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10-28 この世界には分からないことが多すぎです、先生。

ひたすらにドタバタした章でした。

書いてた時は楽しかったわけですが掲載前の読み返しで割と欲望が駄々洩れしていて少し心配になったんですが……

でもやっぱり楽しいので細かい修正以外は殆ど修正はしませんでした。

自分の欲望優先。

次の章は若干地味かもしれません。もっとも欲望駄々洩れなのは変わりはありませんが。

 翌日先生の授業が終わると、早々にラウレーネのもとへ連れられてきてしまった。

 不思議だ。

 そこまで緯度が違うわけでもない上に山中だって言うのに寒くない。

 というか、改めて考えれば雪がないんだよなぁ。

 ラウレーネの住処はとても不思議な場所だ。ただ、今は居心地の良さがかえって困る。

 お互い、何もしゃべらず、ずっと向き合ったままだ。

 謝るのは違うような気もするし、かといって何を話すべきか。

 いや、まずは挨拶か。

「あけましておめでとうございます、ラウレーネ。」

 そういうとラウレーネは戸惑い気味に頷く。

「あけましておめでとう、ヒロシ。」

 そこから、また言葉が途切れてしまう。

「その、遺体についてこちらで利用させていただくことについては、非常に申し訳なく思ってます。」

 ラウレーネは大きく深呼吸をする。

「それは仕方がないことだと思ってるよ。

 やったことがやったことだもの。

 罪人の体が晒されるのは、人間でもある刑罰だよね。」

 いや、だからって罪人の体を船の帆にしたり、動力源にしたりはしないと思うけれども。

 そこはドラゴンと人間の構造の違いという面はあるか。

「ごめん、そう言うのじゃないんだ。俺は、最初からドラゴンコアが欲しかった。」

 嘘をつくのはやめよう。

 友達なら、ちゃんと話さないと駄目だ。

「欲得尽くで、あのドラゴンは倒したし、正直罪悪感はあまり感じてない。ラウレーネがもし、気に病んでいるなら、それは違うよ。」

 少し悩むようにラウレーネは首を振る。

「ヒロシは嘘をついていない?」

 恐る恐るといったように聞かれてしまった。

「嘘はついてない。だから、なるべく体に傷がつかない手段を探していたし、誰もが納得する形になって喜んでいた部分もある。

 もちろん、それだけじゃない。

 怒りも覚えていたし、ひどい目に会わせてやりたいとも思っていた。

 親しい人やその家族が死んだという事も、辛いとも思うけれど。これは、あんまり実感がないんだ。

 薄情な人間だとも思うけれど、欲望の方が優先されてしまう。」

 目をそらされてしまった。

 まあ、こんな人間は嫌われて当然だよな。

「絶交だというなら、これを返すよ。」

 そう言って、俺はラウレーネの鱗で作ったナイフを差し出す。

「ヒロシはずるいよ。

 僕だって、欲望くらいある。好きとか嫌いだとか、いろいろあるよ。

 同胞が減っていくことが怖いと思うのも、僕のわがままなんだ。

 そのうえ、友達まで失いたくない。

 君がどんなにずるい人間でもいいよ。

 僕の友達でいて。」

 ぽろぽろとラウレーネの瞳から涙があふれてくる。

 ドラゴンも泣くんだなって、びっくりしてしまった。


「……ドラゴンの涙には、それはそれで価値があるんだ。

 ……欲しい?」


 ……流石に、そこまでは割り切れない。姑息で卑怯な俺にはそんな真似はできない。


「魔王みたいに悪であることに誇りを持てるような人間でもないよ。単なる駄目な人間なんだ。友達に泣かれたら、辛いと思うよ。」

 俺はうつむいてしまう。

「なら、それは持っておいて。僕たちは友達だ。」

 そういわれて、俺はためらいがちにナイフを手に取る。

