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11-21 色々と情報が集まってくるな。

歴史的になぞらえるならば、主人公のいる国はともかく隣接国には絹を生産する技術はありそうです。

あくまでも主人公の知る範囲では絹の正体がなんであるのかは知られていないという事でよろしくお願いします。

 契約をまとめるため、支部長と工房の別の一室で話すことになった。契約自体はすぐに終わるのだけれど、当然それだけでは解放してくれない。

 グラスコー商会で穀物売買や銀行業、海運にまで手を伸ばしている話やら、それらに対する展望みたいな話。

 絹布の相場から話が広がり様々な商品の相場の話に展開して、結構な時間ダーネン支部長にまとわりつかれてしまった。

「あれほどの絹布なかなかお目にかかれません。相当腕のいい職人を抱えられているのでしょうな。

 やはり、東の果ての人間ですか?」

 絹自体は流通していて、東の方で作られているという話は有名だ。

 虫の吐き出した糸であるところまでは伝わっているが、その虫が蚕であるという事までは知られていない。俺から何とか、生産や製造技術を聞けないかと必死な様子で問い詰められてしまう。

 もういい加減、俺が異世界経由で物品を仕入れていることは知っているはずだ。そういう様子が見え隠れしている。

 その上で、俺がなるべくこちらの技術で再現できるように試行錯誤しているのも、感づかれているんだろう。

 ならば早めに吐き出させたい。支部長の思惑はそんなところだろうな。

 でも、正直なところ絹布については広めるつもりはない。

 いずれは、東の国で同じ水準のものが出回るはずだ。手に入れた、こちらの世界の絹布も同じような技術で作られていることは確認している。

 後は精度が上げて発展させさえすれば、俺の絹布は珍しいものじゃなくなるはずだ。

 なので、わざわざこちらで広めて東の国の儲けを根こそぎ奪うような真似はしたくない。少し儲けを拝借するくらいが、小心者の俺にはお似合いだろう。

「秘密です。」

 なので、すべての情報を出さないことに決めている。俺の言葉で、支部長はようやく断念してくれた様子だ。

「君がその笑みを浮かべたら、無理だねぇ。実に憎たらしい。」

 そんな笑顔だったかなぁ。

 支部長の笑いの方が、よっぽど怖いけども。

「ありがとうございます。うちの商会長の足元にも及びませんが、一応共同経営者ですからね。支部長に一目置かれたと思えるだけでもうれしいです。」

 俺の言葉に、支部長は笑いをかみ殺している。

「それと出来れば敬語はやめてください。殿なんて尊称を付けられるような身分でもないですよ。」

 そういうと、支部長は口元を抑える。

「いやいや、言葉が汚くなるのは、卑しい身分故お許しを。いずれ男爵になられる方だ。

 尊称をお付けするのは当然ですよ、ヒロシ殿。」

 やめてくれと言ったら、敬語使うとか先が思いやられる。嫌だと言っても、やめさせられないよな。

 何も咎められるような話じゃないし。

 だけど、嫌がっているから余計にやられる。結局俺がなれるしかないという事か。

 本当、この人との付き合いは疲れる。

 

 結局、帆を設置するのにひと月近く経ってしまう。

 新人教育もほぼ終了してきたので、ほとんどの事業は丸投げしている。

 鉱物資源の確保は相変わらずハルトにお願いしているし、ギルド経由で技術提供した商品も順調に売り上げをもたらしてくれている。何もしなくてもお金が手に入るって言うのは素敵だ。

