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11-4 慌てず騒がず。

人の手が届かない場所だから、資源が豊富なのか。

資源が豊富なところだから、人の手が届かないのか。

 考えてみれば、ゴブリンが短命だとは聞き及んでいた。

 ヨハンナの年齢は50だけれど、これでも大分異例の長寿らしい。

 普通は30半ばまで生きれば十分長生きなんだとか。


 そういう話は聞いていた。


 でも、いざ目の前に付きつけられると動揺してしまう。みんな俺を置いていなくなっていく。

 そんな未来を思い描くと、泣いてしまいそうだ。

 風の強い外に出て、少し頭を冷やそうと思ってたけど、とても冷静でいられない。

「ヒロシ、ごめん。」

 不意に後ろから、テリーが声をかけてくる。

「まさか、ヨハンナが自分から言うとは思わなくて。

 ……この間倒れたんだ。多分、もう長くは持たないよ。」

 テリーの言葉に、そっか、としか俺は言えなかった。

「急かすようなことを言ったもんだから、ヨハンナも気にしちゃったのかも。

 ごめん。」

 テリーが悪いわけじゃない。ヨハンナが悪いわけでもない。

 人はいずれ死ぬものだ。

 そんなことは、分かり切っていたことじゃないか。

「気にすんなよ。

 なるべく、頑張るけど、間に合わなくても許してくれよな。」

 テリーが困ったような笑みを浮かべる。

「違うよ、ヒロシ。間に合わせてくれって言う事じゃないと思う。」

 そうかな、そうなのかも。

「だからって、頑張らない理由にはならないよ。最初のゴールは見えたんだから、やれるだけやってみる。

 それにゴールに着いたって終わりじゃない。その先だってあるんだから。」

 俺は向き直り、テリーに笑って見せた。

「なんだよ。かっこいいこと言ったって、泣いてたら様にならないよ。」

 確かにな。

 

 焦ったって仕方がない。やれることをやるだけだ。

 予定は変更せずに、翌日もハンスが試掘してくれたところを巡る。

 ハルトがくたびれるという事だから、ロバを借りてのんびりといこう。

「しっかし、何もないなぁ。

 草生えてるだけで見てるだけで飽きるんだけど。」

 ロバの上で、ハルトが文句を垂れる。

 まあ、気持ちは分かるけどな。

 代り映えしないように見えるのは、安全なところを通ってるからなんだけども。

「こう、車でバーっと言って、バーッと調べちゃえばいいんじゃないの?」

 そんなことを言うハルトにいい教材が目に映る。

「ああいうのに食べられたいなら、それでもいいんでしょうけどね。」

 遠くにランドワームが巨大な熊をお手玉にした後に飲み込む光景が見えた。

 遠近感が狂いそうだが、車の位の大きさがある熊を一飲みだ。

 突然あんなのに襲われたらなすすべもないだろう。

「な、なんだ、あれ?」

 ハルトは唖然としたように口を開いている。

「ランドワームですよ。

 一応、こっちを狙ってきたらハルトさんのセンサーにも引っかかるでしょうけどね。

 そういう意識はあるのかな?」

 とりあえず動いていたから飲み込むって感じだったら見つけられないんじゃないだろうか?

「と、とりあえず車より大きい奴が近づいてきたらって言う条件を加えてもいい?」

 なるほど、それはいいアイディアだ。

「いいんじゃないですか?

 まあ、動物たちの様子を見てれば、自然と避けれるらしいですけどね。」

 もっとも、それはミリーにはできるという話だ。俺が出来るかと言われたら、無理だと答えよう。

「ビビりすぎだよ。

 あんなでか物なら、ちゃんと周りを見てれば気付けるよ? むしろ、空を飛んでる奴の方がやばいから。

 ワイバーンとか、ロックとか。」

 どっちもランドワームほどじゃないが、デカい魔獣だ。

 空から来られると速さのせいで対応が遅れるという意味では確かに、ランドワームよりやばいな。

「うぇ、まじかよ。もっとのんびりしたところかと思ってた。」

 なんで車で飛ばすって言う選択肢を選ばなかったのかを理解してもらったところで、地下資源の確認に戻る。

 半径8㎞という事で、モーダルよりはるかに広い範囲を探査できるおかげで、大体の資源埋蔵量が把握できた。

 

