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11-7 魔術の腕は上がってきてると思うんだよなぁ。

結構頑張ってると思うんですよ。

 ようやく、ゴーレム製作と魔力蓄積のファイヤーワークスの習得が終わった。

 身に付いたかどうかの確認にはゴーレムコアの分割を行う。

 複雑な回路を壊さないように分割しないといけないので、それなりに苦労した。


 1週間くらいかかっただろうか?


 慣れれば1日でできると言われたから、俺は相当不器用なんだろうな。

 ファイヤーワークスの方は、爆発を引き起こせれば問題ないので、確認はさほど難しくない。

 間違って、《火球》を使ってしまうこともあるが、それも威力が増幅するから身についてないわけではないのだと思う。

 暴発させないように慎重にしないとな。

 マジックアイテムの製作も、それなりに数をこなしてこなれてきた感じはある。

 一番需要があるのが、《水操作》って言うところがなんとも微妙だけども。

 まあ、瓶一本分の液体が、100リットルの水に変わるんだからすごいと言えば凄い。

 外洋を航行する船なんかは飲み水の確保に苦労するので、大変重宝されている。


 その上で分かったことが一つある。


 マジックアイテムの作成、完成段階までは工業的な手段で生産が可能だ。秘石の含有率やら、魔法回路の刻印やらは定量的なものでしかない。


 つまり、工房で製作が可能という事だ。


 もちろん、最後のマジックアイテムを稼働させる手順については魔術師でなければ行えない。

 だが逆に言ってしまえば作業にかかる時間のうち、魔術師が拘束されなければならない時間というのはごくごく短い時間でしかない。

 なら、定型化できるところは工房に任せてもらった方が数少ない付与を行う魔術師にとっても時間の節約になるはずだ。

 もちろん、中には他人の手を経たものを信用しないという魔術師もいるかもしれない。

 でも、大半は時間を優先したいんじゃないだろうか?

 というわけで、工房には呪文を込める前の基礎的なポーションベースを作るラインを作ってもらった瓶に秘石を適度に含有させた水溶液を詰めたもので、瓶の外側にはあらかじめ魔術回路を刻んである。

 本来なら筆で書いたり、刃物などで刻んでいたりするのだが、共通する部分はあらかじめ、瓶を成型する際に刻まれる型を用意して置けば、作業は格段に早くなる。

 オーダーがあれば職人が注文の刻みを入れ、あとは呪文を込めるだけで完成するという作りだ。

 まずは先生に試してもらい、悪くなければ広めていってもらう。どういう反応になるのかは楽しみだ。

 まあ、駄目だったらラインは閉鎖するしかないけども。徐々にいろんなものに広げていけたらいいな。

 マジックアイテム製作で変わったことは他にもある。


 俺の槍は魔法の槍に変わった。


 +1の強化と巨大化という能力を付与した槍だ。

 柄は、例の如くカーボンナノチューブ製だから、頑丈だし、魔力を付与したことによって損傷を自動修復してくれるようになった。よっぽどのことがなければ、壊れないし、《巨大化》や《竜化変身》の時にわざわざ持ち替えなくて済むようにもなって便利になったと思う。

 他にも、防刃服の強化やらベネットのヘッドバンドヘルムの強化なんかもやった。

 で、試しにトーラスの持つ、L96A1も強化できないだろうかと思い、試してみたら上手くいった。

 これは、非常に大きな収穫だ。

 大砲なんかも強化できるんじゃなかろうか?

 大変興味深い。ただ、おかげでいくら時間があっても足らない。


 あれこれ魔法を付与したり、オートマトンの製造をしている間に、ハルトはカイネを解放し、奴隷から市民に身分を引き上げていた。

 俺もそろそろ、カールを開放すべきかもな。

 カールの働きは、十分すぎるくらいだ。絵本作家として、それなりの地位も築き始めている。

 ご近所さんにも、絵描きゴブリンとして認知され始めていた。

 最初はグラスコー商会専業で、ラベルづくりやらデザインの仕事をやってもらっていたが、最近は別の商会からも声をかけてくれるほどになった。


 ただ、カールはどう思うんだろうな。


 特に不自由をさせている気はない。家政婦として雇ったマリアさんとも、仲良くやってもらってはいる。

 問題は人間と親しみすぎて、最早ゴブリンと言えるかどうか。逆に言ってしまうと、今更ゴブリンの社会に戻れとはとても言えない。

 どう切り出したものかな。

「ヒロシ、また一人で唸ってる。」

 居間で、ベネットが単語帳を読みつつ、俺のお腹を足でつついてきた。

 やめなさいはしたない。

「いや、カールをそろそろ、奴隷から市民に戻す。いや、戻すって言うのはおかしいか。

 市民になってもらうべきかなって。

 でも、それだと追い出されるとか勘違いしそうな気もしてて、悩ましいんだよな。」

 単語帳から目を離して、ベネットが俺を見てくる。ちなみに、ベネットの日本語は日常的な会話なら、もう不自由しないレベルだ。

 若干、イントネーションが独特だけど、それは仕方のない部分もある。

 それでも、勉強熱心なので、今も単語帳を見て勉強を続けていてくれていた。有難いけど、そんなに勉強しなきゃいけないものとかあるんだろうか?

