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11-10 なんだかベンチャー企業みたいだ。

新人にいきなりやる気出せって言っても無理ですよね。

 シュニッツェルは元々ベネットのお母さんが得意料理にしていたらしい。何かお祝い事があれば、牛や豚を使って作ってくれてたんだそうな。

 大変堪能させてもらった。

「おいしかった? お母さんにも手際が良くなったって褒められたんだよね。」

 嬉しそうに笑うベネットに俺は頷いて応える。

「おいしかった。テオ君も、すごく喜んでたね。」

 3人を宿屋に送り届ける間、ずっと笑顔だった。

 マリーはカールからもらった絵本に釘付けだったけど、ちゃんと食事も楽しんでいた気はする。

 多分。

「でも、よかったよ。カールやマリアさんとも打ち解けてもらったみたいだし。

 もう少し広ければ、こっちに泊まってもらいたかったんだけどなぁ。」

 流石に、住み込みのマリアさんがいるので3人を泊めるスペースが足らない。こう考えると、広い家って言うのはこういう時に必要なんだな。

 今いる寝室で5人はきつい。

「この部屋に泊まってもらって、私たちが居間で寝るって言うのでもいいと思うんだけどね。」

 いや、それはさすがにマリアさんが気にするだろう。やっぱり、宿屋に泊まってもらうのが正解かな。

「ヒロシが男爵様になったら、お城を立てるんだろうし。そうすれば、もっと大勢呼べるよね。」

 ベネットが冗談でそんなことを言うけれど、城はともかくちゃんとお客様をもてなせる建物は立てないとな。ハンスたちも呼ぶんだし、そこそこ大きい屋敷を立てないと。

 漠然としていたけれど、足掛かりは得た。

 夢物語ではない。

 問題は間に合うかどうか、だよな。

「時間が欲しいなぁ。」

 俺は、ベットに横たわり天井を見ながらつぶやいた。

「焦っても、上手くいかないよ。ヒロシは今でも、十分忙しいんだから。

 ちゃんと気を付けてね。」

 ベネットが俺のベットに腰かけて、俺の頬を撫で始めた。

「まあ、そうだね。ジョンたちの件もあるし、ロドリゴさんとの引き継ぎもしないとだし。

 やることが多すぎだよ。」

 船の件は、アレストラばあさんや工房の親方たちに投げっぱなしだ。

 現段階では親方やアレストラばあさんが要求してきた資料を用意して、工学の教授にチェックをしてもらってはいる。

 やり取りも工房経由でやってもらっているから、俺はノータッチだ。

 というか、抱えきれない。来週からは新人の研修も始まるし、まじめに忙しすぎだ。

 夏になれば、少しは落ち着くのかな。

「寝ちゃうの、ヒロシ?」

 若干まどろんでるところで、ベネットがささやいてくる。少し残念そうだ。

 そういう風に言われると、いろいろと考えちゃうんだよなぁ。

 

