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11-14 人が増えれば楽になるかと思えばそうでもない。

色々と試すということは悪い事じゃないですよね。

 開店許可を受けて、俺たちも店の準備を始める。

 例によって、スタンクがやってきて、売り子を勧めてきてくれたのでありがたく雇わせてもらった。

「いや、ヒロシさん。あんたのおかげで商売がやりやすいよ。

 他の遺跡なんかにいっても、露店を出すところに売り子で雇ってくれるところも増えてね。

 ここはしばらく閉鎖してたが、何とか食っていける。」

 スタンクは上機嫌だ。

「別に俺は何もしてませんけどね。雇った子がちゃんと働いてくれて、ちゃんと報酬支払ってるにすぎませんよ。」

 違いないと言いながら、スタンクは立ち去って行った。

「で、君らは何を騒いでるのかな?」

 俺は振り返り、新人三人を見る。

「いえ、ヒロシさん。これどう思いますか?」

 がり勉ちゃんが俺に紙の束を渡してくる。

 本というには、若干薄めだし綴じられていない。中身を確かめれば、うちで扱っている商品の一覧だと分かった。

 後半は、それに割り振られた番号が一覧になっている紙だ。俺は、サボり魔を見る。

「これを並んでるお客に見せて、注文票を書いてもらったら楽かなって。」

 自信なさげに笑う。

「そうだなぁ。字を書けないお客さんも多いから、がり勉ちゃんはお客さんに何が買いたいか聞いて、注文票の代筆やって。」

 俺が言うと、がり勉ちゃんはびっくりした顔をする。

「私がですか? というか、採用されるんですか、こんなやり方。」

 まあ、物は試しだ。上手くいかなさそうなら、早々に切り上げよう。

「まあ、お客さんが怒りそうなら中止していいよ。無理に勧める必要はない。

 リーダーは商品に番号の札を指しといて。

 こっちが分かり易いようにすれば、スムーズになるだろ?」

 今度はリーダーが驚いた顔をする。

「いや、俺は字が下手だから。」

 番号を書くだけだし、読めればいい。

「つべこべ言わない。お客さんが来ちゃうよ。

 それと俺は基本、後ろで見てるから。3人で上手く回してくれ。

 アルバイトも雇ってるんだから、やれるよね?」

 何度か、アライアス伯領内で小売りもやっている。

 いい加減、3人で回せるようになってなければ駄目だろう。

「ねえ、ヒロシ。私は店番しなくていいの?」

 ベネットが聞いてくるけど、今回は警備に専念してもらおう。

「姫様には、優雅におくつろぎいただきければ幸いです。」

 そういいながら、ビーチチェアを取り出して、テーブルを用意する。

 ベネットに滅茶苦茶嫌な顔をされた。

「3人に任せないと、いつまでも育たないからね。座って座って。」

 俺は無理やりベネットを座らせた。

 

 開店当初から、なかなかに大盛況だった。

 どうやら、ロドリゴの誠実な商いが功を奏したのか、わざわざ出向いてくれるスカベンジャーもいるくらいだ。カタログや注文票もすんなり受け入れてくれた。

 流石にグループ全体で全員が文字を読み書きできないという事もなく、数字くらいであれば理解しているのが大半だ。途中で注文取りを交代したり、適度に休憩したりと新人たちも中々連携が取れてる。

