11-25 少し調子に乗りすぎてたかな。
綺麗事だけじゃ片付かないこともありますよね。
首都を通過しブラックロータスに行く道すがら、とある領地を視察することになっていた。
ジョンたちの先輩であり、スカベンジャーの成功例とも言えるバーナビーが治める町だ。
伯爵家の騎士として取り立てられたバーナビーは、領地として町を一つ、そしていくつかの農村を納める領主になっている。
基本的に税を取り立てて、それを自由にすることができるのが領主の特権だ。
税率や施行される法については伯爵の指示に従わなければならないが、実際に方を守らせるのは領主の役目だし賦役についても責任をもって実行しなければならない。
その分、国に納める税以外は全て領主の手元に残るわけだから、おいしい仕事。
のはずなんだよなぁ。
「バーナビー様、お久しぶりです。」
会談のために通された執務室で、バーナビーはぐったりとしていた。
「様はやめてくれよ、ヒロシさん。
もううんざりだ。
これならダンジョンでくたばってた方がましだった。」
うつろな目で窓の外を眺めている。
「バーナビー、お客様がいる時くらいしゃんとして。
ごめんなさいね。
税の誤魔化しが発覚して、相当ショック受けてるみたいなの。」
聞いてみれば、去年おととしと不作が続いているという事で、税の免除を行ったそうなのだが、どうやら今年も不作という嘘をつかれたらしい。
そもそも資金には余裕があるため、甘い顔をしていたら舐められてしまったみたいだ。
信頼関係を築くために優しくすればつけあがらせてしまうというのは、何とも皮肉だな。
何くれとなく面倒を見て、魔獣が出たと聞けば駆けつけてくれる領主に嘘をつくとなれば、それなりに処罰を持って臨まざるを得ないだろう。
ただ、それが気持ちのいい事かと言えば、そんなことはないよな。
「色々と覚悟はしてたんだ。人を率いるなんて経験がないから、色々と勉強をして、他の騎士たちの意見も取り入れてた。
でも型通りいかないとは思っていても、実際まったく違う反応されると同じ人間なのか疑いたくなってくるぜ。
貴族が平民を疎む気持ちが少しわかった気がする。」
気になるのは、雇い入れた役人たちの動きだ。
あからさまにバーナビーがスカベンジャーという事で、舐めた態度をとっている。どうせ数字が分からないだろうという考えが透けて見えた。
「不正をしている役人もいるみたいですね。」
あからさまに嘘をついても分からないとそそのかした役人がいる様子がうかがえる。
「あぁ、分かっちゃいるんだけどな。俺がこっちに来る前からいる爺らしいから、任せてたんだけど。
やっぱやるしかねえのかなぁ。」
放置しておけば、これからも足を引っ張る事だろう。そうなる前に処断するのは、当然の措置だ。
「問題は、むしろ民心はその役人に同情的になる事でしょうね。
できれば、彼がどんな生活をしていたのか、そしてどんな悪事を働いていたか流布した方がいい。」
バーナビーが驚いたような顔で俺を見てくる。
「どんな些細なことでもいいですよ。女にだらしないとか、金にがめついとか。
その上で、相手が暴発してくれるように仕向けたほうがいい。」
バーナビーの様子を無視して俺は言葉をつづけた。
「言っておきますけど、おそらく相手方もやってます。
なら遠慮する必要はないでしょう。情報を集めるのは、不得意というわけでもないはずだ。
思いっきり罠にはめてやるといい。」
元スカベンジャーなのだ。同業者とのいさかいだって少なくはない。
それと同じことじゃないか。
「俺に悪人になれって言うのかよ。」
バーナビーは不満げだ。
「元から悪人でしょう? 領主になったからって、善人面をするから無理が出るんですよ。」
ぐっとバーナビーは息を詰まらせる。
「これは失礼。悪人っていい方はよくなかったですね。
ただ、誰からも後ろ指を指されない人生を送れる人は多くない。多少は人から指さされたところで今更だと開き直ることも必要じゃないですかね?
もちろん、直接手を下さず、同僚や部下にやらせるとなおのこといいとは思いますけどね。」
俺の言葉に、バーナビーの奥さんであるエルフさんも引き気味だ。
「あー、もちろん、あくまでも看過できない敵に対してって意味ですよ?