 まあ、でも、暇になったわけじゃない。

 アレストラばあさんの所に顔を出したり、水運ギルドと焼玉エンジンについて情報提供してもらったり、飛行船絡みでも色々と忙しい。

 それと教育を施してもらっている船員オートマトンについてもほったらかしで済むものでもない。

 今日は預けている船長との面談だ。

 元は漁師で、操船の腕を買われて海運商に船長として迎えられた人物だ。肩書だけなら立派な人なのは間違いないけど。

「さ、酒。酒をくれ。」

 ぶるぶると震える姿はとてもそんな立派な人物には見えない。

 多分アルコール依存症なんだろうな。呪文で肝硬変やら神経の損傷なんかは直せるけども、依存症は範囲外だ。

 あるいは記憶をいじれば何とかなるのかもしれないけれど、そこら辺は精神医学の範囲になるだろうから、おいそれと手出しできない。

「あまり、呑まれると体に障りますよ?」

 とはいえ、まったく渡さないと話が進まないので、軽いエールを渡しておく。

「水みたいなもんじゃなく、ラムとかジンが欲しいんだがなぁ。」

 エールは水じゃない。ちょっと感覚がずれすぎてる。

 それでも、一気に飲み干しているあたり、不満に思いつつも妥協はしてくれたようだ。

「それでどうでしょう? オートマトンたちは働けるようになりましたか?」

 そう問いかけると、船長さんはどこか遠くを見るような表情になっている。駄目だ、この人。

 グラスコーの紹介だから癖はあるだろうなと思ったけど、これは重症だ。

「船長?」

 俺が呼びかけると、意識を取り戻したのか、こっちを見てくる。

「わるい。あー、あの木偶人形のことだな。

 割とよくやってくれてるよ。何より給金が安いと文句を言わんしな。」

 船をまとめる際には、それが一番大変だろうな。

 海の上で船員に反乱を起こされたら一大事だ。船長は海に放り投げられ、残った船員は海賊化する。そうならないために、いろいろと手を尽くさないといけないという事は以前に聞いていた。

 その点で言えば、オートマトンは便利な道具だろうな。

「技術面はどうですか? まだまだって言うところでしょうか?」

 ただ、そういう話を聞きたいわけではない。気になるのは技術面の進捗だ。

「あー、どうかなぁ。 あとひと月、ふた月いるかもしれん。何より、ちゃんとした船長がいないと動けないからな。」

 そこは悩みの種だ。

 飛行船の船長なんて、経験がある人がいない。今、面倒を見てもらっているこの人に頼むわけにもいかないだろう。じゃあ、俺がというわけにもいかない。やるべきことが他にいくらでもある。

 どうしたものか。

「若い航海士で一人当てがいるんだがどうだね? 俺よりもしゃんとしている。

 空飛ぶ船となると尻込みすると思うが、普通の船なら一人で操れる奴だ。あんたの所で抱えてみるって言うのはどうだい?」

 願ってもない申し出だ。

 もちろん、その若い航海士というのが、こちらの話に興味を持ってくれればだけども。

「話を通していただければ幸いです。でも、船長も体には気を付けてくださいね?

 酒はほどほどにしてください。」

 なんか、あいまいな返事をされてはぐらかされてしまった。

 

 ベネットが俺のベットに入ってくる。

 なんだろうか?

