11-22 なんかきな臭いなぁ。
割とベネットは偏見が強いタイプです。
でも、誰だって知らない人や物事には偏見を持ってしまうものですよね。
しかし、結構長い。
団長もわざわざこんなに事細かにベネットに手紙を書いてくるという事は何かしらの意図があるんだろうか?
とりあえず、続きを読もう。ここからは戦後処理の話になる。
講和内容は30年前に奪われた土地の奪還という事だけれど、これは非常に大きい。
まず地上にあるチョークポイントだ。左右が沼沢地や険しい山でなおかつ人界ではない。その上でさらに迂回となれば、蛮地を経由するか、山脈を超えるしかない。
ただ逆に言えば、大陸にフランドルの兵を派兵するとなれば、そこを通らなければならない。
サンクフルールや帝国からしたら、そこをフランドルが抑えておくのは恐ろしいはずだ。
当然ながら、国内の貴族たちは領土の拡大を主張している。何だったらサンクフルールに攻め込めという貴族も多かったらしい。
何せ自分たちの軍事力を消耗していない。だから、積年の恨みを晴らそうと、軍を組織化しているという話もある。
もちろん、国軍内でもさらに攻め込むべきという話をする幹部もいたらしいけれど、軍を主導している参謀は大反対だ。
現在は子爵として列せられたバーナード閣下は、どうやら現代戦の知識を有しているらしく兵站の限界を把握している様子もある。
何より、外交面で過去に奪われた故地を取り戻すという大義名分は通じても、さらに怨敵を倒すという事は侵略と受け止められかねない。連合、帝国、両者の支持は得られないだろう。
まずは、取り戻した土地を固めるのが先決だ。
このため、継戦には反対の立場をとっている。
その点に関して国王陛下もその方針に異論はなく、勝手に動いている貴族に対しては叱責という過敏な反応を示していた。軍事を今まで取り仕切っていたバウモント伯もこれ以上の戦線拡大は望んでいない。
というわけで継戦派は勢いをなくしてはいた。
ただ、意外だったのは第三王子であるレイオット殿下の態度だ。驚いたことに、直接参謀のバーナード閣下に直接の叱責をされたという。
これは明らかに国王陛下の方針とは対立している。
バーナード閣下を引きたてたのは他でもないレイオット殿下だ。まさか、自分を引っ張り上げてきた相手が自分の行動に注文を付けてくるとは思ってもみなかっただろう。
おかげで、バーナード閣下は貴族社会で孤立する羽目になっているそうだ。言ってみれば、唯一の後ろ盾を失ったようなものだしな。
まさか、戦勝したのに窮地に立たされるとは思ってもみなかっただろうなぁ。
一体、第三王子殿下は何考えてんだろうか?
「なんか、レイオット殿下はやばいね。」
思わずため息をついて漏らしてしまった。
「そうね。バーナード様には恨みを買うだろうし、他の方からは変な持ち上げ方をされてしまいそう。」
王位継承権は、第三位にあたるのでほぼ国王になることはない。
既に王太子殿下は配偶者を持ち、継承の準備も整っている。健康面にも不安はないし、特に人格面で問題があるという話も聞いた事はない。
陛下もいずれ退位し、生前に継承が行われるだろうという。
もはや盤石だ。
まさか、そこに割り込もうとか思ってないよな?
なんだか胸騒ぎがする。あり得るんだよな。転生者だけにおかしなことを考えている可能性が。
「巻き込まれたくないなぁ。」
嫌だと言っても無理かもしれない。
「無理じゃないかなぁ。ヒロシのやっていることは、レイオット様のご希望でしょう?
陛下がお慰みに無理難題を押し付けてきたって言われているけれど、うまくいけばレイオット様はヒロシを気に入るでしょうし。
逆にうまくいかなければ、恨みを買うのは避けられないでしょうね。」
失敗したら、この国にはいられなくなるかもなぁ。
「まあ、わざわざ失敗するつもりはないけどね。」
そういうとベネットは笑った。
「じゃあ、王子様には改心してもらうしかないわよね。」
俺はベネットの言葉に俺は眉をしかめる。
「まあ、ちょっとお考えをお聞かせ願う必要はあるかもね。」
何考えてるか、分からなければ話し合いどころじゃない。
「そうだね。でも、団長は何を考えてこんな手紙を送ってきたのかなぁ。」
ベネットもこの長い手紙の意図を測りかねている様子だ。
一つぱっと思いつくのは、駐退機の開発。これは、野戦時の大砲に対する不満から読み解くことができる。
でも、それだけかなぁ。
マスケットの改良なら、おそらくもっと催促されててもおかしくない。
通信手段の整備についてであれば、無線なんだろうけども。そこは、魔法もあるのだしそちらを優先させるべきなんじゃないかなぁ。
まあ、貴重な魔法使いを損耗激しい前線に出させるわけにもいかない。実際、戦場では《火球》や《連鎖電撃》なんかも飛び交ったらしいけれども、劇的な戦果は上がっていない。
むしろ、銃で撃たれて魔術師を損失してしまっている。そりゃ、そんな派手な使い方をしていれば、真っ先に狙われるよな。
思うに、そういう表面的な要望はこの手紙の本意ではないような気もする。
「参謀閣下と会わせたいのかな?」
俺の言葉にベネットはうーんと唸る。
「大砲を何とかして欲しいのかと思ってた。」
まあ、それはあるのかもしれない。で、それを何とかする方法も思いつかなくもない。
「そっちは、サボり魔次第かなぁ。」
実は、サボり魔がこっちの世界の車に対して、大きな改造を施そうとしている。きっかけは、車酔いだ。乗り心地が悪すぎて、長時間乗っていると吐く。
それを何とかしたい様子だ。
クッションで何とか耐えると言っても限界がある。なので、サスペンションに手を出したいという事で、油圧シリンダーについて大学の教授や工房の職人を巻き込んで絶賛研究中だ。
そう、油圧シリンダ。それがあれば、駐退機を開発するのは容易だ。
「あの子、楽をするためにいろいろ考えて、手を出して結果忙しくなるのが面白いわ。できれば、ヒロシの部下になってくれるとありがたいんだけど。」
現状では、あくまでもグラスコー商会に所属する同僚だ。
でも、別にそれで問題ないと思うんだよなぁ。
「今は単なる共同経営者だし、別の立場が手に入ったら考えるよ。ところで、ベネットはご婦人に捕まったり大変そうだね。」
ベネットは俺の言葉に苦笑いを浮かべる。
「新しいおもちゃが手に入ったって思われてるのかも。
香水や基礎化粧品なんかは、とっても売上良いし、ありがたいお得意様なんだけど。
あちこち触られて羨ましいって言われるのは喜んでいいのか悪いのか。時々変な触り方をする方もいるし、疲れる。」
変な触り方ってなんだ?
