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2-3 美人の涙はずるい。

初の戦闘シーンですが短めですいません。

「はい、どうぞ。」

 とりあえず、持ってこられたバケツに水を入れて手渡す。

ベネットは、無言でそのバケツをのぞき込んでいる。

 なんだろう?

 別に変なもんは仕込んでないんだが?

「ありがとう……」

 そういうと、ベネットはそそくさとテントの裏に回っていった。

凝視するわけにもいかんので俺はたき火の方へ戻っていく。

「すいませんトーラスさん。さっきベネットさんは何か言ってました?」

 さすがに、何かベネットに引っかかることがあるんだろう。

俺の呪文の使い方がおかしいのか?

さすがにべた褒めされて、”こんなの普通だろ?”みたいな、お約束はやりたくない。

「いやベネットが言うには、呪文の使い方がおかしいって言ってたね。」

 呪文の使い方?

まあ、独学だから使い方がおかしいのはおかしいんだろうな。

いちいち、能力確認すれば事細かに解説してくれるとか、おかしな事と言えばおかしな事だ。

「独学でしたからね。使い方がおかしいと言われれば、そうかもしれません。」

 でも別に凄いことをやってるわけじゃないと思うんだけどなぁ……

「呪文の使い方が効率的すぎるとか言ってたかな。

 大して魔力がないのに、無駄がないとか何とか……

 正直なところ俺は門外漢だから、彼女の言ってることはさっぱりだったよ。」

 トーラスも困った様子で首を振っている。

どういう感じで俺が呪文を使ってるように見えてるんだろう?

これ以上トーラスに聞いても、ベネットが何を問題視してるかは分からないなだろうし。

 とりあえず、服を貰おう。

いつまでも、切られた皮を羽織ってるわけにもいかないし……

皮は後で繕えば、また使えるよな。

「グラスコーさん、服を見せて貰って良いですか?」

「あぁ、とっとと替えちまおう。いつベネットがかんしゃく起こすか分からんしな。」

 まあ、鬼の居ぬ間に洗濯じゃないが、刺激しない方が良い相手が何かしてるなら、そのうちに済ませた方が良いよな。

とりあえず、チェニックとコートを見繕う。

これを着ておけば、目立たなくて済むはずだ。

ちょっとチェインメイルとか欲しいかなと思ったけど、着心地は悪そうだしな。

 命の危険もあんまり感じないし、まだ良いか……

 いや待て………いきなり斬りかかられたんだから、ちょっと防具のことは考えた方が良いかもしれない……

 うーん。

 重そうなのがなぁ……

 まあ、ともかく着替えてしまおう。

防具については後日考える。


 着替えて戻ってきたら、ベネットも体を拭き終わったのか戻っていた。

 さて、どうしたもんかな。

気まずい。

聞きたいのは魔法についてだ。

 どうにもゲームと同じように系統があり、その系統で使える呪文が違ってくることは何となく理解している。

実際、まじない師のヨハンナが使う呪文を習うことはできなかったし俺がヨハンナに教えることも叶わなかった。

聞けば、治癒や精神操作に長けるのがまじない師の呪文らしいので、習えたら凄く助かったんだけどな。

 そういうわけなので、ヨハンナは俺の呪文を知らないし、俺もヨハンナの呪文について詳しくは分からない。

だから、系統が同じでもなければ使い方について詳しいことが分からないのが普通だろう。

なのにベネットが俺の呪文に疑問を持つという事が起こった。

ゲームでもそうだったかが、俺の呪文は聖戦士が扱う呪文とは系統が違うはずだ。

 実際、”鑑定”で見たベネットの呪文リストは俺がゲームでよく見た聖戦士の呪文系統と合致している。

治癒に、自己強化がメインだ。

そう考えると、なんで俺の呪文について疑問を持ったのかが凄く謎だ。

 こう言うとき、すっぱり単刀直入に聞ければ良いんだろうけどなぁ……

 しかし、なんかおかしいな。

呪文についてとは別に、何かがおかしい。

違和感を感じるのは何でだろう?

別に、グラスコーも何をしてるわけでもない。

帳簿をちょっと眺めていたり、火をつついていたり。

トーラスも銃の手入れをしていたり、あくびを噛みしめている。

ベネットは、俺の方を見てうなったり、うつむいてうなったり。

ぱちぱちとたき火がはぜる音がして、時々大きくはぜて火が揺れている。

 特別なにかがおかしいと感じるようなことは……無いよなぁ……

 みんなのんべんだらりと過ごしているし。

でも、何かがおかしい気がする。それが言語化できず、もどかしい。

何となく、俺は周囲に目をやった。


 あ!


 あぁ、違和感の正体が分かった……

 と言うか……

 おいおいおい!

 マジか!!

 俺は。インベントリの中身を覗く。

その中に目当ての物があって、安堵した。

俺は迷わず、それを自分の手に呼び出しながらたき火を飛び越してベネットの方へと駆け寄る。

 そして、俺は思いっきりそれを……

 槍を突き出した。


 ベネットは目を見開き、恐怖の表情を浮かべていた。


 槍が突き刺さる感触と共に、槍の柄がへし折れた。

乾いた木が砕ける音が響く。

反復練習って大事だな。

狙い過たず、ベネットを襲おうとしていた、馬鹿でかい狼の口から後頭部へ槍の先が突き出ている。

「狼だ!!立って!!」

 俺は、ベネットの腕を掴んで無理矢理引き起こす。

っていうか、誰も警戒してなかった。

 やばい!!

 へし折れた槍の柄をぶん回しながら、何とか囲まれている状態から脱した。

 でも、できたのはそこまでだ。

俺はすぐに足に噛みつかれ、引き倒される。

ざっくりと牙が足に食い込むのが、じんわりと広がる痛みで分かった。

群がってきた狼が噛みつこうとする度に、柄を盾にして何とか致命傷は避けてるが俺にできることは、もう無い。

必死に防戦している間に誰かが撃退してくれることを期待するしかない。

銃声が響き、集っていた狼の頭が吹っ飛ぶ。

切っ先がかすめ、徐々に集る狼が減っていく。

俺は、背中を地面にこすりつけるようにはいながら、狼との距離をとろうとする。

幸い、でかい狼は最初の一頭だけだったらしい。

銃弾や切っ先が何度かかすめた気もするが、何とか無事なようだ。

 ようやく、俺に集っていた狼たちが動かなくなり、つかの間の静寂が訪れた。

聞こえる音は、乱れた心音と俺自身の耳障りな吐息だけだ。

助かった。

俺は、しばらく乱れる呼吸を落ち着けることもできず、寝っ転がってるしかできない。

 死ぬかと思った。

 あー、俺はハンス達に守られてたんだな。

そんな当たり前のことが今更に分かってようやく落ち着いた。

深く息を吸って、吐いて、目を閉じる。

「ごめんなさい。」

 ふくらはぎが、温かい。

あー、ベネットが治療してくれてるんだな。

俺は目を開けた。

文句の一つでも言ってやろうと思ったが、その気力が萎えた。

 泣かれてたら、怒った方が悪者にされる。

 いつも思うが、女性の涙はずるい。

 美人の涙なら、尚更ずるい。

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