12-14 困ったお子様だ。
周りの大人の影響って大きいですよね。
「ひ、ヒロシ、お前の領地にダンジョンがあるのか?」
王子様は慌てた様子で聞いてきた。
話してなかっただろうか?
「確かにございますよ、レイオット様。
なので、ある程度の危険を想定しつつ、全体を見て回ってもらいたいと依頼する予定です。」
ジョンたち年少組も成人を迎え、能力値が軒並みアップしていた。
もはや、少年だからと侮る要素はない。
ノインなんかは、俺と筋力の数値が同等になっていた。
細身なのに、俺と同じとかって。少し、嫉妬してしまう。
こういう能力値の理不尽さは、仕方ないとはいえ納得しづらいよなぁ。
「じゃあ、僕も連れて行ってくれ!!」
俺は、王子様の言葉にぎょっとしてしまう。
「何をおっしゃってるんですか?
あー、えっと、貴族の子息がみだりに遺跡に足を踏み込むなど言語道断です!!」
ジョンが少しいぶかしむような表情を浮かべた。
「まあ、足手まといは勘弁な。
ハルトみたいに騒がれたら、たまったもんじゃねえよ。
どういうご身分か知りませんが、お断りだ。」
そう言われると、王子様はうなだれてしまった。
「魔獣を捕まえてきて、とどめを刺すだけじゃレベルアップできないんだ。
僕だって強くなりたい。
というか、呪文を教えてくれ、ヒロシ!!」
ジョンたちを見て刺激されたのか、王子様はわがままを言い出した。俺は手で顔を覆い、こめかみを揉む。
「お父上がなんとおっしゃられるのか分からないのに、勝手に教えるわけにはまいりません。
どうぞ、ご容赦ください。」
俺が頭を下げると、王子様はうめく。
相当呪文を教えられない状況にご不満な様子だ。
いや、陛下のお気持ちは察するに余りある。幼児にライターを持たせるようなものだ。
何に火をつけるか分かったものじゃない。
「レイオット様、夕食のお時間です。」
ユリアがちょうどいいタイミングで、王子様を呼びに来た。
「ユリア、ちょっと立て込んでいるんだ。後にしてくれないか?」
王子様はうざったそうに手を振る。
「お薬の時間もございますし、後ろにずらすわけにはまいりません。
どうか、ご一緒していただけませんか?」
ユリアの芯の強そうな一面が垣間見える。相手の為なら、嫌われてもいいという覚悟が見えてくる。
「ちゃんとお薬飲みましょう。呪文よりもまずそちらからだと思いますよ? 」
俺が茶化すように言うと王子様は不貞腐れる。
「別に薬が飲みたくないわけじゃない。
というか、いつかは僕に呪文を教えてくれ。それを約束してくれたら、食事に行ってくる。」
俺は肩をすくめる。
「お父上の許可があれば、いくらでも。」
別に俺が教えるまでもないと思うんだけどなぁ。
王家であれば、腕のいい魔術師はいくらでも用意してくれるだろう。
「約束だからな!!」
そういいながら、王子様は執務室を後にした。
「なんだ、あのガキ。俺らとそんなに年変わらないよな?」
お前がしっかりしすぎなんだよ、ジョン。
「まあ、貴族の子弟なんてそんなものだよ。」
ノインは複雑な表情だ。
こっちはこっちで、無理やりにでも大人にならなければならなかった口だ。複雑な思いがあるだろうな。
「とりあえず、みんなも夕食をどうぞ?
ハロルドほどじゃないけれど、腕のいい料理人を雇っているから。
夕食は好きに食べてくれていいよ。」
そういうと、ユウは嬉しそうに笑う。この中では一番年相応の反応だ。
「ノイン、おっさんとユウを連れて行ってくれ。俺は、少しこっちに残るわ。」
ジョンがそういうとノインは頷いた。
「分かった。
行こう、ユウ。ベーゼックさんもよろしいですか?」
ベーゼックはどことなく不満気だ。
「少しよろしくはないけれども、リーダーの言う事には従うよ。重要な事なら話してくれるだろ?」
ベーゼックの言葉にジョンは苦笑いを浮かべる。
「話せる内容ならな。
ほれ、行った行った。」
ジョンの言葉に従い、セレンとジョンを残して3人は食堂へ向かう。
俺は、セレンに目をやる。
「元気な王子様でしたね。」
まあ、当然知っているよな。
「あー、そうか。王子様なのか。面倒くせえなぁ。」
ジョンは、頭を掻く。
「今は紹介したとおり、第二婦人の親戚だよ。」
そういう事にしておかないと、いろいろと問題が発生する。
「侯爵家のご親類ってだけでも十分権威だけどな。その上となれば、そりゃ王族ってことになるか。」
色々と経験を積み、ジョンの洞察力には磨きがかかっていた。
変な隠し事はできないな。
「しかしセレンさん、よく仕事を放置してジョンについて来れましたね?
