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11-7 彼女の家族と初めて会う。

結婚するとなれば相手方の家族と会わないわけにはいかないですよな。

 カールの希望は微妙だった。奴隷という立場に文句はないし、仕事をしているという感覚がなかった。

 遊んで暮らせてるみたいな感覚だから立場がどうであってもそれが得られるなら、どちらでもよいという事らしい。

 いやカールはカールなりに、考えて出した答えなんだろうな。

「じゃあ、使用人という事でいいか?」

 奴隷という状況は俺にとってマイナスだ。

 つまり俺の都合なわけだけど、カールが問題ないなら開放したい。

「ご主人様がそれでいいなら。」

 まあ、今までの呼び方も使用人なら変わらないか。

「別に独立してもやっていけると思うんだけどな。」

 不思議そうな顔をされると、自分で言っといて無理かもと思えてきた。

 なんか、簡単な詐欺に引っかかりそう。

 使用人を保護するのも、主人としては当然だよな。

 やめますって言われたら引き止められないくらいの違いしかない。

 ただ、ちゃんと報酬を渡さないとな。

 ただ管理できるか不安だから、俺とベネットで管理するか。

 

 カールの市民登録と俺とベネットが結婚する届を市庁舎で行った。

 これで、正式に夫婦だ。

 ここで、特に何もなく終わる夫婦も多いそうだけど、それなりにお金を持っている人たちは結婚式を行う。

 教会で行う場合も多いけれど、森にすむまじない師に頼んだり、自分の信奉する神の神殿で行ったりもあるらしい。

 俺とベネットの場合は、流れで教会で行うことになってしまっている。

 セレンの嘘が原因なんだけども。

 あの場では、ああいっとかないと収まらなかったろうしな。

 というわけで、式場は押さえているわけだけども大切なお客様が来ない。

 ベネットのお母さんだ。

 それと、弟さんと妹さん。

 毎日、馬車が到着しない構っているわけだけど、予定日を三日過ぎても到着しない。何かあったんじゃないかと不安になってしまう。

 一週間くらい外れるかもとは言われてたけど。最近は、晴れの日も多いし、無事到着して欲しいな。

 

 日を改めて、今日こそはと、門の前でベネットと一緒に待っている。遠くから、馬車が走ってくるのが見えた。

 ホロもない、荷馬車みたいな馬車が数台。

「居た!」

 ベネットが声を出し、大きく手を振る。馬車の一台で、女性が立ち上がり手を振っている。

 停車すると、女性と男の子と女の子が連れ立ってやってきた。

「ベネット、心配かけてごめんね。元気にしてた?」

 女性が駆け寄って、ベネットを抱きしめる。

 なかなかの美人さんだ。

 流石、ベネットのお母さん、見目麗しい。

「お母さん、大丈夫。マリーもテオも遠くまでありがとうね?」

 ベネットは嬉しそうに笑う。

「お姉ちゃん、その人?」

 テオと呼ばれた、弟さんが俺を睨んでる。

 あれ? もしかして、俺嫌われてる?

 いや、まあ、黒髪のアジア顔だもんな。異人種だから警戒されるのも当然か。

「そう、私の旦那さま。」

 そう言って、ベネットはお母さんと抱き合っていた腕をほどき、俺の腕をつかんで引き寄せてきた。

「ヒロシです。よろしくお願いします。」

 俺は笑って頭を下げる。

 だけど、マリーと言われた妹さんはテオの後ろに隠れてしまう。

「二人とも。見た目で判断しないって約束したわよね?

 ごめんなさいね。」

 ベネットのお母さんは二人の頭を撫でながら、謝ってきた。

「いえ、風貌が風貌ですから。驚かせてごめんね?」

 俺は二人に謝る。

「慮ってもらえて有難いわ。

 私はエルマよ。

 よろしくね、ヒロシさん。」

 手を差し出されたので、俺は素直に手を握り返す。

「宿は用意してますので、どうぞ乗ってください。」

 そういいながら、3人を車に”案内”する。

「馬のない馬車だ。」

 テオが驚いたような声を上げる。

「どうぞ?」

 後部座席を開けて、乗車を促す。

「あら、こんな高いもの。よくお借りできたわね。」

 エルマさんは、どうやら借り物と思ったらしい。

 まあ、こっちの世界での自動車はとても高いものだから当然の反応か。

「違うよ、お母さん。これは、ヒロシが買ったものだから。」

 ベネットが苦笑いを浮かべて訂正してくれた。

「あら、本当にお金持ちなのね。」

 褒められてるのかな?

 いや、なんかこういう時に胸を張れないのがなんとも情けない。

「いろいろと幸運に恵まれたもので。一番の幸運はベネットと出会えたことですけど。」

 そういうと、エルマさんに笑われてしまった。

「こんなじゃじゃ馬、苦労しているでしょう?

