11-5 習うべきことがまだまだ多い。
何のかんの言ってハルトも順調に馴染んできているようですね。
とりあえず、一通りの調査は済んだ。資源の深度や分布状況を地図にまとめて書き起こす。
それで、ハルトの仕事はおしまいだ。
まあ、メモは取ってたし、あとはモーダルに戻ってからでもいいだろう。採掘は春からかな。
俺も仕事が終わったので、ハンスに稽古をつけてもらおう。多分、ミリーができるという事はハンスもできるはずだ。
「ヒロシ、槍の技を習いたいって、何を覚えたいんだ?」
ウォーミングアップを整えたハンスが尋ねてくる。
「魔法を打ち落とせるようになりたい。できるよね?」
ハンスは頷く。
「まあ、出来なくはないが、魔法を撃ってくれる人がいないとな。」
俺が撃てる。
ただ、俺が練習するのは難しいか。
「とりあえず、魔法は俺が撃つよ。叩き落すところを見せて欲しい。」
なるほどと、ハンスは納得した様子だ。
「じゃあ、好きに撃ってくれ。
分かり易いように落してみよう。」
そう言って、ハンスは構えをとる。
俺は、《魔弾》を放った。
当然、レベルも上がっているので、本数も増えている。4発飛ぶわけだが、そのどれもがハンスに届く前に叩き落されていた。
《秘術眼》で、魔力の動きを眺めていたが、槍に若干の魔力が込められていることが分かる。
呪文を扱えるほどの変化じゃない。だけど、確かに微かな魔力が槍に収束していた。
なるほど、そういう技なのか。
でも、そうするとこの世界の人はだれしも、魔力を扱えるという事なんだろうか?
「ヒロシ、ずるい。」
後ろからベネットの声が聞こえてくる。
「ずるいって。ベネットも習いたいの?」
後ろに立っているベネットに向き直り、俺は少し呆れたように肩をすくめる。
いや、勉強熱心なのはいいけれど。
ちょっと貪欲すぎる。
「ベネットにも教えよう。ヒロシは少しずるをしてるみたいだしな。」
ハンスは笑って、俺のずるを指摘する。
「いや、呪文で少しくらいずるしたっていいじゃないか。前の時は、出来なくてすごく悩んだんだし。」
そもそも、俺自身が俺に向かって呪文を使えない。体感では習えないんだから、仕方ないじゃないか。
「ずるしたのは許してあげるから、練習に付き合ってよ。」
仕方ないな。
ベネットに習ってもらって、俺が困ることはないし。
「よし、ヒロシ。もう一度、撃ってきてくれ。」
ハンスが言うので、素直に《魔弾》を撃つ。
次もあっさり叩き落されてしまった。
ただ、若干だけど魔力の収束が落ちているようにも見えた。
「まあ、こういう風に何度も落してると、上手くいかなくなってくる。
だから、なるべくなら早めに決着をつけるか逃げる方がいい。
鍛錬を積めば、落せる精度は上げられるが、やはり4回くらいが限度かな。」
ベネットは頷く。これだけで分かったんだろうか?
「ヒロシ、今度は私。」
いや、うん。その、撃ちづらい。
出す本数を減らすことはできるから、1発だけにしよう。
「いくよ?」
さっきまでは、声をかけなかったけど、ベネットに対してはどうしても遠慮してしまう。
1発だけ、《魔弾》が飛んでいく。
抜き放った剣で魔弾を叩き潰すように落した。魔力の収束は、ハンスよりも強かった気がする。
「あー、全力でやっちゃだめだ。剣を受け流す感覚がいい。
そうだ。
ヒロシ、お前も槍を構えてくれ。」
一応、槍を出しておいたけど、なんだろうか?
