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11-1 やったぜ!

とりあえず、貴族になるために奮闘していく章です。

とはいえ、やっていくことは派手な冒険譚ではなく、地道に実績を重ねていくというお話なのは変わりません。

お付き合いのほどよろしくお願いします。

 初めてこの大地に立った時、俺は何も知らなかった。

 ここは人の世界じゃない。

 正確に言えば、人が主役の土地じゃないところもあると考えればいいんだろうか?

 街を築き道を引き、人の往来があればそこは人界という場を形成するという話だ。

 《秘術眼》という呪文によって、その境界ははっきりと分かれているのは分かる。

 でも、その切り替わる条件というのがいまいちつかめない。

 魔獣と人との比率であるだとか、魔力の濃度であるとか、騒乱状態であるかどうかであるとか情勢の変化によって変わるとも言われている。

 少なくとも戦場は一時的とはいえ、人界ではなくなるそうだ。


 謎が多い。


 人界であるか否かは土地の状況にも影響を与える。

 平地であれば不毛の土地へと姿を変え、森の奥深くであれば瘴気が漂い毒を含む植物が増える。

 山であれば山林が消えうせ、瓦礫が散乱する斜面は頻繁に山崩れを起こす。

 蛮地は、そのうちで平地にあたるらしく、作物を育てるのには向かない土地となっているそうだ。

 とはいえ、まったく農作物が育たないかと言えばそんなこともない。

 普通に、蕎麦や粟なんかは育てられている。

 水場を利用して、トウモロコシ栽培を始めている部族も出てきているところだ。

 それについては俺が介入したわけだけども。

 ともかく、人々が苦労をするとはいえ、家畜を放牧することで人界の外でも活動することは可能だ。

 そうやって、一定以上の人が生活をしていくと、自然と人界になっていくというわけだけれども。


 それが果たしていいことなのか悪いことなのか。


 というのも、蛮地という人界ではない土地というものがあるおかげでフランドル王国というのは他の国から守られているという側面がある。

 人が容易に定住できず、往来するのにも魔獣の脅威があるため容易ではないというのは、海を隔てているのと似たような効果をもたらしていた。

 もちろん普通に足を止めることができる分、海ほどの防壁効果は薄い。

 とはいえ、大規模な軍を行動させるのには適していないのも、また事実だ。

 大量の物資を運んでいるとどこからともなく巨大で異形を持つ狼や猪、熊が執拗に攻撃を仕掛けてくるうえに、陸鮫やワイバーンに襲われる。

 挙句の果てに、ランドワームに軍が全部飲み込まれるというのだから、たまったものではない。

 もちろん、ハンスたちのキャラバンのように、それらの危険を縫うように生活しているキャラバンがある以上、渡ることが不可能ではないけれども、楽ではないのは確かだ。

 それらの条件が加わることでフランドルの防衛というのは、自然とチョークポイントである蛮地の切れ目をめぐる攻防に集中できる。

 相手側も、そこをいかに落とすか、その奥までどうやって兵力を投射するかという事に主眼が置かれるのは当然だろう。

 なので以前、俺はフランドルを陸軍国家と言っていたけれども、どうやらそれは誤りのようだ。

 相手側から守られているという事は、逆に言えばこちらからも攻め込みにくいという事でもある。

 あるいは、自動車が一般化すれば話は変わるが、現状では海軍国家を目指すべき、なのかもしれない。

 いや、まあ、植民地獲得レースには負けているわ、陸のチョークポイントは他国に占領されているわ。

 とても、状況が悪く、下手すると亡国の危機さえありうる。