些細な不正にそこまでしろって意味じゃありません。ある程度のラインを設けないと、それこそ暴君と変わりないですからね。
あくまでも法の範囲で動くべきだとは思ってますよ?」
バーナビーはため息をつく。
「ヒロシさんが、なんでドラゴンを倒せたか分かったわ。
あんた、とんでもない悪党だな。」
まあ、そう言われても仕方ないか。
「そうかもしれませんね。とはいえ、本当の悪党はこんな話はしません。
今話したのは、善意からだというのは理解して欲しいです。」
あくまでも悪意を持って接してくるなら、手をこまねてはいけないという話でもある。
バーナビーはため息をつく。
「ご忠告痛み入るよ。精々ヒロシさんとは敵対しないようにしないとな。」
もとより、そんな予定ないけれど。少し誤解されちゃったかなぁ。隣で、ベネットが笑いをかみ殺している。
「何もそんなに笑うことないじゃないか。そんなにおかしなこと言ったかなぁ。」
車を運転しながら、俺が聞くとベネットは首を横に振る。
でも笑うのはやめていない。
「違うの、おかしいなって思ったのはバーナビー様、いやバーナビーの方よ。
あんなに初々しい領主様初めて見たわ。」
初々しいね。まあ、統治を始めて2年足らずだ。
上手くいかないこともあるだろうし、たどたどしいのは仕方ない気もする。
「それで、むしろヒロシの方がよっぽど偉そうだから、おかしくて。」
偉そうだったか。
いや、まあ無責任にものが言えるって立場だから、偉そうと言えば確かに偉そうか。
「なんか人のよさそうな兄ちゃんだったから、分からなくもないな。多分、ヒロシのこと立派な人間だと思ってたんじゃないか?」
後部座席には、ジョンたち年少組が座っている。
セレンとベーゼックは新人たちが運転する車に乗っているから、学校の送り迎えか引率しているような雰囲気だ。
「立派ねぇ。肩書が、むやみに偉そうだし、仕方ないよな。」
俺は苦笑いを浮かべてしまう。
「いいえ、師匠は立派な方です。私は誇りに思ってます。」
ユウに真顔で反論されてしまった。
「そうだよね、ユウちゃん。ヒロシは肩書に負けないくらい頑張ってるもの。」
ベネットが笑いながら言う。
分かってながら、追い打ちをかけてくるのはやめてくれませんかねぇ。
「行動と意識の差だよ。
確かに俺も頑張ってないとは言わないけれど、その頑張りだけで何とかなったことなんかないし、みんなに支えられて何とかなっただけ。
だから、どうしても意識としては、立派だと胸は張れないかなぁ。」
どうしたって、借り物って意識からは逃げきれない。
この先、胸を張って俺はすごいって言えるかと問われれば、無理だというしかない。
「父も言ってました。周りに支えられ、人に助けられてやってきた。
だから、威張り散らすなんてとてもできない。
でも、それが必要な時もあるって。」
ノインの言葉に、俺とベネットは真顔になってしまう。
「ようは虚勢を張れって事だろ? ヒロシはできてるから、わざわざ言う必要ないと思うぜ?」
ジョンは茶化すように笑う。
「まあ、虚勢を張り続けて、自分でも本気になってしまわないように気を付けるよ。
それよりそろそろ、ブラックロータスにつくぞ?」
そう言って、俺は前を指さした。
見た感じ単なる山にしか見えない。あの外輪山の内側にブラックロータスがある。
尾根の切れ目から続く道、そこを抜け、景色が広がると湖。その綺麗な湖面の上には橋が何本かかけられていた。
前回見た時も思ったが、遠くから見ればとてもきれいな街だ。
座席の後ろから、年少組の感嘆の声が漏れてくるのが聞こえる。確かに、なかなか見かけない地形だよな。
カルデラ湖の中心に街があるというのは珍しい。
「あんなに小さいのに、迷宮まみれなんだろ? なんかわくわくするな。」
ジョンが嬉しそうに笑う。
「どうあれ、腕が鳴るよ。ジョン、これからもよろしく。」
ノインが拳を突き出すと、打ち鳴らすようにジョンも拳を合わせた。
「サポート頑張るから。二人とも、よろしくね。」
ユウは、決意を固めるようにぎゅっと杖を握る。
まあ、そこまで緊張する必要はないと思うんだけどね。
「まず手始めは、今までの遺跡よりも楽だと思うから、気張らなくていいと思うよ。
とりあえず最初は温泉もあるしゆっくりしようか?」
前回来た時に、定宿にする予定の宿屋は探しておいた。温泉付きのしっかりとした宿だ。
下手に住居を求めると高くつくのは分かっていたし、宿屋と年間契約した方が安上がりだという事も分かってる。
まずはそこを目指そう。
橋を渡り、門を潜れば猥雑な街の様子が目に飛び込んでくる。
「あれ? 思ってたのと違うな。もっときれいな場所かと思ってた。」
ジョンが町中の様子に驚きを隠せない様子だ。
「人が、多すぎですね。」
ノインが言うように、人でごった返している。
車を走らせるのにも、注意が必要だ。
物珍しいものを見るような視線が俺たちに注がれる。
ユウは、緊張のあまり身を固くしてしまっていた。
そのうち慣れるとは思うが、やっぱり外側から見る景色と内側の景色が違いすぎるよなぁ。
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