12-3 問題が山積みだ。
ようやく本格始動、のはずですが……
2週間経過した段階で、どうにか胸壁の修繕が終わる。
順次、行政処理のための人員と司法を預かる役人もやってきたので、ようやく領地経営の始まった。
城はいろいろと諦めて、瓦礫を撤去したら残った部分を補うようにコンテナを積み上げるという荒業でしのぐ。
というか、どうせ胸壁で見えないんだし、どうでもいいだろう。
見栄えよりも、機能優先だ。
「ねえ、ヒロシ、これはないんじゃない?」
ミリーがつぎはぎだらけの城を見て、ため息をつく。
「いずれ改修するよ。
それより森の中はどう? 何かあった?」
相も変わらず、ミリーやテリーには放牧をやってもらっている。
基本、夜は城の中に家畜を入れるが昼間は外へ連れていく。
周辺探索も兼ねてのんびりやってもらっているわけだが、ちょうど日が暮れたところでミリーが返ってきたところだ。
蛮地と違って魔獣は多くないし、飼いやすい環境だとは思うけれど思わぬ障害があってもおかしくはない。
「カイネも一緒にやってくれてるけど、今のところは何もないかなぁ。キノコとか山菜とかいっぱい取れるよ?
湖も綺麗だし、飲んでも平気そう。」
そうか。
おおむね、ミリーたちの生活には支障はなさそうだ。
「ハンスには衛兵を率いてもらってるし、ベネットとロイドには馬の飼育もやってもらってるし、これなら何とかなりそうかなぁ。」
ウマの需要は車の登場で若干薄れたものの、未だに運搬や移動に活用されている。すぐに販売は開始できないにしても、育てておいて損はしないだろう。
ついでに、牛の飼育もやってもらっている。
酪農をやるにあたって、村にはトウモロコシ栽培も依頼しておいた。上手くいけば、乳牛と肉牛を分けて育ててもいいかもしれない。
まあ、それも軌道に乗らないことには話にならないんだけども。
「そういえばさ、ハルトが遺跡を見つけたって。」
ミリーの何気ない言葉に、俺は驚きを隠せない。
「え? まじで?」
思わぬ朗報だ。
そこがもしダンジョンであれば、スカベンジャーを呼べる。そこそこの収入も見込めるだろう。
領内にダンジョンの有り無しは、領地の良しあしに大いに関係する。
鉱物資源は、鉄と石炭くらいだから収益は見込めないなと思っていただけに、嬉しい知らせだった。
まあ、そもそも俺がグラスコー商会の共同経営者という立場は捨てていないから、そこの収益を当てれば領地経営自体は何とか行えたはずだ。
ただ、それだと持ち出しばかりになって領民を養っているような状態になりかねない。
やはり、ここは少しでも自活できた方がいいはずだ。俺だって、いつまでもここにいられるとは限らないんだし。
まあ、とりあえず収益の柱が見つかりそうなのは僥倖だ。早速ハルトに話を聞こう。
「ハルトさん、ダンジョン見つけたらしいですね。」
俺はにこにこ笑いながら、ハルトを捕まえる。
城の外で、何をこそこそいしてたのかは分からないけど話を聞かなくちゃ。
「げっ!! もうバレたの?」
もうバレたって、お前ひとりで潜るつもりだったのか?
「バレたって、隠してどうするつもりだったんですか?」
ハルトは目を泳がせる。
「一応言っておきますけど、農地や住居以外は、未だに貴族の私有物ですからね?
勝手に潜ったら、そりゃ犯罪ですよ?」
冷や汗を流すくらいなら、素直に話せばいいのに。
「見つけたよ。
まだ、中には入ってないけど、こっそり入ろうかなって思ってた。」
俺も以前遺跡に落ちたことはあった。そこで見つけたものについては、褒美としてもらったりもしたから特別咎めるつもりはない。
「ちゃんと報酬は支払いますよ。
見つかったもので手に入れたいものがあれば、優先して回します。
ただ、秘密にするのは無しですよ。」
目を離すと、好き勝手やりそうだなぁ。
最近は剣の腕もそこそこ上がってきたので見てて危なっかしさは減ったけれど、それでも無鉄砲なところが目立つ。
「いや欲しいものがあるわけじゃなくて、レベルアップしたくてさ。未だに9レベルだろ?ジョンに負けてるのが悔しくて。」
変なところで対抗心を燃やすもんだな。
「ジョンは、ブラックロータスのトップランカーですよ?