 レイオット殿下が軍事ばかりに目が行くのも、分からないでもないなぁ。

 まあ、そうなると王からのご下命で実現しろと言われたものの中で選ぶとしたら選択肢は一つになる。


 動力船だ。


 これ以外の選択肢はないだろう。

 その上で、蛮地は蛮地のまま、残っていてもらわないと困るわけなんだけどなぁ。

「すごい壁だねぇ。」

 以前は荒涼とした大地がどこまでも広がっていたのに、壁が作られている。

 俺がトウモロコシを提供した部族が水場を囲むように壁を作っていた。

 どうやら、定住を心に決めたらしい。

「頭数だけは多いからね。

 でも、モーダルで見た壁と比べたらみすぼらしくない?」

 ミリーが羊たちを連れてのんびり答えてくれる。

「造りは荒いけど、広さを考えれば十分凄いよ。」

 確かにモーダルのように石組がされているわけではなく、土と石が積み上げられているだけだ。

 それでも、頭の高さまであるのが地平線の向こうまで続いているのは壮観だ。

「この奥に金鉱脈あるけど、どうする?」

 里帰りに連行してきたハルトはうんざりといった様子で声をかけてくる。

 あー、しかし金か。

 掘れれば、確かに儲けにはなるけど。

 これだけ明確に領有主張されていたら、手出しはできないよな。

「他当たりましょう。」

 俺は移動を促す。

 放牧を兼ねての探索なので、今は徒歩だ。

「なあ、羊に乗っちゃダメ? 疲れたんだけど。」

 ハルトがぼやくように言う。

 いや、乗れるなら乗ってみろよ。拍手してやる。

「ロバかなんか連れてくればよかったじゃん?

 スクーターは駄目だからね?

 この子たちが散っちゃうから。」

 そういえば、キャラバンに馬の他にロバも増えていた。

 逆に山羊や羊の数は減っている。

 管理しきれる数には上限があるので、必然的に種類を増やせば個体数は減るという形になるようだ。

 食料の供給は俺がしているので懐には余裕があるはずだけど、家畜の数を増やすよりも価値のある動物を育てることを選択したようだ。

 牛なんかも飼っている。

 なかなか手広いな。

 ただ、ロバはともかく、牛は水を大量消費するんだよな。

 無限の水差しのおかげで、そこは問題ないとは言われてるけど。

「そういえばヒロシ、金貨使えなくなっちゃうんだって?」

 何処から情報を仕入れてくるんだ。ミリーは紙幣発行のことを知っているようだ。

「フランドルの方はね。

 両替えはしておくから、気にしなくても平気だよ。」

 言っておきながら、ミリーはあまり興味はなさそうにふーん、というだけだ。

「服とか靴とか、髪飾りとか欲しくないの?」

 ミリーのあまりの興味のなさに思わず聞いてしまった。

「あ、靴欲しいかも。

 この靴いいよね。履きやすいし痛くないし、壊れにくいし。」

 俺が買った靴を未だに履いている。

 トレッキング用の靴だから、それなりに丈夫だとは思っていたけれど、いまだに使ってくれてるのか。

 ハルトが女の履く靴じゃねえとか言ってるけど、無視しよう。

「同じものだったら、すぐ用意できるよ。他には?」

 そう尋ねると、ミリーは悩むように首をひねる。

「ベネットがしているようなの欲しいかなぁ。耳に着けてるの。

 でも、あれってヒロシのカバンがくっついてる奴でしょ?」

 あぁ、そうだ。

 それなら、同じインベントリを共有してもらうって言うのもありなのかな。

 無制限に誰でも彼でも渡せるものじゃないけれど、少なくともキャラバンのみんなには持ってもらおう。

 ドラゴン騒ぎの時に、後悔したしな。

「同じカバンを共有してもらうだろうけど、みんなにも用意しようと思う。

 ミリーはイヤーカフでいいんだよな?