「じゃあ、今度は俺に撃ってくれ。一発だけな。」
ハンスの指定に従い、俺は《魔弾》を放った。
先ほどと同様、かすかに魔力が集まる。
だが、起こった出来事は先ほどとは違った。
《魔弾》が俺に向かって、撃ち返される。
俺は慌てて《魔弾》を叩き落そうとするが、間に合わず顔面に《魔弾》が叩き込まれる結果となってしまう。
痛い。
「駄目じゃないか。ズルして失敗しちゃ。」
ハンスは苦笑いを浮かべる。
「も、もう一度。」
俺が頼み込み、もう一度同じことをして同じ結果になってしまった。つくづく俺は才能が無いなぁ。
いや、ステータスには、才能の表示はあるんだけども。
うーん。
とりあえず原理は分かったんだけど、上手くできない。
「力み過ぎだ。
ちゃんと当てられないと、力をうまく使えても意味がないぞ?」
どうやら、魔力の収束については上手くいっていたようだ。
それと、どういう練習をすればいいか分かった。
帰ったら、ユウに《魔弾》を使ってもらって練習しよう。
何度かベネットの練習に付き合い、ハンスの指導を受けながらどんどん差をつけられていくのに俺は焦りを覚えた。
やっぱりベネットはすごいよなぁ。
めきめき上達していく。
「おーい、猪捕まえたぞー!!」
トーラスとテリーが猪を担いで運んできた。
「お!こりゃまた大物だな。
ちょっと角が生えてたり、外皮があったりするが、食えるかな。」
ハンスは品定めするように猪を検分し始めた。
「毒はないです。それと、これを使えば臭み消しに使えるかと。」
どうやら、トーラスとテリーの狩りに付き合ってたらしい、カイネが拾っていたであろう野草を差し出してくる。
「ありがとうカイネ。ヨハンナに持って行ってくれるか?」
ハンスが優しくカイネの頭を撫でる。
「はい。」
嬉しそうに笑って、テントの方に向かっていった。
「じゃあ、解体済ませるか。」
そう言って、ハンスはさっそく猪の解体を始めるようだ。
「俺も手伝うよ。」
とりあえず、見学ばかりしててもしょうがない。俺も解体の手伝いをしてちょっとでも学ぼう。
いや、まあ、ハルトに頼めば一瞬で終わるんだろうけど。ハルトがいないときに、解体できませんじゃお笑い種だしな。
しかし、L96はイノシシには有効だったらしい。
頭蓋骨が突出しているような頭部の外皮を貫通し、それが致命傷になっているようだ。
足には数本の矢が刺さっているので、テリーが足止めをしていたんだろう。
やはり、二人は相性がいいと思う。
実は、観測手のことを考えて一番最初に思い浮かべたのはテリーだった。
もちろん、ハルトが相性が悪いわけじゃない。
でも、テリーの隠密能力は狙撃という場面では非常に重要だ。相手に気づかれていないというのがスナイパーにとっては何よりも大切になる。
今までは、遠距離狙撃を意識していないことが分かっていたから、心理的にも奇襲になり得た。
今後、それが通用しない相手が出てくることもあり得る。そう考えると、ハルトよりもやっぱりテリーだよな。
「違うよ、ヒロシ、引っ張るのはもうちょっと横。せっかくの猪なんだ。
無駄にしないでよね。」
そんなテリーに駄目出しをされてしまった。
「はい。」
俺はテリーの指示に従い、作業を進めていく。
まあ、肉食獣よりも猪の方が旨いものな。それを駄目にされたらたまったもんじゃないか。
「ヒロシは、ちょっと力を籠めすぎだな。もうちょっと軽くでいいぞ?」
そっか。
力を籠めすぎると駄目なんだな。
「わかった。」
とりあえず、ハンスの指示に従い力を緩めたり、込めたりを繰り返す。
やっぱり、慣れないから下手なんだろうな。
でも、ハンスはあまり気に留めてないのか、すいすいと刃を入れていく。ハルトみたいな素人臭い扱い方じゃない。
だから、見ていて安心感が違った。
まあ、速さで言えばハルトの方がはるかに速いんだけども。
あれは、神様にもらった能力だしな。比べるべきじゃない。
夕飯はポークジンジャーと溶き卵スープにパンだ。
ハルトに頼まれて、ご飯も炊いた。
それと、カイネが野草を使ったサラダを用意してくれた。
どうやらヨーグルトがあったらしく、それをドレッシングにして食べるらしい。
いや、本当に豪華だ。俺が最初にキャラバンに来たころとは比べ物にならない。
テリーやミリーも大満足の様子だ。
「やばい、慣れると前の生活に戻れないかも。」
テリーがぽつりと漏らす。
「じゃあ、戻らないように頑張らないとな。」
俺がそういうと、睨まれてしまった。
「ヒロシの責任なんだから、まずはヒロシが頑張ってよ。それと文字を習わすのやめてくれない?」
テリーは文字や計算を習うことに難色を示している。進んで、学び始めたミリーとは対照的だ。
「テリーは、おバカだもんね。
お姉ちゃんが教えてあげないと何にもできないし。」
すかさずミリーがマウントを取りに行く。
テリーは不満顔だ。
「別に本気出せば、お姉ちゃんに勝てるし。やらないだけ。」
テリーの言葉におもわずにやついてしまう。
子供の頃は、よくそんなことを思ってたな。
「俺だって本気出せば出来るんだけどなー。かーつれーわー、本気出せばなぁ。」
ハルトがからかうようにそんなことを言う。
「うっさい、そんなに言うなら覚えてやるよ!! お姉ちゃんなんかに負けない!!」
珍しくテリーが激昂する。
「いいよ、じゃあ、次にヒロシたちが来た時に勝負しよ?
勝ったら、そうだなぁ。
お姉ちゃんが欲しいものを何でも一個、ヒロシから買ってプレゼントするってことでどうよ?」
ミリーが嬉しそうに煽る。
「お姉ちゃんが負けたら、逆に僕の欲しいものを一個買うってことだね?」
テリーの返しに、もちろん、といったようにミリーが頷く。
「じゃあ、俺がテストを作ろうか?」
二人そろってよろしく、と言ってきたので、これで勝負成立だな。
教えているベネットに確認を取ってテストを作ろう。
これは何とも楽しみだ。
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