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12-8 本当にこじらせてるなぁ。

人権って大切よね。

「いや、聞かせる。

 じゃないと、お前は僕のことを排除しようとするだろう?」

 聞いたうえで排除するかもしれないじゃないか。

 やめてくれ。、

「そもそも、この世界は間違っている。生まれ落ちた瞬間、身分でも差別され魔力の有無でも差別される。

 奴隷の子は奴隷として、貴族の子は貴族のことして、延々と差別される続けている。

 そんな世界が正しいとでもいうのか?」

 知らんがな。

「世とは理不尽なもの。身分とはそういうものでございます。」

 もちろん努力で覆せる部分はあったにせよ、差別とは生きている以上は覆しようのないものだ。

 植物にだって種が落ちた場所で繁茂するか枯死するか、運命が左右される。

「お前は、それでも日本人なのか? 奴隷が虐げられてても平気なのか?」

 どう答えよう。知らない人間のことを憐れむのは違う気がするんだよな。

 しかし、ユリア嬢に聞かせて平気な事なんだろうか?

「ユリアには出自に関して、話してある。

 そもそも、転生者と知って近づいてきたんだし、今更だろう?」

 そんなこともないと思うんだよなぁ。

 まあ、平等主義は教会の教義とは反しない。そういう意味では、平気なのかなぁ。

「正直、日本でも虐げられてた人は虐げられてたと思いますよ? 努力でどうにかなる境遇じゃない人もいたでしょうし。」

 王子様はむっとした顔になる。

 揚げ足取りか何かだと思われてそうだなぁ。

「もちろん、気持ちでは分かりますよ。

 奴隷は人じゃない。

 道具です。

 そんなのは許せないという感覚は至極まっとうでしょう。」

 王子様はほれ見ろという顔をするけど、まだ続きがある。

「でも、その感覚を押し付けるのは、本当に平等を求めているからなんですかね?

 自分が虐げられているという気持ちも含まれてませんか?」

 いまいちピンと来ていない顔をされた。

 でも、王太子になれないことを理由に平等を求めてるって話をしたらキレられそうだなぁ。

「レイオット様が前世、どういう境遇にいたのかは知りません。だから、俺の境遇で話しましょうか?」

 とりあえず、洗いざらい白状する。

 改めて、自分がダメ人間か再確認させられるので、あまりやりたくないんだけども。

 みるみる王子様の表情が曇る。

「で、そんな俺が平等を叫んだとしましょう。どう思われますか?」

 どう答えたものかと考えあぐねたようだが、結論が出たようだ。

「ふざけるなって言うな。」

 うん、俺もそう思う。

「まさしくそれです。

 いかに平等を唱えようと、それが私利私欲から出てくるものなら誰からも支持を得られません。

 でも、人間って言うのは私利私欲にまみれているものです。少しでも自分の有利になるように画策したうえで、これが平等だという生き物なんです。

 ましてや、この世界では本当に能力に格差が大きい。

 そこに平等を持ち込むのは並大抵の努力ではできませんよ?」

 険しい表情で、王子様が唸る。

「いや、でも努力すればできるんだろ?」

 そこに食い下がってもなぁ。

「まあ、少なくとも今すぐには無理です。俺だって、奴隷を一人連れていた時期がありますよ。

 ハルトに至っては、元奴隷を嫁にしています。」

 なんか人殺しでも見るような目で見てくる。

 いや、まあ人殺してるから間違ってはいないけども。

「今は解放していますよ。

 人を襲ったゴブリンだったので、そのまま放っておいたら処刑されてたでしょう。

 だから、奴隷にしました。

 彼の仲間、いや、使役者と同類を殺してしまったので、罪滅ぼしという面もありますが。

 ……罪滅ぼしじゃないか。自己満足ですよ。うん。」

 細かく説明しないと難しいよなぁ。王子様は混乱をきたしているようだ。

「とりあえず、俺の話は置いておきましょう。

 つまり、奴隷にすること自体が救済になる場合もあります。これは事実です。

 もし、件のゴブリンに絵描きの才能が無かったとしたら、今も奴隷でいることの方が幸せな場合もあります。」

 まあ、この話を受け入れろと言われても難しいかもな。

「で、少なくともこれらの状況を変えるためには何が必要でしょう?」

 少なくとも必要とされる条件は一つではない。

「じ、人権。」

 あー、うん。

 そうなんだけど、そうじゃないんだよなぁ。

「人権って、つまり相手を人間と認めることですよ。それにはまず余裕が必要になる。

 明日、死ぬかもしれない人間に相手を尊重しろなんて求めても無駄でしょう?」

 ようやくといったように王子様は頷く。

「確かにそれはそうだ。

 豊かにならなければ、人権は目覚めない。」

 だから自分が豊かにしてやろうってことなんだろうな。王子様の考え方にも一理ある。

「ただ、それは一つの要因でしかありません。いくつか抜けている要因があります。」

 王子様は、また眉を顰める。

 ユリア嬢に至っては、最早思考を放棄してるな。

「教育と体験です。

 相手を尊重するという事がどういうことか知らなければなりません。尊重されたという経験がない人間に相手を尊重するという考えが芽生えるわけもないですよね?」

 おうむ返しに教育と体験と王子様は口にする。

「じゃ、じゃあ、学校を、学校を作れば。」

 俺はため息をつく。

「通ってくれるといいですね。不登校児っていっぱいいましたし、いじめだってある。

 あれって、少なくとも尊重される体験とは程遠い気はしますけど。」

 全国に遍く学校を作るような余裕が、この国にあるのかという問題もあるし、学校を設立したからって明日からみんな人権って大切とかって思うような魔法みたいな展開にはならない。

