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11-11 新人教育。

ため息つくなときっと多くの人が言われていると思います。

自分もです。

 どうやら、こっちの世界のエンジンはちゃんとディーゼルエンジンとして機能しているようだ。アルコールと軽油を混ぜた混合ディーゼルはうまいこと燃焼してくれた。

 車体が重たいため速度はやはり40㎞は越えないけど、十分な性能上昇だ。乗り心地はお察しだけど。

 クッションがないときつい。

 新人3人は、それなりに運転が上達したようなので、とりあえずは当面の課題はクリアだ。

 アライアス伯領の村々を回り、小売りの練習をさせ、町にある商店に品物を卸す際の手順や証書のやり取りを教える。

 さらに、帳簿の付け方だ。

 それなりに読み書きができるので、俺より上達は早いかもしれない。だけど、グラスコーの所の新人は若干計算が苦手だ。

 人当たりはよくて、小売りなんかはとてもうまいんだけどな。

 逆に、イレーネの所の新人は人づきあいが苦手そうだ。

 本当真逆。

 計算なんかはしっかりできるのに、釣銭詐欺みたいなのに引っかかる。

 うん、まあ俺も何度かやられたから責められないんだけども。そう思っていたら、元スカベンジャーの新人に怒鳴られる。

 いやいや、右腕と言ったけど怒れとは言ってないんだけどな。

 こいつは、人付き合いも計算も一通りこなせる。だけど、あたりがきついのと礼儀が苦手だ。

「とりあえず、すぐに怒鳴らないようにね? 相手が委縮するだけだから。

 命をやり取りするときは当然手だって出してただろうけど、商売では必要ないよ。」

 なんか偉そうに語ってるのが恥ずかしい。

 人目に付かないところで、元スカベンジャーの新人にそういう指導をしているけど、俺が言っている教育方針が正しいかどうか。

 若干、納得がいかない様子もあるし、飲み込んでくれるといいんだけど。

「分かりました。次から、注意します。」

 素直に頭を下げられて、拍子抜けした。

 しかも敬語だ。やればできるじゃん。俺は思わず笑顔になってしまった。

「期待してる。」

 そういうと嬉しそうに笑うから、余計にやる気が出てくる。

「楽しそうだな、ヒロシ。」

 元スカベンジャーの新人が車に戻ったところでハルトに声をかけられる。

「人を教育するなんて立場は初めてですからね。うまくいったと思ったら、そりゃ浮かれます。」

 調子に乗らないように注意しよう。

「いや、別に悪いって話じゃないよ。でも、仕事人間だよなぁ。毎日毎日飽きないの?」

 タブレットをいじりながら、ハルトはちょっと不満気だ。

「俺だって、仕事は好きじゃないですよ。そういうハルトさんは飽きてる感じですね。」

 そういうと、ハルトはうーんっと唸る。

「正直、カイネと一緒にいられれば、俺はたいてい幸せだなと思うんだけど。やっぱり刺激が足りないかなぁ。

 ドラゴンみたいなイベントがないと飽きが来る。」

 お金があったら引きこもりたいとか言ってたくせに、引きこもれる状態になったら、今度は飽きたか。難儀な性格だ。

 ハルトの能力で見つけた鉱脈は、おかげさまで順調に掘削が続いている。

 アライアス伯領で見つかった硝石の取り扱いもグラスコー商会経由で利益が出ているからハルトの懐はそれなりに潤っているはずだ。

 もちろん、散財していたら追いつかなくなる程度の収入でもある。それが不満なのかな。

 後、賞賛が得られる状況に飢えているという事なのかもしれない。

「じゃあ、失せもの探しとか、魔獣退治でも請け負えばいいんじゃないですか? ハルトさんの能力なら、適度な敵を選んで楽に倒せるわけですし。」

 ハルトはそれもなぁ、とため息をついた。

「楽に倒せすぎて、面白みがないというか。思った以上にチートっていうのは面白くないのな。」

 そんなこと言われても困る。俺は少なくとも楽しいからなぁ。

「向き合い方でしょ。

 こっちで生活するんだってことを考えて、いろいろと試してみるといいですよ。」

 そんなものかな、とハルトはすっきりしない気分を紛らわせるように背伸びをする。

 

 思った以上に新人教育は大変だ。グラスコーの親戚の子はサボり癖がひどいし、イレーネの親戚の子は生真面目だけど病弱だ。

 元スカベンジャーの子は、丈夫だし休んだりもしないけど仕事が雑でおおざっぱ。

 あれこれと気をもむ場面が多い。

 グラスコー商会で借り上げている宿舎で暮らしているので、お互い面識もあるので、最近は名前ではなく仇名で呼び合うくらいには仲がいい。


 ただその仇名がなぁ。


 サボり魔とか、がり勉とか。

 んで、元スカベンジャーの子は皮肉としてリーダーと言われてるけど。本人にその皮肉通じてるのか。

 アノーやロドリゴの所の新人も似たり寄ったりらしい。

 うちのサボり魔ほど、やる気がないわけじゃなくて、単に不慣れだったり自信を喪失しているだけにも感じるから、うちよりはましなんじゃないかなぁ。

 そういう手紙を送ったら、それは気のせいみたいな返事が返ってくるくらいには悩みは抱えてるみたいだけども。

 しかし、ずるいよなぁ。商会長のグラスコーは前と変わらず一人で蛮地を回っている。一人で悠々自適か。羨ましい限りだ。

 こっちは新人教育だけじゃなくて、蛮地の採掘や文献の収集や、大学に出向いて教授のご機嫌伺いもやらなくちゃいけないって言うのに。

 どうしても仕事が立て込むと教育は後回しで、ほったらかしになるのはどうにかしないとなぁ。

「ヒロシ、私だけの時はいいけど、ため息つかない方がいいよ?