「湿っぽい話は、ここまでにしよう。

 でも、やっぱり人間にはかなわないなぁ。あんなに簡単に倒されちゃうなんて。」

 俺は思わず顔をしかめてしまう。

「簡単じゃないよ。

 準備には結構時間がかかったし、お金も湯水のように使ったんだから。」

 そういうと、ラウレーネは鈴を転がすような鳴き声を出す。

 それは笑っているんだろうか。

「そっか。ごめんね、いろいろと出費させてしまって。

 でも、みんなも感謝してるよ。

 あー、それに食事のことも、気づかなかった。ありがとう。みんなを付き合わせるつもりじゃなかったんだけどね。」

 手紙で何度かやり取りをしたけれど、ラウレーネの偏食については周りに影響を与えるのは本意じゃなかったらしい。

 なので、すぐに龍人たちの食事については改善が試みられた。

 周囲にいる動物などは保護するけれども、俺からの援助については遠慮するなという形で落ち着いてる。

「動物を食べるのは、どうしてもね。可哀そうに思ってしまうんだ。

 じゃあ、植物ならいいのかって言うと、それもまた。

 別に食事をとらなくても、死にはしないからね。

 でも、おいしいと思っちゃう。トマトとか美味しいよね。」

 そうか、トマトは気に入ってもらえたんだな。

「まあ、おいしいと思えるなら、準備するよ。俺は商人だもの。」

 そういうとラウレーネはちょっと恥ずかしそうにうつむく。

「ごめん、思い出したらトマトを食べたくなっちゃった。」

 そういうならいくらでも準備するとも。

 俺は、インベントリの中のトマトを樽ごと取り出す。

「まあ、これくらいじゃ足らないだろうけどね。稼いだら、また持ってくるよ。」

 そういうと、ラウレーネはまた鈴を鳴らすような鳴き声を上げた。


「仲直りは終わりかな?」

 そういいながら、先生が姿を出す。

 ベネットも一緒だ。

「別に喧嘩してたわけじゃないよ。それより、アルトリウスはちゃんと調べてくれてる?」

 ラウレーネはトマトをかじりながら、先生に尋ねた。

「もちろん、黒幕については追っているよ。

 あるいは来訪者なのか、はたまた魔王なのか。判然としないね。」

 魔王と来訪者は違うんだろうか?

 少し気になった。

「ヒロシやベネットは魔王って言われても分からないかもしれないよ?」

 俺の疑問に思う姿に気づいたのか、ラウレーネは注意を促す。

「あぁ、そうだね。どこから説明しようか?

 魔王って言うのは、比喩ではなくて種族名だよ。

 来訪者が魔王として君臨する場合もあるけれど、あれはあくまでも種族は人間。

 やっていることはよく似ているけれどね。」

 俺は首をひねってしまう。

 来訪者と似ているという意味がよく分からない。

「もともと魔王というのは地獄から力を授かった人間という事だけど、角が生えてたり白目が黒くなってたりという特徴がある。

 他にも規格外の筋力や耐久性を持っているけれど、悪魔と比べればやや貧弱かな。

 つまり、力を授けてくれる相手が違うというだけで、仕組みは来訪者と驚くほど似ているよ。」

 規格外という事は人間の範疇を越えているという事なのかな?

「じゃあ、魔王アムゼルは人間なんでしょうか?魔王なんでしょうか?」

 俺の疑問に先生は首をひねる。

「あの伝説の魔王については、詳細が不明なんだよね。

 姿かたちは確かに魔王なのだけれど、来訪者でもある様子がうかがえる。

 直接会ったわけではないから、断言はしかねるけどね。」

 なんだ、その存在は。

「根本的な違いは、異世界からきているかどうかなんだけど、アムゼルの場合は異世界の知識も有していた様子なんだ。

 そうなると、来訪者の上位互換みたいな存在だよね。

 会ってみたかったよ。」

 魔王に会ってみたかったって、危険はないのかな?