あれを追い越すとか、ちょっとやそっとじゃ無理だと思いますけどね。」
確か俺と同じレベルになっている。追い抜かれるのも時間の問題だな。
「そういいながら、そのジョンと同じレベルになってんじゃん。本気出してなくて、それならんだからヒロシはずるいよな。
チート貰ってない?」
可能性はある。
でも、モーラ様にはそんなこと言われなかったんだよなぁ。
「まあ、なんにせよレベルアップにダンジョンって言うのは、確かに効率的かもしれないですね。ジョン以外も10レベルにまで到達しているし。」
10レベルを超えると、途端に人間離れしている感じがするのは確かだ。それが全員10以上だとするなら、十分英雄と言って差し支えない。
でも考えると、この城にいる人間で10レベルは珍しいかと聞かれると微妙だ。ハンスは15レベルだし、ロイドも12レベル、ベネットも12に上がっていた。
トーラスと俺が11レベル。
ミリーとテリーは13レベルに上がっている。
ハルトとの差は何なんだろうか?
あーもう、最近”鑑定”に対するハードルが下がりすぎだな。注意しないと誰でもレベルで判断してしまいそうだ。
「ただ、レベルアップするって言っても戦闘力が上がるだけですからね。そう言うのを必要としない状況を作る方が大切ですよ。
なんで、無理にダンジョンアタックとかは無しの方向でお願いします。
未だに金鉱脈を掘り続けてるんだし、そっちの方で戦う機会はありますよね?」
そういうと、ハルトは不満顔になる。
「いや、別に危険を冒したいわけじゃないけどさ。なんか、わくわくするじゃん、ダンジョンって。」
まあ、気持ちは分からなくもない。
「じゃあ、契約が満了したら、ブラックロータスに戻ります? そっちの方が活躍できる気はしますけど。」
辛酸をなめた思い出がよみがえったのか、ハルトは顔を青ざめさせる。
「いや、契約更新でお願いします。あそこは嫌な思い出しかないから、近寄りたくないんだよな。」
まあ俺としては、今ハルトがブラックロータスに戻っても、ちゃんとやれる気はするけどな。大分まともになってきた気はする。
相変わらず浪費癖はあるようだけども。
「しかしさ。
ヒロシが首飛ばしたんだって?」
何を外でこそこそしているのかと思ったら、さらし首をびくびくしながら見てたのか。
「そうですよ。あんまり気持ちのいいものじゃないですね。
未だにちょっと震えますよ。」
ぞくぞくっと背中に悪寒が走る。
「本当に? なんか、笑顔で振り切ったってみんな言ってるぞ?」
みんなって誰だよ。笑顔に見えてるとしたら、それは勘違いだ。
笑おうと思ってなかったし、笑っていい事なんかないからな。
「みんなって言うのが誰だか知りませんけど、喜んでやってるわけじゃないですよ。そこまでサイコパスじゃないです。」
住人を傷つけたうえに国に弓を引いた人間を目の前にして穏便に済ませたら、こちらの資質が問われる。
土地を治めるものとしては、必要な措置だった。
出来れば逃げ回っててくれたらよかったのにと心底思うが、そういうわけにもいかなかったんだろうな。そういう意味では、とても哀れだ。
「みんなって、えーっと、街の酒場で聞いたのと、村に行ったときに村長から聞いたよ。今度の領主様は優しい顔で人を殺すってビビり散らしてたかな。
おかげで話が通じやすくなったけど。」
そうか、それならサイコパス扱いでも甘んじて受け入れよう。
仕方がない。
「まあ、やりたくてやったんじゃないのは分かったよ。だから、そんなに落ち込むなって。」
落ち込んでいるように見えるとしたら、まだまだだな。
「ベネットに心情を察してもらえるのはうれしいけど、ハルトさんに先読みされると腹が立ちますね。
いうほど落ち込んでもいませんし、話が通じやすくなったならむしろ頑張りますよ。」
そういいながら、俺は城の中に入る。
胸壁の内側は、柵が設けられて、さながら牧場のような感じだ。
中央に白の残骸とコンテナが重なって、なんかオブジェみたいになっている。
うん、機能優先とは言ったけれどやっぱり改修は必要だな。せめて、外壁だけでも石で囲うかなぁ。
改めて外から戻ってみてみると、確かに見栄えが悪すぎる。これじゃ、城というよりスクラップの山に見えちゃうな。
「ヒロシ!! 大変大変!! ベネットが倒れた!!」
ミリーが慌てて、外に出てきた。俺は取り乱して、城の中に駆け込む。
「ど、どっち?」
いまいち場所の把握ができていない。何処で倒れたんだ?
「あっち! あっちの部屋で横になってる!!」
俺はミリーの指さす方向へ走った。確か医務室として作った部屋だ。
俺は、その部屋に飛び込む。
「ヒロシ?」
ベットに横たわるベネットは、驚いたように俺を見てくる。
た、倒れたのでは?
カイネが横について、面倒を見てくれているという事は、倒れたことは間違いないんだよな?
「だ、大丈夫? 倒れたって聞いたから。」
そういうとベネットはバツの悪そうな顔をする。
「大丈夫です。母子ともに健康ですから。
おめでとうございます。」
カイネが嬉しそうに笑った。
あぁ、そういう。
そりゃ、結婚して3年もたってるもんな。
そういうことだって、あるよな。
はは……
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