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2-2 聖戦士ってなんなんですかね?

 悩みどころだな。

ベネットに対して”鑑定”をしてみたい。

でも、何となくやっちゃいけないような気もする。

他人のプライバシーを覗きもするのは、不味いような気が……

誰にも試してないから、”鑑定”されたときに違和感を覚えるとかだと俺に対する印象はさらに悪くなるような気がする。

 もうすぐ日が暮れて、野営の準備を始めるころだが、そこで一悶着とか勘弁して欲しい。

昼間の乱闘騒ぎで昼飯は馬車の上での干し肉だけだったし。

この上、夜に騒ぎを起こして夕飯まで味気ない保存食とか勘弁だ。

 とはいえ、昼間に聖戦士であるベネットを押さえ込んだという事実は俺の中でかなりの衝撃だった。

単純に数値が高ければ勝てるとか、強いとかって話にはならないだろうが、相手の力量を計るのには凄い役に立つ。

 でもなぁ……

 知ったら知ったで相手のことを舐めそうな気もするんだよ。

 んで、油断してぐさーとか、ばっさりとかありそうだよなぁ……

 何より人間関係に影響が出そうで怖い。

数字だけで判断するような人間はだいっ嫌いだが、具体的に見せられて俺自身がそうならないなんて思えるほど、お気楽でもない。

 何か命に関わるような判断の時だけなら仕方ないんだろうけどなぁ……

 うーん……

 まあ、いきなりベネットの”鑑定”をするのはなしだな。

 この中で一番穏当に済むのはグラスコーだろう。

テントの設営や夕食の準備が一通り終わったのを見計らい、俺はグラスコーを”鑑定”してみた。

 びっくりするほどシンプルだな。

知力は高いけど、特殊能力は何も持ってない。

 しかし、魅力が16ってなんだ。

 こいつがそんなに魅力的だとは思わないんだがなぁ……

 別に美男子でもないし……

 何を基準にしている数値なんだか余計に混乱してきた。

でも、特にこちらの気にかけている様子もないところを見ると、”鑑定”を察知されるって事はなさそうだ。

とりあえず、健康状態なんかも見てみると、やや高血圧だとか肝臓機能が低下しているだとか分かる。

 いや、医者をやるなら便利なんだろうけど、俺医学知識ないしなぁ……

 特殊能力の無駄遣いだな。

そういえば、当たり前に飯を食うつもりでたき火を囲んだけど食わせてもらえるんだよな?

 昼間の干し肉はトーラスに分けてもらったけど……

「グラスコーさん。食事についてなんですが……」

 豆と干し肉を入れた鍋を掻き回しているグラスコーに聞いてみよう。

「あ?」

 これで、魅力16ですか………

人間の上限が18なのに、これで良いのか本当に?

「いや今更聞くのもなんなんですが、自分もいただいて良いんですか?」

 何を今更みたいな顔をしないでくれ。

 お前の常識は俺の常識じゃねえんだよ。

「大丈夫だよ、ヒロシ。通例として護衛や従業員の食事は雇用主が保証するものだから。」

 トーラスがフォローのつもりなのか、説明してくれた。

 昼間の干し肉もグラスコーの持ち物だったのかな?

「あぁ、そうか……すっかり忘れてた……」

 そういうと、グラスコーはごそごそと荷物をあさり始めた。

「とりあえず、当座の飯だ。一応、これで1週分になる。と言っても、晩飯は別に用意するから多少余る計算だがな。」

 そういうと、干し肉とかったいパンが紐でくくられた物を投げてよこした。

 潔癖性だったら、これ食えないぞ……

 包装って概念はないのかね。

と言うか、なんでも投げてよこすな。

「ありがとうございます。あ、トーラスさんも、昼に分けていただいてありがとうございました。」

 そういって頭を下げたわけだが、この世界は頭を下げるのはおかしな動作なんだろうか?

