。

 むしろ、そういう奴らの主武器がナイフやスティリットだったりするから必要性が高くなる。

 いつ襲われるか分からないことを考えれば、欲しくなる代物さ。」

 なるほどねぇ……

 いや、まあでも値段のことを考えると原価でも一般的な職人の月給2ヶ月分超えるんだぞ?

 俺が提示した金額で倍、そのさら二倍でも買いたくなるものなのか?

 ベネットの様子を見ていると、そうなのかもしれないが……

「ちなみに、チェインメイルの値段は金貨15枚だ。」

 な、なるほど防具って言うのは案外高い物なんだな。

着心地を考えれば、金貨20枚は安い買い物かもしれない。

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