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11-8 結婚式かぁ。

男にだって結婚願望はあるわけでして。

 結婚式は俺の予想をはるかに上回る派手な式になってしまった。

 そもそも、招待した客が別の客を呼び、料理や酒なんかも自前で用意してくれるというサプライズだ。

 ハロルドも、お祝いの場という事もあって店舗総出で準備を進めてくれていた。

 当日は快晴で、屋外に設けられたテーブルには人がびっしり席が埋まっている。

 グラスコー商会だけじゃなく、修道院のシスターや孤児たち、それにギルド長連中まで挨拶しに来てしまっている。

 いや、こんなつもりはなかったんだが。

 精々、ベネットの家族以外はごくごく少数の招待客で終わるつもりだったんだけどな。

 困ったことに、アライアス伯の代官様やバウモント伯の所からは、ファビウス翁が名代として祝いに来てくれていた。

 というか、いつ式が開かれるか潜伏して待っていたらしい。

 口々におめでとうと言われて、いろんなものを送られたが正直、面を食らってしまった。

 偉い人たちは祝辞を述べたら、早々に立ち去ってくれたので、緊張せずに済んだけれど、誓いのキスをする頃には、お祭り騒ぎだ。

 お決まりの永遠の愛の誓いは特に変化はない。

 お互いに誓いあい指輪を交換し、唇を重ねた。

 ベネットは純白のドレス、俺も白いタイツに赤いベストを押し着せられているのでちょっとぎこちなくなってしまった。

 しかし、市の予算で衣装を用意してくれるとは。


 後で洗って返そう。


 宴会で使われた食材なんかは市場の人たちが提供してくれていたり、他にも祝いの品物もいろいろと貰ってしまった。

 後で、お返しの品を送らないと。全然準備してなかったよ。

 中でも、目を引いたのはハロルドが調理してくれた牛だ。

 ハンスたちがグラスコー経由で育てた牛を1頭送って、それを使ったらしい。

 農耕をさせる前の子牛だったので、とても柔らかく脂も乗って、極上の一品に仕上がっていたと思う。

 というか、こんなに料理を味わえる宴会は久しぶりだ。

 大抵、緊張して何を食べたんだかさっぱり分からないような晩餐会や取引先との打ち合わせを兼ねた食事ばかりだったので、とても嬉しい。

 ベネットも美味しそうに食べてくれたので、こんな宴会なら毎日開きたいくらいだ。式に参加してくれた人たちも笑顔で祝福してくれたし、なんて幸せなんだろう。

 まあ、明日からはまた仕事なわけだけども。

 今は考えるのはよそう。

「ヒロシ、一緒に幸せになろうね。」

 ベネットの言葉に俺は頷く。

「ベネット、もっと幸せになろう。」

 そう言って、思わず俺はベネットの唇を奪ってしまう。なんだか浮かれてるなぁ。

 今日くらいは大目に見てください、モーラ様。

 

 次の日からは通常営業だ。

 ハネムーン旅行という風習は、貴族の中にはあるらしいが庶民には関係ない。それにやらないといけないことが山ほどあるからな。

 ベネットの家族は1週間ほど滞在するという事でベネットには、そちらに付き合ってもらうという話になっていたんだけども。テオが俺の仕事を見たいという事で、女性陣と男性陣に分かれて行動を共にすることになってしまった。

 いや、いいけど、別に面白いことは何もないんだよなぁ。

 グラスコー商会は春から俺は共同経営者、副商会長という立場になった。倉庫も引っ越しが終わり新しい職場になったわけだけど、なかなか慣れない。

 以前より広くなりすぎて、ベンさんも四苦八苦している。

 俺も俺で、把握するのに四苦八苦だ。

 書類上、何かあれば俺にも責任が来る立場だから、気を引き締めないといけないわけだけど、急に意識は変えられないんだよな。

 去年もそうだったが、とりあえず面接ラッシュだ。既にグラスコーの親類やイレーネの親戚は採用決定しているとはいえ、適性を見るために面談は必要だし俺も口を挟まないわけにもいかない。

