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11-28 まずは飛行船。

空を飛ぶ船ってファンタジー感があって好きです。

 ようやく飛行船が完成した。言ってみれば、これがドラゴン退治の総仕上げだ。

 こいつが空を飛ぶことによって、ようやくモーダルは復興したと言える。

 船長は、オートマトンを育ててくれた船の航海士だった若い男性だ。元々、水夫だったのを船長が育て上げたという生粋の海の男だけに野性味にあふれた精悍な男性だ。

 名前はマーカスだったっけか?

 飛行船の船長を任せるにあたって、そんな身分の低い男に任せられないみたいな横やりが何度か入ったけれど、俺が強引に推し進めた。

 何せ、経験が途絶え誰も操縦方法が分からない代物だ。

 下手な人物に任せたくない。

 操船技術も天測航行もお手の物というたたき上げという経歴に誰がケチをつけられよう。

 いや、ケチ付けられたけども。

 たしか、王弟殿下がモーダルに来られた時に仕切っていた侯爵様だったかな?

 他にも何名かの男爵が連名で、貴族のお坊ちゃまを船長にと推してきたけど、結局国王陛下のご一存でマーカス船長が選ばれることになった。

 何せ新造船だ。事故が起こる可能性もありうる。

 そんなものに、やすやすと未経験の貴族をすえられない。

 ただ、まさか国王陛下からご支持が得られるとは思わなかった。

 もっとも国の持ち物じゃなくて、あくまでも名義は俺だし出資しているのは支部長の銀行やラウゴール男爵たちで、文句を言ってきた貴族は一銭も出していない。

 ケチをつけられる謂れがそもそもないんだけども。

 いずれにせよ、進水式? いや、この場合は進空式と呼ぶべきか?

 初航行の日を迎えることができた。お定まりの挨拶は早々に済ませ、一通りの儀式を終えて早速飛ばしていこう。

「船長、準備はどうですか?」

 そういう俺に、マーカス船長は苦笑いを浮かべる。

「普通の船主は、進水式が終わったら帰るもんですよ。

 とりあえず、荷物は積み終わり、帆の準備もできてます。

 奥方と船室でくつろいでください。

 もうすぐ出発です。」

 式典にはベネットも付き合わせていた。

 まあ当然なんだけれども、いつかの約束を果たしたかったのもあって、この初航行に誘った。

 ルートは海を出て、島を巡り、ブラックロータスを通過して首都をかすめ、モーダルに戻る。

 1月ほどの予定だけれど、十分刺激的な旅行だ。

 途中で、俺は抜け出さなくてはいけないけれど、ベネットには十分堪能して欲しい。

 ベネットの待つ、1等船室へと向かう。

「もうすぐ出発するらしいよ。

 窓からは何が見える?」

 そういうと、ベネットは窓の外を見て、驚きの声を上げた。

「すごい、こんなに高く飛べるんだね。

 街が小さく見える。」

 いざという時、墜落までの時間を稼ぐためにも、高度を取ることになっている。

 これは何度かのテストの結果、そういう結論に至っていた。

 といっても、意図せずドラゴンコアが止まるなんてことは無かったので、わざわざ故意に止めて墜落実験をしたわけだけども。

 少なくとも、完全停止しても1000ft程度の高度を取れば墜落場所は選べるという結論に達した。

 流石にその高さだと気圧が下がり、気温も低くなってしまう。

 そのため、追加で魔法を一つ付与して、船体全体を与圧する仕組みを作らなくてはいけなくなってしまった。

 いや、この出費は仕方がない。安全には変えられないからな。

 

 飛行船がやがて、横に動き出す。

 

 普通の船とは違い、波で揺さぶられる感覚はなかった。

 面白い。

 風が強ければ、木の葉のように舞う可能性もあるけれど、幸い今日は雪の合間の晴れだ。雲の隙間から、うっすらと陽光が降り注いでいる。

 なんとも幻想的だ。

 やがて、海の上をすべるように飛行船は進みだした。

 二人して、窓にかじりついてしまう。

 不意にコンコンと扉が叩かれる音がした。

 船に乗っているのは、ハルトとカイネ、それにレイナとジョシュ、そして先生だけだ。

 それ以外は、オートマトンの水夫と船長以下、船の操縦にかかわる人員だけだから、尋ねてくるとしたらそのうちの誰かだろう。

「空いてますよ?」

 とりあえず鍵をかける必要性は感じてなかったので、外を見ながらノックに返答する。

「不用心過ぎないヒロシ君? 空を飛ぶ呪文くらい持ってたでしょ?

 そんなに珍しい?」

 レイナの言葉に俺は思わず顔をしかめてしまった。

「いや、確かに空は飛べますけどね。それとこれとは別じゃないですか?」

 そういうものかなって、小さくレイナはつぶやいた。

「いざという時のために私たちも乗っているけど、多分これ大丈夫よね。

 安定しているし、多少の風なら揺れないし。」

 窓から顔を離して室内を見ると、当然かのごとくレイナはお茶を始めていた。ジョシュが甲斐甲斐しく淹れてくれたもののようだ。

 なんか、当然のごとくこき使ってるなぁ。

「ジョシュ君、あれからどうなの?」

 そう尋ねると、ジョシュは頬を赤らめた。いや、そういう方向ではなく。

「何聞いてんのよ、ヒロシ君。まだ、子供なんだから!!」

 レイナも慌てて、顔を真っ赤にしている。

 いや、だからそういう意味ではない。

「魔術の話ですよ。特に戦闘をしているというわけでもないんですよね?

