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12-2 領地ねぇ。

望んで手に入れたけれど、いろいろと複雑ですね。

 結局断り切れなかった。

 王子様を迎え入れるためにも領地を整備したいと言って時間はもらったけども、こちらに来るのは既定路線だ。

 何とか無事に乗り切るためにも急いで準備をしなければ。

 叙爵前からハンスたちには現地入りしてもらっているが、活動拠点になる城はボロボロだわ村々は好き勝手やってるわでとても統治出来ているというには程遠い。

 というか、半分無法地帯状態だ。

 一応、街では肩書で歓迎されたけれど、村の様子なんかはまだ把握できていない。

 しかも、これ全部伝聞だ。

 ハンスたちだけだと問題があると思ってベネットやハルトにもフォローしてもらっていたけど、お願いしておいて正解だったな。

 もし、ハンスたちだけだったら信用されなかったかもしれない。

 

 ……しかし、なんだこの城は。

 

 何度も男爵領群を渡り歩いてきたけれど、これほどぼろぼろの城は見たことがなかった。

「ヒロシ、お帰り。」

 ベネットが門の前で箒を掃いていた。

「た、ただいま。」

 とても、男爵夫人の服装とは思えない。鎧下にブーツという出で立ちだ。

「何かあったの?」

 ため息をつきつつ、ベネットは指さす。

「忘れ物を取りにいらしたのかしらね? とりあえず、息がある人たちはあそこの廃墟に縛り付けてあるけど。」

 つまり、反乱分子が何かを取りに来たというわけか。

 勘弁してくれ。

 元々、城と言っても大半が木造だった。そこに大砲をぶち込まれてほとんどが瓦礫の山になっている。

 無事なのは、門くらいか?

 胸壁もあちこち穴だらけだし、とても王子様を迎えられる状態じゃないな。

「ちなみに、寝泊まりはどうしてたの?」

 おそらくはコンテナハウスを利用してもらってたんだとは思うけれど。

「あの丘の下に私たちの。

 あっちの方がハンスさんたちのコンテナハウスがあるよ。

 中央のくぼみには、一応テントを張って大工さんたちに泊まってもらってる。」

 これならいっそ更地にしてくれた方が助かるな。

「ちなみにハルトさんはどうしてる?」

 こういう瓦礫を撤去するのは得意なはずだ。まさかサボってるとかじゃないよな?

「あっちで作業してる。資材として再利用できるものを大工さんたちがより分けてくれてるから助かるわ。」

 つまり、ちゃんとお仕事してくれてるわけか。

 だとすると、ハルトたちはともかく、大工さんたちの寝泊まりする場所や食べるものを確保するのが先決だな。

 ……一応、計画はして準備はしている。

「じゃあ、まずはプレハブを建てようか。」

 壁の修復大変そうだなぁ。

 《石壁》の呪文を覚えておいて正解だった。

 

 とりあえず、急場の所は凌げた。街の胸壁も修復しないといけないけれど、城の壁はとりあえず整ったし職人さんや大工さんの寝泊まりする場所はプレハブで用意できた。

 後はゆっくり作業してもらっていけばいい。問題は、忘れ物を取りに来た人たちへの尋問か。

「悪魔め! 滅びろ!!」

 開口一番そんなことを言うもんだから、縄に縛られた人はベネットにしばかれた。

「無駄口を聞く元気があるなら、何者かを名乗りなさい。一応、あなたたちを裁く権利くらいあるのよ?」

 まだ、国から法務官が来ていない。

 この場合、領地の持ち主である俺が好きに裁くことが可能だ。

 もちろん法に照らして適正に裁いたという証明は必要だけど、そんなものはいくらでもでっち上げられる。

 まあ、やるつもりはないけれど。

「ベネット、君が手を汚さなくていいから。

 どのみち国からお役人が来れば普通に裁いてくれるし、その時の執行は街の人たちがしてくれるよ。」

 一通りの蛮行は聞き及んでいた。街の人たちに任せれば、過酷な未来が待ち受けているのは必然だ。

 叫んだ人以外は、身震いしている。

 じゃあ、なんで集団で街を襲ったんだろうか? 勝てると踏んでたのかな?

「ベルラント男爵は一応俺なんだけれども、前男爵の縁者か何か?

 まあ、そんなところだと思って話すけれど、もうすでに忠義立てすべき人はこの世にはいないし君たちのやったことは立派な犯罪だ。

 何か申し開きがあるなら、聞くし情状酌量の余地もあると思うんだ。無駄に叫ぶくらいなら、ちゃんと話してみない?」

 叫んだ人以外は全員顔を見合わせながら、どうすべきか悩んでいる様子だ。

「貴様が男爵を名乗るなど許せるものか!! この詐欺師風情が!! ベルラントを統治するのはこの私だ!!

