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12-4 めでたいことがあっても、通常業務は無くならない。

そして父親というサブクラスも取得です。

 とりあえず、立ち眩みという事で部屋で安静にしてもらうことになった。ベネットは少し不安そうだ。

「ねえ、私、お母さんになれるかな?」

 ベットに腰かけて、俺に縋るような視線を向けてくる。

 お腹を圧迫しないようにワンピースに着替えてもらっているけど、なんだか落ち着かないらしく、さっきからスカートを弄り回していた。

 なんか不吉なことを言わないで欲しい。

「大丈夫、ちゃんと産めるように準備はするから。ベネットは、不安がらずに落ち着いて。」

 彼女の横に腰かけ、手を握る。

「あ、そうじゃなくて。

 その……

 母親として、ちゃんと子育てできるかなって。」

 なるほど。

 人の親になったことはないから、正直俺もよく分からない。

 でも、ちゃんと親として子供に接してあげられるのか不安だという気持ちはよくわかる。

「そうだね。

 俺も、父親になれるかな。」

 本来なら、日本にいたころに子供どころか孫がいてもおかしくない年齢だった。

 なのに親になるとか、そういう意識もなく無責任に一人で暮らし、過ごしていたわけだ。

 そんな人間が果たしてちゃんと親をやれるだろうか?

 正直、自信がない。

「ヒロシは、なんだかんだいいお父さんになれると思うよ。責任感が強いし、人の気持ちにも敏感だし。」

 いや、責任感がある人間があんな生活は送らないんだよなぁ。

「正直、こっちに来てから色々と頑張ったけど、俺は無責任な人間だよ。

 変われた気はしない。

 人の気持ちもよく分かってないし、ベネットにもいろいろ迷惑をかけてるよね。」

 ベネットは首を横に振るけど、ひいき目はどうしたってあると思う。

「でも、親にならなきゃだめだよね。せっかく授かったんだ。

 駄目な俺だけど、それでも精いっぱい父親になれるように努力するよ。

 お父さんの子供でよかったって思われるように。」

 そういう俺にベネットは、頷く。

「一緒に頑張ろう。

 私も生まれてきてくれる子に、生まれてよかったって言ってもらえるようにしたい。」

 ベネットは力強く笑った。

 やっぱりベネットは強い子だよな。

 

 領内にある村は4つ。全て、直接統治していた場所だ。

 それほど広くないベルラントでは当然だろう。配下に回せるほどの余裕はなかったはずだ。

 村の規模もアルノー村に比べると半分くらいだし、収穫量は1/3くらいしかない。記録を見る限り、豊かとは言い難いだろう。

 税金は割合だから、徴収金額が低くても俺は困らない。ちゃんと帳簿通りに納税してくれれば、国から与えられた仕事は問題ない。

 もちろん、納税額が増えれば、そこから俺に与えられる報酬も増えるわけだけども。そこに力を入れるくらいならミリーたちにお願いしている畜産に力を入れたいし、遺跡の運営なら育てなくてもすぐに収入が得られる。

 正直好きにやってくれというところではあった。

 とはいえ、一切無視するわけにもいかない。領内に住んで活動している以上は、俺にも責任がある。

 なので、村長を呼んで会合を開いたわけだけども。

「皆さん、睨み合っていても話は進みませんよ? できれば、穏便に話し合いませんか?」

 ダートマン家が好き勝手やった結果、領主に反感を抱いていたようで村長全員が俺を睨んでいる。

 そもそも、租税を5割、国に納める税も合わせて7割も奪ってたんだから恨まないはずもないよな。

 まあ、この割合は適当な数字だ。

 正確には小麦5割をダートマン家に持っていかれて、他の農作物を含めて金額として把握できる2割を税金として徴収されるから、場合によってはもっと負担は大きかったかもしれない。

 もちろん、全部を計上しているとは限らない。

 自分たちで消費する分なんかはいくらでも誤魔化しは効く。

 なので内情は図りかねるけれど、だからと言って余裕があったとは言えないだろうな。

「男爵殿がどのような方かは知らぬが、トウモロコシについては知っている。あれで蛮地の部族から暴利をむさぼっていると聞き及んでいますぞ。」

 人の口に戸板は立てられない。

 俺が大手キャラバンから水と引き換えに大量のトウモロコシを得ている噂は有名なようだ。

 元々、蛮地では水資源が豊かではないにもかかわらず、水源がいくつか見つかっただけで占有を始めたのはあちらからだ。

 そのうえで去年から井戸の水が枯れ始め、トウモロコシの育成に支障が出始めたのは俺の責任じゃない。

 水と1対1での交換はそんなに暴利だろうか?

 他のキャラバンが略奪しに来たりきつい農作業を嫌ってキャラバンから離れる人が増えていて大変だとは思うけれど。

 ……蛮地で農業やるのは、相当難しそうだな。

「蛮地だと水源があっても守るのは大変そうですね。水もそんなに消費するとは思ってませんでしたから。

 でも水が十分あり魔獣も少ないこの土地なら、耕す必要もなく育てられるいい作物だと思いますよ?」

 俺は笑顔で答えた。

「どこまでお考えかは分かりませんな。いずれにせよ、租税が無くなり我々としては喜ばしいことです。

 できれば、税の減免も願いたいところですな。」

 図々しいと言えば図々しいけど、それだけ余裕がないという事でもあるだろう。

「構いませんよ?