平気ですか?」
ブラックロータス支店の支店長が暇なはずはない。
「書類仕事は継続ですけど、他の仕事は済ませてきました。こっちに滞在する間は平気だと思いますよ。
というか平気じゃないと駄目だと思うので、テストも兼ねてます。」
人を育てるという経験をしているからか、厳しい表情を浮かべるようになった。頼もしいと言えば頼もしいが。
「そう言っておけばサボれるもんな。」
ジョンは茶化すように言葉を付け足した。
「サボってません。ジョンはいっつも意地悪なんだから。」
そういいながらも、セレンの表情が緩やかになる。楽しそうで何よりだ。
「それで、王子様について何か言伝でもありますか?」
セレンは教会の連絡役でもある。今回来たのは、主にそちらの用事だろう。
「一応、”楔となる娘”の状況を確認することと、王子様のご様子をうかがいたいです。
何せ、彼女まともに報告をしてこないですから。」
なるほどなぁ。やっぱりユリアの気持ちは王子様の方に傾いているのか。
「掻い摘んで話しましょうか?」
とりあえず、王子様がこっちに来てからの行動を整理しながら、分かり易くまとめて伝えてみた。
「なんだそりゃ。えーっと、俺も別に大人ぶるつもりはないけど、ちょっとガキ過ぎねえ?」
ジョンの素直な感想に俺も頷いてしまう。まるっきり子供だ。
「でも、とんでもない力の持ち主ですよ。
その上で、聖戦士の癒しの手は有効となると、普通の手段では手を出しにくいですね。」
まあ、呪文を覚えだすと手が付けられなさそうなのは確かだ。
「だからこそ、陛下は周りに気を使われてたんだろうとは思う。それでも、完全におかしな連中を遮断できていないのが何とも。」
一体だれが変なことを吹き込んでいるのかが謎だ。少なくともユリアではない。
話している感じ王子様に同調することはあれど、過激な言動には眉を顰めるくらいには良識があった。
「それは、第二婦人に聞いた方が早いんじゃねえの?」
ジョンがそういうと、バンっと扉が開かれた。
「第二婦人じゃなくて、レイナって名前があるんだけどね。
どうぞ、お見知りおきを、ルクスのリーダーさん。」
そういいながら、レイナは綺麗なフォームでカテーシーを決める。
いきなりなんだ。
「レイナさん、ジョシュと晩餐では?」
いつもなら、そのはずだ。ジョシュは慌てて、執務室に駆け込んでくる。
「いやいや、腕利きの探索者と聞いてね。興味がわいたんだよ。
そのうえ、教会の興味深い御仁もいらっしゃるという。
一度ご挨拶をしておかないとって思ってね。」
セレンとレイナが睨み合う。えーっと、そういう仲なのか?
「まさか、大魔女様が私をご存じとは、光栄です。」
セレンは少し冷や汗をかいている。相手は、腕利きの魔術師だ。警戒するのは仕方ないか。
ただ……
「レイナさん、面白いおもちゃが見つかったとか思ってないですよね?」
そういうと、レイナは睨んでいた表情を崩し、にへらと笑う。
「ちがーうよー、決して同好の士を増やしたいとか、どんな恋愛をしているのか聞きたいとかそういう事ではないから。
あくまでも、そう個人の趣味じゃなくてね。
ヒロシ君の第二婦人として、仲良くしておこうと思って。」
俺はため息をつく。オタクは距離感がつかめないのだと、あらためて実感する。
似たようなところは俺もあるけども。
「ショタコン同士仲良くできるとか、そういう感じか?」
ジョシュを見ながら、ジョンがとんでもないことを言う。
「しょ、ショタコンじゃねえよ、ジョシュは大人になっても私のものなんだから。
それに見た目の年齢なんて若返らせるのも老いさせるのも自由自在だし。あまり舐めないでよね。」
なんか、図星っぽいな。
「私は別にショタコンじゃないです。随分と、すごい趣味をお持ちですね。」
セレンが冷ややかな視線を送る。
「えー、違うのぉ? じゃあ、こういう本には興味なし?」
レイナがセレンに何かを見せる。
どうにも男性陣には見せたくないらしく、タブレットの角度をいじるから内容までは伝わってこない。
「え? あ、な! えっと。
えぇ……」
そんなに興味をそそる内容なのか?
まあ、どうでもいいけど、俺の仕事場で変なことしないでくれないかな。
「部屋は用意してあるんですから、そういう個人の趣味はそちらでお願いできませんかね?
あと、ここは俺の執務室です。
あんまりはしゃいでると、タブレット没収しますよ?」
俺は笑顔で告げる。
「つ、続きは私の部屋で見よう? ね?」
仲が悪くなるよりかはいいけれど、布教活動はほどほどにしてほしいなぁ。ジョシュは困惑気味で、ジョンは呆れたように肩をすくめている。
「その前に夕食とってきたらどうですか?
あー、あと、ベネットの分を届けてくれると助かるんですけど?」
俺は、まだしばらく席を外せない。急ぎの決済がたまっているからだ。
レイナが安請け合いしてくれたけど大丈夫かなぁ。
まあ、レイナが駄目でもカイネがいるから平気か。さっさと仕事を終わらせよう。
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