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12-16 今回のお節介は仕方ないと思うんだ。

みんなで幸せになろうよ。

「私は虐げられてなんていません。」

 そういえば、カイネにも同じようなことを聞いた事があった気がするなぁ。

 今回に関しては、お節介をかけずにはいられない。何せ相手は王子様だ。彼の身の振り方ひとつで俺の命運が左右されかねない。

 困ったことに、王子様自身はそれについての自覚が乏しい。

 一言いえば、俺と王国が争うことになっていたとは微塵も思っていないようだし。そこの点でとても不安がある。

 ユリアの取り扱いについても、不安があった。

 カイネの方は、曲がりなりにもハルトが男気を見せてくれた。対して王子様は、ユリアの存在が宙ぶらりんの状態だ。

 そもそも、彼女の立場は王子様のメイドであって婚約者などではない。

 なので他のメイドからはぞんざいに扱われ、王子様からも気づかいはされていない。その癖に何かと彼女を王子様は呼びつけて、あれやこれやと特別な扱いをしていた。

 そんな存在に嫉妬するなという方が難しい。

 結果として仕事を抱えきれないほど押し付けられ、その上で完璧を求められる。これで、虐げられていないという方が頭がおかしい。

 とはいえ、これが彼女の望む生活だというなら話は終わりだ。何を言ったところで無駄だろう。

「なぜ、ヒロシ様は怒っているんですか?」

 ユリアは恐る恐る訪ねてきた。

 怒っているか。まあ、腹は立つよな。

「俺が君の立場なら、いつまでもほったらかしの男に愛想をつかすだろうからね。一発ぶん殴らないことには腹の虫がおさまらないよ。」

 俺は深いため息を漏らしてしまった。

「すいません。」

 ユリアは申し訳なさそうに頭を下げる。だけど、それは違うだろう。怒っている対象は王子様だ。

「君は、あまりに盲目的すぎるよ。

 レイオット様と君とは別の人格だ。なのに、自分の事のように考えるのはおかしい。仮にレイオット様ではなく、別の人物に同じ扱いをしても君は満足なのか?」

 そう問われると、さすがにユリアも困惑の表情を浮かべる。

「仮定の話でしたら、それは望みません。

 いやです。」

 つまり王子様相手には負い目があるけれど、その負い目がないなら望まないという事だろうな。

 普通に考えれば、そうだけれど、世の中そうじゃない人間もいるからな。これが確認したかった。

「だとしたら、君は十分王子様に責任を取ってもらう資格があると思うけどね。

 教会の罠に引っかかったのは王子様個人の責任だし、罠をかけたのは教会だ。

 君に責任があるわけじゃない。」

 そう言ってみたところで考え方は変わらないかなぁ。

「ヒロシさん?

 話があるってことでしたけど……」

 不意にセレンが執務室にやってくる。

 タイミングが良すぎる気がしたけれど、彼女を呼んでいたのも事実だ。様子を見ていたなら、話は早いけれど。

 セレンはユリアを見て、少し驚いた顔をする。

「もしかしてお邪魔でしたか?」

 そう言いながら、気まずそうにセレンは俺に尋ねてきた。

「いえ、むしろ好都合です。」

 変な誤解をされてないよな?

 いや、さすがに分かっているとは思うんだけども。

「ちなみに、二人に面識は?」

 同じ定めを背負わされたもの同士だ。何処かで会っている可能性はある。

「一応ですけど、会ってはいますよ? 覚えているかどうかは知りませんけど。」

 セレンはため息をつく。

「お久しぶりです、シスターセレン。」

 ユリアは少し警戒したそぶりを見せる。これは完全に教会を敵とみなしているな。

「覚えててくれたんですね、シスターユリア。でも、まったく音沙汰がないとセス司教が漏らしてましたよ?」

 誰だ?

 ノックバーン司教がセレンの上司にあたるはずだけど、そのセス司教というのがユリアの上司か?

「あなたは別の来訪者のもとに派遣されていたのでは?」

 ユリアは少し戸惑い気味だ。

「ヒロシさんのもとに派遣されてましたよ?

 それで失敗しました。」

 なんというか、失敗したって言う割には幸せそうな顔をしている。

「は? 失敗?」

 教会との縁を切っていたせいで情報が入ってきてないのか、あえて伏せられていたのか、なかなか判断がつかないな。

 しかし失敗って言う前例がないとは聞いていたけど、そんなに驚くことなのか?

「そうです、失敗です。

 全然ヒロシさんが振り向いてくれなくて、寂しくなったから別の男性と結ばれました。

 それが何か?」

 開き直る様なセレンの態度にユリアは混乱の極みにいるようだ。

「だって、そんな。

 許されません。

 大体、他の男性と交わるなんて、そんなことあり得ない。」

 あり得ないって言われてもなぁ。

「あり得ないなんてことは無いですよ?