 ちょっと不思議に思ってしまう。

 むしろ日本人の俺の方が、日本語に不自由なんじゃなかろうか?

「とりあえずカール君の件は、本人に聞いてみないと何とも。

 でも、追い出すつもりじゃないんだよってことを伝えたいなら、雇用契約の話も一緒にしてみれば?

 グラスコー商会経由でもいいし、ヒロシが直接雇うのでもいいけれど、絵描きさんは受注とかを任せたいって人も結構いるみたいだし。」

 ベネットの言う提案はしっくりくる。

 確かに、それならいきなり追い出されるかもって言う勘違いは起きなさそうだ。

「夕飯の時にでも聞いてみるよ。そういえば、ベネットのお母さんは明日到着するんだっけ?」

 モーダルのしつこい雪が収まり、そろそろ雪解けの時期だ。

 結婚式の日取りやら、招待する人の調整やら、役所での手続きについてやら、いろいろと手配することも多い。

 結婚式が終われば、俺はグラスコー商会の共同経営者になるというイベントもある。


 なかなかに立て込んでいた。


 共同経営者になったからって、仕事をしなくて済むようになったわけでもない。

 ロドリゴに王国内の巡回ルートを引き継がなくちゃいけないし、春に入ってくるというグラスコーの親戚やイレーネの実家であるアーネスト家の親類も教育をしなくちゃいけない。

 半分は事務をやってもらうけれど、半分は販売員だ。

 正直、胃が痛い。

 それと、カレル戦士団をグラスコー商会の警備部門に引っ張れないか画策中だ。

 なかなか団員も増えてきたので四苦八苦している様子だし、ベネットやトーラスの教導の元、グラスコー商会傘下に入ってもらえないかと持ち掛けてはいる。

 感触は悪くない。

 そもそも、ベネットは傭兵界隈では名も売れているし、トーラスも狙撃手として尾ひれがつき始めている。実力も折り紙付きだから名前負けってことは無い。

 だから、悪い話ではないはずだ。

 もちろん、資本注入もするし、組織運営や外部の依頼を整理する事務員も送り込むことも考えていた。


 というか、あそこ、まともな事務員がいない。


 ほとんどの事務仕事を古株と団長のカレルで回しているような状態だ。乗っ取りと受け取られるかもしれないが、むしろ運営支援に近いんだよなぁ。

 まあ、そこら辺の諸々は結婚式が終わってからだ。

「とりあえず、予定通りならね。雪が解け始めたって言っても、道の状態は悪いし1週間くらいずれてもおかしくないよ?」

 ベネットは少し外を見て、ため息をつく。

 外は、みぞれ交じりの雨が降っていた。

 石畳で舗装されているとはいえ、街道は雪解けでぐちゃぐちゃだろう。

 確かにそれくらい遅れてもおかしくはないか。

「なかなか予定通りにはいかないね。」

 ベネットは苦笑いを浮かべる。

「そうだね。まあ、教会には遅れてもいいって言ってもらえてるから、間に合わないってことは無いとは思うよ。」

 そういえば、やっていた作業が滞っている。ちょっと集中して終わらせよう。

 二人の結婚指輪に絆の盾という能力を付与している。

 どちらかが傷つくと、損傷を分け合うという能力だ。

 これで致命傷を避けられるという効果も得られるけど、逆に不用意に傷を負えば相手を傷つけてしまう。

 いいんだか悪いんだか分からない能力だ。

 でも、ベネットのリクエストでもある。きっちり仕上げよう。


 全ての文様を描き切り、俺はいったんため息をついた。

「専用の作業場を作った方がいいかもね。

 お疲れさま。」

 そう言って、ベネットが野草茶を入れたカップを差し出してくる。

「そうだね。倉庫の引っ越しも進んでるし、俺の作業部屋でも作ってもらおうか?

 こうやって、家で仕事するのも楽しいけどね。」

 お茶を啜り、一息ついたところで、呪文を込める。

 そうすると、ぼんやりと指輪が発光する。

 これで完成だ。

 既に、指の太さに合わせてサイズ調整してあるけど、魔法を付与したから取り違えてもフィットしてくれるはずだ。

 まあ、取り違えないけども。

「でも、部屋を作ってもしばらくはモーダルにいないんだよね。ジョン君たちの件もあるし。」

 ベネットの言葉でジョンたちスカベンジャー組のことも思い出した。

 近くの遺跡がしばらくは入れないという事で、そろそろどこか別の所に行くかという話が出ていて、それならいっそブラックロータスに行ってみるかという話になっている。


 あそこは、巨大な迷宮の塊だ。


 何人ものスカベンジャーが挑んでも底に付かないところもあれば、開けたら、即ゲートがある様な小さなダンジョンなんかもあるバラエティに富んだ場所でもある。

 上手く立ち回れば、注目も集められ、実入りがいいという華やかな一面もあるけど、意に沿わない探索を強いられている人々もいる。

 なんとも両極端な街だ。

 当然、グラスコー商会としてバックアップしている以上、後援者として誰か常駐しなくてはいけない。

 いずれは、俺じゃなく誰かに任せることになるだろうけど。それが何時になるかは微妙なところだ。

 それもあって、カールをいつまでも宙ぶらりんにはできない。

 ちゃんと話さないとな。

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