 但し、しっかりと帳簿をまとめて会計を行って、ちゃんと監査を受けていただければと言う前提はありますけどね。」

 税の誤魔化しをなくすためには、そうしてもらうしかない。

 もちろん脱税がばれれば罪に問われるから、なかなか首を縦に振りづらいだろうな。

「とりあえず監査を受け入れてくれるところは3年間、税を10%下げましょう。その上で、不作の際には不足分の作物や植え付け分も補填します。」

 これでもかなりの譲歩だ。

 不足分を補う費用は俺の持ち出しになるわけだから、俺が一方的に損をする。

 それでも、そうしてやらないと従ってはくれないだろう。

 4人のうち3人は、それならばという表情になっている。

「監査を受け入れるのは構わないですが、こちらの要望もお聞きいただきたい。」

 最後の一人が口火を切る。どんな要求だろうか。どうぞと促すと、最後の村長が深いため息をつく。

「出来れば、トラクターと収穫機を無償で貸与願いたい。もう、ジャガイモで糊口を凌ぐのはうんざりだ。」

 無償貸与かぁ。

 大胆に切り込んでくる。

「さすがに無期限ではないですよね?」

 俺は頭を掻きつつ、確認を取る。

「5年だ。5年たってトラクターも買えないようなら、土地は返上しよう。そこまでやって駄目なら、そもそも農業に向いてない。

 別の仕事を探しますよ。」

 随分と挑戦的だ。俺は、他の3人の村長を見る。

「うちは、無償貸与はいりません。博打は打てませんからな。」

 一人は安全を取った。

「1年間、試しにお貸し願いたい。

 有償で構いませんので、土地の権利については保証していただきたい。」

 二人目は保険をかけて挑戦を選ぶ。

「帳簿の件は承知しました。トラクターについては……

 後日返答させてください。」

 最後の一人は、曖昧な態度をとった。やっぱり人それぞれ考え方は違うよな。

「村の人たちの了承を得て決めていただいて構いませんよ。トラクターについては、準備させていただきます。

 俺は元々商人だ。

 いい取引ができると思います。」

 ともかく、これで村への課税については片が付いた。後は、約束のトラクターを準備してやればいいだろう。

 作付面積や従事者の人数を勘案して、すべての村に配備するなら軽く20台くらいは必要かもしれない。

 収穫機も同数。1台5万ダールはする代物だ。

 焼玉エンジンを搭載して、地面を掘り起こしたり作物を回収する機構を付けた車だから安い代物じゃない。

 結構、手痛い出費だなぁ。

 乗っかって操縦する必要があるから操縦指導とかもしないといけないし、トータルで3000万ダールくらいはかかるかなぁ。

 年間の維持費もあるし、中古で売りに出すこともできるとはいえ完全に赤字だ。

 まあ、これくらいの出費なら余裕はあるけれども。

 

 城の側面を《石壁》の呪文で覆っていく。窓の空いている部分は、開けておかないといけないので、結構面倒くさい。

「なかなか見栄えが良くなったじゃないかヒロシ。」

 後ろから、ハンスに声をかけられる。

「外観だけはね。中身はこれからも手を加えないと。

 でも、とりあえずは王子様を迎えられるかなぁ。」

 俺は面倒くささにため息が漏れる。

 一体どんな人物なのか、今から気が滅入る。

「ベネットが妊娠したんだろ? そんな辛気臭い顔をするな。

 それより王子様が来るとなったら、警備は強化しないとな。うちの連中だけじゃ当てにならん。

 カレルの所にも声をかけておくべきだな。」

 確かに、ハンスに任せている衛兵たちだけじゃ心もとない。

 元々の衛兵たちはダートマン家に付き従い、ほぼ壊滅してしまった。

 一部残った人間も、オークなんかに従えるかと出て行ってる。

 だから、ほぼ経験のない村の若者や町で商売をしている人間の子弟たちが中心だ。中には元傭兵や元スカベンジャーという経歴の連中もいるにはいるが、当てになるかと言われると微妙だよなぁ。

 それぞれ問題があって、元の職業から離れてるんだし。

「ちなみに、遺跡の方はどうだった?」

 確か、砦を築くという事で、随伴してもらっていた。戻ってきたという事は、砦は完成したんだろうか?

「そうだなぁ。

 とりあえず、出入り口にシャッターは取り付けておいた。

 砦も急ごしらえだが整ったし、あとは慣れていけば何とかなるだろう。すでに気の早い連中がたむろし始めてるから、出来れば早めに受付ができる子を用意してやってくれ。

 買い取り業者は旦那の所でやってくれるんだろう?」

 おおむねハンスの言うとおりに事は進んでいる。雇った事務の子を連れていけば、とりあえず機能はするはずだ。

 買取はアノーの下についていた子、露店はロドリゴの所の新人たちが回してくれるらしいから、ほぼ問題ないだろう。宿の需要もあるから街で宿屋をやっている人に声をかけて、プレハブで営業してもらう予定だ。

 処理の手続きは全部文章化しているから、俺も決済が忙しい。

 まさか、サインし続ける作業が発生するとか。漫画の中だけだと思ってた仕事が、目の前に現れると驚きが隠せない。

 いや、まじめにやらないと仕事が滞るわけだから、遊びじゃないんだが。

 面倒なのは、現実でも同じだな。

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