 卑しい平民が金を積めば貴族になれるとでも思ったのか!!」

 んー、この人は前男爵の親類かなんかなんだろうな。

「この人が首謀者ね? で、この人は前男爵の親類?」

 俺は、立ち上がって周囲を見渡す。

 何人かが頷いた。

 

 嫌だなぁ。


 でもやらざるを得ない。

「とりあえず、あなたにも誇りはあるはずだ。負けたからには責任を取ってもらおう。」

 彼らが持ち込んだ武器の中から、一番上等な剣を手に取る。

「それに触れるな!!穢れる!!」

 おー、立派立派。

 上手く振るえるかな。剣を握るなんて機会は多くなかったし、握ったのも品定めや検品の時くらいだ。、

 少し不安に思いながら、鞘から剣を抜く。


 そして、思いっきり叫ぶ男の首を刎ね飛ばした。


 周囲から悲鳴が聞こえる。

 いや、もうやることは分かってたはずだろ。責任をとれと言われれば、こうなる。

「陛下に仇なした以上、覚悟の上だろう!! さあ、後を追いたいものはいるか?」

 誰も首を縦には振らない。

 まあ、そうだろうな。人望が厚いなら、こんな数じゃないはずだ。

 そもそも、もっと粘っているはずだろう。

「では、素直に話してもらいましょうか?

 何が目的だったのか、仲間は他にいるのか。武器はどこに隠しているのか。

 しゃべればしゃべっただけ、罪は軽くしましょう。」

 俺は、地面に剣を突き立てた。

「俺は、血なまぐさいことが嫌いです。

 でも、必要なら剣を振るう。そこは分かっておいてください。」

 どうやら薬は効いたようで、皆が一斉にしゃべり始めた。

 いや、思いのほか綺麗に切れたものだから、効果は絶大だな。

 

 ちょっと吐き気がするけども。

 

 でも、俺がやらなければ、ベネットか、もしくはハンスが剣を振るっていたはずだ。そんな役をやらせるくらいなら、俺がやった方が何倍もましだ。

 そもそも反乱が失敗した以上、もっと逃げ回っておけばよかったのに。付き合わされた人たちがかわいそうだ。

 

 

 証言をまとめると、俺が斬ったのが前ベルラント男爵ダートマン家の最後の生き残りだったらしい。

 城の地下にあるマスケットを利用して再起を図る予定だったわけだけど、思ったよりもベネットやハルトが強かった。街の人たちにも協力を得られなかったらしく、大半が殴り倒されたというわけだ。

 しばらく頭を冷やしてもらおう。

 基本的には、鞭打ちと労役で開放されるはずだ。下手に街の人にさらすと碌なことにはならないので、かろうじて残っていた地下牢につないでおく。

 食事の世話もしてあげなくちゃだし逃げ出さないように拘束もしないといけないし、いろいろと面倒臭い。司法は国が行うって言うのに、逮捕や治安維持なんかはこちら持ちだ。

 その上で租税徴収できなくなれば、そりゃキレる貴族もいておかしくはない。

 いくら徴税官の任を得たからと言って、それですべて賄えられるほどの給金ではないだろう。

 立法権もいろいろと制限が加えられている。はっきり言って、今貴族になるのは貧乏くじもいいところだろう。

 もちろん、上手くやっている貴族も多い。

 商会を立ち上げて商売を基本にしていた貴族もいるし、鉱山や森抱えている領地は、そこから得られる資源で賄う体制をとっている。

 これが一番多いが、村のいくつかを荘園化し農民を雇う形で農作物を作っている領地もあった。バーナビーの所は、これに切り替えてうまくやってる。

 元より、金があり民心がついてきてくれたからできた事だろう。

 じゃあ、ひるがえってうちの領地はどうか。

 男爵領と言ってもピンキリだ。広いところもあれば、狭い領地もある。ベルラントはどちらかと言えば、狭い領地だ。鉱物資源は乏しいし、農村も豊かとはいえない。

 比較的深い森と湖があるので、植物資源は多いと言ってもいいかもしれない。

 その上で金はあれど、民心はついてきていない。というかダートマン家がやらかしまくってくれたおかげで、民心が完全に体制側から離れてしまっている。

 ここ1週間、村々を回って分かったが国を敵に回るのはまずいとは思いつつも税を納めるのは納得がいかない様子だ。

 結局、農民からすれば納める先が変わっただけで何も変わってないじゃないかと言いたい雰囲気は伝わってくる。

 いや、1割ほど税は安くなってるはずなんだけどね。

 減税って言うのは、思うほど民衆受けはよろしくない。増税の場合は、すごく反発が起こる割に減ったところで生活変わらないしと思う人が多いのも事実だ。

 でも、これは国から与えられた仕事だ。やらないわけにはいかない。

 

 その上でだ。

 

 通常の行政も行わないといけない。

 一応は戸籍のようなものは存在しているし、行政手続きを行う役人は雇わないといけない。

 雇う先は、すでに当てはある。イレーネの実家にしろレイナの実家にしろ、今も健在な貴族だ。

 その親類縁者の子弟が職を求めているのは自然な流れだ。

 修道院で学校を開いてもらっていたから、そこから人材を引っ張ってくるってこともできなくはない。

 

 当てはある。

 

 問題は金だなぁ。

 ついで治安維持や逮捕なんかをする衛兵も雇わないといけない。

 現状は、カレル戦士団に警備名目で働いてもらっているけれど、常駐させるには戦力過多だし維持費が馬鹿にならない。

 街にも元は衛兵をしていたという人間もいたから、そちらから人を選ぶべきだ。

 よそ者よりも、地元の人間を雇う方がいいだろう。

 ただ、無償でやってくれるわけじゃない。

 ちゃんとそれも、経費として計上しないとな。

 いっそこと、衛兵なんかは国から派遣されてこないものか。

 司法を預けてしまっているんだから、逮捕や治安維持を実行するのも国の管轄にしてほしい。

 まあ、そうするとますます貴族って何のためにいるんだよって話になるか。

 頭が痛い。

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