 名前だけで、俺だったら避けて通りたくなるけれど。

「人と敵対してるんじゃないんですか?」

 ベネットが、樽の底の方にあったトマトを取り出してラウレーネの口に運ぶ傍ら、質問をする。

「敵対するかどうかは、その魔王次第だけれど大抵は敵対的だね。

 その見た目で迫害されたからとか、生来生き物が嫌いだからとか、理由は様々な様子だけど。

 基本的には、人間の住めない場所に住んでいることが大半だよ。

 それだけに、魔獣や異形なんかと親しむことが多い。

 と言っても、弱いと食べられちゃうんだけども。」

 俺は、思わず顔をしかめてしまった。

「弱い魔王なんているんですか?」

 先生は俺の言葉に頷いた。

「言ったよね?来訪者と似ているって。

 大抵、ほったらかしなんだ。

 適当に能力を与え、生き残れば利用し、死ぬなら新しい命を持ってくる。」

 似ているってそう言う事か。

「呼ばれた方も、特に何をしろとは言われてないからね。

 じゃあ、女性を侍らせたいとか、贅沢がしたいとか、欲望に忠実になるのは自然なことだと思うよ。」

 俺は、苦笑いを浮かべてしまう。

 本当にそっくりだ。

「ただ、どうしても人の住む世界では生活がしにくい。

 蛮地や山脈みたいに人界の外側で生活せざるを得ない。」

 人界の外側?

 蛮地って、何か特別なんだろうか?

「人界って、おとぎ話じゃなかったんですね。」

 ベネットは驚いているようだ。

「おとぎ話じゃないよ。

 人が住める場所というのは魔獣や異形は住みづらい。

 その理由は不明なんだけどね。

 一説には、魔力の濃度に関係しているらしいけれど、エルフの森は魔力の濃度が高いんだよね。

 じゃあ、エルフが人界で住みづらいかというとそんなこともないし。

 でも、境界線は割とはっきりしてるよね。」

 境界がはっきりしているのは、気候のせいじゃないのか?

 何か謎が多いなぁ。

「ちなみに、オークは人界でも平気なんですか?」

 もし、人界に住めないとなったら、ハンスはこっち側に来れないってことになる。

 それは困る。

「オークは人界の住人だよ。

 外に追い出されたりもするけれど、それは彼らの行いによる部分が大きい。」

 そうなのか。

 それなら、ハンスは平気そうだなぁ。

「で、その人界を壊すのが魔王の役割なんだ。

 魔王が破壊や殺戮を繰り返すと自然とそこは人界ではなくなる。

 だけど、そこに人が住み始めて街を作るとこれまた人界に戻ってしまう。

 なので、互いに相容れない宿命みたいな部分があるんだ。

 そこが来訪者と大きく違う部分かな。」

 聞いていると、人間は人界の外側でも問題がない気がするのは気のせいだろうか?

「人の方は人界以外でも暮らせますよね?

 魔王側は、一方的に不利なのでは?」

 先生は頷く。

「だから強大な力を得るわけだけど、人間は人間側で来訪者みたいな規格外な人も出てくるし、普通の人が突然めざめるなんて場合もあるからね。

 卑怯だなんだと、よく言われたりするよ。」

 先生はまるで魔王に知り合いがいるかのような口ぶりだ。

 いや、案外本当に魔王の知り合いがいるのかもな。

「まあ、遺跡は何故か人界にならないらしいから、そこでひっそりと大人しくしている魔王とかもいたりね。

 だから、出会ってもいじめたりしないようにね?」

 魔王をいじめるってなんだよ。

 あれ?

 ドラゴンはどっちなんだろう?

 ラウレーネの方を見る。

「僕たちドラゴンにはそういう境界は関係ないよ?

 というか、いろいろとルールの外側な気がする。」

 まあ、何となくそんな気はしていた。

 ドラゴンって特別な存在って気はするし。

 でも、

「この世界には分からないことが多すぎです、先生。」

 俺はため息を漏らす。

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