 あれだけ車の中で喧嘩してたのに、上手いことやるものだ。

 接客中、立ちっぱなしも大変だろうと思って高めの椅子を用意したが、それで疲労を軽減が出来ているのか、動きも悪くない。

 これなら、完全に任せても平気だろう。


 ……暇になるかなと思ったら別の露店の店主が来て、取引を持ちかけられたり儲け話を持ち込まれたりとなかなかに忙しい。

 本当は、蒸気機関の進捗状況とか飛行船の浮遊テストの結果なんかを検分したかったんだけどな。

 淹れたまま冷めてしまったお茶を飲んで、一息つく。

「ヒロシも座ったら? なんだか落ち着かないんだけど。」

 ベネットが言うように、俺だけ立って対応するのは微妙かな。

「でも、なんだかこのスタイルもいいかなって。みんながベネットを敬う感じがして、面白いんだ。」

 あからさまに怪しい話を持ち掛けてくる人間は、ベネットに怯えてしどろもどろになるし、とても助かる。

「お姫様というより、悪の女王様みたいじゃない?」

 優雅にカップをもって、お茶を飲む姿はなかなかに様になっている。

「確かにね。悪なのかはともかく、女王様っぽいかも?」

 じっとりとした視線をベネットに向けられる。

「後で覚えておきなさいよ。

 でも、これだと威圧しやすくて便利なのは確かかもね。」

 ベネットも、この状態が望ましいと感じてくれているようだ。なら、利用しない手はないよな。

「でも、応対しない時くらいは座ってもいいんじゃない?」

 まあ、立ちっぱなしはつらいのも確かだ。

 ベネットの忠告に従い、新人に渡しているものと同じ椅子を取り出す。

「姫様の仰せのままに。とりあえず、来客が減ってくれると助かるんだけどねぇ。」

 俺は、金鉱脈の残渣について調べた資料を取り出す。

 一応、金の抽出は終わって、1回目の採掘分は成形まで終わっている。

 ついでに銀まで取れたから、とてもおいしい鉱脈だ。

 だけど実は抽出した残渣には、まだ金が残されている。

 こちらで金の抽出をする方法で最もポピュラーなのは、いわゆる水銀アマルガム法。金を水銀に溶かし、それを熱することで水銀を飛ばすという方法だ。

 回収率は結構いいけれど水銀を飛ばすときに蒸発させるので、とても人体に悪い。そこら辺もあって金の精錬というのは結構危険な作業だ。

 だけど、この世界には魔法が存在する。

 水銀だけを《液体操作》で移動させ、蒸発させずに金を抽出する方法が取れなくもないだろう。

 一応、この方法を提案していて、次に精錬するときに試すという事にはなっているけども。


 ……で、今見ている資料なのだけど、いわゆる青化法だ。


 シアン化合物を使い、これまた金を溶かすという方法で、すでに捨てられていた抽出済みの金鉱脈の残渣から金を抽出できるという画期的な方法。

 なんだけど、シアンって危険なんだよな。資料を見る限り、素人が扱っていいような代物には思えない。

 それと、これを大学の教授に見せるべきかどうかも、悩んでいるところだ。

 比較的に安全に回収する方法があるにもかかわらず、新しい方法ならより多く回収できると言って危険な手段を勧めるべきかどうか。

 

 どうしたもんか。

 

 とりあえず、一旦保留。

 金が含有している残渣は回収してあるし、安全に抽出できる体制が整うまでは塩漬けにしておこう。

 保留したので他の書類に目を通し始める。

 蒸気機関に関しては、まだ試作にも到達できてない。

 図面はできているけど、教授のチェック待ちで本当にできるかどうか不安になってくる。

 それとは別に、小型船舶用の焼玉エンジンを製作してもらっていた。

 原理はこちらの世界で作られている車のエンジンで把握しているので、製作にはそれほど時間がかからないとのことだ。

 ……問題は出力だよな。

 どう考えても、大型船舶を動かすのに、こちらの世界のエンジンは非力すぎる。

 大型化しても、重量出力比がよろしくない。

 というか、大型のエンジンを動かすために火の精霊をどれくらい召喚しないといけないのかと考えると、金銭だけの問題じゃなく魔法的な限界も発生してしまう。

 

 なんとも悩ましい。

 

 対して、飛行船の方は順調だ。そもそも、こちらの世界にあった技術だ。文献を漁り、資料をまとめれば比較的スムーズに進行してくれている。

 教会の司書長でもあるベーゼックが骨を折ってくれたので、大変助かった。

 大家さんの船は作りもしっかりしてくれてたおかげで、改造にも耐えてくれて浮遊実験は成功したと報告書には書かれている。

 後は竜皮膜の帆が完成してくれれば、テスト航行まではいけるかもしれない。

 

 でも、楽観視しすぎかもな。

 

 まだ10mくらい浮き上がって、安定しているってだけだから。

 こっちも、注意してみていかないとな。

 その前に、竜皮膜の帆に風の精霊を宿さないといけないって仕事もある。船体の強化も俺がやったけれど、正直な話二度とやりたくない。

 文様を筆で描き、全体を覆って、ミスが無いかをチェックして、魔力を注ぐ。それだけなんだけど、一人でやるには作業量が多すぎなんだよ。

 次、もしやる機会があれば職人さんに文様を描く作業やチェックはお任せしたいところだ。

 そもそも、そこら辺の作業は魔術師じゃなくてもできるんだから。

 

 書類を読むというのも、それはそれで疲れるものだ。少し休もうと思ってお茶を口にした。

 視線が上がったことで周囲の光景が目に飛び込んでくる。ちょっとした違和感を感じて俺は理由を探した。

「どうかしたの?」

 ベネットの問いかけに俺は曖昧に頷く。

「なんだかうちの周りだけしか、人いない感じがして……」

 どうやら、この遺跡は枯渇気味なのかな?

 露店を出している業者も、以前よりは少なくなっている。

「あぁ、確かに前よりも人少なくなってるかも……」

 ベネットも同じ感想を抱くってことは思い込みじゃないってことだよな。

 ジョンたちの調査ではゲートが1つ復活したとは聞いていた。とはいえ、大体の部屋は探索しつくされ、置かれていた価値のあるものはあらかた持ち出されたという噂も流れている。

 なので、主な収入は魔獣が集めている秘石か、その体になりつつあった。

 最近、俺以外にも魔獣の体を買い取る業者も出てきているので、そろそろ規制が入りそうだ。

 冷蔵庫を用意してちゃんと管理しているならともかく、常温で積み上げてる商人も多いから、下手すると疫病が発生しかねない。衛兵がそういう業者に指導をしているけど、改善されないようであれば許可した業者のみに限定される日も近そうだ。

 そうなると、ますます人が遠ざかるんだろうな。

「このまま、寂れていっちゃうのかな。」

 若干不安そうにベネットが呟いた。

 井戸を掘ったり、浄化フィルターを売りこんで環境を整えたのに、だとするなら残念だなぁ。

 ただ、その水を使って畑を耕す人が住み着き始めたから、そのうち小さな集落が作られるかもしれない。

 そうなれば魔獣素材を扱う店舗を作って、人を常駐させてみてもいいかも。人の営みがあれば、何とかやっていけなくもないはずだ。

「まあ、なるようになると思うよ。」

 将来のことは、また今度考えよう。

 今はやるべきことが他にいくらでもある。まずは、ため込んでいる官報を消化しておくか。

 時折ベネットが気になる記事を差し出してきてくれたりもするから、気分転換にもなるしな。



 ……そろそろ日も暮れる。ため込んでいた官報もあらかた読み終えた。

 

 手に持った官報を畳み、俺は立ち上がる。

 ふと、官報の片隅に国軍兵士募集の記事が目に入った。

 そういえば、ついにサンクフルールとの戦争が始まったことを思い出す。暁の盾の面々は無事だろうか?

 無傷というわけにはいかないだろう。

 ただ、できうるならだれも死なずに帰ってこれることを祈るばかりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争……正直主人公がうまく動けば相手の補給をメッタメタに出来そう
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