12-10 当事者よりあたふたしてる気がする。
妊娠中の父親の気持ちを想像して書いてます。
うまく書けてる自信はございません。
王子様が客間に戻ったので寝室に行くとベネットが何やら書類とにらめっこしていた。仕事なのかな?
扉を閉める音で気づいたのか、書類から目を離してベネットが俺の方を見る。
「あ、ごめんなさい。色々と、片付けないといけないことがあって。」
いや、今は寝室を執務室にしてもらっているし仕事自体はしてもらっても構わないんだけど。
「いいよ、気にしてない。
むしろ、仕事は執務室の方が落ち着くなら、そっちにもベットを……」
そういうとベネットは首を横に振る。
「大丈夫。仕事って言っても、確認とサインだけだから。むしろ専用のお仕事部屋って言うのに慣れないなぁ。」
執務室と言ってもキャビネットやら簡単な面談ができるスペースを確保してるだけだ。
そこまで本格的なものじゃないんだけどな。
とはいえ、仕事の仕方は人それぞれだ。必要がないなら、倉庫にしてしまえばいい。
「どうしても慣れないなら考えるけれど、子供が生まれた後しばらくは残しておくよ。
使ってみてもらわないと分からないだろうしね。」
分かったとベネットは頷いた。
「ところでヒロシ。私は、動いちゃ駄目なのかな?」
少し不安そうに尋ねてきた。
まあ、初めての妊娠だ。色々と勝手が分からないところもある。
「ちょっと待ってね。軽い運動なら問題ないとは思うけれど。」
検索をかけて、妊娠中の運動について調べてみる。言われていることは様々だけれど、基本は動くべきだという内容が多い。
もちろん、激しい運動はまずい。お腹を圧迫するような運動もだ。
「まあ、とりあえずこういう運動ならいいみたいだよ?
細かい注意点はいろいろあるからお医者さんにも、これを渡しておくから指導に従ってね。」
カイネとかにも見ておいてもらおう。
食事なんかの注意もあるし、他にも気を付けなくちゃいけないこともあるよな。
「ヒロシ、頑張りすぎ。」
ベネットは、少し心配そうに言う。
頑張りすぎ、かな?
「そうかな? 初めてだから、勝手が分からないよ。」
そういうと、ベネットは笑った。
「それもあるけれど、働きづめでしょ? そのうえ私の心配までしてたら、倒れちゃうよ?」
仕事は王子様への対応もあるし、領地についての把握だってまだ完全じゃない。そう言うのもあるけれど、ベネットの方が大事だなって思う気持ちもある。
正直、ここはキャラバンのみんなのため、そしてベネットのために求めたものだ。
もちろん、男爵としての仕事をないがしろにしていいというわけじゃないけれど、優先順位は低い。
だって、土地は逃げないからな。領民が全員いなくなったって、やっていける。
「駄目だよ。私はそんなにか弱くないんだから。ちゃんとお仕事もしてね。
どうしても大変だったら、ちゃんと言うから。」
ベネットの真剣な表情に俺はどう答えるべきだろう。
何でもお見通しだなと思うし、彼女の言葉に従うべきだというのは分かる。
「落ち着かないよ。
仕事はちゃんと人に投げるし、王子様の対応もちゃんとする。
だけど、俺は……」
ベネットが、俺の言葉を遮るように唇に指をあてる。
「来ちゃ駄目とは言ってないよ。
でも、何もできてないとか思わないでね?
ヒロシは、私のためにいろんなことをしてくれてるんだから。
私は分かってるよ?」
なんだか恥ずかしくなってくる。
浮足立って、やれもしないことに必死になりすぎてた気もする。
結局、妊娠しているベネットの代わりにはなれない。
「分かった。
やれることをやるし、やれないことはやらない。
いつも通りにするよ。
サボれるときにはなるべくサボる。
本当に頑張らないといけないときに、動けないって言うのが一番駄目だからね。」
そういうとベネットは笑ってくれた。
「頼りにしてるよ、旦那様。」
「お任せください、奥様。」
そう、きっと何とかなるさ。下手に気負ったりせず、やれることをやろう。
結局、昼過ぎまで寝てしまっていた。
遅めの昼食をとり、遅れを取り戻すために食事をしながら報告書を読んでいる。
事前にレンタルしていた重機のおかげで瓦礫の撤去や道の修復は順調に進んでいるようだ。自分たちの為なら、もう遠慮はしない。使えるものはガンガン使う。
こちらでも、ようやく油圧シリンダーと油圧ポンプが出来たので、似たようなものができるけれど性能は段違いだ。
飛行船の積み下ろしクレーンはこっちの奴で作ったけれど、あれはあれで使い勝手は悪くない。焼玉エンジンで駆動させてるから、若干パワー不足な気もしなくもないけど。
飛行船は、現在は別大陸から帰還中だ。
船倉がいっぱいになったので、帰ってくるという報告が船長から届いている。一応、船長にはインベントリを付与しているから、別大陸の産物がサンプルとして頻繁に送られてきてはいる。
エメラルドだとか金だとかも多いけれど、むしろ植物の種の方がありがたい。唐辛子やピーマン、ピーナッツ、カボチャにイチゴ、パイナップルなんかがある。
パイナップルなんかは、刺し木で増やすけれど、この国で栽培となると大分難しいだろう。ハウス栽培するにしても、冬は越せない。
イチゴはいけるだろうか?