 それでレベルが上がるのか、ちょっと気になったんですよ。」

 あからさまに二人ともほっとした様子になる。

「戦闘だけがレベルアップの要因じゃないしね。

 ちゃんと研究すれば、2レベル位階の呪文くらいなら使えるようになるよ。

 研究だけだと、一般には4レベルが限界だとは言われているけどね。」

 あぁ、呪文のレベルが基準か。

 いや、当たり前だ。

 全体のレベルを知るには”鑑定”がないとおそらくは無理だから、魔術師にレベルを聞くなら、当然呪文の位階を話すに決まっている。

「ねえ、ヒロシ甲板に出ない?」

 不意にベネットが振り返り、目を輝かせて言ってきた。

「いや、その……」

 レイナとジョシュと話していたから、突然言われても困る。

「いいよ。今日は晴れてるから、私たちも付き合うわよ。」

 やれやれといった様子でレイナは承諾した。

 

 甲板に出ると、雲の中を進んでいた。

 なんとも幻想的だ。

 力場の壁のおかげで、甲板の上ではそよ風程度で済んでいるけれど、周りは強い風が吹き荒れている。

 仮に落ちたら、助からない高さだ。

 あー、いや、一応軟着陸の呪文は全員が使えるから、落ちても平気か。

 回収もインベントリの中に入れば問題ない。

 

 やがて、雲が切れて陽光が差し込む。

 

 これは、とても楽しい。

「そうそう、ジョシュだけど2レベル呪文が使えるようになってるよ。

 覚えはいい方だと思うけど、やっぱりスカベンジャーとかやらせてみるべきかな?」

 それは、どうだろう。

 先例として、ジョンという存在がいるけれど、あいつは正直参考にならない。

 俺が手助けしたというのもあるけれど、純粋に才能の塊だ。

 ついでに俺が能力の”売買”で魔法装置使用の能力も与えてみた。

 この才能は、魔法能力のない人間が、スクロールやワンドを強制起動させることが可能になる能力で、レベルによって使える呪文レベルが変わるものの、かなり強力ではある。

 もちろん、1レベルで与えてみたんだが、瞬く間に3レベル呪文までのスクロールを起動できるようになってしまった。

 いや、もう本当にすごい。

 ハルトに教えたけど、まだレベルアップしていないことを考えると驚きだよな。

 じゃあ、ひるがえってジョシュはどうか。

 どっちかと言えば、学者肌だよな。実戦で磨き上げられるタイプには見えない。

 少し不躾だけれど、”鑑定”してみるか。

「レイナさん、”鑑定”してみても?」

 そう聞くとレイナは頷いた。

「ジョシュ、ヒロシにちょっと見てもらおうね。」

 なんかいやらしい手つきでジョシュを捕まえるが、その動作は必要か?

「よ、よろしくお願いします。」

 ジョシュはぎゅっと目を瞑る。

 いや、そんな必要もないんだけどなぁ。

 まあいいや。

 ”鑑定””鑑定”。

 思った通り、ジョシュは戦闘向きじゃない。知力は確かに高いし、魔法能力に何か欠陥があるわけでもない。

 とはいえ、それ以外の能力値で高いところはなかった。

 学究の徒という能力があり、学ぶことで経験値が得られる能力もあるし、これは勉強を頑張ってもらう方がいいんじゃないだろうか?

「むしろ、大学行くべきですね。できれば、首都の学校とかの方がいいかも。」

 そういうとレイナはふむ、と考えこむ。

「お母様の力を使って裏口入学させよっと。」

 いきなりとんでもないことを言うな。

「え? えっと、どのくらいのお金を用意すれば。」

 ジョシュは当然お金の心配をするよな。庶民なんだから当たり前だ。

「必要ないよ。うちの力を使えば、手紙一つで大丈夫。

 何なら、ちゃんと寮を用意してもらえるし、どうせなら私がついていこうか?」

 とりあえず、俺は何も見ていないし、聞いていない。そういうことにしよう。

「ヒロシ!! ヒロシー!! 見て、見てー!!」

 ベネットが子供のようにはしゃぎ、俺を手招きしている。

 なんだろうか?

 ベネットの指さす方向を見る。

 遥か海原、水平線の向こうに島が見えた。やがて沈みゆく太陽が黄金色に海を染めていく。

 これは、やっぱりいい景色だなぁ。

「おぉ、これは確かにすごい光景だね。

 どうせ、魔法で飛べるでしょって思ってたけど、こういう景色が見れるなら飛行船もありかなぁ。」

 普段は、部屋に閉じこもり気味のオタクがこんなことを言うくらいだ。

 やはりこの景色は素晴らしいものだよな。

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