 帰ったらみんなにも聞くよ。」

 結局実用品だけれど、それにお金を使ってもらえるならありがたい。

「あとさ、ベネットが持ってる絵が見れる板も欲しい。あれって高いの?」

 タブレットのことか。

 みんなには、いろいろと説明しているし、渡しても問題ないだろう。

「それなりにね。

 俺のいた世界のことを知る手段にもできるけど、それはどうする?」

 んー、っとミリーは唸る。

「使いこなせるか分かんないけど、付けてくれるなら付けてよ。

 面白そうだし。」

 どうやら好奇心が刺激されたみたいだな。

 じゃあ、ちゃんとインターネットサービスもつけよう。

 他にも、鞍やら鐙やらの馬具、裁縫用の針、掃除道具の他に娯楽用のリュートが欲しいという話をされた。

 リュートねぇ。

 そういえば、こっちの楽器には触れてこなかったな。

 それと桶やら棚なんかの話もした。

「おーい、二人とも早いってー!!」

 いつの間にか、ハルトが置いてけぼりになっていたようだ。

 そんなに早く歩いてたかな?

 しばらく立ち止まり、ハルトを待つ。

「もう、勘弁してくれよ。早すぎ。」

 そう言って、ハルトはへたり込み、カバンからコーラを取り出してラッパ飲みを始めた。

 まあ、羊以外は俺とミリーしかいないからいいけどさ。

「何それ?変なの。」

 ミリーがそういうと、ハルトは別のコーラを差し出して、ミリーに渡す。

「飲んでみればわかるだろ?」

 挑発をするようなハルトの言葉に、にやりとミリーは笑う。

「そうだね。いただきまーす。」

 そう言って、ミリーはキャップを開けて、コーラを口にする。

 一気に飲み干し、げふぅとおおよそ女の子が出しちゃいけないようなげっぷをした。

「おぉ!!何これ?おいしい!!」

 おいしいのか。

「ヒロシ、これもこれも!!」

 どうやら、コーラが欲しいというアピールのようだ。

「あんまり健康にいいものじゃないから、飲みすぎるなよ。

 それと見せびらかさないこと。」

 そう注意を加えたうえで、俺は注文をかけておく。

「そういえば、ハルトさん。あれってレベルって上がったんですか?」

 そう聞くと、ハルトは頷く。

「4レベルになって、8㎞に広がってる。というか、”鑑定”すればわかんだろ?」

 いや、それはそうなんだけども。

「じゃあ”鑑定”しますよ?」

 何故そんなことを聞くのかって態度をされてしまった。

 まあ、バレなきゃ気にする必要もないだろって思ってるんだろうな。

 とりあえず、ハルトの能力を確認する。

 以前は地図へのマーキングができるようになり、そこから派生して目標の種別を知ることができるようになった。

 さらに、常時指定している対象が入ってくれば知らせてくれるという便利機能が追加されたところまでは把握済みだ。

 そこから同種のものが、どの範囲まで広がっているかまで把握できるようになっている。

 なるほど、これなら鉱脈の大きさも把握できるだろうな。

「それで、何か引っかかってますか?」

 今は、2つまでの検査項目で常時探知できるようになっているとは聞いていたから、水を除外した液体と鉱石というくくりで見てもらっているはずだ。

「いろいろ埋まりすぎて、微妙。

 ただ、水を除外した液体って言うのは一つだけだな。」

 これは、お目当てのものが見つかったかな?

「それって、石油じゃないですか?」

 俺は若干声が上ずってしまった。

「あーうん、石油だ。」

 思わずガッツポーズをとってしまいそうになる。まさか、1度目で見つかるなんて。

 いや、まだだ。

 ハルトの能力では、深さまでは把握できない。どの程度掘れば原油を取り出せるのかは、もっと調べないと駄目だ。

「じゃあ、石油について詳しく調べましょうか? まず、深さの指定から。」

 俺は矢継ぎ早にハルトに指示を出してしまう。

「ヒロシ、焦りすぎだよ。」

 ミリーがたしなめるように声をかけてくれた。

 確かに焦りすぎだな。

「あ、うん、ごめん。

 ハルトさん、そろそろ戻りましょう。」

 考えてみれば、くたくたになってるハルトにこれ以上の無理はさせられないよな。

 今日はもう、キャラバンに戻ろう。

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