 とても捗っている。

 

 主に見つかるのは鉄だ。これは別に蛮地じゃないと手に入らない資源じゃない。

 地表にある鉄鉱石であれば回収して製鉄するというのは問題ないだろうけど、採掘をしてとなると途端にリスクが上がる。一日、二日であれば留まっていても平気だけど、それ以上になると何かに襲われる。

 1週間もすれば大型の魔獣に襲われる可能性が高くなる。それを押してまで手を出す資源ではない。

 注目したいのは、ボーキサイトとイルミナイトだろう。

 地表近くから採掘できるうえに、ボーキサイトからはアルミ、イルミナイトからはチタンなんかが取れる。

 もちろん、アルミを生成するのに電気が必要なのは常識ではあるけれど、軽量でリサイクルしやすい有用な軽金属であることは間違いない。

 チタニウムも加工が非常に難しいものの、こちらの世界で取れる魔法金属に匹敵する硬度を持つ金属だ。

 オリハルコンよりは劣るけれど、ベネットの持ってるミスリルよりも固い。

 比重もミスリルよりも重いもののオリハルコンよりは軽いという感じで、ちょうど中間的な素材と言っていいかもしれない。

 ただ、アルミ以上に加工が難しい金属だ。回収したらすぐ使えるものでもない。

 

 どっちにしても現状では使い道がない。

 

 場所を知っておくのが重要だ、くらいに思っておけばいいだろう。

 これをそのまま、”売買”で売るという事もできるけど、こちらの世界の資源流出につながりかねない。

 まあ、それを言うなら革製品だってこっちの資源を利用して作られているものだし、あちらから物品を買ってるんだから気にする必要はないのかもしれないけども。

 なるべく、原材料ではなく加工品をやり取りしたい。

 

 で、本題の石油だ。

 

 これも地表近くに分布していた。

 それも結構な埋蔵量だ。

 とはいえ、プールの水みたいに存在しているわけじゃない。

 汲みあげるには、岩石にしみ込んだ石油を圧力をかけたり酸で石を溶かしたりしながら通り道を作って絞り出さなければならない。

 まあ、地表部分にある分は、呪文で何とかできなくもない。

 《液体操作》の呪文があるので、いくらか吸い上げてみたけど、まあ、せいぜい地表20mくらいが限界だろうか。

 それも、大分能力値ダメージを覚悟したうえでの吸い上げだ。

 100リットルくらい試しに取ってみたけど、結構きつかった。

 さらに同じ呪文で精製もできるけど100リットルの原油では、大体ガソリンは30リットルくらいしか取れない。

 他の連産品をごみとして捨てるわけにもいかない。ネットの知識だけで、どれだけ利用しきれるかなぁ。

 精製したガソリンも、今回蛮地を走らせたSUVにはそのまま使えない。

 ハイオクガソリンじゃないからだ。

 アノーが使ってるワンボックスタイプの車には問題ないんだけども。

 

 あー、成分表を見れば、何が使われてるのかは、分かるのか。

 

 いや、それをどう調合するのかは分からないよな。

 サービスに、そういう情報を得られる手段があれば楽なんだけども。

 いや、あるかもしれないな。後で探しておこう。

「なあ、ヒロシ、さっきから何ぶつぶつ呟いてんの?」

 やばい、独り言言ってたかな。

「いや、とりあえずは金を掘り出すのが一番お金になるかなって。石油を利用するのはまだ先の話だなぁとか、考えていただけですよ。」

 銅や銀の鉱脈も見つけている。

 ついでに翡翠の鉱脈まである。

 それなりに深度は深いが掘る価値は十分にあるだろう。

 まずは、それを確保する。

「でも、掘り出すってどうするの? 人呼ぶってなると結構苦労しない?」

 ミリーは、少し心配している様子だ。

 まあ、襲われたらひとたまりもないものな。

「一応、護衛をつけるとしても、なるべく手早く掘り返すしかないかなぁ。3日が限界?」

 鉱夫ギルドにコネができたとはいえ、無茶はさせられない。

「んー、まあ人数にもよるけど、それより撤収した後はどうするの? 扉でも付けるの?」

 他のキャラバンに掘削されることを危惧してるのかな?