「どうしたの?」

 俺が聞くと、ベネットは俺を見てくる。

「浮かない顔をしてたから。船長さん、相変わらずなの?」

 俺は頷く。

 確かベネットとは一度会わせたんだけど、その時に船長とベネットは大げんかになってしまった。酒絡みのことで注意するベネットと小娘に何が分かるという態度の船長。

 まあ、衝突はするよな。

 2度と連れてくるなと言われたので、今日は連れて行かなかった。

 でも、ベネットも結構いける口だと思うんだけど、酒呑みのわりに厳しいよな。

「あの人の場合は、病気。おいしく飲むのならいいけれど、不安をごまかすために飲むようになると駄目だと思う。」

 なるほど。

 とはいえアルコールに頼るようになってしまったのは、プレッシャーも理由の一つなんだろうな。

「でも、頭ごなしに怒っても、治らないと思うよ。」

 そうだけど、とベネットはうつむいてしまった。

「でも放置しっぱなしもよろしくはないだろうし、いろいろと考えておくよ。医学の教授に伝手もあることだし、まずは相談かな?」

 大学にはいろいろと資金援助をしている。その中でも医学には結構な額を支援させてもらっているけれど、おかげで割と話を聞いてもらえている。

 確か、外科や内科以外にも精神科の教授もいたはずだ。

 もっとも、船長が受け入れないようであれば、まったくの無駄になるわけだけども。

「そういえば、団長から手紙着てたよ。戦争は、終わり。

 今回は、サンクフルールの連中をぎゃふんって言わせてやったみたい!!」

 おぉ、そうなんだ。

 一応、戦況が有利だという話は聞いていたけど、そのまま押し切ったというところだろうか?

 でも、詳細な状況は聞いておきたいところだ。

「見てみる?」

 ベネットに送ってきた手紙を俺が見てもいいんだろうか?

「いいの?」

「うん、団長もヒロシに見せていいって。」

 それなら遠慮なく見せてもらおう。正直、自分は戦闘のプロではないので資料を見ても何がどうなっているのかはよく分からない。

 ただ、攻勢前に十全な輜重が行われていたこと。

 装備の統一が行われていたことや組織の見直しで小隊長同士の連携が重視されていたことが読み解けた。

 双眼鏡の数が揃ったことによって現場単位では連携が取れやすくなったというのもあり、小規模部隊の連携が以前よりも効率的になったという判断のようだ。

 もちろん、旗信号や灯火信号みたいな伝達手段も試行錯誤している。笛なんかも利用しているそうだ。

 というわけで、今回の勝利は軍の運用がより効率的だったので勝ったと言えそうだ。純粋な物量に関して言えば、サンクフルールには負けている。

 そもそも、国軍を組織した時期はサンクフルールの方が早かった。植民地からの徴兵も行っていたらしく、数の上では劣勢なので外交による介入によって帝国を味方に付けたのも大きい。

 その上で、ベレスティア連合がサンクフルールに圧力をかけていたため、安易な兵力の抽出が出来なかったのもある。

 なので、フランドル王国が単独で勝ったというよりも周辺国で抑え込んだというのが実情だ。ここまでそろってもなお、数の上では劣勢、装備も特別有利というわけでもなかった。

 大砲の数、銃兵の数は劣り、銃自体も相手方が最新鋭の銃を使っているのに、こちらは旧世代の銃を使っていた。

 個人的に見て、どちらもマスケットなわけだけれどサンクフルールの方がやや射程が長い。半面、反動は強めだ。

 決定的な差ではないけれど、確かに射程の差は大きい。

 

 それを覆しえたのは、銃剣の存在だ。

 

 サンクフルール側は陣形を組む際に槍兵を伴い移動する。対して、フランドル側は、純粋に銃兵のみで部隊を移動、展開させることができた。

 その差が、射程という差を埋めてくれた。

 部隊の機動力に差があったという事だ。

 また、お互いの大砲が駐退機を備えないものだというのも影響を与えている。本来、命中率が高ければ大砲は距離を置いて運用したいはずだろう。弾を遠くまで届かせる能力は十分にあるからだ。

 しかし、駐退機がないため、射撃のたびに照準を合わせる必要が出てくる。撃つたびに大砲の位置が変わってしまうからだ。なので、移動中の歩兵を狙うのすらままならない。

 運よく命中しても、再度打つ際には同じ場所を砲撃するのは困難だ。

 結果、大砲を使う際には、前線に持ち出し散弾を叩きこむという扱いしかできない。

 相手が要塞であれば、相手は動かないのだから威力や射程は重要だけれど、野戦ではむしろ小回りが利いて射程や威力が抑えられた大砲が好まれる。

 砲門の総数は確かにサンクフルールの方が勝っていた。

 しかし、そういう野戦向きの大砲はむしろフランドルの方が勝っている。

 

 かくして、フランドルの勝利で決着がついたとういうわけだ。

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