 自信無くしちゃうから。」

 ベネットの運転で、自動車に揺られているので、他に人はいない。

 初回の採掘という事で、鉱夫ギルドの親方と人夫を乗せた馬車を先導しつつ蛮地を進んでいる。30人ほどだけど、これでも途中、魔獣に頻繁に襲われる。

 もう一台の車で護衛役の傭兵とトーラスが追従してきているので、戦闘というより追い散らす感じで進んでいるけれど、到着まであと何回銃声が響くことやら。

 俺も時々、ファイヤーワークスで呼び出した爆発でかく乱したり、水の壁を作って妨害したりして援護しているけどなかなかに大変だ。

 ちなみに、新人3人にはモーダル内で仕入れを任せている。ちゃんとやっててくれるといいけど。

「ごめん、もうなんか癖になってるみたいで。注意しておくよ。」

 実際何回か、ため息をついて新人たちに怯えられてしまっている。すぐ首になんかするつもりはないけれど、解雇は何より恐ろしいらしい。

 リーダーは、それでも貯えがあるので怯えは薄いけれど、問題は肩書がな。

 竜の友だとかドラゴンスレイヤーだの、尾ひれがつきすぎて必要以上に敬われてしまう。

 ガリ勉の子は特に顕著だ。

 元々、貴族の関係者であることもあって権威というものに弱い。

 熱を出してふらふらになってたのに出勤してきたことがあったから宿舎に帰るように指示したら、お願いします首にしないでくださいって泣きつかれたからな。

 誰だって、体調が悪いときはある。

 そんな程度で首にしたりしないって言っただけなのに、なんかすごい尊敬した目で見られた。とてもやりづらい。

 

 んで、サボり魔が調子に乗って、仕事をさぼるもんだからリーダーが切れて喧嘩になるし。

 俺にもサボり癖があるから強くは言えないけど、サボるのを許可したわけじゃないときつめに言っておいた。

 強く言わないといけないのがつらい。

 そんなことをぼんやり考えていたら、また銃声が鳴り響く。

 こちらの世界で買った車には、車体上面にハッチがあり、そこからマスケットを撃っているわけだけども、なかなか当たらない。

 

 当たり前だ。

 

 本来は足を止めて、集団に向かって撃ち込む武器だ。そもそもの的の大きさが違う。車で走りながらじゃ振動で狙いも定まらないし、走る目標だから偏差射撃もしなくちゃいけない。

 それでも、5発くらい撃てば何とか命中させられる。

 俺だと20発くらい必要じゃないだろうか?

 カレル戦士団の面々が連携を取り車内で弾込めをして、射手に渡すって言う連携をして射撃を行っているので、なかなかの連射速度だし、今のところ問題ないかな。


 と思ったら、暴発させた。

 やばいやばい!!

「車止めます!!

 ベネットは治療を!! 敵は俺が引きつけます!!

 トーラスさん、周囲警戒と援護よろしく!!」

 御者さんたちにも聞こえるようにスピーカーでトランシーバーの音声をつないでいる。綺麗に指示に従ってくれた。

 相手は、二足歩行の恐竜だ。刺々しい鱗に覆われていて、デカい口を持っているから、古代の恐竜とは若干違う気もしないでもない。

 俺は槍を構え、恐竜に対峙する。

 大きさはオーガやトロール並みなので、小さい方だろう。

 鉤爪や噛みつき、尻尾の連携がびっくりするくらいスムーズに繰り出される。

 全部を防ぐのにはなかなか苦労した。

 最後はバックステップして、フェイントを入れたと思ったら何か飛ばしてくる。

 唾か何かかもしれない。大抵、こういう攻撃は酸だろう。


 俺は、大きく動いて避ける。本来こういう避け方は、次につながらないからやっちゃいけない。


 まあ、いいんだ。俺の役割は囮だもの。

 銃声が響き、恐竜の頭が吹き飛んだ。魔法で強化されたL96A1は、以前よりも威力を増している。

 この程度の大きさなら、十分な威力を発揮してくれた。

「治療は終わったから戻ってきて、ヒロシ。」

 ベネットの声がトランシーバー越しに聞こえる。声の調子からすれば、死人は出てないよな。

 多分。

 とりあえず、恐竜の死体をインベントリにしまい、車に駆け戻る。

「出発します。遅れないようについてきてください。」

 車に乗り込み、再出発の指示を出す。ベネットも運転席に戻ってきてる。

「怪我の具合はどうだった?」

 ベネットは、笑いながら手を振る。

「大丈夫、火傷だけだった。弾は誰にもあたってなくてよかったわ。

 えぐれた頬とか、何度も見たくない。」

 どうやら、似たようなシュチュエーションの訓練をしていた時に、同じようにミスして暴発したそうだ。その時の方がひどいありさまだったらしく、それに比べれば軽い方だという事らしい。

 やっぱり、後装銃を用意すべきかなぁ。移動しながらの銃撃は、やっぱり危険だ。

 とはいえ、警備方法は二人に任せてるから、俺が口出しするのも違う気もするけども。とりあえず、二人ともスパルタな気がしないでもない。

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