11-27 冒険者稼業も大変だなぁ。
嫉妬は醜いけれど、嫉妬せずにはいられないことだってそりゃあるでしょうよ。
テストの結果としては、とりあえず俺が入れば意識を取り戻し、取り戻した人は俺が出て言っても意識は失わないという結果に落ち着く。
多分、これを先生が知ったら、もっとテストしようと提案されるだろうな。
とりあえず、今は仕事が忙しい。実用上は安全と分かっただけで十分なはずだ。しばらくは黙っておこう。
「ねえ、ヒロシ。
これってもしかして宿を取らなくてもいいんじゃないかな?」
それは、確かにそうかも。
下手な宿より、コンテナハウスの方が過ごしやすい。
あー、いや、怪しまれるのは困るか。
「お風呂がない宿とかだったら、お風呂入るためだけに利用するのはありかもね。
でも、お客様をこっちに迎えるわけにもいかないし、宿はこれまで通りでいいんじゃないかな?」
それと、もう一つ問題がある。
「その上で、ずっとあっちで過ごすにはお金がかかる。
一晩で一人400ダールくらい取られるよ。」
「あ、そうなんだ。お金取られるんだ。」
ベネットは、残念そうだけれど、どこか納得しているような様子で頷く。具体的な金額としては1回入るごとに一人50ダール取られて、滞在時間が1時間経過するたびに同じ金額が取られる。
一度に入れる人数も32人までと限界があった。
いや、《瞬間移動》に比べれば安いものだし、緊急時には大変助かる能力だ。お金が必要なのも、納得はする。
納得はするけれども、取られたお金はどこに消えるのかは疑問だ。
まあ、この力を与えてくれるヘルメスか、モーラ様あたりに行ってるんだろう。深く考えるのはよそう。
しかし、これで”収納”は9レベル。
あと1レベル上がるとしたら、どんな能力だろうか。
もう、便利すぎてあまり思いつくものもない。
いや、変なことを考えるとレベルアップしそうだから、考えるのはやめておこう。512tもの物資をため込めるって言うだけでも十分凄いからな。
むしろ、それが無くなった時にどうしようという話でもある。
お金は銀行に預けたり、金庫に納めて保管している。流石に、近代兵器を売ったお金はインベントリに計上されたままだけど、それ以外でも十分な資金はあった。
でも、預かっている荷物全部の弁済となると。
あまり考えたくない。
とりあえず、容量が増えたというのは伏せておこう。
「ちなみに、ベネット。
分かってるとは思うけど、あんまり口外しないでね?」
そういうと、ベネットは顔をしかめる。
「むしろ、話しても誰も信用してくれないよ。容量の話なら秘密にしておくし、そこら辺は信用して欲しいかな。」
疑るわけではないし、むしろ信頼はしているけれども一応念のためだ。
「まあ、でもキャラバンのみんなには伝えるんでしょ? あとは、トーラス?」
そんなところかもな。
まあ、ベネットの言うとおり、話したところで信用されないだろうけども。
変に勘繰られるのは楽しくはない。
ブラックロータスに来てひと月。ジョンたちの仕事は順調に運ぶ。
元々実績があるから、ランクの低いダンジョンはすぐに攻略できる。特に足元を掬われるという事もなく、危なげない。
Dランクはそもそも、同業者と同時に探索するということはないから規定回数をこなすだけで、早々にランアップしてしまった。
1日で終わるような場所がほとんどだったし、まあ当然だよな。
実入りも少ないし。
Cランクも同様に同業者はいないわけだので、じっくりと同業者が見落とした探索場所を念入りに捜索し新発見を繰り返した。
どうも、Cランクでも隠し扉があって、さらに下の階層まであったダンジョンも見つけたらしい。なので、再分類されランクが格上げされたダンジョンもいくつかある。
これには組合長も驚いたらしく、再調査が命じられて混乱することとなった。
確か、それがCランクで挑戦してた3回目の時だったかな。その時点で実力的にAランク以上あるとは認定されたけども、俺としてはCランクに留まっていいんじゃないかと思わなくもない。
無理に深い階層のダンジョンに潜る必要性は感じられないからだ。
それに同業者という不確定要素は避けるべきじゃないかとも感じている。
「ヒロシ様、どうかランクアップをご検討ください。
確かに規定回数は10回です。ですが、ダンジョンをそのたびに殺されては、商売が成り立ちません。」
なんだ、ダンジョンを殺されるって。
いきなりギルドに呼び出され、ギルド長直々に頭を下げられてしまった。
豪華な応接室で、こっちは座ったままだから居心地が悪い。
しかし、ダンジョンを殺すって言うのはゲートを全部潰されることを指してるんだろうか? 確かに2回はゲートを全部潰したことはあったと記憶しているが、2回だけじゃないか。
入る度というのは、やや誇張表現だと思う。
「いやジョンたちを危険な目に会わせたくないので、お断りしたいんですけども。駄目ですか?」
そもそも、実入り自体は悪いわけでもない。
直接マジックアイテムを買取できるので俺の売り上げも上がるし、仲介者を介さないで済むから買取価格もあげられる。
特にこれといった不満はないのだけども。
規定回数を超えたなら、分からなくもないんだけどなぁ。
「もちろん、無償でとは申しません。登録料もご返却いたしますし、組合費も1%ほど勉強させて戴います。」
組合長は必死に食い下がってくる。
いや、別に俺が決めることじゃないか。
「分かりました。ジョンたちに聞いてみますよ。ちなみに、前例とかってあるんですか?」
下手な優遇を受けて、やっかみを受けるのは避けさせたい。ただでさえ若いから、変なのに絡まれる。
この間なんか、割って入った俺が思いっきりぶん殴られたしな。なんかそういう役どころなんだなって、あきらめがついた。
その後ベネットがブチ切れて剣を抜きかけたのには困ったけども。
「一応、前例はございます。バーナビーというシーカーをご存じですか?」
おぉ、知り合いの名前が出てくるとは奇遇だな。
「知ってます。今は引退して、騎士をされているはずですね。」
流石、顔が広いと言われたけれど、たまたまだ。
「かのブラッドハウンドがDランクをパスし、Cランクも4回ほどでランクアップしています。
他の遺跡で腕を鳴らし他グループであれば、珍しい事ではありませんよ。」
ブラッドハウンドって言うのが、バーナビーたちのグループ名なんだろうか?
