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11-24 思い付きを形にできるなら楽しいに決まってる。

楽しく仕事ができるって言うのは幸せですよね。

 ジョンたちのブラックロータス遠征が早まった。学校運営という事業も固まり、修道院の再建が一通りのめどが立ったからというのもある。

 それに合わせて、セレンがようやく新人教育から解放されたというのもあった。彼女がスカベンジャー組の面倒を見たいという申し出があったので、それを尊重した形だ。

 一応、俺と教会との橋渡し役でもあるんだけどもインベントリ経由の移動という手段もあるから、ブラックロータス常駐でもいいだろうという判断になった。

 前までインベントリ経由の移動にいろいろと抵抗感があったけれど、キャラバンのみんなが頻繁に来るようになったので、だんだんそれが薄れてきている。、

 ハンスもヨハンナも来たし、テリーとミリーは気軽に晩飯を食いに来るくらいだ。

 ロイドは一度来たきりだけれど、こっちに来たくないというわけじゃなく遠慮しているだけだとハンスは言っていた。

 そこまで、頻繁に来られると、最早何をためらう必要があるだろうかと感じてしまっている。

 ベネットもレイナに御茶会に呼ばれたからとインベントリ経由の移動を利用するし、俺だけ使えないのがちょっと不便だなと感じるほどだ。


 ……”収納”のレベルが上がった。


 久しぶり過ぎて、油断していた。

「ヒロシ、大丈夫かよ?」

 俺は、ジョンの問いかけにあぁ、と生返事を返す。

「それより、船の乗り心地はどうだ?」

 ブラックロータスに移動するついでに納入した焼玉船がどう運用されるかが気になったので、水運ギルドを利用することになっていた。

 今は、戦場にスカベンジャー組と、セレン、それに俺とベネットが船に乗らせてもらっている。

 当然、水運ギルドが運航している川までは車で移動していた。

 その車は新人3人とトーラスに任せてある。

 途中で盗賊に襲われる心配はないとは思うけれど、一応護衛は分割した。

 車の速度もあるし、多分トーラス一人でも、大丈夫なはずだ。多分。

「すげぇ揺れる。でも、なんか面白いな。ぽんぽん音がしてて、楽器鳴らしてるみたいだ。」

 ジョンは楽しそうに笑う。

 確かに揺れに会わせて音を鳴らしているようで、楽しい気分になるな。

 1日でラウゴール卿の街までは到達できるし、車の速度的に考えてそこで2泊してもブラックロータス最寄りの川まで行けば合流のタイムラグは発生しないだろう。

 しかし、ゆったりというか、思ったよりも速度が遅い。

 車よりも早く移動できるのは地理的要因のおかげだ。飛行船が出来れば、もっと自由に動けるから自動車よりも移動時間の短縮が出来そうだ。

「揺れると言えば、改造した車はどうだった?」

 油圧シリンダーの施策が終了したので、早速サスペンションとしてこちらの世界の車に組み込んでいた。乗り心地は改善されただろうか?

「んー、やっぱり正解を見せられているから、どうしても減点しちゃうな。

 前よりは断然よくなったけど、ヒロシの車の方がやっぱりいい。車を降りた直後なんか特にそう感じちゃうな。

 ノインはどうだった?」

 話を振られたノインが水面から視線をこちらに向けると、少し悩んだ様子を見せる。

「馬に乗り続けたり、馬車に揺られるよりかは全然いいですよ。

 でも、あれって馬車にも付けられるんじゃないですか?」

 まあ、確かに付けられるけど。需要あるかなぁ。

「ユウ危ないよ。」

 セレンが水面を見入っていたユウを抱き寄せる。

「船は揺れるからね。あんまり縁によらない方がいいよ?」

 ベネットは、ユウにジュースを渡しながら、頭を撫でる。なんか可愛がられている姿がほほえましい。

「ごめんなさい。こんなに綺麗な川は初めてだったから。」

 確かに、綺麗な水面だ。

 あまり汚すのは忍びない。

 焼玉エンジンの煤煙や廃液はなるべく垂れ流さないように回収しておかないとな。そこら辺を改造項目に加えておかないと、あっという間に川を汚してしまう。

 