 別に私たちは仕向けられているとはいえ、自由意志を奪われているわけでもないですし。」

 その辺の心情は以前に話してもらえた。

 ある程度は対象者に好意や関心を持つように調整されるものの、それ一辺倒では相手側の関心を引けない。色々な試行錯誤の上、自然と相手に気に入られるようにふるまう。

 そこには、やはり自身の意思というものが必要になるというのが結論になったそうだ。

 とはいえ、その調整というもので未だに俺への好意がどこかしら残っている。故に、ジョンに対して罪悪感を覚えているとも話してくれた。

 何ともえげつない話だ。

「まあ、つまりレイオット様への愛情というのは偽りじゃないってことですよ。そこに負い目を感じる必要はありません。」

 少なくとも俺にはユリアが王子様に、ちゃんと愛情を向けていると思っている。

 だからこそ聞いたのだ。

 虐げられたままでいいのかと。

「でも、私は……

 レイオット様に真実を伝えませんでした。黙ったまま、純潔を捧げたんです。」

 負い目があるという自覚はあるんだなぁ。ただ、それにしたってからくりはある。

「本来それが正しいんですよ?

 私は、重圧に耐えかねて、全部話してしまいましたけど。目的や狙いをしゃべらないようにする調整も受けているはずです。

 ヒロシさんが、あんまりにも頑なだったから、というか入り込む隙間がなくて私は調整による抑圧が解けてしまったんでしょうね。

 私のせいじゃないです。」

 なんか俺が悪いみたいに言われるけれど、仕方ないじゃないか。出会う順番が違えば話は変わったのかもしれないけれど。

 俺にはベネットを裏切れない。

「まあ、つまり話せなかったのは教会の施した心理的調整のせいだし、そこも負い目に感じる必要はないですよ。

 こういうとユリアさんは怒るかもしれませんが、レイオット様の堪え性のなさが悪い。少なくとも、君は悪くない。」

 そう言われて、はいそうですかとはならないだろうけども。ユリアは、どうしていいのか分からず視線を彷徨わせてしまっている。

「で、俺の目的を話しましょう。

 何も善意だけで、君の境遇を心配しているわけじゃないんですよ。レイオット様は軽く見ておいでのようだが、能力を失うというのは割と重い話です。

 君に死なれて力を失ったとしたら、多分死にますよ?」

 力を失った普通の少年を果たして放置しておくだろうか?

 教会はもちろん、手が届かないかもしれない。

 だが、他はどうだろう?

 宮廷の中では、何やらおかしな動きがある。王子様を野望に掻き立て、踊らせようとしている影がちらついていた。

「多分、利用価値があるから生かして置いているに過ぎない。そんな気がしてならないんですよ。

 あるいは、死んだほうがましという状況だってあり得る。」

 少し脅しすぎかなと思わなくもないが、備えておくに越したことはないだろう。

「あ、あなたが信用に足る証拠もありません。」

 ユリアはあからさまな警戒心をむき出しにしてきた。

 結構結構。そうでなくては困る。

「もちろん俺が信用に足るかどうかは、今後の行動で判断してください。

 少なくとも、レイオット様の味方はあなたしかいない。そう思っておく方が賢明です。」

 もっとも、これも信用を得ようとする悪役が言うことがあるセリフな気がしなくもないけど。

 正直、王子様の味方かと問われると俺自身が首をかしげてしまう。現状は、敵対していないというのが正確なところだ。

「何を要求するつもりです?」

 ユリアは少し怯えたように聞いてくるけど、大したものを要求するつもりはない。

「あなたとレイオット様の身の安全ですよ。それは、もう一体になっているというのは、さっきの話でも分かりますよね?」

 少なくとも、俺の所にいる時に死なれたら困る。

 それに俺と王家とのつながりは王子様を経由していた。そこを考えれば、生きていてもらった方が何かと都合はいい。

 面倒ではあるけれど。

「ヒロシさん、なにもそんなに格好付けなくてもいいんじゃないですか?」

 セレンが笑いながら言ってくる。

 いや別に格好付けているわけではないんだけれども。

「俺はお節介焼きだから、恋人同士が仲が悪いのは見たくないんだ。どうせなら幸せになりなよ。

 ……そういう気持ち、絶対ありますよね?」

 俺はセレンの言葉に顔をしかめる。

 そんな気持ちはない、すべては打算なのだと、今更セレンを相手に恰好をつけることなんかできないよな。

「そりゃ、俺だって普通の人間です。

 あんまり周りがギスギスして欲しくないって言う気持ちもありますよ。

 まあ、レイオット様が俺の周りにいる存在だというには身分が違いすぎますけどね。」

 俺はため息をついた。

 どのみち、今は信用されていないだろうから、まずは行動からだな。

「とりあえず、ユリアさん。あなたにはビシャバール家の養子になってもらおうと思っています。

 うちの第二婦人であるレイナさんが、ビシャバール家出身なのはご存じですよね?

 だから、これについては大した手間ではないです。

 教会からは男爵家の娘という立場をいただいているでしょうが、どうせ一度も行ったことのない家でしょう?

 少し、偽りの経歴の格が上がったくらいに思ってもらえればいいですよ。」

 これについては、根回しをしておいた。レイナからは問題ないとも言われている。

 教会の方にはセレンから打診してもらうが、おそらく反対はされないだろう。

 そもそも目的を考えれば、手元に置けないなら対象に保護してもらえる状況の方が望ましいはずだからだ。

「その上で、正式にレイオット様と婚約してもらうつもりです。なので、結婚したいですかと聞いたんですよ。」

 ユリアは、どう対応していいのか分からないようで硬直してしまっている。

 まあ、理解しにくい部分もあるかもしれないから、お茶でも飲んで待とう。

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