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11-12 異世界で採掘作業って言うのは大変だ。

フルアーマーベネット、そう言うのもあるのか。

 採掘現場に近づいてきたら、ロイドに率いられたローフォンの所の若い衆が護衛に参加してくれた。

 ここからは比較的安全だろう。

 次回以降は、アジームの所とローテーションで護衛してくれる契約になっている。少しは気が抜けるかな。

 車をしばらく走らせて、採掘地点に到着できた。

 いや、馬車を引き連れてだから、すごく時間がかかったなぁ。

「ヒロシ、ちょっと肝が冷えたよ。ひっきりなしに銃声が響き続けるし、化け物の鳴き声がしょっちゅう聞こえるし。

 これで、金が無かったら許さないからな。」

 親方がうんざりした顔で俺に愚痴を言ってくる。

 普通に考えればここまで付き合ってくれるだけでも、ありがたいことだよな。

「もし、掘って何も出てこなかったときは、契約通りにお金を支払いますよ。護衛もちゃんとやりますんで、よろしくお願いします。」

 とはいえ、すでに納得済みだから、本当に怒っているわけでもないだろう。蛮地についても、これくらいは想定のうちなのか、親方はにやりと笑い任せておけ、と請け負ってくれた。

 既に、モーダルで打ち合わせ済みなので、スムーズに採掘の準備が進められる。俺は宿泊用のプレハブを用意しよう。

 ここに置いていく予定だから、これで特別枠の圧迫が少しは軽減できる。

 ベネットたちが何をしているのかを見ていると、有刺鉄線や麻袋を取り出して、陣地構築を始めていた。

 言ってくれれば、壁くらい用意するのに。

「壁づくりなら、任せてよ。どういう壁を作る?」

 忙しそうだけど、仕事をする前に言っておかないといけないから、ベネットに声をかけた。

「あ、うん。こんな感じにしようと思うんだけど、どうかな?」

 事前にどういう陣地を作るかは考えられていたようだ。図面にはちゃんと長さや高さも記されている。

「じゃあ、ここは俺が呪文でやるんで、細かいところはよろしくね?」

 ちゃんと、《石壁》セットしておいてよかった。

 これなら1回使えば十分だろうな。

 俺は呪文を唱え、文様を描き地面に手をつく。

 半透明の透過された壁が展開され形や位置を微調整できる。

「ヒロシ、そこは開けておいてくれ。風が抜ける場所がなくなる。」

 ロイドの忠告を受けて壁の形を変える。息を抜くと、ずばっと石が飛び出して、思い描いたような壁が作り出された。

 うんうん便利だ。

 覚えた呪文が役に立つと嬉しいもんだな。

 

 最初の採掘で鉱脈にしっかりと到達できた。事前に分かっていたとはいえ、嬉しいものだな。

 親方もにこにこだ。

 対して、連れてこられたカレル戦士団の面々は相当にお疲れのご様子で、みんなぐったりしている。

 ローフォンの所の若い衆も土嚢づくりや積み上げを手伝ってくれてはいたけど、疲労具合は傭兵たちの方が激しく見えた。

「どうしたの?」

 何か、変なことでもあったのか、トーラスに尋ねてみた。

「いや、土木工事するなら人夫に任せておけばいいんじゃないかみたいな不満がね。

 でも実際には、よくやる作業なんだ。土嚢みたいに袋に入れてじゃないけど、地面を掘るのは日常茶飯事だし逆茂木植えたりするのは当たり前なんだよ。

 有刺鉄線なんか、軽いんだからすごく楽だと思うんだけどねぇ。」

 な、なるほど。思い描いていた、傭兵の仕事じゃないってことが疲労を加速させたわけか。

 まあ、次からは補修で済むだろうし初回だけだと我慢してもらおう。

 そんなことを考えていたら、ベネットが傭兵の一人にお叱りの言葉を飛ばしている。

「暴発させたのは、なんでなの? 振動は言い訳にならないわ。他のメンバーは暴発させてないのだし。」

 すいませんと頭を下げるけど、ベネットは許すつもりはないようだ。

「謝罪を求めているわけじゃないの。理由を聞いているの。

 幸い、今回は死人は出なかったけれど、仲間を殺すことになりかねなかった。

 それは自覚しているのよね?」

 ベネットの言葉に、俺はきゅっと胃が痛んだ。怒られるのは苦手だ。それが他人であっても。

 とはいえ、必要なことだし、口ははさめない。

「慣れて気を抜いた? それとも、疲れてしまった?

 それとも、銃の不良?

 原因がなんであるか、きちんと調べたうえで文書にして提出して。

 いいわね?」

 はい、と言ってうなだれている。なんか、可哀そう。

 でも叱ってるベネットも、気持ちのいいものじゃないだろうな。

 振りむいて、少し涙目になってる。

「行っていいわよ。」

 多分、ひどく冷たい女とか思われてるんだろうなぁ。叱られた傭兵が立ち去った後で、ベネットは大きなため息をつく。

「大丈夫?」

 少し心配になって、ベネットの肩を撫でてしまう。

「大丈夫、うん。

 ため息つくなって言っておいて、私がついちゃ駄目よね。」

 無理してないかなぁ。いや、無理してるよな。

「駄目じゃないよ。二人っきりの時は、いいだよね?」

 俺がそういうとベネットは抱き着いてきた。

 