「それとですね。王子様、あなた自身差別主義者ですよね?」

 悲しいかなこれは事実だ。

「何の話だ! 僕は差別なんて!!」

「人の嫁、非処女だからって穢れてるとか抜かしたのはどこのどいつだ!!」

 相当俺も根に持ってるなとは思うけれど、言わずにはいられなかった。

「いや、それは、その……

 やっぱり嫌だし。」

 口ごもるってことは、それなりに反省はしてるってことだよな。

「まあ、いいです。

 そういう感覚の部分って言うのは人それぞれですし。

 ただ、少なくとも平等って言うのは簡単な事じゃありません。

 陛下はその点で、着実な道を選ばれてると俺は思っていますよ。」

 正直、陛下はかなり開明的な君主ではあると思う。

 建前かもしれないが、民とともにあるという言葉は俺には響いた。

 王子様には遅々として進んでいないようにも見えるだろうが、俺にはむしろ早急に進めすぎているとすら映るほど、素早い改革を行っていると思う。

 不敬罪の撤廃や租税権の剥奪なんか、相当反発されておかしくない。

 でも、いずれはやらなくてはいけないことだ。貴族が強いままでは、誰も意識は変わらないだろう。

 その上で、商人にも税負担を求めたのは大きい。貴族がへこめば、次に目を出すのが商人だ。

 税を負担させるという事は、政治へと意識を向けさせる機会にもなるだろう。

 

 良し悪しは問わずだが。


 その上で、租税を撤廃し、農民には利益をベースとした税制を持ち込んだ。これは、つまり知識を身に着けたものほど有利になることを示している。

 こうすることで、向学心を芽生えさせる意図もあるはずだ。

 もちろん、妨害が無いわけじゃない。外国の影がちらついている。全てが上手くいくとも限らない。皆が皆、聡明であるはずもないからだ。

 ただ、少なくとも陛下は今できる最大限のことをしている気はするんだよな。

「僕が政治を握ればすべてうまくいくのに。」

 流石に三男坊の教育までは手が及ばなかったみたいなのが残念だ。

 少なくとも前世の知識が有利に働くとも限らない。現代的な感覚が抜けない以上、この世界は不合理に満ち満ちて見えるのも致し方ないのかもな。

 俺だってそれは同じだ。

 きっと、この世界の人から見れば何を言っているのか分からないと受け取られてもおかしくはない。

 だって、ユリアがついてこれず半泣き状態だ。何を話してるのか訳も分からず付き合わされているのだから、可哀そうだよな。

「ユリアさん、どうぞ食事続けてください。

 それとレイオット様、時間はたっぷりありますのでまたお話をしましょう。」

 とりあえず、根気強く付き合うしかないよな。

 まあ、少なくとも戦争に関する考え方は最低限確認しておきたい部分でもある。

「父上が僕をここにこさせたのは、ヒロシに説得させるためか。

 逆に僕がヒロシを取り込めるなら、状況は変わる。

 別にこの国じゃなくたっていいんだ。僕は僕の国が欲しい。」

 なんとも野心のお強いことで。

「ならば、もっと勉強していただくことがあります。そもそも、なぜバーナード卿と仲たがいされたんですか?」

 そういうと、王子様はきょとんとした表情になる。

「いや、仲たがいなんかしてないけど? バーナードが弱腰だから、叱咤激励しただけで。」

 自覚なしなのか。

「もうちょっとお立場をお考えになってください。

 王族の推薦で参謀になった人が、その王族から叱責を受けたとなれば立場が危うくなったと思われても仕方がありません。

 場合によれば、やっかんだ人間が引きずりおろそうと手ぐすねを引いて待っていたでしょう。少しの方針の違いですぐ叱責なさるのはおやめください。」

 王子様はとても不満気だ。

「あの時は父上が意気上がる貴族たちを抑え込んだじゃないか。あれだって異例の叱責だろう?」

 全然意味合いが違う。

「彼らは、陛下から何かいただいてその地位にいた人間ではありません。

 叱責の意味合いが全然違います。平等を目指すあまり、現状の格差がある状況というのを把握なさってませんね。

 それでは優秀な部下を見殺しにすることになりますよ?」

 本当、軍記物ではよくある話が目の前で展開されてて気が滅入る。まさか小説の中の出来事が目の前で展開されるとは思いもしなかった。

 いや、もう本当、フィクションはフィクションのままであってほしい。

 物語の中なら、ここからどう逆転するかという熱い展開になっていくんだろうけれど。小説とは違い、何もかもが上手く言ってくれるとは限らない。

 場合によれば、バーナード卿は見捨てざるを得ない事態になる。

 それはできれば避けたいところだ。

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