 でも、それを幸運と言ってくれるのは、本当にうれしいわ。」

 そういいながら、後部座席に座ってくれた。

 テオやマリーも、おっかなびっくりだけれど、車に乗ってくれる。

「もう、じゃじゃ馬とか。まあ、お淑やかではないよね。」

 笑いながら、ベネットは助手席に乗った。俺も、運転席に回って乗り込み、車を走らせ始めた。

 モーダルには、いくつも宿屋がある。庶民向けの所から、旅行者向けの高級店まで様々だ。

 今回は教会近くを選んだので、その中でなるべく過ごしやすい宿を選んだ。

 高級なところを選べば快適かと言われればそんなこともない。ベネットの家族は平民だ。

 いきなり高級な宿に連れて行っても、不自由してしまう。だから庶民的ではあるものの、十分清潔で広めの部屋を借りられる宿を選んだ。

 事前に予約を済ませているので、フロントで鍵を受け取り、3人を部屋に案内する。

 普通にベットがあって、備え付けのテーブルが置かれている。特に変わり映えのしない部屋だ。もうちょっと奮発すべきだったかなぁ。

「ヒロシさん。ここ、お値段は?」

 少し心配そうにエルマさんに聞かれてしまった。

「ご招待してるんですから、当然俺が払いますよ。

 何か不便があれば言ってください。ご用意しますんで。」

 エルマさんは首を横に振る。

「不便なんかないわ。

 でも、煮炊きする場所とかあるのかしら?

 あまりにいいお部屋だから、勝手がわからなくて。」

 あぁ、そうか。

「食事の準備もさせていただきますよ。この宿には食堂がありますんで、そちらで召し上がられてもいいですけど。

 そういう支払いも、自分が持ちますんで安心してください。」

 少しエルマさんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「ごめんなさいね。田舎者丸出しで。」

 いや、きっとそれが普通なんだろう。俺が逸脱してるんだ。

「そんなことはありませんよ。自分だって、旅の途中でベネットに食事を出してもらうこともあります。

 ただ、モーダルは港町ですからね。

 宿の流儀がよそとは少し違うんだと思います。」

 そういう話をしていたら、エルマさんがまた笑った。

「いきなり笑うなんて失礼だったわね。前の主人のことを思い出してしまって。

 そういえば、ベネットはお父さんっ子だったものね。好きになった理由がよくわかったわ。」

 そういわれるのは、ちょっと複雑だ。

 まあ、お父さんの面影って言うのは、ずっとついて回るよな。それは仕方がない。

「お母さん、違うから。私は、お父さんと結婚したいんじゃないの。

 ヒロシと結婚したいの。」

 ベネットが少しむっとした顔になっている。

「……そうだったわね。帰ってきた時にも言ってたのに、忘れっぽくて困るわ。

 でも、本当に優しい旦那様ね?」

 エルマさんがそういうと、ベネットがそうでしょう?、と胸を張って俺の腕を掴んでくる。

「お父さんも好きだったけど、今はヒロシが一番好きなの。

 だから、テオ、そんなに睨んだってお姉ちゃんは結婚をやめたりしません。」

 そういえば、睨まれっぱなしだった。何か気にくわないことでもあるんだろうか?

 単にお姉ちゃんを取られるって言う気持ちなのだとしたら、それは仕方のないことだけど。

「テーオ、やめなさい。不満があるなら、直接言ったらどうなの?」

 エルマさんがそう言うとテオはそっぽを向く。

「商人なんて、詐欺師だって父さんが言ってた。もので釣ろうとしたって、騙されないぞ!!」

 ううん。なんとも反論しづらい。

 確かに農夫の人から見れば、詐欺師同然に見られても仕方ないよな。どんなに言いつくろたって、そういう部分があるのは事実だ。

 物で釣ろうとしているように見えるのも、否定しにくいよな。

「そうやって、お父さんの言ったことをすぐ鵜呑みにする。悪い癖よ?

 物をあげるのだって、勝手に手に入るものを渡してるわけじゃないの。一生懸命働いて、それで手に入れたものなのよ。

 それを誰かに渡す意味をちゃんと考えなさい?」

 聞きたくないとばかりに、テオはベットに潜り込んでしまった。

「マリー、あなたはどうなの?」

 エルマさんに問われて、マリーは俺を見上げてくる。どうすればいいんだろうな。

 困ってしまう。

 マリーはそんな俺が面白いのか、はにかむように笑ってくれた。

「熊さんみたい。」

 熊か。

 マリーにとって、どんなイメージなんだろう。正直、本当にリアクションに困る。

「あらあら、マリーは気に入ったみたいね。

 ベネット、注意しないとマリーにとられちゃうわよ?」

 冗談だとは思うけれども、嫌われてないことは何となくわかった。ほっと胸をなでおろす。

「ヒロシは、私のだからあげないんだからね?」

 いーっと、ベネットがマリーに向かっておどけたように威嚇すると、マリーもいーっと威嚇し返した。

 なんか可愛いやり取りだなぁ。

「騒がしい子たちね。

 そういえば、結婚式はもう終わってしまったのかしら?」

 エルマさんの問いに俺は首を横に振る。

「式場は押さえていたので、エルマさんたちが来るまで延期させてもらっていました。

 結婚の手続きは終えてしまったんですけど、式自体は明日開かせてもらいます。」

 そういうと、エルマさんは申し訳なさそうな顔になってしまった。

「それはとても悪いことをしてしまったわ。予定通りに着けばよかったのだけれど。

 ごめんなさいね。」

 頭を下げられてしまった。

「いいのいいの。

 ヒロシも、ちゃんとそこは計算に入れてくれてたし。式って言っても、小さいものよ?

 指輪を交換したら、終わり。

 あとはお食事して解散だから、そんなに面倒なことなんかないよ?」

 ベネットがフォローするように式の内容を伝えてくれた。

「気楽に参加してください。祝っていただけるだけで十分です。」

 俺も笑顔で付け加えた。

感想、ブックマーク、評価お待ちしております。

よろしくお願いします。

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