 全体的な傾向としては、グラスコーの親類は営業や販売をやりたがり、イレーネの親類は事務や商品開発みたいな内向きの仕事を志望する割合が高かった。

 他にも俺の名前を知って、全然関係ない人が自薦で面接を受けにくるけれど、大半はお断りせざるを得ない。枠がそもそも埋まっているから、それなりに実績がないと採用不可能だ。

 その中でも、穀物商人のもとで働いていた人や元銀行員という肩書を持つ人は積極的に採用した。

 即戦力だからだ。

 異色な経歴としては、元スカベンジャーやら元航海士という人も採用する。

 しかしつくづく思ったけれど、なんで実績のない人たちは自信満々で、逆に実績のある人たちは自信が無さげなんだろう。

 前職で失敗した経験があるから自信喪失しているのも分かるけれど、もっと胸を張っていいと思うんだよなぁ。

 逆に失敗したことが無いから、実績不足だなって思う人ほど、自身に満ち溢れてるんだろうか?


 まあ、どっちにしても採用したら、安泰というわけじゃない。


 まだ、この世界に労働者を守るという意識はないから、首と言われれば、次の日に首になっているなんてこともざらだ。

 労働基準法のありがたさを身にしみて感じる。

 しかし、こんなことを繰り返しなので、テオは暇じゃないだろうか?

「ごめん、構ってあげられないんだ。暇じゃない?」

 そういいながら、昼食のサンドイッチをテオに勧める。

「大丈夫、ちゃんと見てるから。」

 これは、あれかなぁ。

 俺がどんな人間かを見定めようとしているんだろうか?

 最初に会ったときは、ベットの中に潜り込んだりしてたから、幼い印象を受けていたけど、意外と大人だ。

 14,5かな?

 でも、まだあどけない感じもする。

「口に合う?」

 そういいながら、サンドイッチを頬張るテオに、お茶を渡した。

「おいしい。これも、あの料理人の人が作ったやつ?」

 俺はテオの言葉に頷く。彼の言うとおり、これはハロルドの店が出している料理だ。

「あんなにすごい料理人、どうやって探したの?」

 不思議そうに問われたけれど、偶然としか言いようがない。

 運がよかったんだろうな。

「最初は、露店で出会ってね。ミートローフを食べただろ?

 あれを露天で売ってたんだ。寒い時期だったから、売れ残ってたらしくて、試食を勧められてね。

 で、食べてみたらとてもおいしかった。

 それから、ちょくちょく、仕事で料理をお願いしたり、食材を入れさせてもらったり、そんな感じかな?」

 意外そうな顔をされた。

「露店で食事したりするんだ。」

 そんなに不思議なことだろうか?

「いや、まあ、毎日料理をするのは大変だしね。時々、露店で済ませることもあるよ?」

 まあ、農村に住んでいるのなら、そもそも露天で食事って言う方が珍しいのかな?

