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11-18 お仕事再開。

指揮命令系統があやふやなのはベンチャーあるあるというやつですね。

 休暇が終わり、また仕事が再開される。

 出来れば何もかも新人に投げっぱなしにして遊んでいたいけれど、そういうわけにもいかない。大学に連れて行ったり、市場に顔を出したり、印刷所に依頼をかけたり、工房に顔を出して打ち合わせをしたりと何かと忙しい。

 時には、ベネットにお願いをしてがり勉ちゃんに女性じゃないとできない仕事をお願いしたりもする。

 女性下着とか男が口を出して言い事業じゃない気もするし、化粧についても女性の方が何かと都合がいいはずだ。

 先生に会いに行くのも仕事のうちなんだけど、魔術師でもない新人を連れていくわけにもいかない。

 なので、ここだけは俺とベネットが足を運ぶことになっている。

 まあ、先生と話すのは楽しいので、全然苦ではないのだけども。他の仕事が圧迫されちゃうのがな。ついつい、長話をしてしまう。

「なるほど、学校ねぇ。

 修道院を起点にして、庶民でも学べる場所を提供するというのは面白い発想だよ。」

 先生に褒められたけど、正直目新しい話ではない。実際、教会で簡単な読み書きを教えている所は結構ある。

 ただ、どうしても金がかかってしまう。

 教師だって、生きているのだから無償で教育を行うことは不可能だ。そこを多少補助しようという話でしかない。

「でも、貴族は平民が学ぶのを嫌うからね。モーダルだけならいいだろうけど、それを全国にとなると厳しいんじゃないかなぁ。」

 先生は首を捻る。

「そうですね。俺としても、モーダルだけに留めるつもりです。

 他の場所は、その土地の人に任せるのが一番いいかと思ってるんですけど。」

 何よりもカリキュラムや授業の仕組みを形作らないと、話にならないだろう。これだけ凄いことができますとやっておきながら、中身がスカスカじゃ話にもならない。

「ベネットちゃんはどう思う?」

 話を振られてベネットは慌てる。

 先生の意図は何だろう?

「えっと、勉強するって言うのは贅沢な事って思われるかもしれないですね。最初は人が集まらないかも。」

 あぁ、なるほど。

 こっちの世界の常識からすれば、勉強をタダで受けられるなんて胡散臭いか。

「なるほど。

 まあ、10年、20年、それくらいのスパンで見ないとだめかもしれないねぇ。」

 思わず俺は、眉をひそめてしまった。そんなにかかるのかなぁ。

 先生はエルフだから、ちょっと長めに見過ぎなんじゃないかと思わなくもない。

「そうですね。勉強した子が、就職して役に立ったことを実感して、親になって子供を通わせる。

 そうなって、初めて受け入れられるんじゃないかって、私も思います。」

 ベネットの言葉に俺は目から鱗が落ちる気持ちになった。確かに言われてみれば、その通りだ。

 下手をすると1世代じゃ無理なのかもしれない。

「もちろん、その間にもうまくいっている人間の姿を見て、通わせようという親が出てくるかもしれないけれどね。

 いずれにせよ、時間がかかる事業じゃないかなぁ。」

 そう言って、いつの間にか先生は書き上げた事業予算を見せてくる。その金額に、俺はため息が出てしまった。

 モーダルだけで、こんなにかかるのか。

 いや、年数を考えれば稼げない金額じゃないだろうし、俺だけが常に負担する状態が続くとも限らない。実績が上がれば、出資したいと考える人間だって出てくるだろう。

「それでもやるんだろう?ヒロシ君。」

 先生は嬉しそうに笑う。

 なんだか見透かされてしまった。

 もちろん、やめるつもりはない。お金が必要なら、稼げばいいのだ。

 

 先生からは、新しい呪文を教えてもらった。

 6レベルの呪文は《凍てつく霧》、《伝承知識》、《石化解除》の3つだ。他にも、《力場の壁》、《音槍》や《水中呼吸》、《環境適応》、《暴風》という呪文も習っておいた。

 もちろん、単純に戦闘で役に立つからという理由で覚えたものもあるが、他にも使い道がある呪文は多い。

 石油採掘にはきっと役に立つだろうし、飛行船の改造にも必要な呪文もある。

 一応、自分でも独自に研究をしていたりもしたけれど、やっぱり最後の一押しは先生に習わないとどうしても身に付かない。

 この仕組みは何とかならないものか。

「しかし勉強熱心だね、ヒロシ君。呑み込みも早いし、応用もしっかりできている。

 教えていて楽しいよ。」

 先生は嬉しそうに笑う。

 多分、盛られた能力値のおかげだ。でも、褒められるのはやっぱりうれしい。

「それに、マジックアイテムの下準備については、私は思いつかなかったよ。

 当たり前すぎて、見落としていたというか。いやはや、恥ずかしい。」

 先生からすれば、人間のように時間を気にする必要はない。気付かなくても、全然おかしくなどないだろう。

「それは、単に俺が短気なだけです。根気がなくて、雑な性格なので思いついたんだと思います。」

 そういうとベネットが笑う。

「確かに、ヒロシは暢気なのに気が短いところもあるかもね。」

 暢気かなぁ。

 いや、まあ怠惰だと言われれば、確かにそうだと思う。

「しかし、悪いね。ベネットちゃん。

 資材整理をしてもらったり、素材対応表なんかをまとめてもらったり、面倒だからとほったらかしていた所があったからとても助かったよ。」

 呪文を教えてもらっている間、ベネットはメイさんと一緒に先生の家の片づけをしてもらっていた。ベネットは少し恥ずかしそうにうつむきながら、お役に立ててうれしいですと言っている。

 もちろん素材の使い方や加工方法の資料を教えてもらうという側面もあるから、先生の側だけにメリットがある話じゃない。

 それもあるから、ベネットは恥ずかしそうにしてるんだろうな。

 俺からも、ありがとうと耳打ちしておこう。

「これは、大学に届けてもらえるかな?

