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12-11 野望なんて呼べるようなものは持ってないんだけどな。

王子様も悪い子じゃないんですよ。

「なあ、ヒロシ。お前は、世界をどうしたいんだ?」

 タブレットから顔を上げ、いきなりそんなことを聞かれる。

 いや、世界をどうこうできる力なんかないが?

「なるようにしかなりませんよ?

 というか、話の規模が大きすぎて困ります。せめてもうちょっと、狭い範囲に絞っていただけませんか?」

 話の規模が大きくなりがちなのは、具体的に何を論じたいのかはっきりしていないからだろう。

 少しこちらから、話を振ってみるか。

「そうですね。

 狭くしすぎても分かりづらくなるかもしれないので、せめてこの国に限定しませんか?」

 王子様はどうやら不満なご様子だ。

「この国は、小さすぎる。

 僕が早く王になって治めてやらねば、滅ぼされてしまう。」

 なるほどなぁ。

 誰が、そういう認識を植え付けたのかは知らないけれど、そういう認識なのか。

「まず、何故小さいと断じられたのでしょう?」

 王子様は鼻白むが、具体的に何が小さいと判断したのか材料が見つからないようだ。

「確か人口が、帝国や隣のサンクフルール王国よりも少ないと聞いた。

 それに国土もだ。

 そのうえ、植民地も少ないと聞いている。」

 なるほど、三大国と言われる国を比較して小さいと吹き込まれたのか。

「確かに、国土や人口は、少ないと言えますね。ただ植民地に関しては、帝国やサンクフルールよりは多いですよ?」

 とはいえ、逆転したのはつい最近だが。

 サンクフルール王国がベレスティア連合との海戦に敗れ、情勢が大きく変わった。

 帝国は元々、地中海にあたる沿岸部を多く直接支配しているため別大陸の植民地というものに興味がない。

 なので、植民地の多さは連合に大分離されているとはいえ、フランドルは世界第2位となっている。

 この立ち位置、なかなか理解しにくい。

 俺がいた世界とは違い、ドイツに当たる位置にあるフランドルが海外領土をかなり確保している。

 これは、政治がドイツとは違い国家として既に成熟した状態で大航海時代が到来したことに起因しているのだと思われる。

 統一した意思決定で、新たな土地と接触を持てたのは大きい。蛮地や山脈に囲われているという地理的条件が異なっていたことも影響しているだろう。

 おかげで民族意識というのも早くに統一されている。

「植民地が多いって言っても、大半が貿易協定や租借地の条約を結んでいるだけじゃないか。

 父上は手ぬるい。

 もっとも人口が少ないのだから、制圧したいと思ってもうまくいかないだろうけど。」

 王子様は歯がゆさをにじませるけれど、全然問題ない。

 有利な貿易ができるという事が重要であって、土地を制圧することは二の次で十分だ。

 最悪、寄港地さえあればいい。

「確かに、人口の少なさがいろいろと足枷にはなっていますね。

 まあ、その分、サンクフルールや帝国のように土地争いは少ない方です。悪い事ばかりではないでしょう。」

 最近は、連合の方も人口増加で軋轢が生まれつつある。

「いい事なんかあるものか! それもこれも、食糧生産が少ないからだ!

 貧しい土地に農民を縛り付けて、絞るだけ絞っていたら増えるものも増えない!!」

 だから、租税を撤廃したのでは?

 かなりの減税だ。

 もちろん、これが出来たのも植民地との貿易が盛んにおこなわれた結果だ。

「まあ、いずれ食料は増産できるようになるでしょうね。そのための準備はしていますよ。

 それと、貧しいと言っても皆強かですよ。意外とため込んでいる。」

 実際、下手な騎士よりも豊かな生活を送っている農民は少なくない。

 租税が小麦ベースの課税であったために、それ以外の作物で儲けるという構図が作り上げられていた。

 その一つの代表例が甜菜だ。

 砂糖の原料なわけだけれど、これが意外と普及している。国内流通はもちろん、サンクフルールや帝国にも貿易に用いられるほどだ。

 もっとも、これも南の連合領で生産される砂糖ほどの量ではないから微妙と言えば微妙だけども。

「嘘つくな!