 確か、男爵領では村に活気がなかった。そういう風習もないかもしれない。

「毎日お店に通ってるのかと思った。」

 あぁ、貧乏くさいって事か。

「まあ、癖みたいなものだよ。たまに珍しい料理とかが並んでいると、ついね。」

 大抵はずれなんだが、時々あたりがあるのが面白い。

 ふーんと言いながら、テオはお茶に目を落とす。いまいちよく分からない反応だな。

 まあ、いいか。

「午後は大学に行くんだけど。どうする? 暇だろうし、こっちに残る?」

 もし残るなら、セレンにお世話を頼もう。

「大学って、ヒロシさんは学生?」

 テオに不思議そうに聞かれてしまった。

「いや、学生ではないよ。

 俺に魔術の手ほどきをしてくれている先生が、大学の教授たちとも懇意にしているそうだから、ご挨拶に行こうかなと思って。

 今、いろいろと開発を進めているものがあってね。それらにアドバイスを貰ったり、他にも商売のタネになりそうなものが無いかを聞いたりね。

 逆に、教授たちの研究に必要なものを揃えたりできればいいなと思って、何度か足を運んでいるんだ。」

 特に化学系は石油の利用を考えるにあたって、とても重要な分野だ。

 他にも、医学系の教授に資金提供をしたりもしている。外科、内科問わず、ともかくお金を投資していた。

 魔法を利用できない人たちにとっては、最後の命綱だ。

 そもそも疫病が発生すれば、呪文で何とかできる人はともかく、多くの人が見捨てられかねない。直接俺には利益はないかもしれないが、社会にとってはとても重要な学問だ。

 魔法のせいで不遇な扱いを受けているが、今後人が増えていけば絶対に必要とされる。

 その時になって、慌てても仕方がない。

 社会が乱れていれば、それと無縁でいられるはずもないのだから、先に手を打つのは当然と言えば当然だ。

「ついていくよ。何をするのか見てみたい。」

 なんか疑りの目で見られている気がするけど、何を疑られてるんだろう?

 教授相手に詐欺でもするんじゃないかと思われてるのかな?

 まあ、いいか。

 見てもらえればわかるだろう。

 

 大学とはそもそも研究機関であって、教育機関ではないといったのは誰だったかなぁ。

 実際には学生がたくさんいて、基礎的な知識を身に着けるために懸命に勉学に励んでいるのを見れば、教育機関じゃないとも言い難い気もするんだよな。

 こちらの世界の大学も大勢の学生がいる。それに対して、教える教授や助手、講師の数は極端に少ない。

 だから受け身の学生は少ない。

 まるで教授を狙っているハンターのようにあちこちを彷徨い、授業が開かれるとなれば群がる。こういうアグレッシブさは、日本の大学にはない雰囲気だよな。

 おかげで挨拶できた教授は少ない。

 学生から逃げ隠れして自分の研究に没頭したいためか、探しても今はいません、見つかりません、むしろどこにいますかと聞かれる始末だ。

 特に魔法を研究する魔術科の教授はほぼ大学にいない。

 自分の研究室を持っていて、そっちに逃げてしまっているらしい。

 話を聞けたのは、助手の人ばかりだった。

 それだけ花形の分野だという事だろう。

 先生も大学に論文を持っていくと、大抵学生に監禁されて授業をしないと帰してもらえないとぼやいていた。

 ついで人気なのが工学系、物理学系の学科は人気が高い様子だ。実利が分かり易いものな。

 天文学もそこそこの人気を博している。

 で、一番人気がないのが数学科だ。

 いや、数学自体はどの分野にも必要な知識だと俺も理解はしている。そうは言いながらも、言っていることが分からなさ過ぎて、人気がないのも仕方ないのかなと思わざるを得ない。

 それに比べれば、医学系、化学系は人気が一段劣るものの、数学科よりははるかにましだろう。

 学生もそこそこいて、教授もそこそこ多い。生物学の教授なんかとも、お話ができてとても有意義だった気はする。

 この世界では何でも魔法が絡むので難解になりがちだけれど、それでも果敢に研究が進められている。魔力を排除する方法も確立しつつあるので、まさにこれからの分野といった雰囲気があった。

 まあ、学力のない俺にとっては、ちんぷんかんぷんな話ばかりだったけども。

 竜の友という肩書がなければ、相手にもされてなかったんだろうな。

 しかし驚いたのは原子という概念がすでに化学系の教授たちの間では、常識化されていたことだ。

 どうやら、こちらの世界に先に来ていた大崎叶の影響らしい。

 未だに仮説段階ではあるものの、その存在があることを前提に研究が進められていた。

 歪められてしまった結果なのかもしれないが、この世界の科学の発展は早いかもしれない。

 どうやって関与していくべきかな。

 とりあえず、いろいろな実験道具の発注や薬品の入手などを依頼された。

 もちろん、二つ返事で承る。

 ただ、儲けは出さないと商会の不利益になるので、それなりのお値段をいただくことになってしまうわけだけども。その上で、研究費が不足しているという教授には資金援助をさせてもらった。

 なんだか、お金を投げて、投げ返されるようなキャッチボールみたいでおかしかった。

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