 私が持っていくと色々と面倒でね。小間使いのように使ってしまって申し訳ない。」

 先生は申し訳なさそうに頭を下げるけど、むしろこちらとしてはありがたい限りだ。

「とんでもありません。俺も商人ですし、利益があってのことですから。

 むしろ、恩恵の方が上回るくらいです。」

 先生の作った資料やベネットが整理してくれた資料などを預かる。

 

 結局、その日は先生とひとしきり話し国際情勢やら新技術のこぼれ話を聞いて終わってしまった。

 もしかしたら、サボり魔を連れてきてもいいかなぁ。

 今度、先生の所を尋ねる時は考えておくか。

 1日の最後は、倉庫に揃うことになっているので、新人たちを待つ。

 普通に日が暮れたらおしまいなんだけど、サボり魔以外は顔を出さない。

 いや、その。

 早く来ないかなぁ。

「今日のローテーションってどうなってましたっけ?」

 サボり魔は、けだるげに俺の方を見る。

「あー、確かリーダーが市場で、がり勉が大学です。

 俺は、工房だったんですけど。」

 なんか変なものをいじっている。

 いや、見たことあるな。

「何か変なもの作ってもらった?」

 俺がそういうと、それを差し出してきた。日本ではよく見る、半球状のベルだ。

「何これ?」

 そういいながら、ベネットが呼び鈴を突く。

 チーンと音が響く。

 なかなかいい音色だな。

「いや、寝てる時にこれを鳴らしてもらえれば、起きれるかなって。」

 目覚ましかよ。

 いや、自分じゃ鳴らせないってことを考えると、サボっている時に鳴らしてもらえれば、気づけるからそっちに行くとかそういう意味合いだろうか?

 面白い発想だな。

「これ、量産できそう?」

 俺も、チーンと鳴らす。

「え?いや、こんなの俺くらいしか……」

 そんなことはない。飲食店や受付がいるような大所帯の事業所なんかにはあった方がいいだろう。色々と忙しくて、別の仕事をしている時にはあってくれれば助かるはずだ。

「売り込み先がないかどうか、考えてみない?」

 俺はもう一度呼び鈴を鳴らす。サボり魔は凄い面倒臭い顔をする。

「もちろん、一人で頑張れとは言わないよ。助けを求めるのも大切だからね。」

 とりあえず、俺に行ってくるならハロルドの店を勧めるけども。

「分かりました。」

 なんでしょんぼりするのかなぁ。言ってくれれば手伝うけど、主導権を渡したら微妙な顔をされるのは困るなぁ。

「すいません遅れました!!」

「悪い、遅れた!!」

 そうこうしているうちにがり勉ちゃんとリーダーが倉庫に駆け込んできた。

「お疲れさま。

 とりあえず、報告会しようか?」

 事務の人たちに渡さないといけない書類やら、新しい契約。

 話すことは多い。

 別に個別にやってもいいんだけど、最初のうちは手助けをしようと思って、集まることにしたわけなんだけど。

 もしかして、これ、自主性を奪ってるのかな?

 ちょっと考え直すべきかなぁ。別にノルマとかを科しているわけでもないのに、契約数とか報告されても。

 俺は微妙な顔になってしまう。

「もしかして、日が沈んでも駆けずり回ってた?」

 そう聞くと、二人とも元気よく頷く。

 違う、そうじゃない。

「別にそんなに働いても、お給金増えないよ? なんでそんなに頑張ってるの?」

 二人ともびっくりした顔をする。

 え?

 もしかして残業代出るの?

「二人が馬鹿なだけですよ。

 ヒロシさんに認められたいから、いい所見せようとしてるだけです。」

 サボり魔が皮肉っぽい笑みを浮かべて肩をすくめる。

 いや、俺に認められるって。

「いや、3人ともわかってる? 別に君たち俺の部下ってわけじゃないからね?

 あくまでも上司はグラスコー、俺は教育係。そりゃ、君たちが頑張ってくれれば俺は潤うけどね。」

 今度は3人がショックを受けたような顔をする。

「いや、でも、商会長はヒロシさんの指示に従えって。」

 そりゃ、教育係だもの。

 慣れないうちは、教えるために指示はするよ。

「それっていつまで指示に従うつもりだったの? 俺は慣れないうちだけってつもりだったけど?」

 ちょっと冷たい言い方になってしまってるかもしれない。

 まあ、給与形態も問題か。今のところ固定給だもんな。

 これが、自分の売り上げで報酬が得られるとなれば意識も変わるんだろうけど。

 実質部下と言えるのは、ハルトくらいなものなんだよなぁ。

「いや、でも右腕になれとか……」

 リーダーが絶句している。いい方が悪かったか。

「それは、教育係としてね。」

 これは、3人とも辞めちゃうかなぁ。

 困った。

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