なんか、ベネットを汚された気分になってしまい、思わず俺の方からベネットに触ってしまった。
「人前でだから、そんなに変な触られ方じゃないよ?
でも、そこは確かに触られたかも。で、ちょっと気になるのはこれなんだよね。」
そう言って、ベネットはインベントリから、瓶を一つ取り出す。
ポーションだろうか?
「ちょっと見てもらえる? 精力剤の一種って言われたんだけど、怪しいからずっと放置してたんだけど。」
精力剤って。一体なんだろう?
とりあえず”鑑定”してみる。結果、成分表の他にもいろいろな情報が分かる。
ただ、俺の知識がないものだと名前を聞いてもさっぱりだ。一つ一つ、分からないものはネットで検索をかけていくけど。
「これ、麻薬だね。」
自然由来の成分ではあるけれど、体にいいものではない。精力剤というには、やや危険な気もする。
もちろん、いわゆる精力を増強する効果もないわけではないけれど。
「やっぱりね。なんだか、レイナ様を避けるように接触してこられたからおかしいなとは思っていたけど。こういうのが流行ってるって、ちょっと乱れすぎだよね。」
少し社交界が心配になるのは事実だ。大分お盛んなんだろうか?
「まあ、ヒロシには必要ないし処分しないとね。あー、でも、私の方が必要かな。」
それはいったいどういう意味だね。
「ベネットにも必要ないよ。変なこと考えない。」
そういうと、ベネットは瓶を揺らしながら笑う。
「使わないよ。ヒロシが使えって言えば、別だけど。」
言うわけないでしょうが。
「怒るよ。」
はーい、と言ってベネットは笑いながら瓶をしまった。
翌日、レイナ嬢のお宅にお邪魔させてもらった。
ベネットの日本語講座はほぼ終了しているし、最近はジョシュとの大切な時間を邪魔をしないようにお伺いするのをやめていたんだけどおかしなものを渡されたという話はしておかないといけない。
「で、これがその麻薬?」
レイナが瓶を振りながら、下から眺める。
「そうです。他にも怪しいもの出回ってないですか?」
そういうと、レイナは顔をしかめる。
「ご名答。怪しげな薬がいろいろと出回ってるわ。主にロマンス関係。」
深いため息が、事の深刻さを感じさせる。
「変な薬でひっかきまわすのは連合の得意技ね。サンクフルールも結構やられているみたいだし、やっぱりあの国はやばいわ。」
確かバーナード閣下が留学していたのが、連合だったか。やっぱり潜在的には敵国なのかなぁ。
でも今の状態で殴り合っても勝てない。
サンクフルールの艦隊を何度も打ち破り、通商破壊も繰り返されている。
フランドルは歯牙にもかけられていないが、その矛先がこちらに向けば輸入品は一切入ってこなくなるだろう。
仲良くやるしかない。
おそらく、こういった薬をばらまいている層と連合そのものには関係性はない。あくまでも、非合法組織がやっていることであって、それを是認しているわけではないという姿勢をとるはずだ。
だが、少なくともそれらの組織が存在しているのが連合内部であり、構成員が連合国の人間であるというのには変わりがないんじゃないだろうか。
つくづく面倒臭い。
「海賊は海賊で、やっぱり何かしてるんですね。」
ベネットは忌々し気に呟く。ちょっと、排他主義がいきすぎな気もするので、不安だ。
確か、サンクフルールは西の蛮族とか言ってたしなぁ。
「あんまり、連合を海賊というのはよくないよ。あいつら、どっちかというと詐欺師に近い。」
レイナはレイナで吐き捨てるようにつぶやく。
「とはいえね。
どこの国も似たり寄ったり、だましだまされ仲良くやってくしかないよ。とりあえず、これは預かるね?」
そう言って、レイナは瓶をしまう。
同じインベントリなので、誰が取り出せるかの違いでしかないわけだけども。
「あぁ、でもその国の出身者だからって偏見は持っちゃ駄目だよ。うちの国の中にだって、詐欺師もいれば強盗だっているわけだし。
まあ、私も詐欺師みたいなものかもね。」
そういいながら、レイナはベネットの鼻を突く。
「分かってます。それを言うなら、私だって人殺しのごろつきですよ。」
ベネットは少し疲れたように肩を落とす。
誰だって、悪事を行ったことがないと言えるほど清く正しくは生きていない。もしも真顔でそんなことを言うなら、無知か詐欺師のどっちかだろう。
でも、まだ幼いジョシュがいるところで、悪事自慢みたいなこともしたくなかった。
「人それぞれ事情はあるよってことでここはひとつ。」
とりあえず逃げを打とう。
ベネットとレイナににやにや笑われているが、ここは我慢しておく。
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