 年々、租税の額が減って行っているから、仕方なく租税を廃止したんだと言っていたぞ?」

 当たり前だ。

 小麦が対象の租税なのだから、農民はそれ以外に注力する。

「確かに、穀物生産は減っています。海外産の小麦が手に入れやすくなりましたからね。

 だから、農家は甜菜やら果実なんかを作るようになったんですよ。

 それなら、租税を取られませんしね。」

 なんか、甜菜という言葉に王子様は眉をひそめた。

 もしかして知らないのだろうか?

「砂糖の原料ですよ。甜菜じゃなくてビートといった方が通じますか?」

 そういうと王子様はむっとした表情を浮かべる。

「そ、それくらい知っている。でも、そんなに甜菜は儲かるのか?」

 儲からないなら、作ったりしないだろう。実際、アルノー村でも結構な量が作られていた。

 もちろん、あそこは穀物生産量も多い。というか、本当にやり手だ。効率と広さ、両方の利点をうまくバランスをとって作付けしている。

 その上で、代官様の目に留まらないように色々と手を尽くしているあたりが凄い。

「いろいろ苦労はあるみたいですけど、騎士10人分くらいの稼ぎを上げている村は知っていますよ。

 なので、むしろ収益から割合でとられる所得税の方がつらいとは言ってましたね。」

 農民が搾取されるだけの存在だと思い込むのは悪い癖だ。それなりに儲けられるからこそ、やる人間がいる。

 儲からないなら、誰もわざわざ進んでやったりはしないだろう。

 まあ、実際儲からないのに強制されていたような男爵領は知っているけども。

 このベルラントもそれに近かったかな。

「嘘だ。

 飢えに苦しんでいて、助けを求めている人がいっぱいいるって。

 だから、僕が王になって、国を導いていかないと。

 それに、世界中に助けを求めている人がいるって。」

 誰だ、そんなことを吹き込んだ奴は。

「飢えに苦しむ人がいるのは事実ですよ。

 でもレイオット様が王様になったからと言って、その人たちをすぐに助けられるわけないですよね?」

 もちろん何もせずに放置していれば、死ぬ人は増えるだろう。

 だから、手の届くところに手を伸ばすというのは間違った思想じゃない。正しい行いだろう。

「すぐに助けられなくても富をむさぼる害虫どもを駆逐すれば、いずれは助けられる。」

 俺は頭を抱えてしまった。

 よくある、強大な敵を倒せばすべてうまくいくという思想。

 しかも、その敵というのが曖昧だ。

 俺は、深いため息をつく。

「ちなみに、その富をむさぼる害虫に俺は分類されると思いますが?」

 王子様はたじろぐ。

 どうやら、本当に誰が敵かを想定してなかったみたいだな。

「とりあえず俺が敵認定されても構いませんが、仮にレイオット様が王様になったら敵をどうやって排除するんですか?」

 とりあえず、敵が想定できていないのは置いておこう。

 その手段を聞いてみる。

「だから、国軍を組織するのを推進した。

 それに、ヒロシが武器を提供してくれれば完璧じゃないか。

 金さえあれば、核兵器だって手に入るんじゃないか?」

 どうしよう。何処から突っ込もうか。

「つまり、えーっと。死とは救済であると?」

 流石にそんな危険思想じゃないよな? 頼むから、違っていて欲しい。

「何言ってるんだ?

 そんな悪役みたいなこと考えてないぞ? 核兵器を使えば、逆らってくる奴はいなくなるだろ?」

 つまり、抑止力として考えているのか。

 よかった。

 まだ、まともだった。

「えーっと。

 少なくとも、俺は核兵器を使おうとは思いません。そもそも、無差別殺戮兵器だし範囲を絞るのが大変です。

 他にも色々理由はありますけど、俺を経由して手に入るとは思わないでください。」

 色々理由を並べたところで、規格外に強い武器くらいの認識の人間に何を言ったところで無駄だろう。

「じゃあ、他の兵器ならいいのか? 戦闘機とか攻撃機とか。」

 目をキラキラさせて聞いてくるけど、兵器に詳しいのがなんか不思議だ。

 ゲームとかの知識で話してるんだろうか?