まあ、そこら辺はアルノー村の方に話を通す方がいいだろう。いろんな作物を喜んで栽培してくれる。
トラクターや収穫機のおかげで、アルノー村は盛況だ。
租税が無くなったことも大きく影響していた。
現在では、次期村長であるブラームさんは革職人の仕事に専念できるくらいの余裕があった。時折、変わった魔獣の皮を使った商品を作ってもらっては、そのまま販売したり魔法で強化して売ったりさせてもらっている。
俺が男爵になってしまったので、関係が少し変わってしまった。何せ貴族と平民だ。
以前よりさらにへりくだって対応されてしまう。
まあ、俺の気持ちの問題でしかないから、気にしないことにする。
「ヒロシ、少し領内を巡らせてもらったけど、ショベルカーとか買えるんだ。」
王子様が食堂に入ってくるなり、俺に重機の話をしてくる。
まあ、目につくか。
「あれは、レンタルです。俺の能力は知っていますか?」
知らないわけないだろう。
ライフルの件を知っていたようだし、それなりに調べてはいるはずだ。
まあ、誰を使って調べさせたのかは気になるが。
「知っているさ。
でも、レンタルまでできるのか。もしかして、戦車とかもレンタル出来たり?」
俺は思わず眉をひそめてしまった。
「出来るんだな? じゃあ、僕に貸してくれないか?」
そういうところだけ目聡いのは勘弁して欲しい。
「あれは、こっちの技術でも再現可能だからレンタルしたんですよ。戦車を貸してくれというなら、戦車を作ってから言ってください。」
そういうと王子様は鼻白む。
「ほぼ出来てるようなものじゃないか?
国軍に大砲を納入したのは知ってる。あれを重機の車体に乗っければ戦車になるだろ?」
軍事オタクが聞いたら噴飯ものだな。
まず、どうやって乗っけるというのだろう。
そして、そもそも、それで出来上がるのは自走砲だ。
戦車とは違う。
とりあえず、戦車とは何かを理解してもらうべきだな。
「とりあえず、これを読んでください。
その上で今言ったことが正しいかどうか答えが出たら、もう一度聞かせてください。」
俺は、タブレットを渡す。
中身はいろいろと入っているが、一応分かり易い戦車の解説書を開いておいた。
「タブレット?」
王子様が驚いているのも無理はない。
元の世界のものが買えるとはいえ、タブレットまで意識する人間はそう多くはないだろう。何せ充電はどうするのかとか、ネットがないと意味がないと考えるだろうからだ。
もちろん、ネットはつないでいない。あくまでも、電子書籍などの資料を見せるために渡している。
「充電が必要でしたら行ってください。ここを照らしているのは、電気の光です。
発電しているのは察しておられたかと。」
そういうと王子様は天井を見上げた。
「あ、明るいとは思っていたけど、電気だったんだ。」
気付いてなかったのか。
いや、まあここで分かってもらえたなら、良しとしよう。
「そういえば、ユリアさんはどちらに?」
昨日はずっと王子様の後ろに控えていたけれど、今日は姿が見えない。
「知らない。
僕が薬を飲んでいるのを見て、それは誰からもらったのか聞いてきた。
それで、この城の医者にもらったと言ったら、会ってくると。」
そういいながら、王子様はタブレットにかじりつきだ。
しかし、王子様ではなくユリアが興味を示すのか。不思議なものだな。
「ちなみに、お薬の方はいかがですか?
ちょっと熱が出ていたそうですけど。」
そう聞くと、そういえばと王子様は思い出したように顔をあげる。
「悪くない。熱も引いた気はするし、下していたのも治った。
そういえば、トイレがちゃんと水洗なんだな。
宮廷でも水洗になったのはつい最近だったから、こっちに来るときは不安だったんだ。」
なるほど。
現代人的な感覚だとウォシュレットもないこの世界って言うのは、相当苦痛だっただろうな。
「紙でお尻を拭くのでさえ、潔癖症みたいな扱いだったし。
布でお尻を拭くなんて気持ち悪くてしょうがなかった。」
トイレットペーパーも最近普及し始めた。
再生紙を利用したもので拭き心地はやはり悪いけれど、布よりかはましだろう。まだまだ上流階級の一部でしか普及していないけれども、その恩恵は王族なら受けやすいか。
偉そうなことは言えないけれど、それってとても贅沢な事なんだけどね。
まあ、実感はしにくいよな。
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