 不敬罪が無くなったことで、ラウゴール男爵の対応は大分変った。

 というか、気さくになりすぎだ。他の男爵が相変わらず儀式めいたことをするのに対して、むしろ商人同士のような切り口で話を切り出されるので逆に気を使う。

「焼玉船、あれはいいものだ。自転車もいいな。

 絹布が出回った時、また布かと思っていたが、ああいうからくりはとても好ましい。

 むしろ、絹布は高騰しすぎて心配なるな。」

 ラウゴール男爵の言うとおり、絹布は高騰を続けている。

 一度に大量に販売はしていないとはいえ、供給を断っているわけでもない。誰かが、どこかでため込んでいるんだろうなぁ。

「一応、手を尽くしまして、絹布はかき集めている所ではあります。そう遠くないうちに、値段も落ち着くかと。

 ちなみに、焼玉を使って畑を耕す車を作れないかという話をとある村長からいただいています。

 まだ、話を聞いたばかりなので形にもなっていませんが、お耳にだけは入れておこうかと。」

 ラウゴール男爵は顎をさする。

「なるほど、それに出資せよという話だな。よかろう。

 クロードには話は通しておく。」

 話が早くていいけれど、今までの回りくどい部分がなくとんとん拍子で進んでしまうから怖い。

「よろしくお願いいたします。閣下の期待に応えるように努力する所存です。」

 そういうとラウゴール男爵は笑う。

「近いうちに男爵になるのだろう? そうなれば、同格だ。

 もっと気さくにやっていこうではないか。」

 いや、まだまだ時間はかかる。それにレイオット殿下の機嫌次第では、なかった話になるかもしれない。

「仮に、ことが上手くいきましても若輩であることには変わりありません。どうぞ、今のまま、同じように接していただければ幸いです。」

 いくら不敬罪が無くなったからと言って、礼を失していいわけもない。

 できうる限り、今まで通り接しよう。

 

 ラウゴール男爵との会談が終わり、宿に戻ってくるとベネットがストッキングを見せびらかしてきた。

「ねえ、ヒロシ。やっとできたんだ。スノーウーズ入りのストッキング。

 冷たくて気持ちいいよ?」

 スカートをたくし上げて、脚を見せてくる。

 こっちの世界では、とてもはしたない行為なはずだけど気にした様子もなく見せびらかす。

 この子はまったく。

「そんなに見せたいなら、短いスカートを履いて一緒に街に出ようか?」

 そういうと、ベネットはスカートを下ろした。

「やだ!変態!!ヒロシだから見せてるだけなんだから、他の人になんか見せないよ!!」

 あれだけ見せびらかしてたのに、何を言ってるのやら。

「本当かなぁ。まあ、いずれにせよ履き心地は気になるね。ウーズの皮を繊維にできたのは聞いていたけど、肌触りとかはどうなの?」

 確か、最初はストッキングをはいている絵をみたベネットが、これが何かと聞いてきたことから始まっていた。そこから実物を見せて、これと似たようなものができないかと試行錯誤を続けていたのは知っている。

 だけど、スノーウーズ入りのストッキングというのは初耳だった。

「ちょっとざらつくけれど、普通のストッキングくらいには履きやすいよ?

 撫でてみればわかるけど。」

 撫でてみるとばかりにベッドに腰かけて、またスカートをたくし上げてきた。

「ベネット、直接じゃなくたっていいだろう? とりあえず、同じものがあるなら出してよ。」

 自分の手を通して触ってみればわかる話だ。

 きっと誘っているんだろうなというのは分かるけれど、ちょっと早すぎる。

「別に、直接触ればいいのに。」

 拗ねながらも、未着用のストッキングを差し出してきた。少しざらつきがあるのは確かだけど、伸縮性もちゃんとある。

 それと、確かにひんやりとしていた。

 これなら、夏場に身に着けるのにはぴったりかもしれない。

 しかし、ストッキングか。強度はどのくらいあるのだろう?

 もし、それなりに強靭なら、魔法を付与して防具にすることも可能かもしれない。着心地のいい防具というのは、それなりに需要あると思うんだよなぁ。

「ちなみに、なんだけど。

 ワイバーンの肌着は履き心地とかどうなのかな?

 あれもそれなりに伸縮性あるよね?」

 自分用には購入してなかったので、着心地が分からない。

 ベネットの感想は聞いておきたかった。

「冬場はいいけれど、夏場は無理。

 汗だくになって、ぴったりくっついちゃうし。」

 それなら、このストッキングを裏地にするという手もあるんじゃないだろうか?

 ベネットと目が合う。

「それを裏地にってこと?」

 俺は頷いた。

「確かに、それはいいのかも。工房に手紙を送っておくね。

 でも、ワイバーン革はなかなか手に入れにくいから、鎧下とかに使う方向性かなぁ。」

 ベネットは楽しそうに手紙を書き始めた。やっぱり俺なんかより、よっぽど商人向きな気がするなぁ。

「別に、そんなに根を詰めなくてもいいよ。それより、一服いかがです、姫様?」

 そういいながら、ベネットも好きになってくれた缶コーヒーをカップに注いで渡す。

 冷やしておいたので、夏場でも大変飲みやすい。

「ありがとう。

 でも、自分で考えた商品が形になるのは、本当にうれしいものだよね。」

 一服しつつベネットは楽しそうに笑う。

 なんだか、俺もにやけてしまった。

「わかる。」

 こんな風に、思い通りに夢を実現できるなら、楽しくないはずがない。

 自分もコーヒーを口にしつつ、何か面白いことを思いつかないかなと考えてしまう。

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