 採掘自体はとても順調だ。3日の段階で大分掘り進めてもらえた。

 もちろん、ここから抽出やら成形やらの作業が必要になるわけだけど、目に見えて金が含有されているのが分かる。

 鉱夫ギルドやカレル戦士団、ローフォンへの支払いをしても、十分な儲けが出るだろう。

 というか、銀行をやるには一定の金が必要だ。予想通り、発行された紙幣は兌換紙幣だから銀行をやるなら保証として金を国に提出しないといけない。

 ダーネン支部長が運営している銀行はもちろん、その条件をクリアしている。

 金を提出済みだ。

 グラスコー商会は、残念ながら金の保有量が足りなかった。勿論、金地金を紙幣で買い、それを提出してもよかったが、あまりにもロスが大きい。

 だから、こうして金鉱脈を掘れたのは僥倖だ。

 少なくとも、ダーネン支部長からの干渉は跳ねのけていけるだろう。

 楽しみだ。

 ただ、傭兵の方はそろそろ苦しいかもしれない。徐々に襲い掛かってくる魔獣の数が増えつつある。


挿絵(By みてみん)


 ベネットまでがマスケットを持ち出したので、ちょっと焦ってしまう。訓練の一環だという事で、気にしなくていいと言われたけど。

「気にするなって言うのは無理だよ。そろそろ撤収しようと思う。」

 鉱夫ギルドの面々は日中、坑道の中で順調に金鉱石を掘り進めているからもっと掘れるという気持ちが強いので不満顔だ。

 対して、傭兵たちは喜色を隠せない様子だ。ローフォンの所の若い衆も同じ気持ちなのかな。

 まあ、こっちはそういう弱みを見せたくないのか、不敵な笑みを浮かべているけれど。

「私が、銃を持ち出したのがそんなに驚き? まだまだ、戦える。

 ほんとうに気にしなくて平気だから。」

 ちょっと意固地になってしまっているのか、ベネットは撤収に強く反対している。

 とはいえ、黙って見つめ合っていると、ベネットも冷静になってきたのか状況を整理するためなのか腕組みをして唸り始める。

「ごめんなさい。

 そもそもヒロシに決定権がある事だったし、確かに潮時だったかも。

 騎兵が銃を握り始めたら、駄目よね。」

 ようやく自分の中で納得ができたのか、ベネットは自嘲気味に言う。

 この世界では、まだ騎兵に銃を持たせるのは難しい。

 ピストルや小型のブランダーバスを操る竜騎兵

 ……もとい銃騎兵は存在しているけれど、装填の難しさから馬上でマスケットを扱う騎兵はいない。

 もちろん、ベネットにもトーラスのように、あっちの世界の銃を持たせれば扱うこともできるがそういう意味で銃を握ったらダメという話じゃない。

 騎兵が足を止めて、銃を構え始めたら大分きつくなっているという話だ。

 ちなみに、竜騎兵じゃなく銃騎兵と言いうのはこっちの世界には本物の竜騎兵が存在するからだ。

 正確には銅竜や赤竜のような真の竜に乗る騎兵は存在しないらしいけど、ワイバーンやドレイクのような竜の亜種に乗る騎兵は結構いる。

 だから、竜騎兵という言葉はそちらを意味するので、ピストルなんかで武装している騎兵は銃騎兵というわけだ。

 竜騎兵にしても銃騎兵にしても、珍しい兵科らしいので滅多に出会うことはないそうだけども。

 しかし、銃を持ったベネットはカッコよかった。

 出来るならカービンを持たせて、馬を走らせながら戦場を闊歩する姿が見てみたいなんて思ったりもする。

 フルアーマーベネット。ふと、そんな言葉が脳裏をよぎる。

 いかんいかん、まじめな話をしている時に何を考えてるんだ。

「じゃあ、撤収準備に入ってください。

 建物はそのままで構わないので、私物などを忘れないように。」

 そう言って、俺は妄想していたのを気取られないように誤魔化した。

 

「ヒロシ、何か考えてたでしょ?」

 帰る道すがら、ベネットに問い詰められてしまった。

「いや、ベネットが銃を使う姿が様になってたからね。色々と、その……」

 俺は、言葉を濁してしまう。

「ヒロシは、私を戦わせたいのか、戦わせたくないのか、どっちか分からなくなる。

 様になってるって言っても、私あまり射撃は得意じゃないよ?

 トーラスの持ってる銃より連射できるなら、当てられそうな気もするんだけどね。」

 そんなこともないけど、連射できる銃ね。

 SMGとかPDWみたいな連射速度が速くて、小型の銃を持ってもらうのもありかも。

 何だったら、盾のように自律させて、ベネットの周りに浮かせるというのも。

 いいな、そう言うの。

「また変なこと考えてるでしょ? 私は、お人形さんじゃないんだよ?」

 俺は、ごめんと小さく言う事しかできない。

 確かにベネットの言うとおりだ。武器を持たせるという事は戦わせることと同意義だし、危険な目に会わせるという意味でもある。

 プラモデルやフィギュアをめでるのとは意味合いが全く異なるだろう。

 それは、分かってるんだけどねぇ。

「ところで、次回以降も指導は必要?」

 傭兵たちの訓練をお願いしているから、仕上がり具合は気になる。

「今回の経験をちゃんと生かしてくれるなら、任せてもいいかも。ヒロシも、次回以降は別の人に任せるんでしょ?」

 ベネットの言うとおり、次回以降はハルトに任せようと思っている。

 ハンスたちも協力してくれるから、多分大丈夫だとは思うけれども。

 真面目に働いてくれるかはちょっと心配かな。

「まあ、いざとなれば《瞬間移動》できるしね。」

 魔法というのはとてもありがたい。お金が飛ぶけども。

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