 ベネットの家族が滞在している1週間もあっという間に過ぎてしまった。

 テオとも打ち解けることができたと思うし、マリーからはお兄ちゃんと呼んでもらえるようになったし、おおむね良好な関係は築けた気がする。

 気がするだけだけども。

 ただ、本当に疲れた。

 途中で、俺がダウンして、ベネットもダウンするという日もあったので、なかなかにハードスケジュールだ。

 倉庫に顔を出すと、ちょうど新人の振り分けが発表されている所だった。

 それぞれ、アノー、ロドリゴ、俺、セレンが新人教育を行う手はずになっていて、マニュアルなんかはイレーネが作成してくれている。

 だから、オリエンテーリングをして、マニュアルに従えばおおむね問題ないはず。

 うん、そのはずだ。

 新人のやる気があれば、と但し書きがつくが。

 うん、思った以上にやる気ないなぁ。

 オリエンテーリング中は欠伸をしてるし、仕事について質問があるかと聞けば、特にないと言われるし。

 なんか、ラインズのことを思い出す。

 未だに引きずってるのかと言われそうだけど、引きずらなくて済む性格なら、病んでないんだよなぁ。

 その間に、ロドリゴとの引き継ぎもやらなくちゃいけない。

 いつもお世話になっている商店について話し、紹介状を書き、相手の名刺を渡す。

 それでロドリゴがどういうやり方をするのかを聞いて、注意点を伝える。

 どこぞの男爵はジャガイモが嫌いとか、どこぞの男爵は平民に厳しいだとか、主にそこを仕切っている貴族への対応になるけれど、大切な情報だ。

 中には、ほとんど実権がなくて騎士が差配しているようなところもあるから、そこにも注意を入れた。

 他にも、町ごとにいがみ合っているという情報だってある。

 口頭では伝えきれないので一応資料も作ってあるし、地図に注釈も加えてはいるけど、正直これ全部活用するのは俺には無理だ。

 しかも、ロドリゴはロドリゴで遺跡定期便を再開しなくちゃいけない事態にもなっている。

 通っていた遺跡への調査がジョンたちに依頼されたので、まず送り届けるのが最初の仕事だ。アライアス伯直々の指名という事もあって、ジョンたちも気合を入れている。

 成功すれば10万ダールの報酬が約束されているので、当然と言えば当然だ。

 ついでに、砦で使う汚水フィルターの納入もロドリゴには頼まないといけない。忙しいところ、申し訳ないがしばらくはジョンたちの面倒を見てもらうつもりだ。

 ブラックロータスに行くまでのつなぎだから、そこまで長くは無いはずだけども。

 しかし、新人のやる気のなさは、何が原因なんだろうな。とりあえず、俺に割り当てられた部屋に新人の3人を連れ込む。

「欠伸をするって言うのは、眠れてないのかな?」

 そう聞いてみると、欠伸を隠すように手で顔を覆う。

「質問には答えてくれるかな? 怒っているわけじゃないから。」

 すいませんと頭を下げられるけど、そうじゃないんだよなぁ。

「いや、本当に怒ってないよ。ここでのことは不問にするから、ちゃんと答えて。

 やる気がないですって言っても、すぐにクビとかにはしないから。」

 3人は顔を見合わせる。

「いや、俺は親に無理やり就職させられたから。でも商売なんて、何をすればいいか分からないし。」

 確か、グラスコーの親戚の子だったかな。

「なるほどねぇ。で、そっちの二人は?」

 二人は顔を見合わせる。

「私は、事務を希望してたんです。なのに、商売をしろなんて……」

 確かこの子は、イレーネの親類だ。

 そりゃ、いきなり女の子が営業はきついか。とはいえ、事務も現場のことを知っている人が必要だ。

 そういう判断で俺のところに来たわけだし、そこは伝えて置くかな。

「事務にも現場を知っている人材がいて欲しいという判断らしいですよ。1年もすれば、事務になれるんじゃないですか?

 これで、多少は希望は持てますか?」

 複雑な表情を浮かべられる。気持ちは分かるけどね。

「俺がなんでこんなガキどもと一緒なのか、納得がいかねえからだよ。

 そもそも、こんなまどろっこしいこと抜きにして、早く商売させに行かせてくんないかな?」

 確か、最後の子は元スカベンジャーだ。確か、片腕の腱が切れてしまって武器が握れなくなり引退したとか言ってたかな。

 貯えがあるから、最初の二人よりは余裕がありそうではある。

 でも二人をガキというけど、それほど年齢に開きがある様な気はしないんだよなぁ。最初の二人が15くらいで、最後の子が18くらいだ。

 どっちも成人している年齢だし、世間の扱いは変わらないんじゃなかろうか。

 とはいえ、スカベンジャーをしていただけに世渡りは慣れている雰囲気はある。

「じゃあ、俺の右腕として働いてください。あなたから見ても、二人に不足があると思っているんですよね?」

 そういわれるとプライドが刺激されたのか表情が変わった。

「そうだな。そういう理由の配属なら納得したぜ。つっても、俺も敬語とかは苦手だし、そこのところは教えてくれよ。」

 上手いことやる気を刺激できたようだ。

 これで、何とか教育を始められそうだ。単にやる気がないのは、どうにもならない。

 慣れてもらうしかない。

 希望に沿わなかったのも、それはそれで納得してもらうしかない。

 最後の一人がやる気になってくれれば、いずれ二人も引っ張られるだろう。上手くいってくれればいいけども。

 

 アノーは新人教育を終えて、早々に蛮地へと旅立っていった。なかなか気合の入った人材が集まっていたらしく、やる気満々といった様子だった。

 ロドリゴは遺跡定期便に新人を連れて行き、徐々に慣れさせていく様子だ。

 俺が自家用車を持ったので、ロドリゴがワンボックスカーを運用することになっている。

 しかし、アノーにしろロドリゴにしろ、車、結構普通に使うのな。なんか、俺が私用がどうのとか気にしてたのが馬鹿みたいだ。

 いや、いいんだけども。

 で、うちに配属された3人なわけだけども当然足がないと話にならない。

 なので、こっちの世界の車を買うことにした。

 燃料にアルコールを使うという事で、ため込んでいた分を消費したいというのが一つ。

 ついでに軽油を混ぜて、ディーゼルオイルで運用できないかというのを試すという理由もある。注文をしても1年くらい待たされると言われていたけど、キャンセルで余っていたものを納入してくれるという幸運にも恵まれた。

 とはいえ、1月くらいは近所をうろちょろするくらいだ。

 カレル戦士団の教導をベネットとトーラスにお願いしているから、護衛の当てがない。

 ある程度なら自力で何とかなるものの、あまり遠出はできないんだよな。

 なのでアライアス伯領で軽く、普段は何をやっているのかを見せるにとどめよう。一応、ハルトが護衛役を買って出てくれるけど正直当てにできないんだよな。

 いや、他にもいろいろとハルトにはお願いしたいこともあるし、連れ回すか。

「と、言うわけで今回は俺がこいつを運転します。

 みんなには、俺の車を運転して乗り方を覚えてもらうという事でいいですね?」

 新人にハルトを紹介し、手に入れたこっちの車に肘をついて今日からの予定を話す。実験を兼ねるんだから、新しいおもちゃは俺が乗るのが義務だろう。

 ディーゼルオイル、ちゃんと使ってくれるかなぁ。

 《秘術眼》でエンジンを見ると元気よく火をまとったトカゲが蠢いているのが見える。

 これが炎の精霊なのか。

 頼むぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公、自分のやれる範囲をちゃんと理解してて、たまに調子には乗ったりはするけど結局積んでたタスク全部消化してるから、現実世界でも有能だと思う。
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