 二人して奇妙な顔をしている。

キャラバンにいたころにおかしいと指摘されたことはないんだけどな。

「頭を下げるのっておかしな事なんですか?」

 一応、確認してみよう。

地域差がある可能性だってあるしな。

「いや、別におかしかないが……」

 なんで気味の悪そうな顔で言う、グラスコー。

「いや、格好が格好だけにね。蛮族みたいな姿で、礼儀正しく対応されると奇妙に写るんだ。」

 なるほど確かに、暴走族みたいな格好の奴にお辞儀されてもおかしな気分になるかもな。

ぶった切られた皮は、まだ羽織ってるし皮ズボンも履いたままだ。

ちょっと格好を改めるべきかもな。

「まあ、とりあえず服までは支給できんが、売り物の服を着るか? 後払いで良いぞ?」

 そういいながら、グラスコーは器に豆スープをよそってみんなに配り始めた。

見た感じは貧相だが、豆が大量に入っている。

腹にはたまりそうだな。

 問題は、俺は豆が苦手って事だ……

 薄皮が駄目なんだよ。

 あと粒子状になる食感が豆独特の味と一緒に口に広がるのが……

「とりあえず、後で見せて貰って良いですか?」

 とりあえず、受け取った器には手を付けずに、返事をしておく。

最低でもコートのような物はあった方が良いよな。

下は、ジーンズでも平気だろう。

グラスコーのズボンや上着は縫製がそろってはいないが、ジーンズが目立つ程にはデザインがかけ離れてるわけでもない。

傭兵組二人は、まるで制服みたいなそろいのチェインメイルを身につけているが、下に身につけている服に差はないだろう。

 多分だけど……

「旨いですね。グラスコーさんの豆スープは絶品です。」

 トーラスは、早々に祈りを捧げてスープを口にしている。

 そうか、旨いのか……

ベネットも、ウルズに祈りを捧げて、スープを啜ってる。

こっちも旨そうに食ってるな。

「どうした? 早く食わないと冷めるぞ?」

 グラスコーも早々に口を付けてるが……

 旨い……のか?……

 おそるおそるといった感じで、俺はスープに口を付けた。

不味くはない。

いや、きっと旨いんだろうな。

 豆が好きな奴にとっては……

 あんこでもそうだが、俺はこしあん派だ。

特に滑らかなこしあんが大好きだ。

そんなわけで、薄皮がびっちりくちの中に残るこのスープは俺の好みではない。

 でもな……

みんな旨い旨いって食ってるなか、残すわけにもいかないしな。

それに味付けは、悪くない。

干し肉のほのかなうま味とパンチの効いた塩味。

スープだけなら好みの味だ。

 せめてジャガイモだったら良かったのに……

「おい。嫌いなら無理して食う必要ないんだぞ?」

 グラスコーが冷たい視線で俺を見ている。

ベネットなんぞ、視線に殺気が籠もってやがる。

「そうだよ。残すなら俺が貰うよ?」

 トーラスが若干嬉しそうだ。

 そこまで豆好きか……そうか……

「……お願いできますか?」

 俺は申し訳ないなと思いつつ、トーラスの器にスープを移した。

しかし、参ったな。

結局晩飯を食いっぱぐれることになってしまった。

「しかたねえな。これでも食え。」

 そういって、グラスコーがジャガイモを投げてよこした。

 またか!!

 今度は取り損ねて、地面に落としてしまう。

「生で食うよりは、焼いて食った方が旨いぞ?」

 落ちたもんをそのまま囓らねえよ。

と言うか、ジャガイモって生で食えるのか?

俺は、土を払い水を出して洗う。

そしてたき火の中に放り込んだ。

出した水は、土と分離して器に移しておく。

落ち着いて俺は水を飲んだ。

 ん?

 ベネットが目を見開いてるけど、どうしたんだ?

 トーラスに何か耳打ちしてるが……

 苦笑いしてるな。

まあ、良いか。

 とりあえず、ベネットを”鑑定”してしまおう。

レベルは俺と同じく3で、HPは俺よりも高い。

能力値も、そんなに遜色がないんだが、じゃああの弱さはなんなんだろう?

筋力は、若干俺の方が高い。

耐久力が俺よりも高いのは驚いたし敏捷力は同じ、意志力が俺よりも高いのは驚いた。

人間の最高値一歩手前の17か。

魅力がグラスコーと同じ16って言うのは、訳が分からん。

少なくとも容姿は関係ないんだろうな。

特殊能力には、俺の知っている能力もきっちり入ってる。

傷を癒してくれたのは、その中の一つを使ったんだろうな。

きっちり、数値が一時的に減っていることを示していた。

 特定の敵を殴るときに補助をくれる能力もきっちり減っていたが……

 これは、俺がその対象じゃないから不発に終わったんだろうな。

じゃなかったら、避けることなんかできてないわ。

しかし、特定の敵って、どういうのが対象になるんだろうな。

ゲームでは、属性があって、それに合致した対象になる。

 でも、”鑑定”で見る限りそういう属性は表示されてないんだよなぁ。

マスクデータなのか、それまでの行いが基準になるのか、それともその時何考えてるのかに寄るのか。

まあ、今は俺が対象じゃなくて良かったと言うことで、これ以上考えるのはよそう。

他に考えなくちゃいけないのは、明らかに俺の方が押さえ込む力が強かったことだ。

ゲーム的に考えれば、能力値が1点、2点高い程度ではそんなに差はでない。

 でも、明らかに俺と彼女では、俺の方が力が強かった。

仮説としては、能力値が1点の差がゲームよりも激しいと言うところだろうか?