固有名詞を突然使われても困る。
「まあ、バーナビー氏は優秀でしたからね。ちなみに、ブラッドハウンドというのはグループ名ですか?」
左様でございますとニコニコ笑って、他にもいくつかのグループ名を出された。
正直、言われても全部覚えられないよ。
「分かりました。いずれにせよ、ジョンたちの要望次第です。改めてお断りすることもあるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。」
俺はうんざりしながら、組合長との会談を打ち切った。
「という事なんだけど、どうする?
ジョンたちに任せるけど。」
こちらに来てから、よく使うダイナーで話を切り出した。みんな思い思いに好きなものを食べてるが、話は真面目に聞いてくれている。
「組合長は嫌いだけどさ。
ランクアップは別にいいんじゃねえの? 受付の人も太鼓判押してくれてるし。」
なるほど、現場との付き合いもある受付の人が太鼓判を押してくれるなら問題ないか。
「まあ、問題は同業者ですね。あそこまで嫉妬むき出しだとは思いませんでした。」
確かにあれは困った。もし、同業者にダンジョン内で絡まれると考えると、ちょっと怖いよな。
「消しましょうか?」
ベネットの目が座っている。いや、ダンジョン外で闇討ちはまずいだろう。
「あっちが襲い掛かってくるならともかく、こっちからは手出ししちゃダメ。」
俺は、手をクロスさせてバツを作ってベネットに見せる。
「襲われてからじゃ遅いの。ああいうのは、未然にやっておかないと。」
やるって、物騒なことを言う。
「僕も反対かなぁ。事前に潰すって言うのは戦場では当たり前だけど、ここは戦場じゃないからね。
少しは冷静になろう、ベネット。」
トーラスが冷静にベネットを諭してくれる。
「実際、闇討ちとかは重罪だからね。ばれたらシャレにならない。まあ、それだけ頻発してたってことの証明でもあるけど。」
俺はため息をついた。
「上手く立ち回るよ。金を稼ぐのが目的なんだし、喧嘩をしに来たわけじゃねえからさ。」
ジョンはにやりと笑う。
「でも、場外乱闘は困りますね。銀行の業務にも支障をきたしますし。治安の悪さはどうにかならないかなって感じちゃいますよ。」
セレンはセレンで悩みを抱えている様子だ。
「嫌がらせの類を受けてるのは、ジョン君たちだけじゃないからね。受付業務してたら、馬糞投げ込まれたとかもあったし。
本当に腹が立つ。
うまくいかないのを他人のせいにすんじゃないわよ。
まったく。」
ベネットは現場にいたらしく、思い出して腹を立てていた。
別件でブラックロータスを離れていた時だったので俺はいなかったのだけど、ベネットは服を汚されて相当腹に据えかねているようだ。
俺が居たら、多分俺にあたってたんだろうな。
勘弁して欲しい。
「多分ですけどランクアップすれば、収まると思います。いつまでも、安全なCランクにいると、同業者の人も困るんじゃないかなって。」
ユウがおずおずという内容は、確かに的を射ている気はする。Cランクというのが同業者を排除したうえで入れる上限だ。
そこにいつまでも居座られて、荒らされるのは気分がよくないという事なのかもな。
「じゃあ、ランクアップするという事で。嫌がらせについては組合長にも相談してみるよ。」
やれやれ、前途多難だな。
しかし、季節はまだ秋だって言うのに、もうすでに雪が積もっている。
モーダルでは、まだ雪は降ってないから、感覚が狂いそうだ。
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