 まあ、別にそれは気にしないんだけどな。

 ただ、素人が手を出して平気とも限らないか。

「まあ、一応ね。

 有刺鉄線と採掘坑には鍵付きの扉を設けるつもりだけど、あくまでも安全のためにつけるつもりだよ。

 地下だって、安全なわけじゃないんだろ?」

 ミリーは首をひねる。

「まあ、ランドワームみたいのがいるわけだし、そりゃ穴掘ってたらおっきなお口とこんにちわって可能性はあるよね。

 ヒロシも一緒に掘るの?」

 どうすべきなんだろうなぁ。

 まあ、そうしておくのが本来はベストなのかもしれない。

 だけど、正直採掘のたびにそんなことをしていたら割に合わないだろう。

「護衛には傭兵を雇う予定だし、俺は俺で忙しいから、毎回こっちに来るわけにもいかないし。」

 一応、初回の採掘には立ち会うつもりだ。それくらいの責任は負う。

「そっかー、まあそうだよね。

 それなら、案内とか警戒とかは私たちに任せてよ。

 うまくできるように取り計らうから。」

 ミリーは笑顔で答えてくれる。

 だけど、実はもう一つやって欲しいことがある。

「掘り起こしたものをインベントリに移すのもやって欲しいんだ。

 なるべく身軽な方がいいだろ?」

 そういうと、ミリーは頷く。

「確かにね。とりあえず、選別とかも必要?」

 俺は首を横に振る。

「そういう作業は全部俺の方でやるよ。

 まあ、荷物が受け取れないくらい掘り起こされたら、ちょっと考えるけど。」

 ミリーは少し悩むようなしぐさをする。

「それって、鉱夫の人は全部持ってかれたとか思われないかな?」

 あ、それはまずいな。やる気にもかかわるか。

「もしかして考えてなかった?」

 ミリーがにんまりと笑う。

「ありがとう、親方たちにどやされるところだったよ。

 でも、どうなんだろうなぁ。

 とりあえず、鉱夫の人には普通のバッグを持たせて、それが報酬になるという形にしようか?

 それならやる気も出るんじゃないかな?」

 まあ、それだと腕のいい人が含有率の高そうな鉱石を独占しそうだけども。

「さすがにバッグはやりすぎでしょ。

 袋の大きさは指定して、それとは別に日当を払えばいいんじゃない?」

 ミリーも少し自信なさげだ。

 まあ、そこら辺は本職の親方に聞くのが一番だよな。

「楽しそうだね。

 ところで、ヒロシさ。奴隷を開放する手順教えてくんね?」

 今まで黙っていたハルトがいきなり割り込んできた。

 いや、まあ、ロバに乗り始めたあたりでそわそわしてたのは気づいていたけど。

「カイネちゃんの件ですか? まず、1万ダール必要ですよ。

 で市庁舎に行って、手続きの書類を書きます。

 あとは、解放される人の似顔絵を描いて市民である証を貰えば晴れて市民になれますよ。

 まあ、半額はハルトさんに渡されますけど。」

 他にも《再生》ポーションが1万ダールすることも伝えた。

「結局、結構な金かかるのな。

 でも、《再生》ポーションってロイドさん使わんの?」

 そういえば、ロイドの片腕は戻せるんだろうか?

 いや、何かの罰だとするならそう易々と戻せないんだろうけど。

「《再生》って、四肢の場合は1年くらいそのままだと効かなくなるよ?

 戻せるなら戻したいかもしれないけど、もう無理なんだよ。」

 1年か、ずいぶんと短いな。

「ロイド本人は腕を取り戻したいのかな?」

 ミリーは首をひねる。

「なんでも器用にこなすから、気にしたことなかった。でも、取り戻せるなら取り戻したいんじゃない?」

 まあ、本人に聞いてみるしかないか。

 いや、まあ取り戻す方法が見つかったらだけど。

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