「もしかして、レイオット様はFPSをお嗜みに?」

 何故それをという顔をされたが、言動からある程度は推測できるわ。

 面倒臭い。

「自分としては、無用な血を流すことは控えたいと思っていますよ。

 ただ、必要なら準備しますし使用しますけどね。

 とはいえ、航空機は操縦するのに才能が必要です。一朝一夕で、扱えるものでもないでしょう。」

 そういえば、王子様は現代兵器を召喚できた異世界人の話はどこまで知っているんだろう?

「なんで、そこまで現代兵器を毛嫌いするんだ? 手に入れられるのを阻止したとも聞いたし。

 それがあれば、サンクフルールを撃滅して、今頃あそこを占領できてたんじゃないか?」

 そこまでは知っているのか。

「占領できますかね?

 多分不可能だと思います。

 兵士って言うのは、兵器があるだけでは飢えて死ぬだけですから。

 そういう意味で、呼び出された彼は不幸だったんでしょうね。

 出来る出来ないは置いておくとして、仮に占領したとして飢えて苦しむ人を増やしたいんですか?」

 そう問われると、逡巡する様子を見せる。敵国人がいくら苦しもうと構わないと言われるかと思ったら、そうではないんだな。

 善良なのか邪悪なのか、判断がつかない。

「多少の犠牲は仕方がない。

 だから核兵器があれば、僕に従ってくれるはずだ。」

 その自信はどこから出てくるんだろうなぁ。

 そもそも、渡さないって言ってるのに、聞いてくれないし。

「多少で済めばいいですね。人間って言うのは愚かですよ?

 力の差を見せつけられても、引けない人間だっています。そういう人間を取り除くのに核兵器ですか?

 魚をさばくのにチェーンソー使うようなものですよ。」

 ハルトならできるか。

 自分の例えにくだらない突っ込みが思い浮かんで笑ってしまう。

「お前は、僕の否定しかしない。」

 悔しそうに呟いて、王子様は涙ぐむ。勘弁してくれ。もう16才だろ。

 ……いや、年齢は関係ないか。悔しい思いをすれば、誰だって泣きたくなる。誤解だとはいえ、相手を笑い飛ばすのは失礼だな。

「申し訳ありません。

 決して、レイオット様を馬鹿にしたわけではないんです。

 先ほどの、魚をさばくのにチェーンソーを使うというたとえ話なんですが、それをできる男が居ましてね。

 例えに適切ではなかったなと自分の言動に笑ってしまったんです。」

 俺の言葉に王子様は察しがついたようだ。

「あの、もう一人の日本人。

 ハルトだったか?」

 俺は頷く。

「そうです。

 まあ、そんな大道芸みたいなことを実際やらせるつもりはないですしね。

 とても有用な能力です。

 使いどころは、ちゃんと考えないと。」

 どこまで知っているかは分からないけれど、とりあえず少し臭わせておこう。

「とりあえず俺がなぜ現代兵器を持ち込まないのかを説明しましょう。

 理由は簡単です。際限がないからですよ。そして、誰でも使えてしまう。」

 この二つだけで理由としては十分だろう。

「いずれ辿り着くかもしれませんが、奪われるリスクも考えずに使いまくっていたら、いつか手痛いしっぺ返しを食らいます。

 丁度、レイオット様にライフルを撃たれたようにね。」

 特に戦場では鹵獲の可能性は捨てきれない。それを分析され、より高い性能の武器を開発される危険性もある。

 さらに言うなら、この世界は魔法がある世界だ。

 いつの間にか、配下を洗脳されて核兵器を起爆される可能性だって無いわけじゃない。

 そういう意味で、王子様の”消魔”というのはとても有能な能力だ。

 ご本人は、デメリットにしか目が行っていない様子だけども。

「ヒロシが何を考えているのかは分かった。戦車って言うのが何なのかも、多分分かったと思う。

 だから、と言ってはなんだけれど、こういう本がもっと欲しい。

 当然、貰えるんだよね?」

 王子様はタブレットを指さす。

「勿論です。

 ただ、必要な本と言うのは何も、あちらの世界のものばかりじゃないと思います。

 どうぞ、ご自身でも必要な本を探してください。

 私だけの視点では偏りがありますからね。」

 別に俺は、俺のクローンを作りたいわけじゃない。学ぶなら、自分から手を伸ばすべきだろう。

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