でも、俺がそんなに力強くなった気はしないんだよなぁ……

「おい、ヒロシ。ジャガイモ平気か?」

 グラスコーに言われて、考え込んでいた俺はあわてた。

たき火の中からジャガイモを急いで取り出す。

幸い、焦げている部分は少なかった。

「ありがとうございます、大丈夫でした。」

 皮を剥いて、早速いただいた。

 塩欲しいなぁ……後で買っておこう……

「別に高いもんじゃないからいくらでも出してやるよ。」

 安いって事は、結構育ててるんだな。

「俺の国でも結構安く手に入りますよ。育てやすくて、外国から輸入したのが始まりですね。」

 こういう話ができるのは凄い気楽だな。

「ほう、そうなのか。こっちでも別大陸から持ち込んだのが始まりだな。」

 なるほどなぁ……

 大航海時代は始まってると見て良いのかもしれない。

宗教戦争らしき気配もある。

おまけに銃だ。

おおよそ、近世に近い社会なのかな。

 まあ、これに魔法やらモンスターが関わってくるから歴史通りとは限らないよな。

 どうも、ローマに該当する国も滅んでないみたいだし。

「ヒロシ、ちょっと良いか?」

 トーラスが、どうやらベネットにせかされたようで俺に声をかけてきた。

「なんですか?」

「いや、どんな呪文が使えるか聞けっていわれてね。」

 迷惑そうにトーラスはベネットを見ている。

 なんだ、そんなことかよ……

「大した呪文は使えませんよ。水を出すのと、温度を操るの、それと動物をなつかせる呪文です。」

 ベネットは訝しんだ表情を浮かべていた。

 別に大した呪文じゃないんだろ?

 トーラスもグラスコーも、ふーん大したこと無いねって表情だし。

ベネットの反応の意味が分からない。

 首をかしげたり、目をつむって眉をひそめたり、なんか急に思いついたような顔になったり……

 んで、また眉をひそめて目をつむるし……

 これで俺のことを敵視して来なきゃ、可愛いなぁと思うけどさ。

「お湯……」

 意を決したようにベネットが声を出してきた。

可愛い声だな。

まともにしゃべってる声を初めて聞いた気がする。

ちなみに翻訳されて聞こえてくる声は声音や音量は翻訳前と同じだ。

しかも、原語と翻訳されているときの声の違いに違和感がないくらい再現度が高い。

まあ、つまり何が言いたいかと言えば、ベネットの声って可愛いって事だ。

 うん。

 やば、惚れてる。

いや、どうせはしかみたいなもんだ。

相手にもされてないのに惚れて、勝手に冷めるなんてしょっちゅうだ。

 んで、なんだっけ……

「お湯が出せるかって事ですか?」

 まあ、そりゃ簡単だ。

呪文で備蓄している水の一部に、熱を変化させる呪文を使ってやればいい。

1日に4回しか使えないから、まとめてお湯にしないともったいない。

 だけど、温めておけば呪文の効果が切れる日付前まで温度変化はしないから割と便利使いできるんだよな。

温度を操る呪文の使い方としては、他にも着火とかもできる。

とはいえ数秒接触してないと対象にすることができないし、発火までに10秒から20秒ほどかかる。

気温や対象がどれだけしめっているかも関係しているんだろうけど、あんまり使い勝手は良くないな。

使用回数も、1回の着火で1回分減っちゃうし。

 そういう意味で言えば、お湯を出すのは効率的だし出すのはやぶさかじゃないんだけど……

「体を拭くのに使いたいの……グラスコーさん、バケツを貸して……」

 頷いた後に、そういって、彼女はバケツを取りに行く。

うん、まあ、思いっきり敵対した相手に言いづらいのは分かるよ。

だけど、なんか警戒されながら言われると悲しい。

ヒロシチョロい。

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